魔法少女リリカルなのはA's The Awakening
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第一九話
前書き
年明け一発目です。あけましておめでとうございます。今年もまた、よろしくお願いします。
竜二が出かけてから数時間。夕食の準備を始めている八神家だが、未だに彼が帰ってこない。
「遅いなぁ兄ちゃん……」
「旧友との語らいとは、存外長くなるものですよ」
「そうなん?」
「ええ、おそらくは」
手伝いながらシグナムが答える。ただ彼女自身は、今も生きている旧友と呼べるような関係の人間は存在しないはずなのだが。
「ふーん……まぁ、離れてた友達と久しぶりに会うってなったらそんなもんなんかなぁ」
納得しきれてはいない様子だが、いないのは仕方ないと割り切ったはやてであった。
「まぁええわ。兄ちゃんの分だけ後で暖めてあげたらええやろ。みんなで先食べよ」
「よろしいのですか?」
「うん。連絡入れへん兄ちゃんが悪いねんし、私と違ってもう大人やからな」
そういったはやて自身、自覚はないだろうが同世代の少年少女たちと比較すればかなり大人びた精神を持っているといえる。
そして、竜二と西村の決着は、西村が倒れ込んで決着がついた。
「はぁ、はぁ……」
「ふぅ……」
仰向けになって転がり、息を切らせている西村に対し、竜二は深呼吸を数度するだけで呼吸を整える。歴戦の英雄にも等しいヴォルケンリッターの訓練に加え、自らをさらに追い込む自主トレも欠かさない彼が、一般人に拳で負けるなどあってはならないが。
「お前、えらい強なったなぁ……大阪出る前とは、比べ物にならんで……」
「……せやろなぁ」
「なんか、体鍛えなあかんような、理由でもできたんか?それともガテン系でも始めたか?」
「……前者やな。語る気はないが」
「そうか……」
竜二は西村の呼吸が整ったのを確認すると、手を差し伸べた。彼もそれを受け、立ち上がる。
「……気は済んだか?西村」
「ああ……満足っつーか、俺も引退する踏ん切りがついたわ」
「……そうかい」
「もうこの世界に俺の居場所はない。きちっと足元固めて、生きていくこと考えるわ」
そう言ってのけた西村は、腫れた顔でも笑ってみせた。竜二もそれを見て笑顔を返す。
「もう帰るんか?」
「明日にはな。一応ホテルとってるし、今日はゆっくりするわ」
「そうか……大阪帰ったら、飯でも行こうや」
「せやな。ほなまた」
地元では敵どうしだった二人。しかし互いにどこかで憎からず思っていた部分はあったのだろう。西村はそう言い残すと、バイクにまたがってどこかへと消えていった。そして竜二は、遅くなってしまったので家に連絡をと携帯を取り出すと、ちょうどいいというかなんというか、家から電話がかかってきた。
「……もしもし?ああ、今終わったところや。すぐ帰る」
携帯を閉じ、彼もまた乗ってきたバイクにまたがった。夕日も沈もうとする海岸線と疾走するバイクという組み合わせはどこか寂しく、それでいて似合って映った。
「しかしまぁ、アスカから電話とはな。こら今夜はガッツリ相手したらなあかんのかね」
そういった竜二の口調は面倒くさそうだが、うれしそうな表情はヘルメットがなければ隠せていなかった。
数日後、竜二のバイト先であるJS楽器店は、これまでにない盛況を見せていた。理由はやはり、先日のロックフェスだろう。様々な技術を披露し、かつスタッフとスクール生がバンドとして参加していたのは、彼らの趣味と店の知名度という実益を兼ねたものだったと言える。
「ええ、こちらはポール・ギルバート氏のシグネイチャーモデルとなっていまして、彼に近い音を出したいのなら、このギターにこのアンプを、大体これくらいのチューニングで……」
「こちら全部で8万7000円になります。はい、9万円からお預かりいたします」
店長を訪ねてきた女性達も総出で、竜二や矢吹に教えられながら接客に回っていた。しかし接客そのものに関してはこなせても商品知識がないに等しいので、結局竜二と矢吹が走り回っていることに変わりはなく、減った負担といえばレジに入らなくて良くなったくらいだとか。
「こちらはイングヴェイ・マルムスティーン氏のレプリカでして、少々お値段は張ってしまいますが……」
「お買い上げありがとうございます。修理、メンテナンスなどは、当店をご利用ください。今後共またよろしくお願いいたします」
たった二日でこの街のギターヒーローとなった竜二であった。そんな彼を見ようと店に訪れる客の足はなかなか減らない。また彼のようになりたいと、ギタースクールへの申し込みも途切れない。
「……こんなに忙しいのか、この店は」
「まぁ、最近は特にそうみたいね」
竜二に用があったのか、クロノとリンディが店に訪れるが、盛況ぶりを見て驚いていた。これでは話をするどころか、声をかけることすらためらわれるくらいである。
「これじゃあ仕方ないわね。どこで待つ?」
「そうだな……あれ?そういえば母さん、買い物があるんじゃなかったっけ?」
「ああ、もう食材がなかったわねそういえば。そろそろ買わなきゃ」
「だね。たぶん閉店までいるだろうから、それまでにやること全部済ませとこう」
そんなに緊急の要件でもなかったのか、それとも直接伝えなければならないのか。どちらにせよ彼女たちが急いでないところを見ると、今のところは平和な海鳴であった。
その同じ頃、時空管理局本局、特務一課。逮捕に生死を問わないとされる危険人物の対策部隊。現場主義の部隊であるため、隊員は基本的にあまり事務室にいない。いるのは主に作戦行動中に被害が発生した場合の始末書の処理と掃除をしている待機中の隊員だ。
「失礼します、フレディ一佐」
「おう、入れ」
その部隊の事務所のインターホンから声をかけるのは、艶やかな黒髪を背中まで伸ばした美しい女性。制服の上からでも見て取れる豊満なスタイルは、男子職員の視線の的であるといえるし、事実ここに来るまでに何度もチラチラ見られている。とはいえ本人は慣れたものなのか、気にする様子を見せないまま姿勢を乱さずに歩いてきた。
「んで、何の用だ?手短にすませて出てって欲しいんだが」
「忙しいんですか?珍しい」
「ああ忙しい。我ながらここまで始末書ためるんじゃなかったぜクソが」
そんな荒くれ者を束ねるのは、言わずと知れた危険人物、フレディ=アイン=クロイツ。答えながらもその手は全く止まらない。ノンストップで、かつとてつもないスピードで書類を片付けていく。
「そんなクソ忙しい中、さらに面倒くさい指令が本局から下りましたよ」
「……アァ?ジジイ共は俺を忙殺する気かよ……で、何だって?」
「『危険なロストロギアの情報を確認、至急部長室まで向かわれたし』とのことです」
そう言ってフレディは手を止めずに、反対の手でデスクに置いた酒瓶を煽りながら呟く。
「ふーん……俺に当てるとは、とうとう上層部の手に負えなくなったってわけか。わかった」
「……え?」
応と答えた彼が意外だったのか秘書は一瞬呆気にとられた。その隙に抱き寄せ、酒臭い吐息を匂わせながら囁くように告げる。
「行ってきてやるから、一発ヤらせろ」
「相変わらずですか……やれやれ、しょうがないですね。どこで?」
「ここでやる以外ありえない」
この男、今更な話だがとことんまでクズである。ゲスである。クソ野郎である。呆れたリーゼ姉妹が呼びに来るまで、秘書を貫きながらサーチャーを活用して仕事を片付けていたフレディであった。
「主にお子様がいるご家庭がお買い上げになるリコーダーや、そのメンテナンス用品はこちらになります。取り外して水洗いが可能ですが、繋ぎっぱなしにしていると固まって取り外しにくくなるので、この展示品は定期的に分解して手入れをお願いします」
「電子キーボードなどはこちらにおいてあります。電子ドラムと並んでお客様がよく触られるものになるので、これらはできるだけまめに点検をお願いします」
客足が遠のいても竜二と矢吹の仕事は終わらない。普段ならゆっくりと楽器の整備をしているのだが、秘書に言われた書類と店の事務処理をとりあえず片付けたらしい店長にレジを任せ、勤務している女性店員になった秘書たちを教育していた。
「しかし、こんなに長くやれるとは思っていなかったな……。あ、そうそう、ナカジマ君。これが例の書類だ」
「拝見します。……確かに。私は報告のため一旦本局に戻りますが、くれぐれも彼女たちに余計なことはしないように」
「私が?そんなことをできる人間だと?」
「あの子たちにも教育、お願いしますね?」
「ああ、そういうことか……わかった。しっかり言いつけておくよ」
しかし、クラナガンではあまり扱っていない商品らしく、最低限の商品知識を覚えてもらうだけでも一苦労とは竜二の談。同じところからきたはずの店長がなぜそこそこの知識を持っていたのか、なぜそうとわかっていながら彼女たちを雇ったのか、疑問は尽きないが文句を言っても始まらないので従っている。
「ピックはものによって硬さが違ったりするので、かならず納入したときにチェックしてまとめておいてください。んでから、ギターとベースの弦はそれを張る場所によって太さが違うから、かならず何の何弦用かをチェックして同じスペースに保管してください。これによって音が変わってきたりします」
「商品のフロアマップはここにまとめてますが、できるだけ早く覚えてください。お客様から商品の場所を尋ねられたら、見ないままフロアの案内が確実にできるようにお願いします」
一応全員年上なので、先輩でありながらも丁寧な言葉遣いを心がけている。彼女たちもデバイスのメモ機能を利用して言われたことを記録している。その後は楽器のメンテナンスの仕方、陳列の仕方などを教えていた。
「とりあえず今日はここまでにしよう。君たちも帰りたまえ」
「あ、はい。お先に失礼します」
「お疲れ様。それに八神君、君にはお客さんが待っているようだぞ?」
「は?」
見ると、店の近くの道路でハラオウン親子が談笑していた。
秘書を徹底的に弄びながらも仕事を片付け、猫姉妹すらも貫いてダウンさせてようやくすっきりしたのか、フレディはグレアムのいる執務室へとやってきた。
「フレディだ、入るぞ」
「ああ」
上官相手でも敬う姿勢を見せずに入室。一応ノックをしたのは彼なりの敬意だろうか。
「遅かったな。アリア達はどうした?」
「俺のもとに女をやったらどうなるかくらいわからんか?」
「……わかった。本題に入ろう」
グレアムは呆れた様子でディスプレイを表示した。
「つい先日までお前が迷い込んでいた地球の海鳴という町だが、あそこでロストロギア級の魔力反応があったとリンディ・ハラオウン提督から報告が来た。本来なら彼女たちにもロストロギア制圧の権限はあるから任せるのだが、今度の相手は正直、彼女たちには手に余る」
「元々危険と言われるロストロギアの中でもわざわざ危険とつけて、その上であいつらではかなわないとなると、ある程度絞られてくるわな」
「そうだ。『闇の書』と『星天の書』の二つだ」
「ハァ?……おいおい、ちょっと待てよ。そんだけのでかい反応を今の今まで見つけられなかったっていうのか?」
「『そういうこと』だ。理解しろ」
「……ああそう」
以前から把握していても、本格的に動き出すと上層部が決めた、ということだろう。おそらくリンディも納得済み。となればフレディにためらう理由はない。
「話はそれだけか?」
「ああ。今すぐ向かえ」
「だが、断る」
「何だと?」
まさかいきなり断られるとは思っていなかったのか、グレアムの視線が厳しくなる。しかしフレディは物怖じせずに返す。
「そもそもテメェ、俺を連れ帰った理由ってなんだった?」
「お前が仕事をほったらかして遊んでいたからだろうが」
「そうだな?それで仕事が溜まってるから呼び戻した。まぁそれはいい。だがここに来て、いきなり俺にまた動けってのは筋が通らないんじゃないのか?アァン?」
笑顔を浮かべて上司に凄むフレディ。しかしそういう態度に出るのはわかっていたのか、グレアムも凄む。
「それを言うなら、そこまで仕事を溜め込んだのはどこのどいつだ?アァン?」
「だから片付けるために帰ってきたんだろうが?」
「私が呼びに行くまで帰るつもりもなかった癖にか?大体お前ここ数日でまた女性局員何人か潰したらしいな。自分のせいで事務員が減って余計に自分の仕事が増えてることに気づけ」
「それは知らねぇな。俺は俺のやるべきことをやってるだけだ」
「いい根性だな貴様……」
どう考えても非はフレディにあるはずなのだが、まるで悪びれた様子もなく減らず口を叩く彼にかなりイラついている様子を見せるグレアム。普段温厚な彼でも、フレディには高圧的に接しないと通じないというのはわかっているし、その分自身の空気も張り詰めたものになる。
「まぁいいさ。俺としてもやり残したことがある。残っている仕事を片付け次第向かう」
「どの道すぐに動くつもりはないそうだ。詳細はお前たちで詰めろ。本来なら私が向かうべきなのだが、私にはここで責任をとるという仕事がある」
「大変だな、責任者って奴は」
「全てお前のせいなんだがな」
「あぁそうかい」
なんにせよ、フレディが公式で海鳴に現れることが決定した。打ち合わせをするために執務室を出たフレディを見送ったグレアムは深くため息をつき、ふと呟いた。
「すまない、竜二くん……私の力では、上層部はともかく、支援団体の声を抑えることはできなかった……」
ほぼ同時刻、仕事を終えてハラオウン親子に呼び出された竜二は、近くのファミレスを訪れていた。
「何です?そちらから俺に話とは」
「疲れているだろうから単刀直入に言うわね。管理局による闇の書と星天の書の封印、もしくは破壊が決定されたわ」
「……は?」
しばらく竜二は空いた口がふさがらなかった。何分全く動く気配のなかった時空管理局の本局の決定だというのもあるだろうが、まさか自らのデバイスまで封印指示を受けるとは思っていなかったのだろう。冷たい口調でリンディが続ける。早く話を終わらせたいがごとく。
「残念だけどこれは事実よ。グレアム提督から、『あの男』を送るから話を詰めておけ、そう言われたわ」
「そんな……それじゃあ、俺の立場は!?」
「我々が管理局員として行動するなら、今すぐ八神家に出向い、星天の書と闇の書を強制接収、即分析して『あの男』と協力ないし依頼して破壊、となるんですが……」
苦しげな口調で語るクロノの言葉を、リンディは認められないかのように強い口調で続けた。
「でも、それで私は納得しないしできない。幸い、私直属の舞台には独自捜査の権限があるわけだしね」
「じゃあ、まだ猶予はあるんですね?」
「ええ。私たちが危険なのは重々承知している。でもせっかくできた貴方たちの家族を、一方的に奪うようなことは絶対にさせない。それに、貴方がここで死ぬことも許さない。必ず五体満足で、この街に返してみせる」
「……リンディさん……」
既に死ぬ覚悟を固めていた竜二からしたら驚きの言葉だ。本来組織の人間として下してはならない判断だろう。しかし、元々危険なロストロギア対策を前提とした部隊であるため与えられた独立捜査権というものが、彼女本来の優しい性格を後押ししているのか、それともこの指示に上層部のきな臭い何かを感じたからなのか、あるいは両方か、それは定かではない。
「それに、フレディや直人君を襲撃した連中がこのままで引き下がるとは思えない。一応この街の監視は強化しているけど、どこから転移してくるかなんてのもわからない。奴にはできれば、連中の始末に集中してもらいたいというのが私たちの答えね」
「でもそれで奴が納得しますかね?」
「納得しようがしなかろうがやらせるわ。我が家の酒と私の体を使ってでもね」
「母さん……」
あれほど嫌がっていたはずのあの男に、自ら体を差し出してでも独断行動は許さないという覚悟を見て、クロノは自分の母親ながらも気力に圧倒されていた。また誰の話をしているのかがなんとなくわかっていた竜二は、本当に大丈夫だろうかという不安からは解放されなかった。しかし、この地域における直属の管理者である彼らが、すぐさま自分たちをどうこうさせたりするつもりはないというのを聞いて、内心胸を撫で下ろしていた部分もあるのか、彼は気付けば頭を下げていた。
「リンディさん、クロノ……数々のご配慮、感謝致します」
「気にしないで。ここにいる間の私は、時空管理局の局員としてではなく、リンディ・ハラオウンという一個人として今回は動くつもりだから」
「もちろん僕もです。ですので、魔法関連で気になることがありましたら、いつでもご相談ください」
とりあえずそこからいくつかの情報を交換してから、従業員を呼んで食事の注文をした。もうきな臭い話はなくなり、和気あいあいとした会話を交わすその姿は、まるで昔から仲のいい家族のように見えたとか。
それからしばらくたった別の日。直人はリンディを通じて連絡を受け、とある女性と二人きりで面会している。場所はアースラ艦内の取調室。
「……その話、ホンマか?」
「ええ、確かよ。この画像の日付を見てもらえればわかるわ」
黒髪をショートカットにしているスレンダーなこの女性は管理局の制服姿だ。直人は黒のスーツなのだが、ネクタイを締めておらずシャツは赤。首元を少しはだけさせ、チョーカーを見せる。
「……この話、プレシアさんには通してへんやろな?」
「ええ。その画像データはあなたにあげるから、伝えるかどうかはあなたが決めてね」
もっとも、伝えないという選択肢はないでしょうけど、とその女性は付け加えた。彼に渡されたその画像は、暁に殺されたはずの『彼女』のものだった。それも、生きていれば年相応に育ったであろう姿で撮されている。
「彼女、あなたより年上かしらね。まぁそもそも、あの女がプレシア・テスタロッサの変わり種としてジュエルシード事件に関わったのだから、彼女本人が何の防護策も講じていないはずはないと思ってはいたけど。探すのに苦労したわ、本当」
「……それもそうか」
「で、どうするの?あなたと彼女は直接の面識は無いわよね?」
「ああ。せやから俺から動くことはあらへん。それに彼女に会うんなら、俺より先に会わなあかん人間がおるやろ」
「……それもそうね」
同じ言葉で返す彼女。直人が嘆息し、データの入ったメモリーカードを預かると、女性は彼に色めいた視線を向ける。
「とりあえず、礼は言っとくわ」
「お礼なんていいから、そろそろデートの一つでも誘ってくれない?うちの部の人間、どいつもこいつも退屈で仕方ないのよ」
「お前と俺が?やめとけ、貧乏デートまっしぐらやで」
「いいじゃない。退屈なルーチンを片付ける毎日で時間とられてばかりで、まとまったお金を使う暇がないのよ。最近の私は」
軽口を叩きあいながら直人とその女性は同時に立ち上がり部屋を出た。直人と並んでも身長差を感じさせない彼女は女性の中でも高身長な方なのだろう。
「腹立つ言い方やの。ほな今度メシでも奢れや」
「いいわよ、あなたがクラナガンに来た時にでも。肉が食べたい?それとも魚?必ず満足させてあげるわ」
「お前の行く店ってどこも緊張感パないんよなぁ……」
直人はこの女性と交際関係にあるのだろうか。だとすればいつ始まったのか、竜二にバレればヤジと共に追求の嵐は間違いない。
「デートだもの。それに、義理とはいえあの大魔導師プレシアの息子に当たる人間を下手な店になんて連れて行けないでしょ?」
「テスタロッサ家に養子になるつもりはなかったんやけどなぁ」
「ま、フェイトちゃんをうまくはべらせたからよね。よかったじゃない、妹ができて」
「その言い方やめい」
「あたっ」
軽く頭をはたく直人。関西人ならではのドツキ漫才精神がポロッと漏れたようだ。ただ、叩かれたはずの彼女もまんざらではない表情をする彼女の心情やいかに。
「しかし、彼女が生きてたとはな……」
「何、狙ってるの?よかったわね、今彼女フリーらしいわ。ただしバージンかどうかまでは知らないけど」
「そこは別にどっちでもかめへんわ。つかなんで狙ってるって話になんのか、お前の頭がどうなってるのか知りたい」
「私はあなたの愛人のつもりだからね」
「意味がわからんし繋がりなかったやろ今の話に。しかしそうなると、ますますフェイトの存在がわからなくなってきたな……」
「なんで?」
「あのな……」
とぼけたように聞く女性に、直人があきれたように返した。
「俺はフェイトから「アリシアの代わりにプレシアから産み出された」と聞いている。でも、もしアリシアが生きていることを最初からプレシアさんが知ってたとしたら、フェイトをそういう理由で産み出すことが、いやそもそも、そんな技術を使う必要なんかなかったはずなんや。だとしたら、プレシアさんがフェイトに嘘をついたのか、それともこのアリシアが偽者なのか、どちらにせよ疑わしくなってくるって話や」
「ふーん……以外に馬鹿でもなかったのね。関心」
「ってことはお前、何か知ってるな?このアリシアについて」
「いいえ。でも私と同じ違和感を抱いたことについて合格点をあげる」
「そらどうも」
ぶっきらぼうに返す直人に、女性はどこか艶やかな微笑みで返す。
「でも今は、こっちより大事なことがあるでしょ?」
「せやな。闇の書を夜天の書に戻す作戦、リンディさんと詰めなアカン」
「ええ。その間に私は、このアリシアと思われる子について調べるわ。ひょっとしたら、プレシアですら気づいていない何かが、動き出しているかも知れないしね」
「それが一番厄介なパターンやな……」
そのまま二人はとりとめもない話をしながら別れる。直人は竜二がアースラに到着した連絡を受け、指示を受けるべくリンディへと連絡を入れた。ちなみにリンディの元へと向かう前に、別れ際に彼女が頬に残した痕を落とすべくトイレで奮闘している姿が見られたという。
後書き
アルペジオが面白かったので、ここで二次書くかも。ちなみに勤務シーンはすべて想像。楽器屋で働いている人、もし違和感があったら突っ込みをお願いします。
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