魔法少女リリカルなのはA's The Awakening
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第二十話
前書き
待たせたな、ここから一気にクライマックスだ!
そして時は経ち、作戦決行の夜がやってきた。今回の場所に選ばれたのは、以前竜二と直人が模擬戦で使用した砂漠地帯である。そこには、竜二、アスカ、はやて、シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマルと八神家が勢揃いしており、他にもなのは、フェイト、ユーノ、クロノ、直人、アルフがいる。他にも離れた地域でアースラが待機しており、そこにはリンディとフレディが待機している。
「さて、早速今回の作戦を説明しようか。アスカ!」
「はい」
竜二に呼ばれたアスカが空中にディスプレイを表示させる。またそれと同時に、ヴォルケンズが竜二の横に並ぶ。
「まず、すでに闇の書の頁はほぼ9割方埋まっています。その上で使える魔力は、なのはさん、フェイトさん、アルフさん、クロノさん、直人さんの誰かのものになります」
「全力で受け止めなければならないわけだから、蒐集役はシグナム達のうち誰かに行ってもらうこととする」
足が麻痺しているため車椅子のはやてでは衝撃を支えきれず、吹っ飛ばされる可能性があるからだ。それは以前、竜二が放った砲撃魔法でシグナムが麻痺のような症状を起こしたことからも明らかといえる。結局その原因は明らかになっていない。
「そして闇の書が起動すると、これまでのシナリオだと管制人格が主人を乗っ取り、無差別破壊活動を始めるとのことなので、これを全力で阻止する」
「行うのは我々ヴォルケンリッターと、アスカ殿と融合した兄上殿だ。高町達は、第三者勢力の襲撃に備えてくれ。もし仕掛けてきた連中が自分たちの手に負えないと判断したら、ハラオウンか我々に連絡して引き下がれ」
竜二の説明にシグナムが追加すると、なのはとフェイトが頷く。
「じゃあ、私たちはその間何をすれば?」
「今回は長期戦が予想される。破壊活動を行う管制人格を止めるには、融合したはやてが直接管制人格を説得する必要があるらしいんや」
本当にそんなことができるかは竜二自身半信半疑である。騎士達でさえも、これまでその暴走を止め切れた主人を見たことがない。しかし、管制人格へのアクセス権限を持つのは主人であるはやてのみなので、止められる可能性があるとするならはやてだけなのだ。するとここでアスカが補足するように説明を加えた。
「星天の書には闇の書に対するアクセス権限が備えられています。もしはやてさんが何の反応を起こすこともできないとなれば、私が主から離れて闇の書にアクセスし、はやてさんを起こす必要があります」
「アクセス権限があるなら、直接管制人格に向かうことはできないんですか?」
なのはの疑問ももっともである。闇の書へのアクセス権限があるなら、管制人格へのアクセス権限もあるはずだと。しかし、そこまではできないとアスカは言う。
「私に備わっているのは、あくまで短時間の、それも他の機能に対するアクセスのみ。あまり長い時間、その世界にいることはできないのです」
「ならば、もしその時間が経過してなお闇の書から何の反応も見られなかった場合は、全員はすぐさま我々アースラの指揮下に入ってもらいます」
「……了解した」
覚悟を決めたように返事を返す竜二に、クロノは問う。
「……いいんですか?自分は仕事ですが、あなたからしたら血のつながった家族でしょう?」
「そん時ゃ、俺も一緒に死ぬだけや。妹も護れない兄貴に、家族も護れない家長に何が残る。俺が押さえ込むから、俺ごと殺せ」
「……まさに決死の覚悟というわけか。しかし忘れないでいただきたい。僕と艦長があなたに何を伝えたのかを」
そう言うとクロノは引き下がる。竜二は反論せず、ただ作戦開始を告げた。
「他に質問がないなら、早速始めよう。時間が惜しい。アスカ!」
「はい!」
そして、二人のユニゾンを皮切りに、全員がバリアジャケットを纏う。とはいえ、ヴォルケンズを除くと各人デバイスを起動させただけで、即戦闘に入れる状態ではない。竜二ははやてに近づき、彼女の持つ闇の書をシャマルに渡す。もし彼女なら麻痺を起こしても、直接的な戦力低下にはつながらないと判断してのことだろう。
「頼む。きっちり支えたってくれ」
「わかったわ」
「ぶちこむのは……なのはちゃんかな。すんごい砲撃頼むで」
「はい!任せてください!」
「お、お手柔らかに……」
竜二に頼まれ、表情を引き締めるなのは。その顔はもう、ただの少女ではない。幼く未熟ではあれど、覚悟を決めた戦士の表情だ。その横で、シャマルが顔を引きつらせているのがなんともシュールというかなんというか。
「作戦開始!」
竜二が放った声を聞いたシャマルとなのははすぐに集団から離れて間合いをとった。
「全力全開!いくよ、レイジングハート!」
「All right master.」
彼女は足元に魔方陣を展開し、レイジングハートを構える。目標はもちろん闇の書の中心部分。狙うはまさに一点突破だ。
「いつでもいいわよ」
対するシャマルも、闇の書を展開し、砲撃を待つ構え。お互い、いつでもよさそうだ。
「発射のタイミングはこちらで決めていいですか?」
「ええ、いいわ」
「では遠慮なく。レイジングハート!」
「Divine buster Ver.P,Stand by.」
するとなのははすぐにディバインバスターのチャージを始めた。そこで竜二はある変化に気付く。
「気のせいかチャージングめっさ遅なってない?」
「これまでのレイジングハートの戦闘ログをもとに、ディバインバスターのプログラムパターンを二つ増やしてみたらしいんです」
竜二の問いにクロノが答える。確かにこのディバインバスターは、従来に比べてチャージが長い。竜二は彼女と実際に何度も戦い、よく見ているからこそわかる。
「ってことは、パターンが三つってことかいな?」
「ええ。一つは従来のままのものを、もう一つは戦闘中に発動しやすくするためにチャージ時間を縮めたものです。その分威力は落ちますが、発射までの時間を短縮しただけでなく、反動も小さくなるため発射後すぐに次の行動に移れるという利点もあります」
「ふぅん……」
しかし、この状態は今説明を受けたどちらとも一致しない。ともなればと竜二はクロノに問うと、彼は頷いて答えた。
「ええ。切り札であるスターライトブレイカーは周囲の魔力を収束して放つもの。もしそれが撃てない場合でも、劣りはすれど従来より高い威力の砲撃を放てるタイプです」
「なるほどね。考えてんやな」
「まぁ、レイジングハートが求めていたものですけどね」
「そこは流石インテリジェントデバイスってところか。ずいぶん主と仲ええんやね」
竜二が感心していると、どうやらチャージが終了したようだ。
「ディバイィィィン……バスタァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
終了と同時に間髪いれず発射するなのは。威力増加というのは伊達ではないようで、以前に比べてかなり魔力光が太くなっている。
「おいおい、えらいゴツうなりよったで……」
そしてシャマルもすぐに反応。桃色の魔力光を闇の書にぶつける。
「蒐集開始!」
「Sammlung.」
その瞬間、強烈な衝撃が彼女を襲う。戦闘肌ではないシャマルには少々厳しいのかも知れないが、彼女も騎士の一人である。そこから来るプライドと責任感が、自身がそこから離れることを許さなかった。そして彼女は、桃色の魔力光が途切れるまで闇の書を支え続けた結果膝を突く。闇の書の頁は、これで全て埋まった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「お疲れ。さぁ、始まるで!」
「Freilassung.」
闇の書は何か一言告げるとシャマルの手を離れ、はやての元へと転移した。そして彼女を中心として漆黒の魔方陣を描くと、黒い魔力光が書からあふれ出るかのように現れる。
「なにこれ……?」
「闇の書の魔力です。書が本格的に起動しました。ここからはあなたの精神力が試されます」
はやてが脅えるように漏らしたつぶやきにアスカが返す。
「そんな……兄ちゃん!」
「がんばれ!お前には、俺らがついとる!」
「でもっ……!!」
「覚悟決めたんやろうが!ここが生きるか死ぬかの瀬戸際やぞ!やると決めた以上はきっちり仕上げてみせろ!帰る場所は俺らが全力で護ったる!」
「……うん!」
怖がるはやてに発破をかける竜二。最後は彼女もうなずき、右手でサムズアップまでしてみせた。全員が固唾を飲んで見守る中、その魔力光はものすごい速度ではやてを車椅子ごと包むかのように覆っていく。
『アスカ、アサルトモード!』
『了解!ブラスト起動確認、発進します!』
『ブラスト機動部隊、出撃するで!』
竜二が戦闘に備える。するとこの状況で、クロノの通信機に反応があったために彼は急いでディスプレイを表示した。
「艦長、何かあったのですか?」
『緊急事態よ!正体不明の魔力反応がその地域に多数現れたわ!』
「なんですって!?どこに!?」
『西北西6キロ先に魔力反応!すぐに現れるわ!全員警戒態勢を!』
「了解!」
「何事や?」
ただならぬクロノの様子に直人が反応した。
「おそらく、以前からフレディ一佐を追いかけていた連中が網を張っていたんだろう……正体不明の勢力がまた現れた。こないだの解析もまだ終わっていないというのに……」
「ほなそれは俺の仕事やな。ジューダス!オールラウンドモード!」
「Yes sir.Stand by.」
すると直人もすぐに大剣と二挺拳銃のスタイルになり、戦闘態勢に入った。クロノも自らのデバイスであるS2Uを強く握り締める。
「何だと!?おいちょっと待て、さっきの話を聞いていなかったのか!?」
「じゃかあし!俺が行かな誰が止めるんや!」
「こんなことになれば、間違いなくフレディ一佐が出てくる。あの人に任せればいいじゃないか!」
「お前それ本気で言うてんのか?あの男が本当に噂通りの男なら、こんなところで任せたら死体の山が出来上がるわ!」
「だが今優先するべきは……」
「ふざけんな!ガキがこんなとこで命の勘定なんかせんでええねん!」
「ガキ……だと……?今更僕を子供扱いするのか!」
クロノが流石にその一言に対して頭に血を上らせるが、直人はもはや取り繕いもせずに言葉を叩きつける。
「ああせや。いくら偉かろうが、いくら強かろうが、ワレは今何歳や!まだ親の保護下におらなあかん年ちゃうんけ!」
「ふざけるな!僕はもう子供であることを捨てて執務官になったんだぞ!ここに来て大人に甘えてられやしない!」
「ほざくなガキ!人生経験が足らん、人付き合いも足らん、そんな人間がこんな状況で頭も冷やせずにどんな判断下すんじゃ!」
「言わせておけばっ……いい加減に!」
互いの怒りが爆発寸前だが、直人はアースラから送られてきたマップを確認すると、切り上げるかの如く拳銃を抜いて駆け出した。
「それにここでガタガタ揉めてる時間なんかないやろが!ここまで到着されたら終いなんやし、俺はもう行くで!」
「おいちょっと待て!話はまだ終わっていない!」
クロノの制止を無視し、高速飛行で最前線に向かう直人。一筋の赤い閃光が伸びていった。
「あんのバカ……僕がなぜ止めたのかもわからないのか!すまないがここを頼む!」
「わかった!」
「艦長、至急フレディ一佐を出撃させてください!闇の書に関わられるよりはマシです!」
クロノは急いでボイスメッセージをアースラに送信すると、直人が向かった方向である別勢力の反応が出たエリアへとすっ飛んでいく。その間に、はやてを包んだ黒い光が収束を始めた。全員が集中を切らさず見守る中、その光から一人の若く美しい女性が現れる。
「…………」
鮮やかな真紅の瞳に艶やかな銀髪を腰まで伸ばし、背中には2対の黒い翼。顔と左腕には赤い紋様が走り、右腕と両足にはまるで拘束するかのように赤いベルトが付けられている。黒に近いほど暗い紺色のジャケットと、腰からなびかせるかのようにまとう同じ色のマントの下には、太腿まである黒いインナー。また右足のみ黒いニーソックスを穿いており、足元を護るのは脛まである黒のブーツ。まさに黒装束とも呼べる姿をしたその女性はただ無言で、たたずむようにそこに立っていた。
「彼女が、闇の書の意思……か」
その姿を見て竜二が小さく一言漏らす。それが聞こえたかどうかは不明だが、彼女が静かにつぶやいた。
「……こうなってしまっては、最早止まれない。お前達は、ここで……永久の闇に沈め」
「そうならんためにここにおるんやけどな。悪いけど、最後まで悪あがきがしたい主義でね」
「無駄なことを……もはや、滅びの扉は開かれた。主の命により、お前達をここで殲滅する」
そう啖呵を切るのは竜二。それを聞いてもなんとも思わないかのようにただ淡々と返す女性。竜二も冷静に言葉を選びながら、かつ冷静になり過ぎないようにテンションを抑える。
「はやてがンなこと望むはずがあらへんやろ……って言ったところで、どうせ聞く耳持たへんやろテメェ。そういう顔しとるわ」
「……」
「……覚悟は、ええな?抜刀!」
『追加ブースター展開!』
『ダッシュ特化型や!』
『了解!点火!』
彼女は答えない。沈黙が答えと受け取ったか、レーザーブレードの切っ先をを右斜め下に構えると、竜二が一人で突撃する。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああ!」
だが、彼女も黙って接近はさせない。短い詠唱とともに無数の鋼の短剣を召喚すると、竜二に向けて10本ほど飛ばす。
「刃以て、血に染めよ。穿て、ブラッディダガー」
「舐められたもんやでこりゃ!」
しかし、ただまっすぐ飛んでくるだけなら銃弾となんら変わらない。竜二は同時にメインブースターを小さく噴射することで左右に体を揺らし、最小限の動きでかわしていく。
「その程度か!」
「そのまま返す」
そして一気に肉薄すると一瞬で着地し、剣を振り上げた。彼女は一旦バックステップでかわすが、竜二はさらに踏み込み振り下ろす。しかし、彼女は動かなかった。否、動く必要がなかった。
「な……にィ!?」
振り下ろされた竜二の刃を、掲げた右手の先に展開した不可視の障壁で防いだのだ。
「なるほどなぁ……まぁ、それくらいしてもらわんと困るわな……うおっ!?」
それに対し、竜二も嗜虐的な笑みを浮かべて一旦バックステップ。しかし、彼はそのまま吹っ飛ばされる。
「くぅっ……なんや今の……?」
『おそらく、先程の障壁を拡大展開したものでしょう』
『そういうことか。ぶち抜けるか?』
『この装備では厳しいかと……』
吹っ飛ばされてもすぐ立ち上がり、アスカと念話で対策会議。しかし、目の前に集中しすぎるあまり、周りに目をむけられていなかったのは、今回における彼の失策といえるだろう。
「おい竜二」
「なんやヴィータ……いてっ!?」
いつの間にか彼の横にいた赤い影、ヴィータに、彼女のデバイスで思いっきり殴られた。
「なんだってのはこっちのセリフだ。いきなりケンカ吹っかけやがって、どういう魔法使うかも知らねぇ癖に単騎で突撃なんかしてんじゃねぇよ」
「ぐっ……」
正論を突かれればぐうの音も出ない。はやてのそばにいる少女の姿からイメージはし辛いが、彼女も歴戦の騎士の一人なのだ。
「しかもオメェ自分で言ってたよな。あくまであいつの相手をすんのは、はやてが戻ってくるまでの時間、あいつの動きを止めるためだって。なのに何勝手な真似してんだよ」
「ぐぬぬ……は、反論できねぇ……」
「強そうな奴見ると戦わねぇと気がすまねぇなんてシグナムだけで充分なんだよこのイノシシ野郎。そこで座って頭冷やしてろ」
「くっ……」
この場は完全に竜二の負けである。彼は一旦武装を解除し、待機状態になる。
「はやてが心配なのは、お前だけじゃねぇぞ」
「……ああ、よくわかってる」
「ならそこからしばらく動くな。アイツの相手はあたしらヴォルケンリッターが努める」
「すまん」
鉄槌を担ぎし赤い騎士は竜二にはっきり戦力外通告をすると、竜二を吹っ飛ばして以降動きを見せない闇の書の意思へと悠然と向かっていく。その背中を見た竜二は、こう漏らさずにはいられなかった。
「ちきしょう……はやてにべったりのガキな癖しゃぁがって、クソかっけぇやんけ」
同時に苦笑も漏れようというものか。するとそこに、なのはとフェイトが駆けよってくる。
「竜二さん!」
「ああ、なのはちゃんにフェイトちゃんか。みんなにはみっともないとこ見せてもうたなぁ……」
「ええ、そうですね。ですからこれからは、強くてかっこいい竜二さんでお願いします」
「私もまだまだ、竜二さんに教わらなきゃいけないことが一杯ありますから」
なのはが遠慮なく叩きつける。普段勝てないからこういう時は言いたくなるのかもしれない。フェイトもそれに続ける。しかし答えになってないと竜二に突っ込まれて困るフェイトに、なのはが助け舟を出した。
「要は、これからどうやって挽回するのか見せてくださいってことですよ!」
「よっしゃ、見とけ。お前らのもう一人の兄貴分として、そろそろばっちり決めたるわ!」
意気込む竜二だが、果たしてどうやって見せるのか。こういう時の発言は深く考えていないことが多いため、今回はどこかに無理やりねじ込むのだろう。しかし物事とは常に、予定調和で動くとは限らない。
「全く、いきなり飛び出すから驚いたぞ」
「ああ、そりゃすまんかった。せやけどまぁ、妙な胸騒ぎがしてな。俺が出向かなあかんような」
「不良暮らしの勘ってやつか?やれやれ……」
陣形から離れたクロノと直人は、二人で魔力探知を繰り返しながら飛び続けていた。その距離はおそらく、元いた位置から直線距離で3キロほど。先ほど大モメをした二人だが、しばらく飛んでいたら頭が冷えたのか、既に直人が謝って収まった。
「この辺りか?」
「そのようだ。かなり接近されたな……」
「かめへん、水際で止めればすむ話や。問題は……」
しかし、それだけ離れてもまだアースラから確認されたという魔力反応を確認できない。ステルス機能でも使用しているのか、あるいはまだ到達していないのか。
「……それらしい連中おるか?」
「いや、こっちでは視認できない……まずい、どけっ!」
「ちょ、てめぇいきなり何を……」
何かを感じたのか、クロノがいきなり直人を突き飛ばした。そして、彼らがいた場所を緑の魔力光が抜けていく。
「クッ、そういうことか!」
「間違いない、この辺や!もっと強ぉ探知かけろ!」
二人はすぐに魔力探知を行おうとするが、敵はそんなに待ってはくれなかった。 ほぼ一瞬で一人の男が正面に現れ、至近距離からデバイスであろう杖を直人につきつけて砲撃魔法を撃つ構えをとっている。思わず今度は直人がクロノを突き飛ばし、自分は特攻をしかけた。
「消えろ、我らがために!」
「上等じゃボケ!」
しかし直人は悪態をつきながらも、背中の剣を引き抜きながら正面の敵に叩きつけるかのように振り下ろす。それが直撃した男は態勢を崩された。
「ぐぅっ、しかしまだまだ……」
「ええ根性しとるわ自分。覚悟しぃや!」
男はその衝撃を利用し、一旦距離を置いて杖から剣に持ち換え、直人に斬りかかる。しかし直人もただやられるはずはない。数回接近戦で火花を散らす。
「そらそらそらそらァッ!」
「なんだこいつ!?」
「遅い遅い!」
直人が大振りの一撃を戻す一瞬タメを作り、男を誘い込む。スキをついたと思った男は自らの一撃に手ごたえがないことに焦ると、後ろから強烈な衝撃が彼を殴った。同時に焼け付くような痛みが襲い、武装を維持できなくなると、そのまま墜落していく。
「さぁ次はどいつだァ!?」
「テメェ!やっちまえ!」
高らかに吠え上げる直人自身、一人相手にここまで時間をかけてしまったことを悔やんだ。しかしそんな考えなどすぐに捨てて反射神経と直感に任せて体を動かし、とにかく生き残ることに全力を注いでいた。
そして、別の場所でも既に戦いが繰り広げられていた。
「スティンガースナイプ!」
「ぐぁぁっ!?」
またクロノにも、数人の男達がしかけてきていた。しかし、そこは流石単独行動を主とする執務官。むしろ群がる男達が撃破されている。
「させるか!スティンガーレイ!」
直人の後ろからしかけようとしていた男に対し、クロノが牽制するための魔法を放ち、彼自身もそれを追いかけるように加速していく。
「チィッ、このガキが……ぐはっ!?」
「小さいからと侮るな!これでも僕は執務官だぞ!」
何かにつけて自らを呼称するのは、なんだかんだ言って先ほどの一件が彼のコンプレックスを刺激したのだろう。スティンガーをかわして彼のほうを振り向いた男に対し、彼はその加速状態のまま足の甲で男の腹部を捉えた。さらにクロノはその場で頭を下げると、そのまま一回転して踵落としを男の脳天に直撃させる。
「叩き落す!」
「ぐぁっ!?」
これには完全に脳を揺さぶられたか、男は魔力制御が不可能となり、墜落していった。しかしすぐに第二第三と敵がしかけてくる。
「全く、こりない連中だっ……!」
囲まれ押し込まれ、直人とクロノは互いに背中を向け合って集団と対峙する。
「クソがッ……大したことない雑魚だらけのくせしゃぁがって、一体何人おるんや全く……」
「わからないが、おそらく数十人単位と見ていいだろうな」
「面倒くせぇ……でもまとめて潰す魔法とかないんよなぁ俺にはっ!」
「前ぶっぱなしていた蛇頭のあれはどうした!」
「こんな状況で使えるもんちゃうんじゃこのクソボケが!」
「全く不便だな!」
そう漏らしつつも向かってくる連中を剣で叩き落していく直人。確実に落とすべく脳をゆらそうと、一撃入れて相手を止めてからという念の入れようだが、どう考えても数十人を倒そうという戦術ではない。
「ハァ、ハァ……そうだ、別に無理に潰さなくとも、ここから先へ通さなければいいんだ」
「でも潰さんと何度でも向かって来よるで?」
「なら何度でも叩き落してやればいいだろう。体力も魔力も温存すべきだ。息が上がっていることに気づいているか?」
荒い呼吸をつなぎながら、途切れ途切れに言葉をつなぐ二人。その最中にも射撃魔法が彼らを襲っているので、それらを捌きながら。
「こいつらだけとは限らんのにか?もしかしたら隠れてるだけで、他のエリアにもおるかもわからんぞ?それに温存たって、どうせ戦えば減るんやで」
「はぁ……仕方ない、か」
あまり議論に付き合う時間もないため、クロノが折れた。確かにこの状況ではあまり時間をかけてもいられないし、直人の言うことにも一理あると感じたからだろう。
「わかった。少し時間を稼いでくれ」
「どんくらい?」
「1分だ」
「了解。こっから先、お前には指一本触らせん」
数えるには短いようで耐えるには長い時間。しかし直人は、自分とジューダスの力に自信があったため、クロノの正面に出る。
「さぁ来いよ雑魚が!お前らまとめてこの俺が相手したるぁ!」
そんな直人の挑発に乗ってきた数人の男達が、彼に突撃する。しかし、それら全てをうまく捌き、クロノまで届かせない。
「そいやそいやそいやそいやぁ!」
「くっそすばしっこい野郎が……後ろの奴を潰せ!」
「させるかこのボケ!」
そして、クロノに仕掛けようとする不届き者は、直人の二挺拳銃によるチャージショットで落とされる。魔力へのダメージをかなり高めているために、並みの魔導士では一撃食らえばそれまで維持していた魔法効果が全て消滅させられるほどだ。
『直人、行けるぞ!』
『よっしゃ、一旦退くわ!』
長いようで短かった一分が経ち、クロノの準備が整ったことで、直人に念話が届く。彼がクロノの近くまで退くと、クロノが攻撃を開始した。
「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!」
すると彼の足元に魔方陣が展開され、その周囲にはスティンガーブレイドと呼ばれる魔力刃が無数に浮かんでいた。
「処刑、開始!」
エクスキューションの名の如く、浮かんでいた魔力刃が敵に向かって飛んでいく。しかし、いくら処刑とはいえ本当に殺すわけではない。魔力刃一つ一つを環状魔法陣が取り巻いており、発動時に一斉に目標に狙いを定めるのが印象的。また、魔力刃の爆散による視界攪乱の効果もある上、直撃時のダメージも大きい。クロノが放てる現在最高ランクの範囲攻撃魔法と言えるだろう。難点といえばチャージ時間が長いことと、数多くの魔力刃を同時に扱うため、扱いが難しいことだ。最大魔力があまり大きくない変わりに、魔力制御を徹底的に鍛え上げた彼だからこそ編み出せた魔法である。
「うっひゃぁ……流石執務官殿。えげつない」
「呆けている暇はないぞ。すぐに引き返……がはっ!?」
「ッ!?誰や!?」
しかし、クロノは後ろから何者かによって蹴り飛ばされ、言い切ることはできなかった。そしてそのままその何者かは、直人まで蹴ろうとするも、タイミングを合わせてハイキックで応戦した。
「……胸騒ぎが的中ってわけか。胸糞悪い話やでホンマ」
その襲撃者の顔を見て直人は表情を歪める。不快に、いや憎しみに、そして怒りに。それを表すかの如く、直人は炎を纏わせた剣を大きく振り下ろす。豪快に風を切る音が周囲に響くと、それが止むタイミングを読んでいたかのごとく襲撃者は直人に話しかける。
「……久し振りだなぁ直人君よォ……こんなところで何してんの?」
「それはこっちのセリフッスわ、篠宮先輩」
白いロングコートに赤いシャツ、ベージュのチノパンに青のスニーカーといった出で立ちのその男は、どうやら以前直人に絡んできた知り合いのようだった。あわせた脚を離して距離をとり、直人はすぐさまクロノの位置を確認すると、少し低い位置から握り拳を突き上げていた。どうやら途中で態勢を立て直せたらしく、そこで一息ついた直人は改めて青年に向き直る。
「……アンタらの目的は?」
「闇の書よ。アレを封印して持ち帰れと、上からのお達しでね……ケヒッ」
「ああそうかい……ま、それ以上は聞いても無駄やろうな……その気持ち悪い笑い声二度と聞きたないし、その首、俺がこの場で貰い受ける!」
「クククッ、大口叩くねぇ……」
にやけ面を崩さない青年に、直人が怒りの咆哮をぶつけた。
「……覚悟さらせこのクズ、百倍返しじゃ!」
「……クッ、クヒャハハハハハハハハハハハハハハハハッ!いい度胸だクソガキ……」
直人は剣を構えなおし、篠宮は腰の刀を抜く。ピリピリとした一触即発の空気の中、二人はただ空中でにらみ合う。
「この俺相手にやれるもんなら……や、っ、て、み、な!」
後書き
ひっさびさに一万超えましたよ!よ!
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