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ドン=パスクワーレ

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第一幕その五


第一幕その五

「こちらに」
「いや、どうも」
 見ればもうであった。マラエスタは何時の間にかにこやかな笑顔で部屋の中に立っているのであった。
「お話したいことがありまして参上しました」
「それは私もです」
 一礼したマラエスタに対してすぐに返すノリーナだった。
「よく来て下さいました」
「面白いことになりまして」
「こっちは大変なことよ」
「では私はこれで」
 二人がそれぞれ言葉を出したところでメイドはこう述べてそのうえで退室した。後に残った二人はさらにそれぞれ言い合うのであった。
「パスクワーレさんがですね」
「エルネストが」
「結婚されるそうで」
「別れるって手紙を送ってきたのです」
 本当にそれぞれの言葉であった。
「それでこれを利用しまして」
「どうしたらいいのかしら」
「んっ?ちょっと待って下さい」
 ここでノリーナの言葉に気付いたマラテスタだった。
「今エルネスト君がどうとか」
「この手紙を見て下さい」
 こう言ってすぐに先程エルネストから届けられた手紙をマラテスタに見せるのだった。
「この手紙を」
「ふむ、それですか」
「ええ。とんでもないことが書かれてますけれど」
「ははは、これはいい」
 マラテスタはその手紙を読みながら笑うのだった。
「かえって好都合です」
「好都合?」
「エルネスト君も事情を知ればこんなことは言いませんよ」
「事情って」
「ですからパスクワーレさんが結婚されると言い出したのです」
「パスクワーレさんが」
 ノリーナも彼のことは知っていた。実は彼はローマでも気さくだが何かというと騒動を起こすお騒がせ人物として知られているのである。それこそ若い頃からそうなのである。
「あの人がですか」
「そして私は一応相手を見つけたのですが」
「そうなのですか」
「今修道院に入っている妹です」 
 彼女だというのである。
「ソフロニアをです」
「はあ。その人を」
「ですが。パスクワーレさんが自分は子供を作ってそれを相続人にするから御前はいらないといってエルネスト君に出て行けと言ったのですよ」
「結婚する前からですか?」
 それを聞いてまずは驚いたノリーナだった。
「子供以前の話なのに」
「あの人ですから」
 ローマではこれで通じる。それがパスクワーレである。
「ですから。もう今から」
「本当にあの人は変わりませんね」
「長い付き合いですが本当にあのままです」
 マラテスタもこのことはよく知っているのだった。
「あれさえなければ」
「本当ですね。ですがそれは」
「利用できます。まずはです」
「まずは?」
「妹には別の相手を探しまして」
 最初にそのソフロニアを替えるというのである。
「その妹に貴女がです」
「私が?」
「はい、なって頂きます」
 こう話すのである。
「そのうえでパスクワーレさんを引っ掛けてです」
「わかりましたわ」
 ここまで聞いたうえで満足そうに笑うノリーナであった。そうしてそのうえで言うのであった。
「私は晴れてエルネストと」
「そういうことです」
「そういうことなら任せて下さい」
 にこやかに笑って言葉を返すノリーナだった。
「私も恋愛なら百戦錬磨」
「そうでしたね」
 どうやら二十にして相当な過去があるらしい。
「それを使えばあの人は」
「晴れて貴女と一緒になれます」
「それじゃあ今から」
「はい」
「お茶でも飲みながらお話しましょう」
 こうマラテスラに対して切り出すのであった。そうしてそのうえでテーブルを挟んで向かい合って座る。ここであのメイドが三度やって来たのであった。
「お待たせしました」
「お茶ね」
「はい、それとお菓子です」
 それもあるというのである。
「お持ちしました」
「有り難う。じゃあテーブルの上に御願いね」
「はい」
 メイドは言われたままそのお茶とお菓子、それにカップを二人分それぞれの前に置いた。そのうえで姿を消し後に残った二人は。そのうえであれこれと話をするのであった。
 
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