ソードアート・オンライン 〜槍剣使いの能力共有〜
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閑話ー聖槍と聖剣の英雄ー
68.紅い聖夜
前書き
第68話投稿!!
一万人ものプレイヤーを閉じ込めた鉄の檻……浮遊城アインクラッド
その中で迎えた聖夜。
半年前の約束を果たすため、彼女の笑顔をもう一度見るために二つの影は聖夜の雪原を駆け抜けた。
二〇二三年十二月十一日 第四十九層・迷宮区
鮮血の如き槍が《ゲイボルグ》の閃光をまとい、大型の狼モンスター二匹のHPを同時に削りとる。
ポリゴンの欠片が宙に散る中、硬直時間が解けるとともに背中に迫りつつあった牙に向けて閃光をまとった右手の片手剣で弾き返し、左手の槍で同じ技を繰り出す。
ただのシステムによって組み込まれただけの動きのモンスターの行動を読むのは簡単だ。
だからと言ってここは、最前線四十九層の迷宮区。少しでも気を抜けば、攻略組のギルドでさえも死は間逃れないだろう。
だが、俺は一刻も早くあの約束を果たさなければならない…………
眼を閉じ、静寂の空気の流れに意識を集中させる。後方から二匹、前方から一匹。合計三匹が隠す気もない疾駆の音が鼓膜を震わす。
鮮血の槍を今一度強く握りしめ、スキルの起動体制へと体を動かそうとする。突如として聞こえてきたガラスが砕け散るような音。それと同時に疾駆する音は静寂の空気から音を消した。
「やっぱり最前線の迷宮区にいると思ったぜ、シュウ」
暗闇の中から無数の足音が俺の方へと近づいてくる。その数、七人。
「またお前たちか」
半分呆れた口調で手に持つ槍を背負い直し、片手剣をアイテムストレージへと元に戻す。
「ここまでいえば気が変わると思ってな」
徐々に近づいてくる足音の主は暗闇からその姿を現す。
青色よりも明るいスカイブルーのコートをまとう腰に長刀をぶら下げている。顔は、俺と同じくらいの年齢くらいの普通の顔立ちをしている。
ここ最近、俺をギルドに誘ってくる少年ーー《Hit》
「何度も言ったはずだ。俺はギルドには入らない。何度来ようとも答えは同じだ」
彼らの方に一瞥もせず、歩き出そうとするとヒットが俺の前に立ち行く手を阻む。
「何度も言ったはずだ。俺たちはギルドじゃないと……俺たちは表に出ない知られざる者たちのパーティー《英雄達(アンノーン)》だ!」
《英雄達》との出会いは俺にとって大切なことを教えてくれ、さらに強さを教えてくれた。
だが、この時、俺はまだこの出会いがSAO内でのちに恐れられることに最恐の殺人狩り《紅の処刑人》を生むことになることをまだ知らないでいた。
二〇二三年十二月二十四日 第三十五層・迷いの森
「……そこを退けよ、キリト」
「……退くのはお前だ、シュウ」
積もった雪のフィールドに立つ二つの影が互いを睨む。
時間までは残り三十分と迫った。
「お前がどうだかは知らねぇが、俺の邪魔をするなら……斬るぞ」
背負われる槍を左手に構える。
「お前ェらが争ったって何の意味もねえだろうが!こんなところでお前ェらを死なすわけにはいかねえんだよ、キリト、シュウ!」
クラインが叫ぶがその声は、俺やキリトには届くことはない。
「ソロ攻略とか無謀なことは諦めろ!オレらと合同パーティーを組むんだ。蘇生アイテムは、ドロップさせた奴の物で恨みっこ無し、それで文句ねえだろう!」
「……それじゃあ……」
クラインの言葉を信じることができなかった。
「それじゃあ、意味がないんだよ……俺独りでやらなきゃ……」
槍を強く握りしめながら、周りを敵視するような眼で見る。
(ーー全員ここで斬る!!)
今の俺がおかしいことぐらいは、自分自身でもわかっている。
でも、俺にはここでレッドプレイヤーになってもやり遂げなきゃいけないことがある。それが何の意味もないということは自分自身がよくわかっているはずなのに。
誰か一歩でも動けば俺は槍を動かしかねない。
するとキリトでも風林火山のメンバーでもない第三の侵入者が姿を現す。
それは、ざっと見る限り三十人くらいはいるであろう。
「お前らも尾けられたな、クライン」
「……ああ、そうみてェだな……」
風林火山のメンバーが低く囁く。
「あいつら、《聖竜連合》っす。フラグボスのためなら一時的にオレンジ化も辞さない連中っすよ」
《聖竜連合》、《血盟騎士団》と並ぶほどの名を誇る、攻略組のギルドだ。
ここのプレイヤーのレベルは俺やキリトよりも低いだろうが、あの人数相手に戦って勝つ自信はない。
だが、キリトやクラインたちと戦うよりはずいぶんマシな方だ。
左手の槍を今度は、聖竜連合の連中に向けようとする。
そこに響くクラインの叫び。
「くそッ!くそったれがッ!!」
クラインは腰の刀を抜き取り、背中を向けたまま怒鳴った。
「行けッ、キリト、シュウ!ここはオレらが食い止める!お前らは行ってボスを倒せ!だがなぁ、死ぬなよ手前ェら!オレの前で死んだら許さねェぞ、ぜってぇ許さねェぞ!!」
「「……」」
俺とキリトは、クラインに背を向けると、礼もいわずに最後のワープポイントへと足を踏み入れた。
モミの巨木。他に樹のほとんどない四角いエリアは、積もった真っ白な雪は、その世界の時が止まったような気がするほどだった。
時計が零時になると同時に鈴の音が響いた。
漆黒の夜空に巨大なソリが出現する。
モミの木の真下に達すると同時に、ソリから黒い影が飛び降りてくる。二人の黒い影が少し後ずさる。
雪を蹴散らして出現したのは、背丈が俺とキリトの三倍ほどあるであろう怪物。一応人型だが、腕が異常に長く、前かがみの姿勢。小さな赤い眼が輝き、顔の半分からねじれた灰色の髭が長く下腹部まで届いている。
赤と白の上着に同色の三角帽子をかぶり、右手に斧、左手に大きな頭陀袋をぶら下げている。その姿は、サンタクロースのようだったが、俺にはそんなことはどうでもよかった。
《背教者ニコラス》がクエストのセリフを口にするつもりか、ヒゲを動かす。
「うるせえよ」
「……殺す」
それぞれの思いを持った二つの漆黒が、同時に雪を蹴った。
死を覚悟したこの戦いで俺とキリトは生き残った。だが、達成感が何もしない。
槍を背中に納めると同時に、ボスが残していった頭陀袋が光に散った。
ボスのドロップアイテムを確認する。見慣れたアイテム名ばかりが並ぶ。慎重にスクロールしていく。
数秒後、俺はスクロールする手を止める。
そして背中の槍に手を掛ける。
「……よこせよ、キリト」
隣にいる黒の剣士の手には、卵ほどの大きな、七色に輝く宝石が握られている。
俺の言葉など聞こえてないようにキリトは、宝石をワンクリックする。
それと同時に背中の槍を抜き取り、構える。
「うああ……ああああ……」
予想外の叫びに俺は動揺する。
キリトはその宝石を掴み上げ、投げる。
「あああ……あああああ!!」
絶叫と雪を殴る音が響く。
「キリト……」
投げ捨てられた宝石を拾い上げ、ワンクリックする。すると見慣れた表示が出現。
【このアイテムのポップアップメニューから使用を選ぶか、あるいは手には保持して《蘇生:プレイヤー名》と発生することで、対象プレイヤーが死亡してからその効果光が完全に消滅するまでの間(およそ十秒間)ならば、対象プレイヤーを蘇生させることができます】
その言葉の意味が理解できなかった。
この文が何を言っているのかが。
およそ十秒間。
その一文が、これまでにない絶望を俺に与えた。
いつの間にか四十九層の迷宮区に俺はいた。
時刻はもう午前三時を回っている。
迷宮区を機械的にモンスターを倒しながらボス部屋を目指した。
俺はこのままボス戦へと向かう気なのだろう。それは、もはや俺の意思に関係なく体が勝手に動いているようだ。
これが彼女との約束を最短で達することができる俺の結論だった。
俺一人で迷宮区を攻略して、俺一人でボスを倒せばいいんだ。
あと、五十一階登ればクリアだ。一日一層クリアして行けば、最短で五十一日、約二ヶ月でクリアできる。
機械的に足を運んでいると後方からの声に足を止める。
「どこに行く気なの、シュウ?」
後方を振り返るとそこには、闇に同化するような全身を黒い服に包んだまるで忍のような服装。
働かない頭がその姿を記憶の断片から探る。
「……なんだ、お前か」
「なんだ、じゃないよ。どこ行く気なの?まさか一人でボス戦に挑む気じゃないよね?」
俺をしつこく《英雄達(アンノーン)》に誘ってくるメンバーの一人。
「……だったらなんだってんだよ。それは俺の勝手だろ」
「あなたには、死んでほしくない」
徐々に近づいてくるそいつは、そんなことを言った。
「それは、戦力って意味だろ。どうせ、あのリーダーに頼まれて止めに来たんだろ」
そいつは、俺の言葉に間も開けずに応えた。
「違うよ!」
そいつの叫ぶ。
「わたしは、自分の意思でシュウを止めに来たんだよ」
「勝手にしろよな……」
そう言って俺は再び、足を動かす。
すると後ろからそいつが抱きついてくる。
「待ってよ……シュウにはまだ死んでほしくないんだよ」
そいつの抱きつきを振り払おうとするがそいつは、離そうとしない。
その時、俺の中に何かの感情が湧き上がる。
それは、なぜか俺の足を止めようとする。
なぜだろう?
こいつは、俺を止めようとするのは、ギルドに入ってほしいからだけだ。それだけだ。
(なのに……なのに……)
俺はその場に崩れ落ちる。
「どうして……どうしてお前は……」
崩れる俺をそっと抱きしめるその力は少し痛く、強い。
頬を伝いとめどなく涙がこぼれ落ちていく。涙は、地上へとこぼれ落ち、光へと変わっていくだった。
後書き
次回、《ALO》伝説の聖剣《エクスキャリバー》。
ついにその獲得クエストへとキリトたちは、本格参戦する。
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