東方攻勢録
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第二部
第一話
「これが……旧都につながる穴ですか?」
太陽の畑から歩いて約数十分後、俊司たちの目の前には異様な雰囲気を漂わせた穴が姿を現していた。
旧都につながるこの穴は、別に誰かが管理をしているわけでもなく、ただの無法地帯となっている。一歩間違えれば妖怪に襲われる可能性もあるため、人間はめったに訪れることはない。最近は仙人様がこの場所に現れるのが目撃されているのだとか。
「いつ見てもこの穴は深いですね。ではいきましょうか」
「どうやって下まで行くんですか?」
「決まっています。飛ぶんですよ」
「とっ飛ぶ?俺には無理ですよ!」
元外来人である俊司は、飛ぶなんて概念がなかった。生前は飛ぶことができなかったからだ。
だが、俊司の発言を聞いた映姫は、なぜか溜息をついていた。
「あなたはもう亡霊でしょう?飛ぶなんてことたやすいはずです」
「えっ……」
「試しにやってみてはどうですか?」
あまりしっくりこない俊司だったが、映姫にいわれるがまま飛ぶ感覚を再現しながら動いてみる。
すると、体はあっという間に中に浮かび上がり、ぷかぷかと漂い始めた。
「わっ!?」
「まあ、慣れていないのは当然かもしれませんがね。では行きましょうか」
「えっ!?ちょっと待ってください!」
俊司の訴えを耳に入れず、映姫は何も言わないまま穴の中に入っていく。それに続くように、回りの人も次々と中に入っていった。
「くっそ……」
ついていかないわけにも行かない俊司は、ふらふらになりながらもゆっくりと中に入っていった。
数分後、やっと地面に到着したときには、映姫たちがあきれた顔で待っていた。
「ずいぶんと遅かったねぇ。戦闘は達者でも飛ぶのは素人なのかい?」
「さっきはじめて飛んだんですから仕方ないですよ……」
「帰りも飛ぶんですから、それまでには何とかしてくださいね」
「……精進します」
そういいながらも、俊司は溜息をついた。
「さて、気づいてると思うけど、ここ大分雰囲気が違うのね?」
「そうですね。旧都ってこんなにも地上と違うところなんですか?」
「確かに多少は違うんだけど、これはいつもの旧都ではないわね。おそらくあいつらがいるからじゃないの?」
「そうでしょうね」
よく見れば、あたりには革命軍が使ったと思われる梯子や機材が置かれていた。中には俊司が写真でしか見たことがない、装置のようなものも置かれてある。
これだけの深い穴を革命軍が安全に通るために使ったのだろう。地上ではその装置は見なかったが、隠してあるのか破棄したのかはわからない。
だが、今はそれを考える時間ではない。俊司達はあたりに注意しながらゆっくりと先に進んでいった。
旧都 ある場所
「どうだい萃香?あいつらの動きは」
「相変わらずだねぇ。突撃したら負ける気はしないけど、何せあっちには人質がいるもんだしねぇ」
「感染症も効かなかったもんね。どんな名医がいるんだろうなぁ」
「何でも直せる医者ね。才能持ち……」
「あの……顔が怖いですよ、パルスィさん」
ある建物の影では、五人の妖怪たちが会話をしていた。
「何もでないまま時間だけがたってる……どうしたらいいんでしょう?」
「それがわかれば、ここにいる必要はないんだがねぇ」
「そう……ですね」
「それはどうでもいいけど、誰かきてるわよ」
「確かにそうだね。どれ、ちょっと様子でも見てくるかな」
そう言って一本角を持つ鬼は、建物の屋根を伝って走り始めた。
そのころ、俊司達は旧都の住宅地のような場所に到着していた。
「やはり誰もいませんね」
「革命軍がきて占領した際、連れて行ってしまったんでしょう。それにしても、あれだけの荒くれものがすんでいたはずなのに、占領されてしまうとは」
「革命軍は力は弱くても、数と連携でそれを補います。それに能力が加われば……荒くれものの集団であっても太刀打ちができなくなるんじゃないでしょうか」
「外の戦いってのはそんなもんばっかりなのかい?まあ、仕方ないとは思うけどね」
「一度根性たたきなおしたほうがいいんじゃないの? 手伝ってあげようか?」
「洒落になってませんよ。幽香さん」
「面白そうだもの」
そういって幽香が浮かべた笑みは、怖いだけではいいあらわせないほど奇妙な笑みだった。
「それはそうと、誰か近づいてくるわよ?」
「何人ですか?」
「一人ね。それに、あいつらじゃない」
「なら大丈夫でしょう」
「おやおや、誰かと思えば閻魔様のご一行ですか?」
そう行って映姫達の前に飛び降りてきたのは、一本角の鬼だった。
「星熊勇儀ですね」
「そうさ。ああ、先に言っとくけど、変なチップみたいなのはくっついてないからね」
「あれを知ってるということは、つけられている人がいるというわけですね?」
「まあね」
そういって、勇儀は悲しそうな笑みを浮かべた。
「ところで、珍しい面子だねぇ。閻魔様と死神、花の妖怪に毒使いに……あんたも、ただの亡霊じゃないね」
「彼は元外来人の亡霊です」
「なるほど。つまり、地上で救世主になってた外来人ってのは君のことかな」
「救世主は言いすぎだと思いますが……地上で戦っていたのは事実ですね」
俊司がそう答えると、なぜか勇儀は笑っていた。
「まあ、救世主についてはさておき、ここに何をしにきたんだい?」
「ここの拠点をつぶしにきたのよ。ただそれだけの話」
「あははっそれは頼もしいねぇ。なら、私達も協力させてもらおうか。人数不足で、いままで行動ができなかったんだ」
「私達?」
「ああ。ついて来てくれるかい?」
勇儀はそういうとどこかに向けて歩き始める。映姫たちも、何も言うことなく彼女についていった。
数分後、俊司達はある住宅地の中にある、ある空間になっていた。
外からは何も見えず死角になったこの場所は、隠れるにしてはちょうどいい場所だった。
「遅かったね勇儀」
「悪いねぇ。来客だよ」
「来客?」
「失礼します」
そう言って勇儀の後ろから現れた人々を見た瞬間、その場にいた4人の妖怪たちは顔を引きつっていた。
「これは……また濃い面子だねぇ」
「旧都にこれだけの人が集まるなんて、ちょっとした異変じゃない」
「今は異変の真っ只中よ」
「そう……ですね」
「あははっ」
勇儀は笑っていたが、周りはそれどころではないようだった。
「ここにいるのは、伊吹萃香・水橋パルスィ・黒谷ヤマメ・キスメ・そして星熊勇儀の五人ですか?」
「正確には六人よ」
「六人?」
「そこ」
そう言ってパルスィが指を刺した場所には、さっきまでいなかったはずの少女が立っていた。
「なんかおもしろそうだったから、出てきちゃった」
「古明地こいしですか」
「地霊殿から抜けてこられたのは彼女だけなんだよ。ほかの妖怪は捕まってるらしくってねぇ」
「なるほど、それで地霊殿が拠点化してるってことかい」
「そういうことさ」
妖怪達がつかまっているということは、地霊殿の主であるさとりも思い切った行動ができずにいるのだろう。こいしだけが脱出できたのは、無意識で敵から見えなくなっていたからだろう。
となると、チップの犠牲者になっているのは、地霊殿にいるある程度の実力者であるにちがいない。一筋縄ではいかないはずだろうと、俊司は考えていた。
「ところで、どうやってあの拠点を落とすつもりなんだい? 結構問題があるんだけどさ」
「問題?」
「まず地霊殿にいる妖怪は、人質として捕らえられてるってこと。私らもそのせいで迂闊な行動ができなくてねぇ」
「二つ目は私達の能力がまるで通じないってことね。ヤマメの感染症は、相手に名医がいるらしく通じない。それに、誰の能力も受け付けない人間もいるわ」
「私もそいつにだけは見つかっちゃって、かなり危なかったんだよー」
「それは厄介ですねぇ」
確かに、こいしさえいれば内部工作などが簡単に行えるはずだし、これだけの少人数でも地霊殿を占領できることが可能のはずだ。それができないと言い張れるくらい、状況と相手の人材に差があるというのだ。
鬼の力を持つ勇儀と萃香だけでは、人質の救出が保障できない。パルスィ・ヤマメ・キスメ・こいしの能力では通用しない相手がいる。行動できないのは仕方がないことだった。
「確かに厄介ですね。ですが、私達には彼がいます」
「彼?」
「はい。彼ですよ」
映姫はそう言って俊司を見ていた。
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