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チートだと思ったら・・・・・・

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十七話

[只今より、第78回麻帆良際を開催します!]

大きな放送と、空を飛ぶ麻帆良航空部のパフォーマンスを陣頭に、たった今、麻帆良際が開催された。

「………………」

「おい、大丈夫か?」

健二はクラス出店のお好み焼屋で野菜を刻んでいた。だが、その顔色は悪く先ほどから何度もクラスメイト達に声をかけられている。だが、健二は当番の時間を最初から短く設定してもらっていることもあって、休まず作業を続けていた。

「健二、ちょっと飲み物を買ってきてくれないか? ずっと鉄板の前に立ってると暑くてさ」

「俺のも頼む。ゆっくりでいいからな」

「そうしろ。正直、今のお前は見てるこっちが怖い」

「ああ、分かった」

皆に注文を聞き、財布を持って店を出る。程良い日差しが健二を優しく迎えるが、気分が晴れることは無かった。学際開始前、エヴァンジェリンの別荘で行っていた”あれ”のせいで、健二の精神は大きく疲弊しているのだ。それまでおざなりにしていたクラスの手伝いを行い、ここまで碌に休むこともしなければ顔色も悪くなるというものである。

「……ふぅ」

自販機の横にあるベンチで軽く息をつく。今日を入れて三日。あと三日で全てが決まる。そう思ってしまうと、クラスメイトが気を利かせて作ってくれたこの小休止も気休めにすらならなくなってしまう。

(……一度エヴァンジェリンの別荘で休ませてもらうか)

このままのコンディションではどうにもならないと、健二はエヴァンジェリンに頼んで長時間の休憩がとれるようにと考え出した。





「お疲れ。しっかり休めよ?」

「ああ、悪かったな」

夕方、ようやく健二の当番時間は終わりを告げた。だが、健二の顔色は良くなる気配を見せず、クラスの皆も作業自体は問題なくこなしていたこともあって、最後には諦めていた。

「さて、予定まで少し時間もあるし別荘が使えれば一日は休めるか?」

健二のこの後の予定は武道会の予選だけだ。今のこの状態でも一般人に負ける程健二は弱くないため大丈夫と言えば大丈夫だが、悪化する可能性はあるため出来れば休んでおきたかった。だが、若干発光を強めた世界樹がそれを許してくれなかった。

「どこだ……?」

センリガンを発動して辺りを索敵する。こういった場面では、非常に役に立つアーティファクトだ。そして、健二から南におよそ500m先に、ネギの姿を発見した。ネギは地面から吹き上げる光……世界樹の魔力に包まれている。

「ちっ、確かにあったな! そんなのも!」

見つけてしまった以上は放っておけない。健二は一般人に見られぬ様に路地裏へと入り、建物の屋上へと一気に駆け上がり、ネギを目指した。



「本屋ちゃんに何やってんのアンター!!」

健二がネギを補足したと同時、明日菜と刹那は世界樹の魔力によって正気を失ったネギと対峙していた。刹那はネギを正気に戻そうと説得を試みるが、のどかが発した命令「キスしてほしい」を実行する上での障害とみなされ攻撃を受けていた。

「アスナさん! ネギ先生は私が! アスナさんはのどかさんを連れて逃げて下さい」

「わ、わかった!」

明日菜も今のネギが放つ異様な気配には勘づいていた。足止めをするなら自分より刹那の方が適任。そう判断し、のどかを抱えてその場を飛び去った。それを横目で見送った刹那は、改めてネギと対峙する。

(鋭い!)

足止めを買ってでたものの、ネギの操られているが故の手加減無しの攻撃には刹那も舌を巻いていた。僅か二ヶ月で会得したとは思えないその技の数々に刹那はうすら寒いものを感じると同時に、自分が見込んだ少年の成長に嬉しさを抑えきれなかった。だからだろう……

「あっ!」

立ち会いの最中、ネギが放った目くらましの閃光をまともに受けてしまったのは。

「ま、待て!」

回復していないながらに何とか影を捕えた刹那は静止の声をかけるが、今のネギがそれを聞き入れることは無い。先ほどまで対峙していた刹那には眼もくれずに、明日菜とのどかの後を追ってしまった。



「ちっ、まずいな」

一般人に見られぬ様にと気を使うあまり、健二は現場への到着が遅れていた。刹那が既に突破され、今ネギは今二人の魔法生徒と対峙している。魔法生徒の方は影の使い魔と思わしき輩を連れているが、次の瞬間にはネギの蹂躙が始まっていた。このまま魔法生徒がやられれば、次にあのネギの相手をするのは明日菜だろう。

「間に合えよ」

先ほどまでは行っていた秘匿への気遣い。それを一切放り出し、健二は最速をもって駆けた。



「逃げて下さい!」

二人の魔法生徒、高音・D・グッドマンと佐倉愛依はネギの武装解除にて容易く無力化されていた。魔法使いとはいえ彼女らも年頃の女の子。いくら周りに人の目がないとはいえ裸体であることを気にせずいられるほど彼女等は図太くない。そして、事態は明日菜の一言によって更なる混乱に包まれる。

「本屋ちゃんにキスするんだったら、この私にしてからにしなさい!」

まさしく地雷である。今明日菜達が居る場所は世界樹の魔力の影響を受ける範囲の中だ。当然、操られている状態のネギは明日菜の今の発言を受諾する。

「分かりました。まずアスナさんにキスします」

「ええっ!?」

こうなるとは思わなかったのか、明日菜は焦りながら弁解の言葉を口にする。だが、そのいずれも効果は無く。むしろ状況は悪化したように感じられる。

「あーもう! こうなったらブッ叩いて正気に戻してやる!」

破魔の力が宿る自分のアーティファクトならばそれが可能かもしれない、と明日菜は一縷の望みを託して行動に映る。刹那直伝の二連続の蹴りから繋ぐ横薙ぎの一撃。渾身の力を込めて放ったそれだが、キス・プレデターと化したネギは容易く受け止めお返しと言わんばかりに武装解除を放つ。
世界樹によって強化されているのか、明日菜の魔法無効化能力を持ってしても完全にはキャンセルできず、着てきたセーラー服の右肩部分が弾け飛ぶ。それを見て明日菜の不利と判断したのか、のどかが自身が犠牲になると歩を進める。だが、それを明日菜が認められるはずがない。

「……何あれ」

「さ、さあ……」

グッドマンと佐倉に生温かい目で見守られながらも、二人のどっちが犠牲議論は続く。そこへ、ようやく刹那が到着した。だが、完全に明日菜とのどかに眼がいっていたその場の者達はネギの姿を完全に見失っていた。

「せ、せつなさんうしろー!!」

だから、刹那の後ろにネギを容易く回り込ませる様な事態を起こすのである。

「刹那さん危ない!」

気付いてからの行動は速かった。明日菜はネギの攻撃から刹那を助けるべく、体当たりで刹那ごと回避を図る。だが、勢いが強すぎた。刹那ともつれあう様にしてテーブルやイスに突っ込んだ明日菜は背中を倒れたテーブルに打ちつけた。

「……ったぁ」

痛みを堪えながら眼を開くと、そこにはネギの顔があった。そして、何か行動を起こす前に両手で顔を挟まれる。これは、不味い。近づいてくるネギの顔に抵坑は間に合わないと察した明日菜は、身を強張らせた。

「そこまでだ」

だが、ネギの顔は横合いから伸びてきた大きな手により阻まれた。この手を見て、その声を聞いた瞬間に明日菜は救いの主が誰なのかを悟った。

「健二!」

「ふふふ、貴方も邪魔をするんですか?」

素早くその場を離れたネギは健二に向けて構えをとる。だが、健二はそれを無感情な眼で見つめ、こう呟いた。

「その魔力を断ちきれ」

上空より飛来した深紅の槍。意表をつくそれはネギのすぐ後ろに突き立った。破魔の槍、ゲイ・ジャルク。魔力の流れを断ち切るその宝具は、世界樹の魔力をも容易く切り裂いた。

「あ、あれ? 僕は一体……」

こうして、ネギは誰の唇を奪うこともなく正気を取り戻した。



「さっきはありがと。助かったわ」

「気にするな。見つけたのはたまたまだからな」

ネギのキス・プレデター化阻止後、ネギは魔法生徒二人に説教を受けた後のどかとのデートに戻った。そして健二と事情を知る三人、明日菜・刹那・木乃香は喫茶店でお茶を飲みながらネギを待っていた。

「それにしても、世界樹の魔力を断ち切るとは……あの槍はどんなものなのですか?」

「魔力の流れを断ち切る槍、としか言えんな」

刹那が興味をもつのも無理は無い。元来、魔力や気といったものを直接攻撃などできない。それが魔法や気弾といった指向性のあるものならともかく、だ。神鳴流の宗家のみに伝えられる奥義でなら可能かもしれない。それほどのものだったのだ。

「そういえば、その槍もアーティファクトなん?」

「いや、違うな。あれは私が持っているものだ。与えられたものではない」

戦闘時はいつも虚空から武器を取り出している健二だ。それをアーティファクトの顕現だと勘違いするのも無理は無い。だが、そうなると健二は双剣に弓矢、槍等いくつものアーティファクトを得ていることになる。幾人もの魔法使いと仮契約している。一つのアーティファクトが複数の姿を持っている。という可能性もあるが、健二は複数を同時に出すこともできる。それほどのものであれば間違いなく伝説級だ。それに健二が学園都市で育ったことは調査によって判明しているため前者の可能性も0に近い。以上の事から三人を納得させるのはそう難しくなかった。

(しかし、あれ程のものを所持している、ということには変わりない。全くもって、謎な人だ)

結局、健二について学園は有益な情報を得ることが出来なかった。修学旅行後、学園長が健二と話し合いの場を持ったが、それはどちらかと言うと協力に感謝を述べることが目的であったため情報を得ることはなかった。

「皆さん!」

「あ、ネギ」

「ずいぶん速かったな」

予想よりネギが速く帰ってきたため、刹那の思考がそれ以上続くことはなかった。最も、健二が憑依者であり、その力は神から貰ったなどどう考えても分かるわけがないのだが。



「タイムマシン、か」

タイムマシンと言う超アイテムに明日菜と木乃香がはしゃぐ中、健二は一人この場に居合わせたことを幸運に感じていた。というか、幸運どころではないほどに喜んでいた。Fateと言う作品を知る彼にとって、このタイムマシンは重大な意味があるからだ。

「健二さん、使いますよ」

「ああ」

彼は本当に幸せだろう。すっかり忘れていたこのイベントに居合わせることが出来たことで、思い人が一緒であるが別人になることは無かったのだから。

「ふぅ。良かった、成功みたい」

「ほ、本当に戻った!」

ネギは自らの意思で行使したのに成功したことに安堵し、明日菜はそれに興奮している。そして健二は……

「だ、大丈夫ですか?」

「あ、ああ」

「顔が真っ青やえ?」

木乃香に背を擦られていた。どうやら、健二は何故か一人だけ時間逆行にとてつもない嫌悪巻を感じたらしい。そのせいで、落ち着きを見せていた先の体調不良も一気にぶり返したようだ。

「私達とネギ先生は警備に行きますが……」

「エヴァンジェリンの別荘で休む予定だ」

「一人で大丈夫なん?」

「大丈夫、だ」

健二は一人ふらふらとその場を立ち去った。



「良かった、体調は問題ない」

エヴァンジェリンの別荘で数日に渡りゆっくり休めたことで健二の体調は万全まで回復していた。超の主催者あいさつもそこそこに、健二はエントリーに向かう。道中、タカミチ達と雑談する明日菜達を見かけたがはなしかけることはなかった。

「さて……」

周りを見渡して見るが、どうやら原作で本選に出ていたメンバーはいないように思われた……が。

「田中……だっけ?」

超の企てている作戦で主力となるであろうロボット。黒のジャケットにサングラスの田中の姿があった。と言うか、グループわけされそのグループの上位二名が本選に出るのだから健二のグループだけ原作の本選出場者がいないなんてあり得ないのである。

「まあ、いいか」

あれを倒してしまっては超に眼をつけられるかもしれないが、どうせ自分が本選に出るには原作の人物を一人削らなければならないのだからと、健二は開き直った。

「それでは、試合開始!」

――戦いの歌!

試合開始のアナウンスと同時に無詠唱で戦いの歌を唱える。槍の代わりに棍を持とうかとも思ったが、予選でそこまですることもない。

(ささっと終わらせる)

健二は拳を硬く握り締め、参加者を次々撃はする田中へと駆けた。

「悪いが、そこまでだ」

瞬動。確かに田中はそれなりの戦闘力を持っているようだった。だが、それは一般人の範疇でだ。魔力や気で強化をする裏の者たちと比べれば、スピードもパワーも遥かに劣る。故に、瞬動を使った健二は容易くその懐に潜り込んだ。

――同調、開始!

エミヤの魔術属性は剣だ。そのため、強化なども剣から離れていくほどに効果が薄れたり、行使が難しくなる。こんな未来知識が使われているだろうロボットに強化を施すなど困難以外のなんでもないだろう。だが、それで構わない。元より、失敗するのが目的だ。Fate原作において、衛宮士郎はランプに強化を施した際、魔力を過剰に送り込んだか何かの理由でランプを割っていた。重要なのは、強化の失敗でランプが割れたということだ。その現象を、この田中で発生させる。

(滅茶苦茶な場所に、滅茶苦茶な量の魔力を!)

「ガ、ガガキノウ……ガテ、ピイシ」

細かい振動を繰り返しながら田中はそう漏らし、完全に活動を停止した。とりあえず、健二はそうなった田中を場外へ転がしておいた。その間に、他の戦いは終わっていたらしい。

「勝者、宮内健二選手と大豪院ポチ選手!」

「とりあえずはよし。さて、本選の相手は誰になるやら」

田中を倒したことで、原作と異なる組み合わせになればいいが……健二はそう思わずにはいられなかった。何にせよ、健二は無事に本選出場を果たした。



全ての予選が終了し、ついに明日行われる本選のトーナメント表が発表される。

「それでは! 大会員会の厳正な抽選の結果決定したトーナメント表を発表します!」

衆目にさらされる一枚の大きな紙そこに、選手たちの命運を握る組み合わせが書いてあった。健二は他の対戦者の事など興味無いと自分の名前、そしてその対戦相手だけを探す。宮内健二、その名前の横にはタカミチ・T・高畑。健二が蒼い槍兵と戦う前に、どうしても闘っておきたい相手の名がしるされていた。



「あ、健二」

明日菜はトーナメント表を睨みつけるように見ている健二を見かけた。予選で見かけた時も、出るなら教えてくれればよいものをと思ったものだ。しかし、改めてトーナメント表を見てみると、健二の対戦相手は思い人であるタカミチであった。それにどちらを応援すればよいのかと複雑な思いを抱いたが、とりあえず声をかけようと近づいていった。

「え……?」

声をかける前に気付いた。健二から感じるとてつもない闘気。一体、何故それほどまでに闘志を燃やしているのか、明日菜には分からなかった。結局、明日菜は健二に声をかけることができなかった。



そして夜は明け、まほら武道会が始まる。 
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