| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

少女1人>リリカルマジカル

作者:アスカ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第十二話 幼児期⑫



「あぁ! リニス、俺の肉取るなァー!!」
「はふにゃー」
「リニスすごく幸せそうだね」
『そしてものすごくいいドヤ顔ですね』
「……はしたないからやめなさい」

 俺の育てていたお肉を奪った泥棒猫を裸足で追っかけていたら、陽気とは決して言えない母さんの声で止められました。やはり食事中に立ち歩くのは行儀が悪かったか。俺とリニスの2人で、母さん達にごめんなさいと謝り、もう一度席についた。ぺこん、と頭が垂れていたリニスがかわいかったです。

『ますたーもなんだかんだで、リニスさんに甘いですよね』
「んー、まぁ俺って猫好きだし。リニスはきっとツンデレなんだと信じてるから」
『無駄にポジティブなところがありますよね』
「希望ぐらい持たせろよ」

 そう言って俺は箸を手に持ち、鍋の中でグツグツ焼きあがった新しいすき焼きの肉をつかむ。せっかく大事に育ててきたのになー。まったく。

 リニスはもともと野山猫だったからかお肉とかは好きらしい。野菜も食べているが。さすがにネギとか塩分の多いものを食べさせてはいけないため、そういうのは気を付けている。俺は溶き卵にくぐらせる食べ方が好きなんだけど、猫に卵はあまりよくねぇんだっけ。いや、加熱したら食えたんだったか? あいまいだ。

「……猫って意外にいろいろ食ってるイメージがあったしな」
「ねこさんいろいろ食べられるの?」
「あぁーいや、俺が知ってる猫は鶏肉やチーズを見ると、歓喜の鳴き声をあげながら飼い主さえ襲いかかって奪うようなやつだったから」
『……猫って一体』

 まぁ、ほんとなんだかんだでかわいいんだよ。猫は。


「ほら、リニス。もうすぐ出来上がるからね」
「にゃー!」

 母さんが鍋からお肉を1つ取り出し、リニスのお皿の上に乗せている。猫舌のリニスは当然冷めるのを待ち、じっとお肉を見つめている。そして少し冷めてきたお肉に向かって、きらきらした目をしながら、大きく口を開いた。

 そして、それに勢いよくかぶりついた。

「あ、冷めててもうまいな」

 転移した俺が。

「…………」
「ふははは、油断大敵だぜリニス! 獲物に食らいつく瞬間が一番の隙だと、某漫画でも言っていたからな!」
「…………」
「いくら俺でも食べ物の恨みは恐ろしいんだぞ! さて、すっきりしたし、これでお互いにおあいこだ…」
「……ふ、ふしゃぁぁああああぁぁ!!!」
「なぁ、……!!!」


『……あのマイスター、今度は止めなくていいのですか?』
「おいしいわね、アリシア」
「うん!」
『わぁ、平和だ』

 後で母さんに、俺とリニスはこってり怒られました。



「「『ハッピーバースデイ!!』」」
「にゃーん!」

 晩御飯のすき焼きを食べ終わり、ちょっと一服した後、今日の最大のイベントが始まった。暗がりで見えづらいが、俺たちの掛け声に母さんは少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうにほんのり頬を赤らめていた。

「ありがとう、みんな」

 そう言って母さんは、俺が転移を使ってクラナガンで買ってきた、ケーキのろうそくの火を吹き消す。それにみんなで拍手をする。誕生日の祝い方って案外どこも似たようなもんだよな。ミッドにもケーキはあるし、プレゼントもある。

 俺はコーラルの光源を頼りに、リビングの明かりをつけに行く。災害とか日常でも、デバイスってなんか便利だな。部屋に電気がつき、吹き消えたろうそくから細い煙が立ち上っていた。

「おめでとう、お母さん!」
「ありがとう、アリシア。それじゃあ、早速ケーキを切り分けましょうか」
「やったー!」
「アリシアって本当にケーキが好きだよな」

 女の子はやっぱり甘いものが好きなんだな。俺も甘いものは好きだけど、どっちかというとお団子とか和菓子系をよく食べていた。意外に日本人精神って根強く残るな。うんうん。

 母さんがキッチンからケーキナイフと猫缶を持ってくる。もともとあまり人間の食べ物は与えちゃ駄目だしな。すき焼きの食べた量が少なかったからか、リニスは嬉しそうに猫缶を眺めている。


「リニスはケーキが食べられないけど、一緒には食べましょうね」
「にゃうー!」
「わぁ、ゴールドの缶詰だ」
「はは、リニスもおいしいものには目がねぇんだな。さて、それじゃあ俺はろうそくを取っときますかね」

 俺は役目を終えたろうそくたちをケーキから外していく。さすがに年齢分もの本数をケーキにはさせなかったため、大きいろうそくで10歳分としてさしていた。俺の手には大きいろうそくが3本に小さいのが3本握られている。今さらだけど、母さん30代には全然見えない。

「母さん、……恐ろしい子!」
「え、えぇ?」

 母さんに困惑した顔で見られました。いや、そんな大層な意味はないんだけど。すると、俺の言葉を聞いたアリシアが母さんを見つめ、不思議そうに小首をかしげた。


「……子?」

 それはそれは純粋な目だった。

「母さん、しっかりして! まだまだいけるから! ごめん、こんな2次被害が起きるとは思っていなかったんだ!!」
「ふふ、大丈夫よ。お母さんだってもう、もう…」

「2人ともどうしちゃったの?」
『……いえ』
「……にゃー」

 テスタロッサ家で、本当に恐ろしい子が発覚した日だった。



 ちょっと落ち着きました。そんで、みんなでわいわいケーキを食べることにした。うまい。

 しかし、リリカルって年齢と違って若く映る人が多いよな。甘糖さんやなのはさんのお母さんとか。2人とも原作で確か30代いってたはずだし。あ、じゃあ今2人ともまだ子どもなんだ。変な感じ。

「……あれ、そういえば母さんって今30代なんだよな」
『それがどうしました、ますたー?』
「え、じゃあ―――」


『私の娘はアリシアだけよ!!』
『アリシア1番!!』

 超露出満載のバリアジャケットを着込み、高らかと宣言する女性。病魔に侵されているとは思えないほど、雷をドコンバコンと降り注ぐ。女王様プレイもできるナイスバディ。皺や贅肉? 何それおいしいの? と言わんばかりのまさしく公式チート。そんなところまでチートなのか。

『ジュエルシードでレッツゴォー!』

 これが、最低20年後と推定される原作での大魔導師の姿である。


「……俺は何も気づかなかった」
『え、ますたー。どうしました? なんで肩を震わせているのですか!?』
「ぐすっ、俺……頑張んねぇと。なんかまじで頑張らねぇと…」
『ますたー、しっかりして下さい! そんな、ますたーが半泣きなんて!! リ、リニスさん、今こそますたーに抱きついてツンデレでもなんでもいいので癒してください!!』
「うにゃぁッ!?」

 リニスはいきなり巻き込まれた。

「にゃっにゃにゃ!!」
『できます! リニスさんのもふもふならますたーを呼び戻せるはずです!!』
「リニスのもふもふにそんな力が…!」
「……無茶振りの仕方が、随分似てきた気がするわ」

 ろうそく持ったまま鼻をすする少年。広がるリニスコール。まじで困る子猫1匹。色々スルースキルを身に付けざるおえなかった我らがお母さん。お祝いの言葉からわずか数分間の出来事。カオスです。


 その後、メダパニったリニスさんの決死の捨て身タックルで幕はとじた。あまり余計なことを言いすぎないようにしようと思いました。



******



「おかしい、一体何があったんだ。記憶がなんか曖昧なんだが…」
「一体何があったのかは、きっとみんなわからないと思うわ」
「ちなみにコーラル。さっきまでのを10文字で要約すると?」
『口は災いのもと』

 何故か納得しちまった。

「ねぇねぇお兄ちゃん。そろそろ大丈夫?」
「ん、おう。そうだな」

 アリシアが俺の耳元で囁きながら、質問してきた。確かにケーキも食い終わったし、プレゼントタイムに入ってもいいころだろう。

 思い立ったら即行動と言うことで、俺たちは椅子から立ち上がった。テーブルから少し離れ、きょとんとした母さんの前方に移動する。そして、妹とお互いにうなずき合い、俺は懐から手紙を取りだした。

 前に手紙を書いた時は置き手紙だったが、今回は作文でもある。目の前で聴いてもらえるように何度も読む練習をした。夜中だから声のボリュームを考えながら、出来る限り大きな声で手紙を読んだ。


「「わたしたちのお母さん!」」

 アリシアやみんなと一緒に書いた、1通の手紙。

「わたしのお母さんはプレシア・テスタロッサと言います」
「母さんは技術開発局の会社に勤める技術者です」

 コーラルもリニスも静かに俺たちの朗読を聞いている。この日のために俺たちに付き合ってくれた。アリシアもあがることなく、すらすらと読んでいく。

「お母さんは開発チームのリーダーで、チームのみんなもすごくなかよしです」
「時々飲み会があったときは、同僚さんがみんなを物理的にも潰しに回り、母さんが雷で暴走を止めたこともありました。同僚さんの絡みから、なんとか無事に生還した強者さんに胃薬をあげたり、リーダーとして大変です」

 ちなみにたまに母さんも、同僚さんと一緒にお酒に呑まれる時がある。その時の開発チームのみんなの顔は絶望に包まれるらしい。強者さんがその時のことに涙を流しながら、胃薬をがぶ飲みしていた姿を見たことがある。頑張れ。

「お母さんはいつもいそがしいけど、だけどすごく優しいです」
「俺とアリシアが『愛と勇気と…』と前振りを母さんの前ですると、必ず『き、希望?』と返してくれます」

 母さんの頬が赤く染まった。恥ずかしそうにしながらも、合いの手をちゃんと入れてくれる母さんです。

「毎日つくってくれるごはんはいつもおいしいし、みんなで寝る時はぽわぽわした気持ちになります」
「ちなみに母さんのご飯にはしいたけが出てきません。時々もらいものの中に入っていると、何とも言えない顔で食べています。好き嫌いを見せないように頑張る、努力家な母さんです」

 母さんの頬がさらに真っ赤になった。もちろんしいたけのことは褒めていますから。


「今年の誕生日はみんなでピクニックに出掛けました」
「いつも忙しいのに、こういう記念日は1日中一緒にいてくれます。すごくうれしいし、楽しいです。でも、仕事で無茶していないか心配してしまう時もありました」

 リニスが家族になった日。母さんの足にすりすりと身体を寄せながら、リニスも肯定するように鳴いた。

「お母さんと一緒にいると、楽しくて、うれしくて」
「温かくて、俺たちにとって誰よりも大切な人で」

 今までにも何回か伝えたことのある言葉。それでも、改めて言います。他でもないこの気持ちが真っ直ぐに届いてほしいから。


「「そんなお母さんがわたしたちは大好きです!」」

 母さんが小さく息をのむ。それでも朱に染まった顔を背けることなく、俺たちを真っ直ぐに見据えてくれる。

「お母さんに大好きって言うと、いつもちょっと照れますが、だけどあとで『ぎゅっ』てしてくれます」
「母さんにありがとうって言うと、いつも優しく目を細めて、俺たちの頭を撫でてくれます」

 俺たちは一歩ずつ前に踏み出し、母さんの目の前まで歩み寄る。最後の一文。俺たちは目を合わせると、笑顔が自然に浮かんだ。手に持っていた手紙を母さんにさしだしながら、精一杯に声をそろえた。


「「そんな照れ屋で優しいお母さんのことが、わたしたちは本当に大好きです」」



******



 満天の星空。今日は雲が少ないため、隅々まで輝くような星空が目の前に広がっている。俺とアリシアはプレゼントを渡し終えた後、家のベランダに出て、のんびり星を眺めていた。

「ちょっとびっくりしちゃった」
「はは、確かに。でも、母さん喜んでくれてよかったな」
「うん!」

 手紙を読み終えた俺たちの前には、ぽろぽろ涙を流す母さんがいた。それに最初慌てたが、母さんは俺たちを抱きしめ、何度もありがとう、と言ってくれた。前に見た涙とは違い、申し訳なさや後悔はなく、そこには嬉しいという気持ちばかりが溢れているようだった。

 お母さんったら泣き虫ね、と笑って涙を拭う母さんに、俺たちも笑顔で笑っていた。

「しっかし、きれいな星空だなー」
「ほんとだー」

 ミッドチルダの都市群から離れた位置にあるここは、研究所以外はほとんどが自然に囲まれている。ぽつぽつと照らす明かりはあっても、その多くは暗い闇が覆っているのだ。その分、星の輝きがよくわかる。

 前世では、どちらかというと都市部に住んでいたため、あまり星を眺めるということはしなかった。地球で見たときとは星の並びに違いはあれど、きれいなことには変わりはない。うん、たまには空をぼおっと見るのも悪くないな。

「ん、そういえばリニスとコーラルは?」
「さっき遊ばれていたよ」
「……えっと、そうか」

 この妹は時々すごいことをさらっと言う。そっか、遊ばれているのか。食後の運動かな。リビングの方から悲鳴のようなものが聞こえてきたが、きっと気のせいだ。今日は余韻に浸りたいセンチメンタルな日なのです。


「ふぁー、さてイベントも終わりましたし、そろそろ寝ないかアリシア?」
「うーん、実はね。もう1こイベントがあったりするの」
「え、あったっけ?」

 妹の言葉に俺は記憶を探ってみるが、なんにもヒットしない。悩む俺を面白そうに眺めるアリシア。結局わからなかった俺は降参だ、と両手をあげてギブアップを宣言した。

「答えはね…、私からお兄ちゃんへのサプライズイベントだよ!」
「あれ? その答えは俺絶対わからねぇんじゃね?」
「細かいことはいいの!」
「あ、アリシア。そういう時は、こまけぇこたぁいいんだよ!! と使うんだ」
「こまけぇこたぁ?」
「要練習だな」

 あれ? なんの話をしてたっけ?

「じゃなくて、サプライズ!」
「おぉ、そうだった」

 妹にむー、と怒られた。俺には話を迷走させまくって、最後には混沌で話を終わらせる時があるらしい。悪かったって。しかし、サプライズね…。

 俺がなんだろう、と考えを巡らせていると、妹はポケットの中から手紙を1枚取り出していた。母さんにあげた手紙と同じ便箋。しかし、俺には記憶にないものだ。俺が知らない間に書いていたということだろう。

 俺の驚きをよそに、アリシアは手紙を広げる。いたずらが成功した、というようなそんな嬉しそうな顔だった。


「わたしのお兄ちゃん!」

 それは、妹が兄に書いた1通の手紙。

「わたしのお兄ちゃんは、アルヴィン・テスタロッサと言います」

 本来は存在しなかった兄。本来なら書かれることはなかった手紙。

「お兄ちゃんはいつもわたしと遊んでくれます。転移を使って、山で虫取りをしました。砂浜でお城を作りました。雪で雪合戦をしました。ビルの上で風を感じました」

 俺は知っていた。アリシアがいつも1人ぼっちで遊んでいたのを。リニスと一緒にただ待つことしかできなかった幼い少女を知っていたから。だから、外を見せてあげたかった。


「お兄ちゃんはいろんなことを知っているし、教えてくれます。コーラルと一緒に文字も言葉も教えてくれました。たくさん書けるようになりました。リニスとのけっとーもすごくメラメラしています。家はとてもにぎやかです」

 笑っていてほしい。その気持ちが一緒に過ごすにつれ、どんどん溢れていたのはわかっていた。

 最初にこの世界に来た時は、俺の状況に気がついた時は、ずっと悩んだ。だけど、いつのまにか俺の心は、選択は当たり前のように答えを出していた。

「お兄ちゃんはすごく心配してくれます。お外に行くと、いつも手をにぎってくれます。お風呂でもわたしがこけちゃったときは助けてくれました」

 答えを出しても、俺は結局迷っていた。いや、答えはすでに決まっているのに、その答えの先を想像するのが、覚悟するのが怖かったんだ。ただ、今は目の前のことだけに集中したい。集中するべきだと、未来を考えないでいた。

 少女を、アリシア・テスタロッサを助ける。家族を助ける。それだけをずっと考えてきた。それ以外を考えるのが、いやだったから。


「わたしのお兄ちゃんは、ちょっといじわるなところもあるけど、優しいです」

 俺は優しくなんてない。俺自身、かなり自分勝手でマイペースな人間だと思っている。というか、かなり自由気ままだった気がする。

「勉強があんまり好きじゃなくて、リニスにいつも負けていて、お母さんに怒られているお兄ちゃんです」

 ちょっとグサッときました。うん、俺あんまりいいお兄ちゃんじゃないな。反面教師にはなれそうだけど。


「それでも、わたしはそんなお兄ちゃんがいてくれて、うれしいです」
「…………」

「たくさん笑顔をくれます。たくさんわがままをきいてくれます。さびしい時は、いつも一緒にいてくれます」

 アリシアは一歩前に、俺の目の前に進みでる。金の髪が夜風になびき、それがふわりと舞う。この星空に負けないぐらいきれいで、輝く笑顔。

 あぁ、そうだ。そうだった。


 罪悪感? そんなのいくらだってある。なんせ、俺の都合で俺の思いで、なのはさん達の未来を変えてしまうんだから。幸せな、たくさんのハッピーエンドを壊してしまうんだから。

 それでも、俺は守りたいと思ったんだ。たった1つのハッピーエンドを、この少女の笑顔を守りたいと思った。だから、俺は今まで行動して来たんだ。

 受け入れなきゃだめなんだ。未来を受け入れて、そこからちゃんと前を向いて歩かなきゃいけない。下ばかり向いて、怖がっていたら本当に俺は……。


「そんなお兄ちゃんのことが、わたしは本当に大好きです!」

 アリシアのお兄ちゃんとして、情けねぇじゃん。



「えへへ、びっくりしたでしょ? 私だって1人でお手紙書けるんだよ!」
「うん、ほんと。……びっくりした」
「やった! サプライズ大成功!!」
「うわぁ、やられた!」

 俺の反応にまた嬉しそうにする妹。俺はアリシアからもらった手紙を握りながら、くるりと背を向けた。そんな俺の行動に疑問を持ったみたいだが、それよりも先に俺は口を開いた。

「そうだ、アリシア。アリシアって今よりももっときれいな星空って見たことあるか?」
「えっ、今よりも?」

 そう言って妹は、空を仰ぎ星の海に目を向ける。子どもの俺たちが夜遅く出歩くのはまずいため、家以外で夜を過ごしたことがない。幼い頃はクラナガンに暮らしていたが、あそこは今よりも明るかったから、星空なんてなかなか見れなかった。妹は見たことないよ、と俺に告げてくる。

「実は明かりが全くないところで見る星空ってすごいらしい。まるで星の中を歩いているみたいにきれいできらきらしてるんだって」
「きれいできらきら…」

 地球とはちがったいろんな星が見えるんだろうな。もしかしたら、他とは違うものが見えるかもしれない。

 あと、俺はようやく目からこぼれていたものが収まったため、アリシアに再度向き合う。意地っ張り? そんなのとっくに自覚済みだ。見られないために咄嗟に話をしちゃったが、なかなかいいかもしれない。よし、決めた。


「さっきのお手紙のお礼。大きくなったら一緒に見に行かないか?」
「大きくなったら?」
「そう。もっともっときれいな星空をさ」

 絶対きれいだぜ、ともう一声かけると、アリシアは何度もうなずいてみせる。ん? なんか今、盛大な何かをたててしまった気がするが…きっと気のせいだな。この星空の中で見れば、たぶん小さなことだろう。

「あ、だったらお母さん達にも見せてあげたいかも」
「それいいな。家族みんなでいつか行ってみっか」
「うん!」

 どんどん何かが積みあがっているような気がするが、……まぁいいか。

「約束だよ」
「あぁ、約束だ」

 
 

 
後書き
カウントダウン 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧