東方攻勢録
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第八話
「何だ……今のは……」
発砲音とともに何かが男達のすぐそばで着弾したが、飛んできたのは鉛球ではなく別の何かだった。
鉛球がとんできたならただ単にはずしたと言えるのだが、とてもそうは思えない。なにか意図的なものなんだろうかと男は考えていた。
(まあいい、とにかくまずは風見幽香を抑えるのが最優先だな)
謎の発砲音はほかの男達に任せ、腕に取り付けたキーボードをたたいていく。
そんな中目の前にいたメディスンが不穏な動きを見せていた。
「……うぅ……あぁ……」
(なんだ……!?)
メディスンは、いきなり頭を抱えてうなりだすと、そのまま意識を失ったかのように地面に倒れていった。
突然の出来事に、キーボードを操作していた男はその手を止めて唖然としていた。別に自分が何かをしたわけではない。かと言って、いきなり誤作動を起こすようなことはないはず。
「なぜいきなり……!」
不思議に思っていた男だったが、さっき起こった出来事を思い出した瞬間、何かを悟ったように目を見開いた。
突如鳴り響いた発砲音とともに放出された空気。あれがもし空気でなかったなら……メディスンが不自然な行動とともに倒れた理由も証明できる。
男にはその空気のようなものが何だったのか、あらかた予想がついていた。
「電磁パルス……だったのか?」
電磁パルスとは、雷などから発生するパルス状の電磁波である。略称としてEMPと呼ばれているため、こっちのほうが馴染みがあって電磁パルスとは頻繁に使われることは少ない。
だが、EMP自体は研究が進められており効果も証明されているものの、実用化されているわけではない。幻想郷なら能力によって実現は可能だろうが、外の世界で成功していない技術が幻想郷に伝わっている可能性は少ない。
(どういうことだ……外来人が敵にいるというのか? しかし、あの少年はすでに死亡したはず……裏切り物も、それに担ったことはできないはずだが……)
革命軍の情報では、俊司は再思の道にあった革命軍の拠点にて、クルトの手によって殺害されたということになっていた。また、革命軍を脱退し幻想郷側に手を貸している悠斗も、能力をみてそんなことができるわけがない。
なら、本当に幻想郷の人間がEMPに変わる何かを作っていたのか。ならさっき鳴り響いた発砲音はなんだったのか。不自然な状況をゆっくりと解明していく。
だが、男達に考える時間なの与えられてはいなかった。
「うわあ!?」
「なんだ!?」
急に一人の男が叫び声を上げると、腹部を抱えながらその場に倒れこむ。
一瞬わけがわからず呆然としていた男達だったが、倒れた男の前を見た瞬間、血相を変えて銃を構えていた。
「やあやあ皆さん、こんなにおそろいで何をしてるんだい?」
そう言って死神は笑みを浮かべていた。
「その鎌……まさか、小野塚小町か!」
「おお、まさか姿じゃなくて鎌で判断されるなんて。あんたたちも変わり者だねぇ」
「うるさい! この人数差でよくのんきに言ってられるな!」
「人数差があったとしても、優勢劣勢が決まっているわけではありませんよ」
「!?」
今度は男達の後方から、閻魔が声をかけた。
「四季……映姫……」
「少々乱暴なことをしすぎじゃないですか?人の道理をはずれてます」
「勝手なことを言うな!」
「どちらが勝手なんでしょうかね。こんなものを取り付けて」
映姫はそう言って、手に持っていたなにかを男達に見せた。
「それは……!」
「このようなものでか弱きものを操り、さらには無理をさせるなんて……少しばかり説教が必要なのかもしれませんね」
映姫は男達をにらみつけると、持っていたあるものを真っ二つに割りその場に捨てた。
「さて小町、やるべきことはわかってますね」
「わかってますとも。映姫様」
ただならぬ雰囲気が漂い始める。男達も表情を曇らせながらも、銃をかまえて戦闘態勢に入っていた。
だが、何の対策をしていない人間など、彼女たちとってはただの雑魚に過ぎなかった。
数分後
「これで全員でしょうか」
「そうみたいですね。まったく威勢だけはいっちょまえなのにねぇ」
そう言った二人の足元には、さっきまで普通に立っていたはずの男達が倒れていた。
メディスンを操って風見幽香を捕らえるつもりだったからか、男達の装備はあまり重装備とは言いがたいものだった。頼りにしていたメディスンを操れなくなった男達は、戦闘自体もおぼつかず、結果現状に至っている。
「……さて、大丈夫でしたか? 風見幽香」
「余計なことを……でも、助かったわ」
「ずいぶんと顔色が悪いな。その手錠そんなに効果があるのかい?」
「どうかしらね。少なくとも私みたいな妖怪とかなら……効果は高いのかもね」
手錠の効果はかなり高いのか、幽香の顔色は誰が見ても悪いと思えるくらいに悪く、呼吸も安定していないのかかるく荒げていた。
「辛そうな所悪いのですが、この男達を何とかできませんかね。彼が出てこれません」
「ええ。おやすい御用よ」
幽香は数本のツタ所の花を咲かせると、それを操って兵士を投げ飛ばしていった。
「これでこの周辺にはいないわ」
「ありがとうございます」
「すいません迷惑かけて。大丈夫でしたか?」
俊司は向日葵畑から出てくるなりそう言った。
「ええ。こちらこそ迷惑かけたわね」
「いえいえ。ちょっと待っててください。すぐに外しますんで」
俊司はポケットからスペルカードを一枚取り出すと、何も言わずに発動させた。
変換『魔術師の拳銃』
「何をするんですか?」
「手錠を外すだけですよ。それっ」
俊司は地面に銃口を向けると、そのまま引き金をひいた。
弾丸が着弾すると同時に、青白い光があふれ始める。何も言わずにまじまじと見ていた幽香だったが、その瞬間何かが体内に戻ってくるような感覚とともに、右手の違和感が静かに消えていった。
「……外れてる」
さっきまで外れる気配のなかった手錠は、その光を失いその場に落ちていた。
「魔法で鍵を外しました。気分はどうですか?」
「ええ。何の問題もないわ」
顔色もすっかりよくなった幽香は、軽く微笑みを返したあと日傘を差した。
「じゃあ、仕上げはこっちかな」
幽香が元に戻ったのを確認すると、もう片方の銃を地面に向けて再び発砲した。
着弾とともに今度は緑色の光が浮かび上がる。すると、周辺にあった枯れた花は土に返り、新しい向日葵が何十本も咲き始めた。
「あなた……」
「まあ、魔法の弾は二回使えるんで。どうせならって思いまして」
そう言って俊司は笑った。
「……この子達もうれしそう……ありがとう」
「いえいえ。それにしても……また変なのがでてきましたね」
俊司はそばに落ちてあった手錠を拾い上げると、まじまじと見つめながら何かを確かめていた。
「どうしたんですか?」
「いや、念のため発信機とかついてるか調べてるんですけど……大丈夫そうですね」
「まるで何かを封印するような手錠ね。私の力もこいつに吸収されたというよりかは、封印されたに近いのかしら?」
「どうでしょうかね。とりあえず、これも革命軍の能力者のものと考えるのが妥当だと考えれますが……」
「これはまたやっかいだねぇ。これ以外にもなにかあるんじゃないかい?例えば能力を封印するとかさ」
小町の言うことも一理あった。力を封印するだけでなく、能力や弾幕を封印できてもおかしくはない。革命軍もそれなりの対応を始めているのだろう。
となると、革命軍の行動の幅もさらに大きくなる。どれだけ力が強くかろうが、この手錠さえあれば弱い兵士であっても戦えるようにはなるはず。俊司達にとってはかなり不利な状況になり始めていた。
「早急に手を打つ必要性がありますね」
「そうですね……あとは……」
俊司はそう言って、近くで横になっていた少女をいる。その後、ほぼ同じタイミングで
「……うっ」
と声をあげ、少女はゆっくりと目を覚ました。
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