東方変形葉
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全国10カ所の妖気
東方変形葉48話「幻想の月」
前書き
裕海「・・・・・・。」
霊夢「あら、帰ってたのね。おかえり、ちゃんとお土産は買ってきてるでしょうね?」
裕海「あ、ああ。もちろん。それよりも、あれは何?すっごい湯柱が上がってるけど。」
霊夢「ん?なんか昨日湧いて出てきた間欠泉。」
裕海「・・・地霊も湧いてきてるみたいだけど?」
霊夢「大丈夫大丈夫。もし悪さするようなら懲らしめるし。」
裕海「あ、いや、そうじゃなくって・・・」
霊夢「?」
裕海「・・・まあいいや。宴会の件だけど、今日か明日に開こうと思ってるけど、どうする?」
霊夢「そうねえ。全員集めるなら明日の方がいいわね。文とかに頼んで全員に伝えてもらいましょ。」
裕海「わかった。明日の夜6時くらいから開始ね。」
地霊が地上に出てきているだと?ということは、・・・いや、判断するのは早い。
俺がこんな感じで考え込んだのには少し意味がある。紫から聞いた話の一つだ。
幻想郷には、旧地獄の地底世界がある。地上の賢者と地底世界の間で、「地上と地底の妖怪同士の相互不可侵」「旧地獄の怨霊の管理」などの約束が結ばれており、それによって自治を認められている。つまり、地上の妖怪たちが地底都市を認める条件として、地上の妖怪を地底都市に入り込ませない代わりに地底都市の鬼は旧地獄の怨霊を封じる、という約束だ。
約束の中の一つに怨霊の管理がある。怨霊とはつまり地霊のことである。その地霊が今、地上に出てきている。それは、約束を破ったと考えられてもおかしくない。場合によっては宣戦布告かもしれない。明後日ぐらいにも早く行って確かめる必要がある。
「・・・紫、いるんだろ?少し話があるんだよ。」
「あら、ばれてたのね。おかえり。」
「ただいま。」
スキマが開き、その中から紫が出てきた。
「あの間欠泉から湧き出る地霊のことについてなんだけど。」
そう訊くと、扇子を少し広げ、口元を隠した。
「ええ、早急に調べる必要があるわ。でも私たち“地上の妖怪”は約束上、地底にいってはいけない。だから、霊夢や裕海に行ってもらおうと思うんだけど・・・」
「霊夢たちが間欠泉を気に入っていて、全く動こうとはしないだろうということか。わかった。明後日に行ってくるよ。だけど、地底がどこにあるかわからないから、ナビゲートしてくれる?」
「ええ、もとよりそのつもりよ。・・・場合によっては萃香やほかの古参妖怪にナビしてもらうわ。」
場合によっては。なんとか霊夢を動かせたらということか。
「そのときは、少しだけ姫雪を預けるよ。あの子も妖怪だから力の有無関係なく行ってはいけないからね。」
「そうね。」
ちなみに今、姫雪たちは寝ている。2階ですやすや寝ているだろう。
「あ、そうそう!お土産はちゃんとあるのよね?」
紫が顔を明るくし、訊いてきた。
「心配無用だよ。ちゃんと全員の買ってきてあるよ。でも、渡すのは明日ね。明日は夜から宴会だから。・・・ここでは絶対に食べられないようなものも買ってきてあるから。」
「あら、それは楽しみね。じゃあ私はこの辺でお暇させていただくわ。」
そういって紫はスキマの中へと入って行った。
「・・・さてと、そろそろ姫雪を起こすか。」
トントンと、階段を上がって2階へ行く。寝室としている少しだけ広い和室には、敷布団が2枚ある・・・のだが、姫雪がどうしてもと俺と寝ているため、2枚あるうちの1枚はほとんど使っていない。
「姫雪~、きらちゃ~ん、ほたるちゃ~ん、起きて~。」
静かに体を揺さぶり、起こそうとする。しかし、全く起きる様子はない。
「・・・う~ん、どうしようわあっ!」
「むにゅ~。」
姫雪が寝ぼけて俺の体を強引に引っ張り、強く抱きついて再び寝始めた。幼いとはいえ、この子も妖怪。力は普通の人間よりも若干強い。・・・これじゃあミイラ取りのミイラじゃんか。
しかし、無理に脱出しようとすると、なぜかどんどん力が強くなっていく。俺は道連れになる運命なのか。そしてその運命に従うようにして次第に眠気が襲い、瞼を閉じてしまった。
「くあぁぁ、結局寝ちゃった。今何時かな?・・・えっ?8時?」
あ~、まあいいか。それよりも早く起こさないと。
「姫雪~、起きろ~。」
「むにゅむにゅ~・・・」
変な寝言しか返ってこない。よし、ちょっとだけ。
「むにゅ~・・・にゅわっ!?」
横腹をつっついた。結構効いたようで、飛び上がって反応した。
「おはよう、姫雪。ご飯つくってあげるからちょっと待っててね。」
「う、うん。」
台所に向かい、さっと料理をした。
「ちょっと紅魔館に行ってくるかな。」
「え?どうして?今、夜だよ?」
「この前レミリアにさ、『たまには私と酒を飲みなさい。夜にね。』って言われたんだよね。あれから一度も行ってないからさすがにレミリアが怒るだろうからねえ。」
酒って言ってもきっとグラス一杯を飲みだけだろうし。今日は昼寝をがっつりしたから眠くないし。
「じゃあ私も!」
「・・・姫雪は酔うと疲れるから、寝てていいよ。人形たちはもう眠ってるけど。」
人形たちには、睡眠も覚醒も存在しているが、寝すぎても起きすぎても別にかわりはない。
「うん、じゃあ先に寝るね。おやすみ。」
「おやすみ。・・・さてと、レミリアたちは元気かな。」
「今日の月は十六夜かしら。」
グラスに入ったワインを回しながら月を見る。いや、正確にはそう思いながら。今日の空は薄い雲によって月光と闇の境界がぼやけて見える。それでも月の光は雲に負けず、地上に光は降り注いでいる。
「そうだね、多分今日は満月よりほんの少し欠けてるかな。」
「ええ・・・うわぁっ!?」
驚いた。いきなり横に現れたうえに、その現れた人物は、しばらく会っていなかった葉川裕海だった。
「・・・あら、もう帰ってたのね。」
「ああ、今日の昼ごろに帰ってきたよ。それよりも、月見酒に付き合いに来たよ。」
月見酒、か。一見赤黒く見えるこの赤ワインを飲みながら、純白の光を放つ月を見る。なかなかいいじゃない。
「まあでも、曇ってるけどね。私があの雲、晴らしてやろうか?」
「いいや、これでいいよ。むしろこの方が風流だな。」
風流?一体どういうこと?
「風流って何よ。」
「月をそのままありのままを見るんじゃなくってね、多少雲に包まれて月の輪郭がぼやけて見えるとき、その時は月を想像するんだよ。もちろん現実の月もいいものだけど、想像から生まれる幻想の月も見てて楽しいものだよ?」
なるほどねえ。なんだか苦し紛れな気もするけど。
「まあ、そういうことなら別にいいけど。」
「そうそう。」
グラスを手に取り、ワインを少量注ぎ、椅子に座って月を眺め始めた。
「そういえば、宴会はいつするの?」
「ああ、明日だよ。明日の夜6時ぐらいから。ここでは食べられないいいものを買ってきたから楽しみにしててね。あとお土産もその時に渡すよ。」
そしてしばらく満喫した後、スキマに入って家に帰った。それにしても、お土産って何かしら。楽しみね。
「はい、始まりました~!裕海帰宅並びに暗黒物質異変のえんか~い!」
わーわーと、歓声が上がる。うん、俺を祝ってくれてるのはありがたいんだけど、その俺が料理を作るっていう。まあ、ぱっぱと作ってしまうか。炊き上がった酢飯を小さな小判ぐらいの大きさに握り、魚をさばいてネタを作り、載せる。それの繰り返し。それと同時に肉野菜炒めを作る。人形たちの手伝いもあり、大体30分ぐらいで終わった。
「ありがとう、3人とも。おかげで早く終わったよ。」
人形たちと姫雪は「うん!」と元気な声で頷いた。俺は宴会会場の部屋に行き、全員にお土産を渡していく。
「ゆうみ~!さけのめ~!」
「・・・萃香、だからそれ樽。」
「のめ~!」
「がばばばばばばばあ!?」
一気に酒が入ってくる。こんなに飲んでも酔わない俺に驚いた。姫雪なんて、マタタビの匂いをかいだだけでぐにゃんぐにゃんになるのに。俺って変なところで耐性ついてるよな。
「お兄ちゃん!」
「けほっ、けほっ、・・・何?メディスン。」
樽分の酒をまるまる入れられたので、少しむせた。
「ぎゅ~っ!」
「っ!?」
思いっきり抱きついてきた。あっ、よく見たらメディスンめっちゃ酔ってるじゃん!
「むぅ~っ、私のお兄ちゃんなの!」
フランがおもいっきり抱きつく。いてててててててて、強っ!?抱きつく力強!?
つられて、酔った連中が俺の方に寄ってきた。わあ、酒臭い。スキマで緊急脱出すると、全員空振りしたかのようにバタバタっと地面に雪崩れていった。しかし、起き上がらずにそのまま寝たようで、さまざまな人の寝息が聞こえてきた。・・・またここで起きてるの一人かよ!
まあいい。しばらくあの湯柱を眺め続ける。聞いたところ、地底の都市で絶対的に重要な場所があるそうだ。たしか、その屋敷は地霊殿というところだったような。
地底の妖怪ってどんな感じだろう。地上の妖怪とあんまり変わらない
「はあ、みんな寝ちゃってる。俺も寝るか。」
俺はごろんと横になり、そしてしばらくして眠気が襲い、夢を見始めた。
続く
後書き
48話です。
次回より、地霊殿へ!
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