| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

Tales Of The Abyss 〜Another story〜

作者:じーくw
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

#11 薄れゆく意識


 アルは、強大な力を使った反動なのか、肩で息をし、手を膝についていた。だけど、心底安堵している。
 ……全てを終える事が出来たから。

 あの巨大なゴーレムも倒す事が出来た。そして、何よりも 町が、町の皆が無事だったんだ。アルは、周囲を確認した。……皆と、町の皆を見た。

「………… お………おわった……………」

 アルは、無事だった皆を見て改めて、そう考える事が出来た。そして体中の力が一気に抜けた。……極限にまで緊張をしていたからだろう。
 ゴーレムだけじゃなく、町の皆が死ぬかも知れないと言う恐怖。自分が死ぬかも知れないと言う恐怖。……それらとも、ずっと戦い続けていたんだ。
 全て終わる事が出来て、アルはまるで糸が切れた人形の様に崩れ落ち座り込んでいた。

 その姿を見たジェイドはまだ、唖然としていた。否、彼の姿でじゃなく、先ほどのゴーレムに向け放ったあの力を目の当たりにしてからだ。

「(若い……)彼は、一体何者……」

 その容姿から、10代後半だろう事は察しがついた。そして、年齢を考慮しなくても、有り得ない破壊力の譜術を見て、驚いたのだ。ジェイドは、これまでの長い軍人生活、それ以前を遡っても、戦いの歴史を遡っても、あれ程の譜術は見たことがなかった。

 ……これまで、自身も軍人として数多の戦場を駆け巡ってきた経験がある。

 その経験の中で最も危険と判断した攻撃。それは軍艦等の兵器からの攻撃を入れたとして、天秤に掛けてもコレ(・・)に比べたら、あまりにも小さ過ぎるとすら感じる。
 この男が、子供とは……違う、同じ人間だとは思えない程に。
 
 ましてや、それは人の手を行われた力なのだ。……世の中にはこれ程の術を操る者がいるのかと。
 様々な事を考え込んでいて、暫くジェイドは立ち尽くしていた。

 暫く しん……、と 先ほどの戦闘からは考えられない程の静寂が場を包み込んでいた、数秒後の事。

「うおおおお!!!」
「アル!!!!」
「っ!!!!」

 戦闘から巻き起こっていた砂埃が風に舞いながら消え、アルの姿を視認した町の住人。アルが無事だと判って、全員が一目散にアルの方へ駆け出した。
 その中には、勿論ファンやガーランドもいた。

「ありがとなっ アル! お前ってすげえ譜術士(フォニマー)だったんだな!? ってか! 記憶戻ったのか?」

 ガーランドとファンの2人を中心にアルをもみくちゃにしていた。ある者は、頭を撫で、ある者は抱きついていて。

 正直、アルは今はかなり体がきつかった。だけど……、サラの時と同じだ。今は安心感が強い。痛みと疲労を感じない程に。

「ははは……… いっ いや 記憶の方はまだ…… 力だけ思い出したみたいで………」

 アルは、笑っていた。もみくちゃにされ、その事でかなり疲労感があったが、大した事ではない。皆無事だったんだ。今は喜びの方が遥かに大きいから。

「それより……、オレより、礼はあちらの方にもして。あの人がいなかったら、無理だったよ」

 そう言うとアルは共に戦ってくれた男の方を向いた。共闘してくれた彼は、まだそこにいた。

「……貴方の助太刀がなければ、きっと、アイツを倒しきれなかったと思います。……それに、町の皆の被害も拡大していたはずです。 本当に、どうもありがとうございました」

 アルは、頭を下げた。

「……いえ、私はマルクトの軍人です。そして、此処はマルクト領土である、アクゼリュス。……軍人として当然のことをしただけです。礼には及びません」

 アルの礼に、ジェイドは笑顔になり、そう伝えていた。しかし、表情とその言葉とは裏腹に頭の中では、別のことを考えていた。

(彼の力は…… まるで見たことのない。《インディグネイト・デストラクション》。その名から、私が使える譜術に似ています。……が中身は別物の様だ。……大変脅威ですね。 彼の素性とそして力。……彼の全て調べた方がいいでしょう)

 アルの力を目の当たりにして、マルクトに所属する軍人である為、驚異に感じた様だ。だが、まだ彼にはしなければならない事があった。

(……今は大事な任務があります。理想は、彼に我がマルクト軍に入ってもらう事です……が、今無理に彼を連れて行くと、アクゼリュスの住民から、かなり反感を買いそうですね…… さて、どうしたものか……)

 アルを一先ず軍に勧誘(スカウト)する事を考えていた。それは、軍人としては当然の反応だろう。これほどの譜術。大規模譜術、強大な力。ジェイドは見たことがないものだった。
 そんな強大な力に敵国(キムラスカ)の方が気付き、そちら側に行くのはかなり危険と判断したのだ。ここアクゼリュスはマルクト領土だが、問題がある。故に知られる可能性は高いのだ。……今現在、彼の事を敵国キムラスカが知らないと言う保証も無いし、可能性は低いが、既に敵国(キムラスカ)に所属している可能性も有り得る、かもしれない。

 ジェイドが頭の中でどうするか考えを、凡ゆる手段を模索をしていると。


「おにいちゃん!!!」
「わっ!!」

 アルは、またまた背後から声と衝撃が響き、声を上げていた。その衝撃の正体はもちろん彼女だ。

「おにいちゃん! おにいちゃぁん!!!! よかった……、ほんとうに!よかったよぉーーー!」

 彼女、サラは一段と涙を流し、そのまま、アルにしがみ付いていた。遠慮のない泣き声が耳元で響く。……でも、心地よい。

 今日で一体何度目、だろうか? 恐怖と安堵の繰り返しだ。だから……。

「も、もう、どこにもいかないでっ。わたしの、わたしのそばにいてっ……お、おにいちゃんっ……」

 涙が枯れる事なく、流れ続けていた。もう、暫くその涙は、止める事も止まる事もなかった。
 アルも当然、サラの気持ちは理解していた。……全く同じ気持ちだから。アルのその目から、涙が溢れていた。

「……ああ。 もうこれで大丈夫! 本当に終わったよ……。全部、全部終わったんだ。何処にもいかない。……サラも無事でよかった。 レイさん……ガーランドさん………それにみんなも………」

 アルは、泣き続けるサラを抱きしめた。……抱きしめながら、涙を流しながら。そして、周囲をも見渡した。
 皆アルとサラを微笑ましそうに見ている。傍には、ガーランドとレイいて、2人もまた抱き合って、涙を流していた。今は、サラに譲ってあげてるんだろう。……アルの事を。


「……よかった。 本当に……。 今日は ご馳走を作るからね。 貴方も、本当にありがとうございました。 どうか、うちに寄ってくださいね。精一杯お礼をさせてください」

 レイはジェイドの方を見ながら頭を下げた。ガーランドも続けて、頭を下げる。

「……御心遣いありがとうございます」

 ジェイドは、任務を優先さしたいところなのだが。今はまだ(アル)の事を優先させた方がいいと判断したようだ。現在の彼の情報を知る為にも。このまま、別れるのは愚の骨頂だから。


「さぁ……… みんな! とりあえず、後片付けは、町の大掃除は、また明日だ! 今日は、みんなで騒ごうぜ!! この町を守ってくれたアル達を囲ってな!!」

 ガーランドは高らかに宣言した。皆それに乗り、雄たけびのような歓声を上げる。怪我してるって言うのに、疲労だって溜まってる筈なのに、それを忘れたかの様に騒いでいる。……アルもそうだが、町の皆も十分に凄い。

「あ、ははは………。 これじゃ……ゆっくり寝れないね。仕方ない、か。 あ、サラ。 また、あの秘密基地に行こう? 元気になって、また……、あそこに」

 アルは、苦笑いをしながら、サラに笑いかけた。

「うんっっ!!」

 サラも満面の笑顔で答えてくれた。2人だけの約束を交わして。



 街中が歓喜で溢れている時。

「「ジェイド!」大佐ぁ!!」

 2人がジェイドの方へ駆けつけていた。イオンとアニスの2人だ。

「終わったんですね…… 良かった。」

 片方の1人、イオンはほっと胸をなでおろした。2人は町の怪我人の避難対応をしていたのだ。そして、町の外に避難していた人たちの護衛も兼ねて。アルの指示通り、レイ達は、町から少し離れた所に避難していた。

「ええ。終わりました。ですが、 気になる事がありましてね……」

 ジェイドは、少し下にズレた眼鏡を元の位置に戻しながら、話した。これは、彼の仕草だ。……深く、何かを考える時によくする癖。

「ええーっ!何かあったんですか!?大佐がそんな風に言うなんて〜!!」

 だからこそ、アニスはジェイドの言葉を訊いて露骨に驚いていた。仕草もそうだけど、ジェイドがそんな風に言うのが相当珍しいから。最近では特に。

「はっはっはー まあ、こういうこともあるんですよ! ……それで、気になるのは彼の事です」

 ジェイドは視線を、アルの方へと向けた。アクゼリュスの人たちの中心にいる彼の方へと。

「あの男性が、ですか……?」
「ええ……そうですよ。イオン様」

 ジェイドが又難しい表情を作った。難しい、と言うのは 彼の事でだ。頭の中では色々と策を練っているが、どれも確実、とは言い難いのだ。

「彼を……、どうにか……」

 ジェイドが彼について調べたいという事を2人に伝えるその次の瞬間。



「ッつ!」


 アルは、サラと手を繋ぎ、歩いていた時、突如頭を抑えながら、膝をついた。その時に思わず、サラの手を離した

「おにいちゃん……?」

 突然の事に、サラは反応出来ない。ただ……、呆然とアルの方を見るだけで。そのアルは、頭の次は、胸を抑えていた。いままで見た事無いほどの苦しそうな表情を見せながら。

「ぐっ……… だっ……だいじょうぶだっ…… 心配は…… い…………よっ………」

 そして、最後には胸に手を当てたまま、前のめりにそのまま地面に倒れこんだ。その姿を見たサラは絶句する。動かなくなったから。

 最初は、現実感が全くなかったんだ。

「おにぃ……ちゃん……?」

 だって、もう危ない事はなくなった。もう何処にもいかない、と言っていた。……また、一緒にあの秘密の場所に行く約束を交わした。なのに……。

「お……に……ちゃん……?……おにいちゃん!!」

 サラは、倒れて動かなくなってしまったアルに駆け寄った。身体を揺するけど、全く反応がない。

「だっ だれか!おにいちゃんをたすけて! おにいちゃんっ、おにいちゃんっっ!」

 サラの泣き叫ぶ声で、異常を察した皆が集まってきた。


「「「「アル!!」」」」


 ガーランド、レイ、ファン……アクゼリュスの皆全員で、彼の名前を呼び続けたのだった。





――……なんだ…… これ……? あれ??………なんでサラ…… 泣いてるの………?あれ??………皆も……なんでそんな表情(かお)を……? あれ??………何で体がうご……かな………


 アルは、まるで、現実感が無い世界に、立っている感じがした。いや、自分と、他の皆の住んでいる世界が突然変わった、突然切り離された感覚だ。
 そんな世界で、再び……あの声が聞こえてきた。


『まだ…… 早すぎたか………?』

――あれ………この声って………。 あの時の……声………?


 理解をする事は出来たけれど、意識を保つ事が出来なくなってきた。


『……時が来るまで……、休むがいい。 既に運命の歯車は動き出した』


 朦朧とする意識の中で、その声(・・・)は続く。


――運……命……?


『体は全く動かせないだろうが……… 見えるだろう?』


 その声に誘われるままに、視線を動かすと……、アクゼリュスの人達。レイやガーランド、サラの間を縫って、あの男の人が、そしてもう2人が視界に映った。


――……え……? さっき一緒に戦ってくれた男の人と……小さな女の子と男の子2人……?この子はサラよりは歳は上、なのかな……?

『目覚めたら…… その者らについて行くがいい………』

――まって…… まって…… お前は……一体………。もう、……だめ、だ…… いしきが………また………。


 それが、最後の言葉だった。暗闇に引きずり込まれる様に、見せる視界とそして意識が闇の中に消えていった。
 残った声は……、もはや聞こえていないであろう、彼に向かって続けた。




『………それも含め…… いずれは明らかになる…… 聖なる焔……と共に……を解放せよ………』











 いや、まだアルには聞こえた。ほんとのほんと。……最後の最後に、聞こえたのは、サラの泣き叫ぶ声だった。

そこから先はもう、完全に電源が切れたかの様に真っ暗になったのだった。

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧