| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

久遠の神話

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第八十四話 運が持つものその二

「ただ勝つだけのことだ」
「本当に何でもないね」
「そうよ、勝敗以前に」
 それ以前にだというのだ。
「スポーツマンシップを守ることよ」
「それがスポーツの在り方だな」
「まずはだね」
「戦いは勝敗にこだわらなくてはならないわ」
 戦いとスポーツはまた違う、戦争は政治であり政治は勝たなくては、目的を達成しなくては駄目なものなのだ。
 だからだ、智子も戦いについてはこう言うのだ。
「戦いは手段を選んでいられないものよ」
「知略も使って」
「そうだよね」
「ええ、ただ私の知略は」
 それはというと。
「あくまで綺麗にね」
「そうしてか」
「貴女は」
「私の性格ね」
 少し自嘲を込めた笑いになってだ、智子はここでこう言った。
「卑怯なこと、汚いことはね」
「出来ないか、貴女は」
「そういえばアテナ女神は」
「私は汚い謀略は使わないわ」
 絶対にだというのだ。
「むしろ使えないと言っていいわ」
「そこはアーレス神と違うか」
 工藤はギリシアにおけるもう一人の戦いの神の名をここで出した。
「あの神を」
「アーレス神は私とは違う戦いの神よ」
「その様だな」
「ええ、私は戦いの女神であっても血を好まないのよ」
「しかしアーレス神は血を好む」
 アテナは智略を好むのだ、しかも汚い謀略でなく作戦を。アテナはそうした意味で政治的な謀略も好まないのだ。
 アーレスはそれに対して粗暴な戦い、殺し合いを好む。同じ戦いの神でもその個性は全く違ったものなのだ。
 だからだ、アテナもこう言うのだ。
「その戦いもしないで済めばいいわ」
「平和的にか」
「そう、私はそうした考えだから」
「今回のことにも協力しているか」
「そうよ」
 まさにその通りだとだ、智子は工藤に答える。高橋はその間黙ってそのうえで二人の話を聞いているだけである。
 その中でだ、智子は言うのだ。
「この戦いは神話の頃から続いているけれど」
「望ましい戦いではないか」
「私にとってもね」
 本質的に戦いを避ける傾向のある彼女なら特にというのだ。
「そう思っているから」
「だからか」
「あの娘に協力しているの」
 聡美、アルテミスである彼女にだというのだ。
「実はこの戦いがはじまった時にそうしたかったけれど」
「それはもう一人も女神もだな」
「ええ、ペルセポネー女神もね」
 彼女もだ、その辺りは智子と同じ考えだったというのだ。
「そう考えていたけれど」
「しかしアルテミス女神は申し出なかった」
「あの娘はそうした娘なのよ」
「誰にも協力を仰がないか」
「いい意味では責任感が強いわ、けれど」
 裏を返せば、智子が今言うことはこのことだった。
「あの娘は強情でもあるのよ」
「そうだな、彼女は強情だ」
「しかもまっすぐしか見えないところがあるから」
 このことは純粋さの裏返しだ、聡美のその性格が長い間視野を狭くさせてしまっているのだ。正面しか見ないが故に。
「これまでの戦いを」
「一人で止めようとしていたか」
「その結果ね」
 戦いはこれまでだ、終わらなかったというのだ。そして止められなかったというのだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧