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チートだと思ったら・・・・・・

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十六話

「エヴァちゃんが?」

「はい、最近修行をつけてくれなくて……」

学園祭も間近に迫ったある日、ネギにこんなことを言われた。確かにエヴァちゃんは自己中心的な所……と言うかその塊みたいなものだが、途中で放り出したりするとは思えない。

「とりあえず、エヴァちゃん家に行ってみましょ」

「そうですね」

何か理由があるんじゃないかと思ってとりあえず案を出したけど、大丈夫かしら? 突然訪ねて行って門前払いなんて……まず、ありえそうな気がして怖いわ。まあ、そうなったら茶々丸さんに事情を聞いて見ればいいか。そんな軽い気持ちで、私たちはエヴァちゃん家へ向かった。

「マスター」

「エヴァちゃーん! いないのー!」

何度かノックをしてみるが、一向に出てくる気配がない。留守なのかと試しにドアノブを捻ってみると……

「開いたわ」

「開いちゃいましたね」

不用心極まりない。中に入ってもう一度読んでみるが、やはり返事はない。泥棒に入られたらどうするんだろう。最も、魔法にかかれば普通の泥棒を捕まえるくらいわけ無いのかもしれないけど。

「別荘にいるんでしょうか?」

「そうかもね。行ってみましょ」

「で、でも! 勝手に入ったりしたら……」

「別にいいわよ。鍵を開けっ放しにする方が悪いのよ」

そんな軽い気持ちで別荘へと入った。そこで私たちが最初に見たのは、宙を舞う健二の左腕だった。





――明日菜、ネギ両名の訪問より十分前

「はっはぁ! 宮内、お前の実力はこんなものか!」

「こな、くそ!」

魔力によって硬質化した爪で攻め立ててくるエヴァンジェリンの猛攻を何とか防ぐ。だが、それも長くはもたない!

「そうら、足掻いてみろ!」

不意を打つように放たれた右の蹴り。だが、センリガンのおかげで把握できている! 

「っつぅ」

「ほう、蹴りの衝撃で距離をとったか」

――投影、開始!

手に持っていたゲイ・ボルクを投げ捨て新たな槍、ゲイジャルクを投影する。チャンスは一度、これで決める!

「はっ! 貴様程度の瞬動では私を欺けんぞ!」

エヴァンジェリンの周囲を不規則に瞬動で動き回るが、やはり此方の動きは読まれている。ならば、小細工は無意味。瞬動の方向をエヴァンジェリンへと向け、槍を突き出す。穂先に全く触れずに突きをいなす技量に下を巻くが、舐め過ぎてもらっては困る。

「む!」

点の攻撃である付きから円の薙ぎへ。それすら容易くかわされるが流れる様に次撃へと繋げていく。そして、下段からの掬いあげる様な一撃を片手で放つ。エヴァンジェリンが避けの動作に入ったのを確認し。開いた手にもう一本ゲイジャルグを投影して力が殆ど籠もっていない無様な突きを放つ。
避けに入っていたエヴァンジェリンはそれを爪で弾こうとするが、俺はそれに穂先を強引に合わせた。

「っち、それがその槍の能力か」

爪の硬質化のために集めていた魔力を断ち切られ、二の腕にかすり傷を負ったエヴァンジェリンが言う。顔を狙ったんだがなぁ……

「さて、これは私の落ち度か貴様の成長か。どちらにせよ、私に傷をつけたんだ……」

――ただで済むと思うなよ?

エヴァンジェリンの瞳が、反転して……!?

「こっちだ」

「!?」

脇腹で抉るような掌が突き刺さる。つーかやべぇ、魔力の集中が間に合ってなかったらようなじゃ済まなかったぞ。それにしてもまさか怒るとは、まいったねこりゃ。万に一つも勝ち目無し。一体どうしろと?

「考え事とは余裕だな」

今度は正面かよ! 一応、センリガンで補足はしたため混乱はない。無駄だと思いつつも修行……そう”修行”であるため俺は嫌々槍を突く。だが、ほれみろ。槍は容易くエヴァンジェリンに掴み取られ、俺は……

「飛べ」

「っおおおおおおお!」

槍ごと数十メートルブッ飛ばされた。地面と”水平”にだ。途中に障害物がなくて心底よかったと思う。あーあ、こんなことになるなら模擬戦を依頼するんじゃなかったな。ここ数日、とことんいたぶられてるしなぁ。今日はそんなかでも最高にヤバい。
あれだよ、技量はチャチャゼロのが高くてもパワーとスピードはエヴァンジェリンの方が上だとか思い至らなければ良かった。

「くくく、もうかかってこないのか? 折角この私が相手ヲシテヤッテルトイウノニ」

わーお、さすが主従ってとこか。そっくりだな。一応ランサー戦を想定してたんだけど、もう意味ないなこりゃ。こうなったら、こっちも……

「全力で抵抗してやる」

――投影、開始!

ランサーには通用しないと投影していなかった弓を手に、狙いをエヴァンジェリンへと定める。さて、こっちではどれだけつうようするかな?

「相変わらずいい腕だな!」

「容易く弾いておいて何を言う!」

矢を弾きながら接近するエヴァンジェリンと後退しながら矢を射る俺と言う分かりやすい構図。だが、スピードに圧倒的な差があるため距離は詰まっていくばかりだ。くっそ、このまま終わってたまるか!

「大盤振る舞いだ!」

黒鍵による銃弾爆撃、二十七本の全投影連続層射だ。

「こざかしいわ!」

って嘘! 腕振りまわした衝撃だけで吹き飛ばされた! めっちゃ本気じゃないか!

「大人げないぞ!」

「っぐ! 年上をいたわらん奴に言われたくないわ!」

改造黒鍵を射ってやったが、かわされた。だが、あっちもさすがに必死だったみたいだな。声にさっきまでの余裕が無くなってる。こうなったら、今から全部改造黒鍵射ってやろうじゃないか!

「こっのおおおおおおお!」

「ああああああああああ!」

エミヤの弓とエヴァンジェリンの魔力。その二つがせめぎ合い、衝突する。正に伝説と伝説のぶつかり合い。片や世界の奴隷となった守護者、もう一方は自ら悪を名乗る生きた伝説。二つの力は正に互角。この戦いはいつまでも続く、かと思ったんだけどなぁ……

「あーあ、時間切れか」

「良く粘った、と褒めてやろう」

長い時を経てその力を手に入れたエヴァンジェリンと所詮借りているような俺とではどちらが先にへばるか分かり切っていた。エヴァンジェリンと戦い始めた時から戦いの歌をMAX近い出力で維持していた俺はここでガス欠。一応強化の魔術だけで頑張ってみたが、あっという間に追いたてられた。

「では、逝け」

俺は弓を持つ左腕を、容赦なく斬り飛ばされた。





「すまんすまん、心配かけたな」

「本当よ! 心臓に悪いったらありゃしなわよ!」

「マスターも! どんな修行をつけてるんですか!」

あの後、エヴァンジェリンの持つポーションで腕をくっつけてもらったわけだが、そこでやってきたのは明日菜とネギのよるお説教だった。相当心配だったらしく、三十分たった今でも終わる気配がない。

「ええい、五月蠅い! 大体、何でお前たちはここにいるんだ! 不法侵入だぞ!」

「鍵を開けっ放しにしてるそっちが悪いんでしょ!」

明日菜から解放された。エヴァンジェリンには悪いが、相手をしといてもらおう。明日菜相手だと強く出れないからな。

「健二さんも反省してください。僕も明日菜さんも本当に心配したんですから」

「ああ、でもエヴァンジェリンにはあんまり言わないでやってくれるか? 手加減なしで模擬戦してくれって言ったのは俺の方だからさ」

「分かりました。でもこんなことはこれっきりにしてくだいね!」

「ああ……」

今日は不意を突くやり方だったとはいえエヴァンジェリンに傷を負わせた。俺はちゃんと成長できているんだろうか? 明日菜達には悪いが、エヴァンジェリンとの模擬戦はこれからも頻繁に行うつもりだ。
学園祭までの時間はあまりにも短いのだから……






「それで、私にこんなものを用意させて何をしようと言うんだ。言っとくが、もうぼーや達にぐだぐだ言われるのはごめんだぞ? うるさいったらありゃしない」

エヴァンジェリンの足元に無数に置かれている瓶。俺が今日のために用意してもらった回復用の魔法薬だ。これを使って、前から考えていたある事を行うつもりだ。

「君に何かを頼むのはこれが最後だ。報酬も、きちんと用意してある」

「ほう……この私を満足させられるものなんだろうな?」

「当然だ」

「……そういえば、茶々丸が言っていたが神楽坂明日菜とぼーやがデートをしていたそうだぞ?」

「それで?」

おそらく、原作のイベントか何かだろう。他にも何かあった気がするが、気にかけている余裕は無い。俺は今日、一つの壁を乗り越えなければいけないのだから。

(神楽坂明日菜の名を出しても揺らがんか……覚悟は確かなようだな。しかし一体……)

「何をするつもりだ?」

「何、見ていれば分かる。君はただ……」

――私が死なない様にしていてくれればいい

俺の体から鈍い音と共に鮮血が飛び散り、辺りを赤く染め上げた。





「あれ?」

「どうしたんですか?」

「んー、何でもないわ」

今、何か聞こえた様な……?

「それよりアンタ、こんなに予定ぎゅうぎゅうにしちゃってほんとに大丈夫なの?」

「ああー!! そ、そうでした!」

「ネギ君大変やなー」

後先考えずに予定をどんどん入れるなんて、こういう所を見るとやっぱりガキよね。健二や高畑先生をちょっとは見習いなさいっての。

「あ、そうだ。アスナさんも、頑張ってくださいね」

「わ、わかってるわよ! ちょっと出てくる」

携帯を片手に外へと飛び出す。今から、高畑先生に、約束を取り付けるのだ。このかや刹那さん、そしてネギも応援してくれた。ここでしっかりしなきゃ、申し訳ないにも程がある。

「………………」

携帯を操作し、アドレス帳を開く。ゆっくり、ゆっくりとページをめくっていき、ある人物の場所で手を止めた。

「健二……最近連絡無いけど、また無茶してるんじゃないでしょうね?」

ヘルマンとかいう悪魔が襲来してから徐々に連絡が減って行った友人。実はこの間のエヴァちゃんちで会ったのも、結構久しぶりだった。そして、その日から今日まで連絡はきていない。学際準備で忙しいのかと此方から連絡するのを控えていたが、丁度いいかもしれない。決して、高畑先生にかけるのをビビっているわけじゃない! 

「……出ないじゃない」

プルル、プルルと呼び出し音が鳴り響くものの一向に相手が出る気配は無い。やはり、学園祭の準備か何かで忙しいのだろうか? それとも、また無茶を……

「あー、もう! 考えたってしかたないじゃない!」

健二の事を振りきり今度こそ高畑先生に電話をかける。先ほどの健二の時と同じようにプルル、プルルと呼び出し音が鳴り響く。先生は、誘いを受けてくれるだろうか? そんな不安が頭の中でグルグル渦を巻く。

[もしもし、アスナ君かい?]

「は、はい!」

[何かようかな?]

「あ、あの! 高畑先生の学園祭の予定は……」



結果だけ言えば、高畑は明日菜の誘いを了承した。よって、明日菜の不安は一時的に解消された。だが、明日菜は気付かない。自分の中に、高畑とは全く関係の無い別の不安が潜んでいることに。喜びに浸る明日菜は、気付かない……





「が、ああああああああ!!」

「ケケケ、コリャ面白ェジャネエカ」

「一応弟子だろう。心配の一つでもしてやったらどうだ?」

「御主人、クタバッタラ其処マデノ奴ダッタッテコトダロ?」

「ぐ、あ、づ……あああああああああ!」





男の悲鳴をBGMに、別荘の時はゆっくりと流れ行く。剣製を持ちし男は、槍の英霊にどのように立ち向かうのか……遂に、麻帆良際が開幕する。 
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