FAIRYTAIL転生伝 ~ 黒き魔王は妖精と共に ~
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第三話『俺の仲間たちと脱走失敗』
サイド:ユウト
あ、どうも。今年で九歳になりました、ユウト・ベラトリックスです。いまだに仲間たちともども、神官(ブタ)どもに奴隷としてこき使われる毎日を送っております。
まったくあいつら、自分たちのほうが立場が上だからって好き放題しやがって。…イツカホンキデツブシテヤル。
さて、そんな奴隷生活(ライフ)真っ最中の俺が現在何をしているのかというと、
「姉さん早く!」
仲間たちと絶賛脱走中だったりする。
それは一カ月ほど前、俺の奴隷仲間の一人が俺たちにある提案をしたところから始まる。
「脱走だって!?」
「おい!声がでけえよシモン!!」
「にゃあー。ウォーりーもうるさい」
「うへへ・・・。すまねえミリアーナ」
その提案を聞いて初めに声を荒げたこの俺と同年代にしては体格のいい少年は“シモン”といい、仲間内で一番の力持ち。その奴隷の仕事によって鍛えられた身体能力は大人にも負けないほど。そのシモンを大声でいさめたのが“ウォーリー・ブキャナン”で、そのウォーリーの大声を指摘したのが“ミリアーナ”。この二人とはこの楽園の塔でジェラールの次に旧い仲だ。
この二人は出会った時から二人一緒におり、なんでもウォーリーとミリアーナはこの楽園の塔に一緒に連れてこられたらしく、その途中ミリアーナの面倒をウォーリーが見ており、今ではウォーリーはミリアーナのことを実の妹のように溺愛している。なので上のやりとりからわかるように極端にミリアーナには甘かったりする。
俺はシモンたち三人のやりとりを横目で見つつ、シオンが大声をあげることになった原因を作った張本人に視線をむける。ウォーリーはシモンが声をあげたのをいさめたがそれも仕方ないと思う。なにせ目の前の人物はそれほど大きい話を持ってきたのだからら。
この楽園の塔からの『脱走』という話を。
「それで?本気なのかショウ。脱走なんて」
「うん!もちろん僕は本気だよユウト」
この小柄な少年は“ショウ”。ミリアーナと同年代の少年で俺たちのグループ内ではミリアーナとともに弟分と妹分的存在となっている。
なにをかくそう今回の脱走の話はこのショウから持ちかけられたものだった。
ショウは言葉を続ける。
「僕はもう嫌なんだ!毎日毎日重い石を運んで積み立てる日々。失敗したらムチで打たれ、なにもしなくてもムチで打たれる。こんな毎日もうまっぴらだ!!」
いつの間にかショウの瞳に大粒の涙が溜まっていた。それはここにいる全ての者たちの心の中にある不満。理不尽に対する慟哭だった。
そんなショウの様子に驚きで目を瞠る俺たち。いつもその無邪気な性格で俺たちの雰囲気を明るくするいるものショウからは想像もできない姿だった。それだけショウの心にこの過酷な状況は負担としてのしかかっていたのかもしれない。
「ショウ・・・」
そんなショウの頭を悲しげな感情を浮かべた瞳で見ているのは“エルザ・スカーレット”。
一年前に神官にムチ打たれていたところを俺が助けたのがきっかけで俺たちのグループへと入った少女で、ショウは彼女を「エルザ姉さん」と、実の姉のように慕っている。
ちなみにエルザの元々名字を持ってなく、『ただのエルザ』だったがそれでは寂しいということになり、エルザの髪の色が緋色(スカーレット)だったことから俺が「エルザ・スカーレットっていうのはどうだ?」と提案したらあっさりとそれに決まり、以降エルザは『エルザ・スカーレット』と名乗るようになった。…俺が言うのもなんだがあんなに簡単に決めてよかったんだろうか?まあ本人が喜んでいたからいいんだろうが。
そこで今までのやりとりを黙って見ていたジェラールが口を挟んだ。
「それでショウ。提案するからにはそれなりの成功の見込みがあるのか?それを聞かない限りなんとも言えんぞ?」
ジェラールのその言葉は当然だ。この楽園の塔を脱走しようとした奴隷は過去何人もいたが、成功した者は誰もいない。失敗した者は全員神官により見るも無残なめにあっている。
いくらショウの言葉が全員の内心を代弁していたものだったとしてもそれだけで高い危険性のある脱獄という行為をおこなうわけにもいかないし、おこなわせるわけにもいかなかった。
ショウはそんなジェラールの言葉に自信満々に頷く。どうやらショウはそれなりの勝算を持ってこの話を持ちかけたようだ。
話を聞くと、ショウはこの二週間仕事をしながら神官たちの行動をひそかに観察していたらしく、一定期間神官の監視が空白になる場所を発見したらしく、その場所の壁を少しづつ掘って穴を開けて外に脱出するというのがショウのたてたプランだった。
そのプランを聞いた俺の感想は・・・正直微妙だと思った。
神官どもの目線を掻い潜れる時間を発見したのはショウのお手柄だと思うがそれでも俺たちがこの塔に来る前からこの塔で奴隷たちの監視をしている神官どもがそれをそのままにしておいたというのがどこかひっかかったからだ。それにショウのプランでは何度も同じ場所に行かなければならない。その途中で神官に会わないという保証はなかった。
だから俺個人としては乗り気にはなれなかったのだが、どうやら他の面子は違うらしかった。
「俺は乗るぜ」
「シモン!?」
最初に口火を切ったのはシモンだった。シモンはその口元に不敵な笑みを浮かべていた。
「どうせこのままじゃ一生やつらにこき使われる人生なんだ。ここらで一発賭けてみるみるのも悪くねえ」
「俺も俺も!」
「にゃー。ウォ―リーがやるなら私も」
「ウォーリー!ミリアーナまで!?」
そんなシモンに触発されるように今度は二人賛成の意を示した。ウォーリーとミリアーナだ。
「確かに失敗した後のことを考えると怖いけどよ。それでも俺は自由になりてえよ」
「私もー」
「お前ら・・・」
そこでエルザがおそるおそる手をあげる。
「わ、私もやる」
「エルザ。お前もか・・・」
「皆がやるっていうのに私だけのけものなんて嫌だし・・・」
おいおい、皆本気かよ。わかってないのかもしれないが成功する確率のほうが低いんだぜ?
思わずそう言おうと思ったがやめた。皆の眼に宿る真剣な光の輝きを見てしまったからだ。
(これはもう俺がなにを言っても無駄かもしれないな)
そう俺が思わざるをえないほど、彼らの瞳に宿る決意は固いように思えた。
そんな彼らに俺ができることはもうたった一つしかない。
俺はため息をひとつつき、口を開いた。
「わかった。俺も協力しよう」
「!?本当ユウヤ!!」
「ああ」
こうなったら俺ができることは一緒に参加して、脱走の成功率を少しでもあげるしか俺には思いうかばなかった。
俺が参加の意を表明すると、ジェラールがそれを待っていたといわんばかりのタイミングで膝をぴしゃりと叩き、注目を自分に集める。
「よし!それじゃあ決行は1ヶ月後。それまでは慎重に慎重を期して全て脱走のための穴を掘るために費やすことにする。それでいいな!」
「「「「おう!(うん!)(にゃあ!)」」」」
ジェラールの締めのその言葉に、それぞれ気合いの声で答えてその日の話し合いは終了した。
そして現在、この一カ月、神官の目を盗んで少しずつ掘ったこの抜け穴から、俺たちは自由への一歩を踏み出そうとしているのだが、その中で、その一歩を踏み出せない者が一人いた。
緋色の少女、エルザである。
先ほどからエルザは抜け穴の前に来ても進もうとはせず震えながら俯いているだけだった。
そんなエルザを見かねたシモンが声をかける。
「エルザ・・・・急がねえと奴等に見つかっちまう」
「う・・・・うん・・」
だがエルザの足は震えたまま一歩も前にでなかった。
「も・・もし・・・・もしも見つかったら」
どうやら今さら見つかったらどうなってしまうのかということが頭をよぎっているらしい。
・・・やれやれ、しょうがないな。
「エルザ」
俺はエルザの名前を呼びながら笑いかける。
「ユウト・・・・」
エルザはその俺の声に反応して俺の名前をつぶやく。
俺はエルザを励ますために言葉を続けた。
「大丈夫だ。怖くなんかねえから。俺たちはこれから『自由』を手に入れるんだから。なあジェラール!」
「ああそのとおりだ」
ジェラールは俺のその言葉に笑顔で相づちをうつ。
俺はエルザへと手を差し伸べる。初めて出会ったあのときのように・・・。
「行こうぜエルザ。俺たちの未来と理想(ゆめ)がもう目の前で待っている」
エルザは俺の言葉に一瞬呆けたような表情を浮かべたが、一転して、満開の花びらのような華やかな笑みを浮かべた。
「うん!」
そしてエルザは俺の手を再びとった。一年前のあのときと同じように。
「さあ、行くぞ!」
そして俺たちが自由への一歩を踏み出そうとした…そのとき!
「おいおい。そんなに急いでどこにいくんだよ」
「「「「「「!?」」」」」」
突然聞こえてきたそんな楽しげな声に先ほどまでのどこか暖かい雰囲気はどこえやら。俺たちは一瞬で凍りついた。
なぜならそれは、ここでは絶対に聞きたくない声だったからだ。
「駄目じゃないかお前たち。奴隷の分際で仕事をさぼってこんなところで油売ってちゃー」
その男の声は明るく振る舞っているが、どこか粘着質な底なしの悪意を感じられた。
恐る恐るゆっくりと後ろを振り向くと、そこにいたのは、
十人以上の神官服を着た男たちだった。
「みーつッけたー♪」
その神官たちが浮かべた笑みは、どこまでも悪意に満ち溢れた、俺の知る中でこの世の中で、最も醜い笑みだった。
こうして俺たちの秘密の脱走計画は失敗に終わることとなった。
後書き
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