東方攻勢録
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第九話
「・・・ここは?」
「気が付きましたか?メディスン・メランコリー」
映姫はそう言ってメディスンの前に立つ。とうのメディスンはキョトンとしたまま頭を押さえており、なにが起きたのか分かっていないようだった。
「あの・・・どうして閻魔さまがこんなところに?それに私は・・・」
「何も覚えてないの?」
幽香の問いかけに、メディスンはコクリとうなずいた。
「タイプAの場合は記憶が残ってるんでしたよね?」
「はい。ですが、それについてはにとりが細工を加えてたからなので、今回の場合残っていなくても不自然ではないかと」
「……それもそうですね」
「……あのぉ」
おいてけぼりのメディスンは、何かを察知していたのか不安そうにしていた。
さすがにかわいそうになってきたのか、俊司達はここでおこっていたことを包み隠さずすべて話していった。
「……というわけなんだ」
「そんな……私はそんなことを……」
「仕方ないさ、操られてたんだし。自分を責める必要はないよ」
「でも……」
メディスンはよっぽとショックだったのか、顔をうつむかせてしまった。
革命軍のやり方は、もう道理をはずれたものと表現できないくらい悪質なものとなっていた。もしかしたら、自分の知ってる人がいつその犠牲者となるかわからない。俊司の心の中には、ふつふつと怒りの文字が浮かび上がっていた。
「……」
そんな中、メディスンをじっと見ていた幽香は、何もしゃべらずにゆっくりとメディスンに近寄っていった。
「悔しいの?」
「……」
「それもそうね。自分の無力さがそれを生み出したのだから」
「……」
幽香の言うことは間違っていない。メディスンは自分の弱さを悔んでいたのか、目にいっぱいの涙をためていた。
「幽香さん」
「私は事実を話してるだけよ。自分の身を守れないからこうなるの。まあそれは……私もだけどね」
「……」
「嫌なら強くなればいい。あんな虫けらのような連中と一緒にされたくないならね」
幽香は真剣な顔つきで言った後、メディスンから離れていった。
「幽香さん……」
「これくらいがちょうどいいのよ。あんな子に対してはね」
「……」
「にしても、あいつらはほんとに変な小細工ばかりやってくるのね。今度見つけたら拷問でもかけてみようかしら」
「洒落になってないですよ」
「ふふっ……冗談よ」
そういって幽香は笑みを浮かべていた。
「さて、それではこれからどうしましょうか」
「聞いた話によると、革命軍の拠点は天界と旧都および地霊殿。最近は紅魔館にも集結してるらしいね。どうしますか映姫様?」
「私は旧都に向かうのが最善かと思います」
「私はどこでもいいわ。どこに行こうがやるべきことは一緒だし」
「俺も旧都がいいと思います。地上のことなら紫達がなんとかしてくれると思いますし」
旧都には地霊殿の主である古明地さとりをはじめ、強力な妖怪がたくさんいる。革命軍がそこを落としたとなると、やはりチップを使用して強力な妖怪を操ることもできる。また、場所が場所であるがゆえに、大規模な実験や開発を行っていてもおかしくはない。
そこを落とすとなると、革命軍にとっても大打撃になる。その分守りは厚いだろうが、ここの能力をしようすれば何とかなるだろう。
「では、旧都に参りますか」
全員の意見も一致し、一同は旧都に向かうことになった。
「あ……あの!」
俊司達が旧都に向かおうと歩き始めた瞬間、何もしゃべろうとしなかったメディスンがいきなり立ち上がり声をかけた。
「……どうかしましたか?」
「……私も……連れて行ってもらえませんか?」
「……」
「確かに私は生まれて数年の弱小妖怪です……ですが、私にも少しはできることがあると思います。それに……皆さんに迷惑をかけたまま……黙っておくこともできません」
「……」
「お願いします……」
「いいんじゃないかしら?」
そう答えたのは幽香だった。
「戦力不足なんでしょう? 少しは足しになるんじゃない? それに、世間を知るにはいい機会だと思うけど」
「そうですね。少し過酷になるかもしれません。それでもいいのですか?」
「はい!」
「なら……同行を許可しましょう」
「ありがとうございます!」
そういってメディスンは深々と頭を下げた。
地霊殿
普段であれば、主である古明地さとりが住み、灼熱地獄跡の管理などが行われている場所。だが、今は多くの見知らぬ兵士たちが館を徘徊していた。
「タイプBと手錠を使用してしとめることができなかった……ですか」
「はい。地上部隊からそのように報告を受けています」
「了解しました。地上部隊には紅魔館に退却しておくように命令しておいてください」
「了解」
とある一室では、任務結果の報告を受けた男が書類に何かを書き込んでいた。
「ふーむ……やはり1つではたりませんでしたかね。ある程度は効果を見込めると思っていたのですが……邪魔が入ってしまったのは計算外でしたね」
男はある程度内容を書き込んだ後、無線機を取り出し連絡を取り始めた。
「宮下です。古明地さとりさんに……」
男はある程度指示を与えると、そのまま無線をきった。
「さて、相手がこちらに来るならば……それ相応の対応が必要になってきますね」
男はそういって溜息をつくと、別の書類を取り出して整理を始めていった。
地霊殿 とある一室
「……」
部屋の中では、一人の少女が椅子に座って本を読んでいた。
「……この本ももう何度目かしら」
そういって少女は溜息をつく。
革命軍に地霊殿をのっとられて以来、少女は一日のほとんどをこの部屋で過ごす。別に監禁されているわけではないが、外にいると居心地が悪いからだ。
「……こいし達は無事だろうか」
「入るぞ! いいか?」
独り言をつぶやいていると、ノックと共に男の声が聞こえてくる。少女は嫌な顔をしながらも、「どうぞ」と声をかけた。
「古明地さとり、地上より敵勢力がくる。防衛のため、二名お借りするぞ。いいな?」
兵士は入ってくるなりそう言い放った。
借りるというのは、地霊殿に住む妖怪を借りるということ。さとりにそれを伝えにきたのは、彼女がここの主だからだ。
本当ならば嫌だといってやりたい。だが、彼女に断るという選択肢はなかった。
「わかっているな? 断れば……」
「ここに住む私のペットを皆殺しにするということでしょ。わかってる……好きにしなさい」
「了解した」
男はそれだけを言い残すと、そそくさと部屋を後にした。
一人静かな部屋の中に取り残されたさとりは、何を思ったのか本をとじると、そのままベットの上で横になった。
「……」
何も言わずに天井だけを見る。みんなを助けたい……そんな意思だけが、心のながでぐるぐると回り続けている。
だが、自分は何もすることはできない。自分ひとりでは何もできない。さとりは自分の無力さだけを身にしみて感じていた。
「……こんな主で……ごめんなさい……みんな……」
そう呟いたさとりの目からは、一滴のしずくが静かに流れていった。
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