Tales Of The Abyss 〜Another story〜
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#11 薄れゆく意識
アルは、強大な力を使った反動なのか、肩で息をし、手を膝についていた。だけど、心底安堵している。
……全てを終える事が出来たから。
あの巨大なゴーレムも倒す事が出来た。そして、何よりも 町が、町の皆が無事だったんだ。アルは、周囲を確認した。……皆と、町の皆を見た。
「………… お………おわった……………」
アルは、無事だった皆を見て改めて、そう考える事が出来た。そして体中の力が一気に抜けた。……極限にまで緊張をしていたからだろう。
ゴーレムだけじゃなく、町の皆が死ぬかも知れないと言う恐怖。自分が死ぬかも知れないと言う恐怖。……それらとも、ずっと戦い続けていたんだ。
全て終わる事が出来て、アルはまるで糸が切れた人形の様に崩れ落ち座り込んでいた。
その姿を見たジェイドはまだ、唖然としていた。否、彼の姿でじゃなく、先ほどのゴーレムに向け放ったあの力を目の当たりにしてからだ。
「(若い……)彼は、一体何者……」
その容姿から、10代後半だろう事は察しがついた。そして、年齢を考慮しなくても、有り得ない破壊力の譜術を見て、驚いたのだ。ジェイドは、これまでの長い軍人生活、それ以前を遡っても、戦いの歴史を遡っても、あれ程の譜術は見たことがなかった。
……これまで、自身も軍人として数多の戦場を駆け巡ってきた経験がある。
その経験の中で最も危険と判断した攻撃。それは軍艦等の兵器からの攻撃を入れたとして、天秤に掛けてもコレに比べたら、あまりにも小さ過ぎるとすら感じる。
この男が、子供とは……違う、同じ人間だとは思えない程に。
ましてや、それは人の手を行われた力なのだ。……世の中にはこれ程の術を操る者がいるのかと。
様々な事を考え込んでいて、暫くジェイドは立ち尽くしていた。
暫く しん……、と 先ほどの戦闘からは考えられない程の静寂が場を包み込んでいた、数秒後の事。
「うおおおお!!!」
「アル!!!!」
「っ!!!!」
戦闘から巻き起こっていた砂埃が風に舞いながら消え、アルの姿を視認した町の住人。アルが無事だと判って、全員が一目散にアルの方へ駆け出した。
その中には、勿論ファンやガーランドもいた。
「ありがとなっ アル! お前ってすげえ譜術士だったんだな!? ってか! 記憶戻ったのか?」
ガーランドとファンの2人を中心にアルをもみくちゃにしていた。ある者は、頭を撫で、ある者は抱きついていて。
正直、アルは今はかなり体がきつかった。だけど……、サラの時と同じだ。今は安心感が強い。痛みと疲労を感じない程に。
「ははは……… いっ いや 記憶の方はまだ…… 力だけ思い出したみたいで………」
アルは、笑っていた。もみくちゃにされ、その事でかなり疲労感があったが、大した事ではない。皆無事だったんだ。今は喜びの方が遥かに大きいから。
「それより……、オレより、礼はあちらの方にもして。あの人がいなかったら、無理だったよ」
そう言うとアルは共に戦ってくれた男の方を向いた。共闘してくれた彼は、まだそこにいた。
「……貴方の助太刀がなければ、きっと、アイツを倒しきれなかったと思います。……それに、町の皆の被害も拡大していたはずです。 本当に、どうもありがとうございました」
アルは、頭を下げた。
「……いえ、私はマルクトの軍人です。そして、此処はマルクト領土である、アクゼリュス。……軍人として当然のことをしただけです。礼には及びません」
アルの礼に、ジェイドは笑顔になり、そう伝えていた。しかし、表情とその言葉とは裏腹に頭の中では、別のことを考えていた。
(彼の力は…… まるで見たことのない。《インディグネイト・デストラクション》。その名から、私が使える譜術に似ています。……が中身は別物の様だ。……大変脅威ですね。 彼の素性とそして力。……彼の全て調べた方がいいでしょう)
アルの力を目の当たりにして、マルクトに所属する軍人である為、驚異に感じた様だ。だが、まだ彼にはしなければならない事があった。
(……今は大事な任務があります。理想は、彼に我がマルクト軍に入ってもらう事です……が、今無理に彼を連れて行くと、アクゼリュスの住民から、かなり反感を買いそうですね…… さて、どうしたものか……)
アルを一先ず軍に勧誘する事を考えていた。それは、軍人としては当然の反応だろう。これほどの譜術。大規模譜術、強大な力。ジェイドは見たことがないものだった。
そんな強大な力に敵国の方が気付き、そちら側に行くのはかなり危険と判断したのだ。ここアクゼリュスはマルクト領土だが、問題がある。故に知られる可能性は高いのだ。……今現在、彼の事を敵国キムラスカが知らないと言う保証も無いし、可能性は低いが、既に敵国に所属している可能性も有り得る、かもしれない。
ジェイドが頭の中でどうするか考えを、凡ゆる手段を模索をしていると。
「おにいちゃん!!!」
「わっ!!」
アルは、またまた背後から声と衝撃が響き、声を上げていた。その衝撃の正体はもちろん彼女だ。
「おにいちゃん! おにいちゃぁん!!!! よかった……、ほんとうに!よかったよぉーーー!」
彼女、サラは一段と涙を流し、そのまま、アルにしがみ付いていた。遠慮のない泣き声が耳元で響く。……でも、心地よい。
今日で一体何度目、だろうか? 恐怖と安堵の繰り返しだ。だから……。
「も、もう、どこにもいかないでっ。わたしの、わたしのそばにいてっ……お、おにいちゃんっ……」
涙が枯れる事なく、流れ続けていた。もう、暫くその涙は、止める事も止まる事もなかった。
アルも当然、サラの気持ちは理解していた。……全く同じ気持ちだから。アルのその目から、涙が溢れていた。
「……ああ。 もうこれで大丈夫! 本当に終わったよ……。全部、全部終わったんだ。何処にもいかない。……サラも無事でよかった。 レイさん……ガーランドさん………それにみんなも………」
アルは、泣き続けるサラを抱きしめた。……抱きしめながら、涙を流しながら。そして、周囲をも見渡した。
皆アルとサラを微笑ましそうに見ている。傍には、ガーランドとレイいて、2人もまた抱き合って、涙を流していた。今は、サラに譲ってあげてるんだろう。……アルの事を。
「……よかった。 本当に……。 今日は ご馳走を作るからね。 貴方も、本当にありがとうございました。 どうか、うちに寄ってくださいね。精一杯お礼をさせてください」
レイはジェイドの方を見ながら頭を下げた。ガーランドも続けて、頭を下げる。
「……御心遣いありがとうございます」
ジェイドは、任務を優先さしたいところなのだが。今はまだ彼の事を優先させた方がいいと判断したようだ。現在の彼の情報を知る為にも。このまま、別れるのは愚の骨頂だから。
「さぁ……… みんな! とりあえず、後片付けは、町の大掃除は、また明日だ! 今日は、みんなで騒ごうぜ!! この町を守ってくれたアル達を囲ってな!!」
ガーランドは高らかに宣言した。皆それに乗り、雄たけびのような歓声を上げる。怪我してるって言うのに、疲労だって溜まってる筈なのに、それを忘れたかの様に騒いでいる。……アルもそうだが、町の皆も十分に凄い。
「あ、ははは………。 これじゃ……ゆっくり寝れないね。仕方ない、か。 あ、サラ。 また、あの秘密基地に行こう? 元気になって、また……、あそこに」
アルは、苦笑いをしながら、サラに笑いかけた。
「うんっっ!!」
サラも満面の笑顔で答えてくれた。2人だけの約束を交わして。
街中が歓喜で溢れている時。
「「ジェイド!」大佐ぁ!!」
2人がジェイドの方へ駆けつけていた。イオンとアニスの2人だ。
「終わったんですね…… 良かった。」
片方の1人、イオンはほっと胸をなでおろした。2人は町の怪我人の避難対応をしていたのだ。そして、町の外に避難していた人たちの護衛も兼ねて。アルの指示通り、レイ達は、町から少し離れた所に避難していた。
「ええ。終わりました。ですが、 気になる事がありましてね……」
ジェイドは、少し下にズレた眼鏡を元の位置に戻しながら、話した。これは、彼の仕草だ。……深く、何かを考える時によくする癖。
「ええーっ!何かあったんですか!?大佐がそんな風に言うなんて〜!!」
だからこそ、アニスはジェイドの言葉を訊いて露骨に驚いていた。仕草もそうだけど、ジェイドがそんな風に言うのが相当珍しいから。最近では特に。
「はっはっはー まあ、こういうこともあるんですよ! ……それで、気になるのは彼の事です」
ジェイドは視線を、アルの方へと向けた。アクゼリュスの人たちの中心にいる彼の方へと。
「あの男性が、ですか……?」
「ええ……そうですよ。イオン様」
ジェイドが又難しい表情を作った。難しい、と言うのは 彼の事でだ。頭の中では色々と策を練っているが、どれも確実、とは言い難いのだ。
「彼を……、どうにか……」
ジェイドが彼について調べたいという事を2人に伝えるその次の瞬間。
「ッつ!」
アルは、サラと手を繋ぎ、歩いていた時、突如頭を抑えながら、膝をついた。その時に思わず、サラの手を離した
「おにいちゃん……?」
突然の事に、サラは反応出来ない。ただ……、呆然とアルの方を見るだけで。そのアルは、頭の次は、胸を抑えていた。いままで見た事無いほどの苦しそうな表情を見せながら。
「ぐっ……… だっ……だいじょうぶだっ…… 心配は…… い…………よっ………」
そして、最後には胸に手を当てたまま、前のめりにそのまま地面に倒れこんだ。その姿を見たサラは絶句する。動かなくなったから。
最初は、現実感が全くなかったんだ。
「おにぃ……ちゃん……?」
だって、もう危ない事はなくなった。もう何処にもいかない、と言っていた。……また、一緒にあの秘密の場所に行く約束を交わした。なのに……。
「お……に……ちゃん……?……おにいちゃん!!」
サラは、倒れて動かなくなってしまったアルに駆け寄った。身体を揺するけど、全く反応がない。
「だっ だれか!おにいちゃんをたすけて! おにいちゃんっ、おにいちゃんっっ!」
サラの泣き叫ぶ声で、異常を察した皆が集まってきた。
「「「「アル!!」」」」
ガーランド、レイ、ファン……アクゼリュスの皆全員で、彼の名前を呼び続けたのだった。
――……なんだ…… これ……? あれ??………なんでサラ…… 泣いてるの………?あれ??………皆も……なんでそんな表情を……? あれ??………何で体がうご……かな………
アルは、まるで、現実感が無い世界に、立っている感じがした。いや、自分と、他の皆の住んでいる世界が突然変わった、突然切り離された感覚だ。
そんな世界で、再び……あの声が聞こえてきた。
『まだ…… 早すぎたか………?』
――あれ………この声って………。 あの時の……声………?
理解をする事は出来たけれど、意識を保つ事が出来なくなってきた。
『……時が来るまで……、休むがいい。 既に運命の歯車は動き出した』
朦朧とする意識の中で、その声は続く。
――運……命……?
『体は全く動かせないだろうが……… 見えるだろう?』
その声に誘われるままに、視線を動かすと……、アクゼリュスの人達。レイやガーランド、サラの間を縫って、あの男の人が、そしてもう2人が視界に映った。
――……え……? さっき一緒に戦ってくれた男の人と……小さな女の子と男の子2人……?この子はサラよりは歳は上、なのかな……?
『目覚めたら…… その者らについて行くがいい………』
――まって…… まって…… お前は……一体………。もう、……だめ、だ…… いしきが………また………。
それが、最後の言葉だった。暗闇に引きずり込まれる様に、見せる視界とそして意識が闇の中に消えていった。
残った声は……、もはや聞こえていないであろう、彼に向かって続けた。
『………それも含め…… いずれは明らかになる…… 聖なる焔……と共に……を解放せよ………』
いや、まだアルには聞こえた。ほんとのほんと。……最後の最後に、聞こえたのは、サラの泣き叫ぶ声だった。
そこから先はもう、完全に電源が切れたかの様に真っ暗になったのだった。
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