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戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~

作者:黒鐡
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六章
  待機×規定

「それでは公方様にお繋ぎ致す。・・・・今しばらくご歓談の程を」

「・・・・・・・・・・・」

「どうした、久遠。もしかしてあの細川の事を考えてた?」

「うむ。あやつ、食えん」

「ほえ?そうですか?確かに押しの強い人だなーと思いましたけど・・・・どこか不審なところ、ありましたっけ~?」

「挙措動作、その全てが母様に習った武士の礼儀作法に則っているように思えましたが・・・・」

「見た目や振る舞いはそうでしょうが、その内は案外、性悪猫のような人なのでしょう」

「ええ!?そうなのっ!?・・・・って、どうして詩乃ちゃん、そんな事分かるの?」

「あの方は言葉の端々で、我らを脅しておられましたからね。・・・・久遠様の正体、見破っておいでです」

「うむ。だから食えんと言ったのだ」

まあ、俺は気付いていたけどな。尾張と美濃のに跨がる家のご当主と言ってたし、その辺りかと。

「詩乃、あれだろう。在所の事だろう?」

「ご名答。先程細川殿はこう仰ったのです。・・・・さすが尾張と美濃に跨がる長田庄の当主、と」

「それに久遠が偽名に使っている長田庄は、そもそも那古屋南部にある所だ。いきなり美濃という単語が出てくるのは可笑しな事だ」

「ほぇ?でも細川さんが長田庄の場所を知らなかったっていう事もあり得るんじゃ?」

「それはない事だ。元々細川は公方の側近だ、そういう御方が場所を間違えるという事はない。幕府は武家の元締め。領地を与えたり、没収したりする事もあるからな。在所の特徴を覚えておくのは、政務をする以上必須知識。例え今の幕府に力が無くとも、知識として覚えておくのは当然の事だ。側近である細川さんが、長田庄の場所を間違えるはずがない」

「一真の言う通りだ。しかも奴は我を当主と尊んだ。・・・・もし我が部屋住みであったなら、刃傷沙汰になってもおかしくない程の非礼だぞ。それをサラリとやってのけおった。食えん」

「すみません。私には何が何だか・・・・」

「そこら辺はあとで教えるよ、エーリカ」

さてと、難しい事を話したが俺の後ろにいるな。細川さんがね、ひよところは気付いてないようだ。

「で、気配を消してこの部屋に侵入して来て何か用か?」

「おやおや、お気付きになられたとは。あなたは他の武人とは違いますなぁ」

「「ひゃーっ!?」」

「ズズズーッ。はぁ~お茶が美味ですなぁ」

「いつの間に・・・・」

「おや。ちゃんとお声掛けをして入室をしたのですが、あっ粗茶をお持ちした次第でして、どうぞどうぞ」

皆は粗茶を飲んでいたが、俺は素早く飲んだ。こいつは出来る。さすが公方の側近とでも言おうか、詩乃が話してものらりくらりとして会話の主導権を離さないな。

「で、藤孝とやら。・・・・我の事を知ったとして、何をするつもりだ?」

「これはまた、塚原卜伝先生なみに一刀両断ですなぁ」

塚原卜伝・・・・戦国時代の剣豪・兵法家。字面は同じだが。兵を操る軍略家は「へいほうか」、武勇を追求する人は「ひょうほうか」という。

「柳相手に相撲を取る程、無駄な事はないからな。・・・・で、どうなのだ」

「・・・・今の所は特に何も。ただ公方様のお側衆を自称する私としては、向後の事を考え、各地方の有力者と懇意にしておく必要がございますれば」

「割に人を見ん。・・・・我は好かん。最初に言え。我を試すならば相応の覚悟を持っておくが良い」

久遠の威に打たれたようだったように、幽は真面目な顔をして頭を下げた。けど、すぐにいつもの顔をしてたけどな。

「でもねぇ・・・・あの場でご正体を見抜いたならば、おぜぜは置いていってくれました?」

「織田家としては正式に公方と話をしに来た訳でもない。・・・・見抜かれていたら踵を返しただろうな」

「でしょう~。だからあの時方便と言う事で、一つ手を打って頂けますと助かるのですが。・・・・どうでございましょうかねぇ?」

手を揉みながら、久遠を見る姿は武士というより遺りての商人に見える。本当にこいつが公方の側近には見えないな。

「将軍様は、それほどお金にお困りなのですか・・・・」

「それはもう!・・・・まぁでも毎日毎日、町を練り歩いて悪漢共から銭を巻き上げているらしいですが・・・・」

「何をブツブツ言っておる」

俺には丸聞こえなんだが、そうか、やはり先程のが足利将軍なのか。俺の勘ではある。

「いえいえー!こちらの話でございますよ!さて公方様との謁見につきましては、仕来り通り、お側衆達と協議中でございますれば、今しばらくお待ち頂ければとー」

「それは構わんが・・・・仕来り仕来りと町雀のように五月蠅いものなのだな、幕府という奴は」

「はっはっはっ。仕来りが無ければ、人の行動を掣肘するのにも苦労するでしょう。作法とは人を制御するための便法であれば、幕府としては無視できませんからな」

「はっきり言いますね。・・・・ですが同意しましょう」

「ほえー、そういうもの何ですかねぇ・・・・」

「ある一定のルール、ここでは規定か。規定ってのが無ければ、皆が皆、無軌道に動いてしまう。皆が、一定の方向を見たり一定の行動を起こすためには、規定とか決まり事っていうのは必要な事だ」

「そう。それこそがまさに幕府という組織!・・・・という訳で窮屈でございましょうが、礼儀作法に則った振る舞いをお願い出来ましたら」

「デアルカ。・・・・」

「それにしても・・・・皆様は中々面白い組み合わせでございますなぁ。織田殿は分かるとして、そのお連れが田楽狭間に降臨された天人、と噂される男性が一人。野武士風が二人、田舎豪族の子息らしきお子様が一人。それに異人ときた」

詩乃の事をお子様と見てるのか。詩乃自身は何か言おうとしたがやめたようだ。俺は確かに天人ではあるが、神でもあるがこの事は家中でも極秘中の極秘だから幕府には伝わっていないんだろうな。 
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