| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

神葬世界×ゴスペル・デイ

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第一物語・後半-日来独立編-
  第四十八章 その意志の強さ《1》

 
前書き
 聞こえない声は届かない。
 悲しみのスタート。 

 
 叫ぶ介蔵の声が聞こえたが、何故かは魅鷺には分からない。
 なので首を傾げ、彼方の動きを待っていた。
 目頭を涙を拭うように介蔵は手を動かしているが、風で目に塵でも入ったのだろう。
 系術も使い物ようで御座るな、と介蔵は改めて思う。
「頑張るで御座るよ……自分……!」
 しばし時間が過ぎ、やっと彼方に動きがあった。
 風をまとう介蔵は、正面の魅鷺を指差した。
「細かいことは置いといて、今の自分、かなり強いで御座るよ」
「確かに、風が邪魔なくらいまとっているで御座るな」
「そう! これこそが風神の力で御座る。御風神|《シナツヒコ》は系術使用者、つまり自分に風の力を与えるで御座る。しかし、この身に自分以外のものが触れてしまうと風は一瞬にして止むで御座る」
 ならば、どうするか。
「であるからして、相手にこの身を触れさせなければいいので御座る」
 そう、相手が身体に触れられなければ、こちらは風を操ることが出来る。
 神化系術を発動していなくても、ある程度の風は生み出し、操ることが出来る。
 しかし、その場合は自身の能力の限界までしか使うことが出来ず、随時自身の身を守るのに風を使っては勿体無い。
 だが、神化系術を発動した場合は違う。
 辰ノ大花の北側にある鹿島神宮から御風神の力を無限に伝播し、自身は御風神の力を得る。
 神一柱の力は計り知れないものだ。
 ゆえに能力の限界値は無限に等しく、限界を気にしないで風を起こし扱える。
 神化系術を発動している既にこの時、この場所を支配したと言っても過言ではない。
 何故ならば、
「付け足しとして、風を起こし扱える範囲はこの辰ノ大花中で御座る。御風神を発動していれば、座標さえ分かっていれば何処でもいけるので御座る。この意味、解るで御座るな」
「さよう。つまりは――」
 魅鷺には解っていた。
 その意味が。
 つまりは、こう言うことだろう。
「何時でも何処でも、パンチラし放題で御座る――!」
「は……?」
「ん?」
 すぐに返されたので、少し戸惑う介蔵。
 変な汗が、肌を伝うのを感じる。
「え、あ、ほ、本気で言ってるので御座るか?」
「本気も何も、そう言うことで御座ろう。介蔵殿もお年頃で御座るからな、当然と言えば当然。しかし、生憎拙者は下着の上にスパッツを履いてるがゆえ、拙者のパンチラは諦めた方がいいで御座るよ」
「み、魅鷺殿!? じょ、女子がそんなこと言っては駄目で御座るよ!」
「何ゆえ?」
「そ、それは、その……普通の女子は言わないからで御座る」
「普通の女子……」
 確かに、そんなことを言わない者もいるのは事実。
 しかしならがらクラスに二名程、毎日連呼している者がいる。
『今日の下着何履いて来たの。見せて見せてー』
『いい? 大人な女子ってのはね、いちいち下着なんて履かないの。あんな布っ切れでこの身を隠し切れないから!』
『トモちゃん格好いい――!』
 灯とマギトだ。
 つまり彼女達は普通の女子ではなく、一歩、いや数歩先に進んだ女子と言うこと。
 普通の女子ではない、大人な女子と言うことだ。
「拙者もなりたいもので御座るなあ」
「何か違うことを思っているような……。まあ、そう言うことで御座る。分かったで御座るな?」
「あ」
 と、ここで魅鷺は気付く。
 気付くと頬が熱くなるのを感じ、恥ずかしくなっていった。
 何故か急にもじもじとする魅鷺を見て、今度は介蔵が首を傾げた。
 恥ずかしさから口ごもり気味に、魅鷺は気付いたことを口にする。
「スパッツも言わば下着の一種。拙者、介蔵殿に、拙者の下着、見られたで……御座る、な」
 頬を赤め、こちらの目を直視しながら言ってきた。
 それも、もじもじ付き、でだ。
 これはやばい。
 違う意味でやばかった。
 ちょ――――!!?? これ反則、反則で御座る!! 駄目ー! 来ちゃうで御座る! 耐えねば、今は耐えねばならぬで御座るううう――!!
 心が乱れた介蔵は地面に額を打ち付け、何処に届かせるのかとにかく叫んだ。
 考えては駄目だと、無心になれと自身に暗示をしながら。
 しかし、無理であった。
 とどめが来た。
「これでは、介蔵殿の嫁になる他、道は無いで御座るな。恥ずかしいで御座るが、その、婿になっては……もらえぬか?」
「告白来たあああ――――――――――――!!!!」
 あまりの急展開に、語尾を忘れてしまった。
「で、御座る」
 天に叫んだ次の瞬間、介蔵は大量の鼻血を空にぶちまけた。
 そしてそのまま後ろから地に倒れた。
「介蔵殿!?」
 ほんの冗談のつもりが、こんな事態になるとは思わなかった。
 慌てて駆け寄り、倒れた介蔵の基へと向かう。
 鼻血など気にせずに、魅鷺は血で汚れた介蔵の上半身を持ち上げる。
「大丈夫で御座るか、介蔵殿!」
 まだ意識はある。
 だが鼻血をぶちまけた途端、風が止んだのでどあしたのかと心配した。
 何かの作用なのだろうか。
 もうろうとする意識のなかで、顔色の悪い介蔵は上に見える魅鷺の顔を見た。
 改めて見ると、子どものような幼い顔立ちではなく、強く凛々しい顔立ちだ。
 美しい。
「自分、には、まだやるべきことが」
「もう無理はよすで御座るよ」
「されど、自分は男。こんなことで、やられるわけには」
 やられるとは、恋に落ちるということだ。
「誰も介蔵殿を責めぬで御座る。これ以上は身体に毒で御座る」
「これでは、仲間に示しが付かぬで御座る。きちんとしなければ、示しが」
 示しとは、告白の返事をちゃんとしたかどうかだ。
「介蔵殿!? 介蔵殿! 目を開けるで御座る! ここで倒れては駄目で御座るよ!」
 後片付けの時に困るからである。
 声は聞こえるが、身体は動かなかった。
 動かす気力も無く、顔が横へと勝手に向く。
 そこで見えたのはスパッツ。
 下着の一種でもあるもの。
 魅鷺の太股に張り付き、絶妙に肉との段差を付けている。
 これぞ、変態。
 男子のクラスメイトでよく好みの話しをするが、今度好みの話しをする時はスパッツが好みと答えよう。
「スパッツは下着で御座った……」
 その一言を残して、介蔵は力尽きた。
「介蔵殿!? 介蔵殿――――!!」
 身体を必至に動かすが、目を覚ますことはなかった。
 それでも魅鷺は何度も声を掛け続け、起きるようにと続けた。
 二人のいる場所に、冷たい風が吹いた。
 一つの茶番の終わりを告げる、冷たい風が。



 西貿易区域を、同じ西から見ている青年が一人。
 右腰に二本の刀を携え、誰かが来るのを待っていた。
 後、三十分。
 映画面|《モニター》越しに、仲間から連絡が来たのだ。
 宇天の長が解放されるまでの、残された有余を伝えに。
 解放が始まっては、解放場による結界により近付けなくなる。
 解放場は元は神を葬|(はぶ)るための道具であり、同時に流魔分解を引き起こす大型処刑兵器でもある。
 過去には魔物を処刑した例もあり、解放場と言うだけで兵器となんら変わらない。
 草木が踊る、人気の無い朽ち果てた村には彼以外誰もいなかった。
 木造の家には苔が生え、所々虫にかじられた後がある。
 地面には雑草が生い茂り、枯れ葉が無造作に落ちていた。
 そんななかで、青年は自分がしていることが正しいのかを自身に問うていた。
 宇天の長のことを思うならば、これ以上苦しませないために解放を行わせた方がいいのだろうか。
 解放は痛みを感じず、ただ流魔に分解されて、その果てに身体全てを分解して解放完了とする。
 しかし、もし、宇天の長が生きる意味、希望を見出だせたのならば、苦しみに抗い生きようとするだろう。
 だから自分は、後者の方を選んだ。
 生きたいと願うのならば、自分はそれに全力を尽くして応えると。
 亡き家族の魂が眠るこの場所で、もっとも宇天の長に近付けるであろう者を待っていた。
 すると、耳をくすぐる木々が枝や葉をぶつけて鳴る音。
 時折、人の声が聞こえる。
「来たか」
 声は男性のもの、しかしまだ若さの残る声だ。
 青年は着物に似た服の裾を正し、声のする方を向く。
「見極めさせてもらうぞ、お前の意志を」
 徐々に声は近付き、比例して木々がうるさく音を立てる。
 距離は近い。
 もうすぐで来るだろう。
「やっほ――――い!」
 上から声がした。
 木々の上を何かが通り過ぎ、丁度自分の真上の空にそれが姿を現した。
 来ると思い、待っていた者だ。
「来たか。日来学勢院覇王会会長、幣・セーラン」
「あんたが手紙くれた人か。俺はやって来たぜ」
「タメ口とは礼儀がなっていないようだ」
「それはお互い様だろ」
 宙に浮かぶセーランは、左の手から伸ばした流魔線を別の木に移し変え、流魔線を縮める。
 重力に従い落ちるも、急速に縮めた流魔線に引っ張られるように地面ではなく木へと足を着く。
 そのまま流魔線をゆっくりと伸ばしていき、高さ十数メートルの木から着地した。
 流魔線を消し、セーランは手紙の渡し主であろう青年へ数歩近付く。
 ポケットから手紙を取り出し、見せ付けるように見せて。
「これ、あんたのでいいんだろ」
「ああ、間違いない」
 頷きも入れて、青年は答えた。
「そうか、なら良かったわ。じゃあさ、早速聞かせてもらえるか、手紙に書いてあった委伊達家の悲劇っていうのをさ」
「いいだろう。しかし――」
 の後に、青年は消えた。
 違う。瞬時にセーランの元へと移動してきたのだ。
 それも鞘から刀を抜き、振り抜く形で。
 だからセーランは流魔操作によって小型の盾を創り、その盾で刀を防いだ。
 冷たい音が響き、防ぐことが出来たことを示す。
「お前の意志が、宇天長を救う気持ちに揺らぎが無ければだ」
「そんなもんねえよ。告ったからには最後にフラれるまで突き通す。告ったら粘っこく、フラれたらすっぱりと、だ」
「お前は一度、フラれたのではないのか」
「馬鹿か。日来のあの時は“私が好きならば、私が死ぬことを黙って見てろ”て宇天長は言ってたの。それに俺をフッたようなこと言ってねえし」
「それは悪かった。ただ坦々と話すのも面白くない、刃を交えて話そうか」
「遠慮願いたいねえ」
「強制的だ」
 振り払い、盾ごとセーランと突き放す。
 見た目に似合わず力が強く、少しばかし油断していた。
 面倒臭いと思いながらも、構わないと話してもらえそうにないので仕方無く付き合う。
 距離が開き、その状態で青年は話す。
「自己紹介がまだだったな。俺は八頭・巳刃河、辰ノ大花の社交院に勤めている」
「へえ、八頭家のねえ」
「妖刀使いの家系だからな、氏くらいは知っているか」
「遠慮がてら妖刀は無しってことで。このままじゃ分が悪いからさ」
「わざわざ使うまでもない」
「そりゃあ、ありがたい」
 近くに落ちていた石ころをセーランは拾い上げ、それを八頭に向かって投げた。
 ただそれだけなのだから、八頭は一歩動いただけで石ころを避けた。
 終わりではない。
 本命はここからだ。
 急に八頭の体勢が直立からこけたように、頭が後ろへ下がった形となった。
 どうしてなのか、八頭にはすぐに解った。
 流魔線だ。
 石を投げ、それに気を取られている内にセーランは右足に流魔線を繋ぎ、縮めたのだ。
 地面に背中から打つ形で落ち、数センチ一回弾んで着地した。
「あらあらあ、足元注意ですよおおお?」
 馬鹿にするように、セーランは左手を口に近付けて言う。
 これには少しイラッときた。
「ふ、随分と余裕だな」
「少しからかっただけだよ。――あだっ!」
 言うセーランの額に、小石がぶつかった。
 上半身を上げた八頭が投げたものであり、小石と言っても角のある小石だ。
 角に額を打たれたので、これはこれは痛いものだ。
 額に手を当て、擦りながらセーランは言う。
「見た目によらず子どものようで」
「なんとでも言え。少し話そうか」
「今までかなり話したと思うんだけども」
「委伊達家の悲劇についてだ」
 これを聞いて、セーランの表情は真剣なものになった。
 彼女には対する想いは確かにある。
 一先ず合格だ。
 攻撃の手をお互い休め、八頭は前置きを置かずに話し始める。
「委伊達家の悲劇とは、権力争いのことだ」
「それがなんで悲劇になる」
「権力争いは身内争いのようなものだ。身内に自身よりも強い者がいたらば、自身が頂点に立つにはその者を無き者にしなければならない」
「そうだろうな」
「しかし、前代の委伊達家。つまりは委伊達・奏鳴に親がいた時には、現宇天学勢院覇王会、委伊達・奏鳴が唯一権力を継ぐ者だった」
 委伊達・奏鳴に親がいた時代。
 分かっている。
 彼女は自身の家族を、その手で殺めてしまっている。
 自分には理解出来無い苦しみが、彼女を襲ったに違いない。
「それは何故か、分かるか」
「力を持っていたからかな」
 委伊達家は代々、上位神と知られている竜神を納めている。
 その借りとして竜神は、子どもを身ごもった際に自身の血を引き継いだ神人族を授ける。
 しかし、これは必ずではない。
 その為、一代で数名、竜神の血を引き継いだ子が産まれれることもあり、その際にいざこざが生じる。
 もし竜神の血を引き継ぐ者が一人だけだったならば、跡継ぎはその子となる。
「確かにそうだ。しかし、委伊達・奏鳴の兄、姉、妹は少量ながら竜神の血を引いていた。委伊達・奏鳴に流れる血が殆ど、竜神の血だったこともあるが、それ以外の点で何故そうなったのか」
「家族全員を殺したからか。一人残ったらそいつが継ぐしかない」
「と返すと思ったよ。その通りだ。だがな、委伊達・奏鳴は中等部に上がった時に、前竜神の宿り主であった父親から竜神を渡され、新たな竜神の宿り主となっている」
 重要なのはここからだ。
「それは何故か。まだ十二の娘に、竜神を宿した理由とは何か。答えてみろ」
「父親が自身の死を悟ったからかかな、勘だけど」
「なら見事な勘だ。正解だよ。委伊達・奏鳴の父親は持病を抱えており、余命は後十年も無かったと言われている」
「だから娘に竜神を渡したのか」
 これが意味することとは、
「これまで委伊達家の歴史を辿っていけば解る筈だ。竜神の宿り主となった者達の、ある共通点を」
 一瞬でぴんと来た。
 数日前、監視されていた病院から脱け出して、委伊達家のことについて調べていた時。
 あることが目についた。
 “同じ”境遇。
 託された側として、気になることが。
「……短命……」
 そう。竜神の宿り主は代々短命なのだ。
 宿り主になると、その約十年前後で亡くなっている。
 最長でも、委伊達・奏鳴の父親の四十七歳。
 宿り主になったのは十七の時であるが、あれは異例中の異例だったらしい。
 宿り主となってから三十年も、その命を繋げることが出来たのだ。
 それは力の象徴でもあり、歴代でも一、二の支持率を誇る。
 しかし、殆どの竜神の宿り主は二十代でその命を落としている。
 八頭はセーランに詰め寄り、こう問うた。
「委伊達・奏鳴の余命は後五年だ。いいか、後五年だぞ。その期間のなかで、お前は彼女に何をしてやれる」
 急に告げられた余命に、その短さからでもあるが驚いた。
 後、五年。
 例え救出出来たとしても、たった五年しか生きられない。
 威圧に似たものを八頭から感じとり、数歩後退りをしてしまった。
 八頭はそれを見て、一先ず不合格の判定を下した。
 セーランは考えた。
 後五年で何が出来るかを。
 まず最低一年は世界を巡り、崩壊進行を解決するために潰れる。
 残り四年。
 また一年は崩壊進行後の対処で忙しくなるため、やはり一年は潰れる。
 残り三年。
 まともに向き合える時間が、たった三年しかない。
 まだお互いをよく知らない二人。
 互いを知るのにそう時間は掛からないだろう。
 だがたった三年で、生きていてよかったと、そう思わせることは出来るのだろうか。
 あの時死なずにいてよかったと、そう思わせることが出来るのか。
 限られた時間で、自分は彼女に何が出来る。
 答えの出ない自問を繰り返すだけで、答えなど出る筈がなかった。
 浅はかだった。
 命を前にして、彼女にとって自分は何も出来無い者だったことをセーランは痛感した。 
 

 
後書き
 魅鷺ちゃんと介蔵君が戦うと思ってました?
 残念、戦いませんでした。
 鷹代から託された宝具・黒風の能力は第二物語の時に。
 そして介蔵君、君はやられ約なのだよ。
 というよりもイジられキャラですかね。
 根は真面目だけどもイジられるキャラです。
 スパッツは下着だったんですね。
 ……はい。
 後半はやっと、もう何週間ぶりの主人公登場です。
 相変わらずの訳の分からないテンション。
 新キャラの八頭さん。

 八頭・巳刃河|(やず・みはか)

 と読みます。
 辰ノ大花社交院所属の期待の新人。
 妖刀使いの一族の一人子。
 奏鳴の家族全員も今回で判明しましたね。
 父、母、兄、姉、妹。
 名前はいずれ出そうと思います。
 家族を殺めてしまった事実は、奏鳴にはとても重たい事実でしょう。
 家族を手に掛けるなんて、普通は考えもしませんしね。
 まず奏鳴は自身の意思でやった訳では無いというところが、後悔の念を強くしている部分だと個人的に思っています。
 誰もが笑っていられる世界っていいですよね。
 ではでは。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧