ソードアート・オンライン 〜槍剣使いの能力共有〜
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閑話ー聖槍と聖剣の英雄ー
69.聖剣へ
前書き
第69話投稿!!
伝説の聖剣、《エクスキャリバー》がついに発見された。
キリトたち八人は、エクスキャリバー入手のためついに動き出す。
二〇二五年十二月二十八日、年の瀬が迫った日曜日。あのほぼ無理ゲーとかしていた《ロンギヌスの槍》を入手クエストから二日後のイグドラシル・シティ大通りの《リズベット武具店》に集まる他種族の八人の姿がそこにはあった。
壁際のベンチにあぐらをかき、朝から酒を飲んでいるーー火妖精族の刀使いクラインに、頭に水色の小龍の乗せた猫妖精族の獣使いシリカが訊ねる。
「クラインさんは、もうお正月ですか?」
「おう、昨日っからな。働きたくてもこの時期は荷が入ってこねーからよ。社長のヤロー、年末年始に一週間も休みがあるんだからウチは超ホワイト企業だとか自慢しやがってさ!」
すると壁際にもたれかかっていたキリトをじろっと見て言った。
「おうキリの字よ、もし今日ウマイこと《エクスキャリバー》が取れたら、今度はオレ様のために《霊刀カグツチ》取りにいくの手伝えよ」
「えぇー……あのダンジョンくそ暑ぃじゃん……」
「それを言うなら今日行くヨツンヘイムはくそ寒ぃだろが!」
「あ、じゃあ私もアレ欲しい。《光弓シェキナー》」
キリトは、ウグッ、と言葉を詰まり声の方を見る。キリト同様に壁に背中を預け、腕組みして立つのは、水色の髪の猫耳を生やしたケットシーの少女ーーGGOから来たスナイパー、シノン。
「もちろん、シュウは参加よ」
そう言って今度は、こちらへと目線を向ける。
「き、キャラ作って二週間で伝説の武器とか……」
少女は、シッポを動かしてなんとも楽しそうだ。
「リズが造ってくれた弓も素敵だけどさ、できればもう少し射程が……」
すると、工房奥の作業台からリズベットが苦笑しながら言った。
「あのねぇ、この世界の弓ってのは、せいぜい槍以上、魔法以下の距離で使う武器なんだよ!百メートル離れたところから狙おうなんて、普通しないの!」
「いや、槍でも頑張れば百メートルくらいなら飛ばせるぞ」
するとピンク髪の少女は、あんたは黙ってろ、とでも言うような目でこちらを見てくる。
「欲を言えばその倍の射程が欲しいところね」
スナイパーの少女は、澄ました微笑で言った。
この少女は、本格的に俺が一対一で勝てる気がしないというか戦う気すら失せたほどの狙撃術を持っていた。
これユニークスキルじゃね?、とも一瞬思うほどの実力だ。
すると工房の扉が勢いよく開いた。
「たっだいまー!」
「お待たせー」
ポーションの買い出しに行ってたリーファとアスナが帰って来たのだ。
前回のロンギヌスの時は、全てをアーチャーとリーファの回復に任せるという捨て身の超攻撃布陣で言ったのを考慮して今回は、そんな簡単に入手できるものではないやシュウくんは無茶をし過ぎなどのアスナとリーファに散々ダメだしされた。
アスナの肩から飛び立った小さな妖精ーーナビゲーション・ピクシーのユイが、キリトの頭に移動する。
「買い物ついでにちょっと情報収集してきたんですが、まだあの空中ダンジョンまで到達できたプレイヤーまたはパーティーは存在しないようです、パパ」
「へぇ……。じゃあ、なんで《エクスキャリバー》のあの場所が解ったんだろう」
「それがどうやら、私たちが発見したトンキーさんのクエストとは別種のクエストが見つかったようなのです。そのクエストの報酬としてNPCが提示したのがエクスキャリバーだった、といおことらしいです」
ポーション類を整理していたアスナが水妖精族特有の青いロングヘヤを揺らして振り向く。
「しかもどうやらソレ、あんま平和なクエじゃなさそうなのよ。お使い系や護衛系じゃなくて、スローター系。おかげで今、ヨツンヘイムはPOPの取り合いで殺伐としてるって」
「……そりゃ確かに穏やかじゃないな……」
「……だな」
虐殺系、とはその名のとおり、同じモンスターを何匹以上倒せやドロップアイテムを集めろとか類のクエストだ。すると狭いエリアで同目的パーティーが、POP、モンスターの再湧出を奪い合いが生まれる。
「でもよぉ、ヘンじゃねえ?」
酒を飲み干したクラインが口を挟む。
「《聖剣エクスキャリバー》ってのは、おっそろしい邪神がウジャウジャいる空中ダンジョンのいっちゃん奥に封印されてンだろ? それをNPCがクエの報酬で提示するってどうゆうこった?」
「言われてみれば、そうですね」
シリカも、頭からピナを下ろして首を捻る。
「ロンギヌスの時みたいにボスを倒すためのキーアイテムとかじゃなきゃいいんだけどな」
「ーーま、行ってみれば解るわよ、きっと」
キリトの隣で、シノンが冷静なコメントを発した直後、工房の奥でリズベットが叫んだ。
「よーっし! 全武器フル回復ぅ!」
「おつかれさま!!」
リズへの感謝の唱和。輝きを取り戻したそれぞれの武器を受け取り、腰や背中に身につける。次にテーブルの上の八分割されたポーション類を貰い、ポーチに収納。持ちきれない分は、アイテム欄へ。
ちらりと時計を確認すると、まだ午前十一時。
準備が完了したところで、キリトが皆を見回し、咳払いしてから言った。
「みんな、今日は急な呼び出しに応じてくれてありがとう! このお礼はいつか必ず、精神的に! それじゃあーーいっちょ、頑張ろう!」
皆の苦笑混じりの、おー!の声を背にキリトはくるりと振り向き、工房の扉を開ける。
目指すは、イグドラシル・シティの真下のアルン市街のさらに下、地下世界ヨツンヘイムへ。
「うわぁ……いったい何段あるの、これ」
リズがそう囁く。直径二メートルほどのトンネルの床に造られた下り階段。俺たちがトンキーに連れられて最初にアルンまで来た時に通った道だ。
「んー、アインクラッドの迷宮区タワーまるまる一個分くらいはあったかなー」
先頭のアスナが応えるとシノン以外の初見組が同時にうへぇという顔になる。
「あのなぁ、ノーマルなルートでヨツンヘイムに行こうと思ったら、まずアルンから東西南北に何キロも離れた階段ダンジョンまで移動して、モンスターと戦いながら奥に進んで、最後に守護ボスを倒してようやく到着できるんだぞ」
「最速でも二時間弱くらいはかかったよな。でもここ降りれば五分だぞ。楽にもほどがあるだろ」
「でも、あたしたちの誰かがいないとトンキーが来てくれないよ」
トンキーがいなければ底無しの大空洞へとバンジージャンプを決めてあっさり地上に逆戻りすることになる。
「まあなんだ、そういう訳だから、文句を言わずに一段一段感謝の心を込めながら降りるんだぞ諸君」
「あんたが造ったわけじゃないでしょ」
後方のシノンがキリトの言葉に相変わらず冷静なツッコミを決める。
「御指摘ありがとう」
「フギャア!!」
物凄い悲鳴が後方から響いた。後方を振り返るとケットシーのアーチャーは、キリトの顔を両手で引っ掻こうとしていた。
どうやらキリトがケットシーの象徴である尻尾を握ったらしい。人間に本来ない器官の尻尾は、握られるとなんとも変な感じらしいというのがシノンの感想だった。
「アンタ、次やったら鼻の穴に火矢ブッコムからね」
女性陣の皆がやれやれという表情で首を振っている。
「怖れの知らねェやつなおめぇ」
クラインがなぜか感心したように唸った。
「バカだな、お前」
五分もしないうちにパーティーは、階段を突破した。
分厚い雪と氷に覆われた、美しくも残酷な常夜の世界。地上の光がわずかに注ぐのみ。真下には、ありとあらゆる光を吸い込むような、底無しの大穴。ーー《ボイド》
無数に這い回る巨大な根っこ。地上の世界樹の根だ。薄青い氷塊が天蓋から鋭く突き出されている、逆ピラミッド型の俺たちの目的地、《空中ダンジョン》。
アスナがパーティーに凍結耐性魔法をかける。
「おっけ」
アスナの声を受け、リーファが頷くと、口笛を吹き鳴らした。
数秒後、風の音に混じって、くおぉぉー……ん、という啼き声が届いてくる。
平べったい胴体の側面から、四対八枚のヒレに似た白い翼が伸びている。体の下には、植物のツタ状の触手が無数に垂れ下がっている。そして頭部には、片側三個ずつの黒い眼と、長く伸びる鼻。
「トンキーさーーん!」
アスナの肩からユイが精一杯呼びかける。
トンキーは徐々に近づいてくるに連れて、初対面の四人が後ずさる。
「へーきへーき、あいつああ見えて草食だから」
「でも、こないだ地上から持ってったお魚上げたら、一口でぺろっと食べたよ」
「…………へ、へぇ」
クラインたちがもう一歩下がる。
「あとこいつ電撃放つから気をつけろよ、特にクラインな」
さらにクラインだけ後方に下がるがもう下がれない。
「ほれ、背中に乗れっつってるよ」
「そ……そう言ってもよぉ、オレ、アメ車と空飛ぶ象には乗るなっつうのが爺ちゃんの遺言でよぉ……」
「お前の爺ちゃんのピンピンしてんだろ!」
クラインの背中を目一杯の力で押す。トンキーの背中へとダイブする形で乗り込むクライン。続けてシノン、シリカ、リズベットの順に乗って行く。初めてではないリーファとアスナが軽く飛び乗り、最後に俺とキリトも邪神へと飛び乗った。
「よぉーし、トンキー、ダンジョンの入り口までお願い!」
首の後ろに座ったリーファが叫ぶと、トンキーは八枚の翼を羽ばたかせる。
「……ねぇ、これ、落っこちたらどうなるの?」
リズベットが言った。
ヨツンヘイムは、新規アップデートによって原則全種族飛行不可になり、闇妖精族である俺も飛行不可となった。
三十メートルを超える高さから落ちても確実に死亡する。なら高度一千メートルから落ちたらどうなるのであろうか。
リズの問いに答えたのは、彼女の隣にぺたんと座るアスナだった。
「きっと、そこにいる、昔アインクラッドの外周の柱から次の層に登ろうとして落っこちた人たちが、いつか実験してくれるわよ」
「…………高いとこから落ちるなら、ネコ科動物のほうが向いてんじゃないか」
「こういう時はとりあえず、大人に任せるのが基本だろ」
ネコ科二人と大人一人が首をぶんぶんと振る。
安全運転で向かうトンキーが入り口に来たと思ったら、急降下を始めた。
「うわああああ!?」
男の三名の絶叫。
「きゃああああ!」
女性陣の高い悲鳴。
「やっほーーーーう!」
一人違う反応をする《スピード・ホリック》の少女、リーファ。
トンキーは、俺たちが最初にウンディーネのレイドと戦った場所に降り立った。
そこには驚愕の光景が広がっている。かつてのトンキーと同じ姿の象のようなクラゲの大型モンスターを攻撃している大勢のプレイヤーたち。さらに驚いたのは、フォルムは人間型だが、腕は四本、顔は縦に三つ並んでいる。
こいつは間違いなく最初に俺たちがトンキーを助けた時に戦った人型邪神だ。
「あれは……どうなってるの?あの人型邪神を、誰かがテイムしたの?」
「そんな、有り得ません!邪神級モンスターのテイムの成功率は、最大スキル値に専用装備でフルブーストしても〇パーセントです!」
シリカが激しく首を振る。
「ってことは、つまり……あれは、なんつぅか……《便乗》してるワケか?四つ腕巨人が象クラゲを攻撃してるとこに乗っかって、追い打ちを掛けてるみてェな……」
「でも、そんなに都合良くヘイトを管理できるものかしら」
シノンが冷静にコメントする。普通に考えて邪神にあそこまで接近してて巨人にターゲットロックされないはずがない。
どういうわけなのか理解ができない。
「ひゅるるるるぅぅぅ……」
象水母は、断末魔を上げてポリゴンとなり体を四散させる。
その後の光景にさらに驚愕する。
四つ腕の巨人と数十人のプレイヤーは、戦闘にならず次のターゲットを求め移動し出す。
「な……何で戦闘にならないんだ!?」
掠れ声を漏らして、アスナは何かに気づいたようだ。
「あっ……見て、あっち!」
指さされたのは、右側に遠く見える丘。戦闘エフェクト。そこには今度は二匹の人型邪神が協力して、他の邪神を狩っている。
「こりゃァ……ここで、いったい何が起きてンだよ……」
呆然としたクラインの声に、リズベットが低く呟いた。
「……もしかして、さっき上でアスナが言ってた、ヨツンヘイムで新しく見つかったスローター系のクエスト……って、このことじゃないの? 人型邪神と協力して、動物型邪神を殲滅する……みたいな……」
「……!」
七人が同時に息をのむ。
これがそのクエストなら少しばかりやっかいなクエストになる。
だが、トンキーの背中の誰も座っていなかった位置に光が凝縮し、ひとつの人影を作り出した。
ローブ風の長い衣装。背中から足元まで流れる波打つ金髪。優雅かつ超然とした美貌の、女性。
だがその女性は通常と異なるところがあった。
「でっ…………」
「…………けぇ!」
キリト、クラインがつなげて言葉を言う。
女性の背丈としては高すぎる、三メートル以上はあった。
「私は、《湖の女王》ウルズ」
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