Tales Of The Abyss 〜Another story〜
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#10 共闘……そして決着
アクゼリュスの戦い。
巨大ゴーレムとの戦い。
それは、アルが雷撃の剣をゴーレムの足に突き刺してからは、敵の動きが僅かに鈍くなっていた。巨人の相手のセオリーである足元から崩していくと言うのが功を成しつつある様だ。
「……よしっ! 今しかない!」
勝機と見たアルは、すぐさま次の詠唱に入ろうとする、……が。
「ぐ ぉ !」
ゴーレムの目の部分が光ったと思ったその瞬間、譜術《ロックブレイク》が発動する。轟音と共に、大地そのものが凶器となって襲いかかってくるのだ。
「ッッ!!くそっ!!!」
アルは、直撃こそは避けれたものの、改めて、その難解さに気がつく。相手の巨体さ、そして一撃の破壊力に目を奪われていたが……、それ以上に厄介なのは、相手の譜術の発動速度だ。鈍い身体からは、想像もつかない程早い。そして、詠唱無しに攻撃を放ってくる。術の発動を見極めなければ、直撃は必至だった。
「くそ。詠唱しながら、回避しながら、そして攻撃はきつい。きつ過ぎる。……せめて 奴に隙が出来れば……」
アル自身の攻撃は、譜術が基本的に最大の攻撃手段だ。近接戦闘に関しては、ド素人其のもの。戦える力の殆どは、頭に流れてきた譜術のみであり、身のこなしに関しても、まだまだだと思える。絶対的に経験が足りなさ過ぎる。その上相手が相手、自身の近接戦闘は無意味だと言っていいだろう。分が悪過ぎる。
戦闘スタイルに関して、自分は武器を扱えるわけでは無いから基本的に体術と譜術、だから、陣形で言えば、現時点では後衛が最も望ましい。
だが……ここにはもう戦える人間はアル1人しかいない。
故に前衛も後衛もない。……つまり、非常に厳しい状況だ。その巨体の攻撃は絶対に喰らってはいけない。精神力と体力を同時に奪われ続ける。そして、一撃でも貰えばアウト。
だが、そんな分の悪い戦いでも、決まるのであれば、決め手はある。まさに今、頭に浮んでいる譜術。それが、現時点で使える最強のもの。
ここまでくれば、その存在、あの声、……そして自分自身が不気味にすら感じてくる。頭の中に浮かぶ力をそのまま使えるのだから。だけど、アルは今はそんな力でも構わないと強く思っていた。この町を、皆を助ける事が出来るのならどんな力でも良い。それは、覚醒するその時に、強く思った事なのだから。
そして、今浮かんでいる現時点で最強の譜術であれば、この相手をも必ず倒せる。……だが、当然問題もあった。
「詠唱時間がかかりすぎる……ッ。使う隙が中々出来ない。それに、こいつの攻撃はいちいち周りを巻き込む。このままじゃ被害が拡大してしまう!」
譜術を扱う為に、その言霊と成る詠唱は必須だ。詠唱の言葉のひとつひとつに力があり、それを完全に理解し、力を込める事で始めて力として発動する事が出来る。それが譜術だ。 だが、強力な譜術程、膨大な詠唱を必要とするのだ。だから、1人しかいない今、この相手に使う事が難しすぎる。
そして、周りにはまだ、動けない人たちはいる。この巨大な攻撃は全て、余波が発生し、衝撃波となって周囲に襲いかかるのだ。そして、何よりも彼らが標的にならないように、自分自身に向けるのも大事だ。
つまり、今は詠唱をする暇もないし、状況も最悪。
そう思っていたその時だ。
「炸裂する力よ……。《エナジー・ブラスト》」
突然、後ろから声が聞えた。
そして、その次の瞬間、空間が突然爆発、衝撃が起こり、ゴーレムを襲った。
「グ オ オ !!」
ゴーレムは、突然のその衝撃に、驚いたのか、或いは強烈な一撃だったのか、呻き声を盛大に上げていた。
「ッ!な……なんだ!??」
アル自身も驚いて、振りかえる。もしも、敵。モンスターであれば最悪だからだ。
振り向いた、そこには、長身長髪の男が立っていた。
「あ…… あなたは?」
一先ず、モンスターじゃない事を確認すると(声が聞こえていたから、十中八九は人だと思っていたが) その男は首を左右に振った。
「……今は、お互いに自己紹介をしている暇はありません。 ゴーレムを早く始末する事が先決でしょう」
男はそういうと、両の手を合わせ、何処からか槍を取り出して構えた。敵では無いどころか、助太刀をしてくれるようだ。願ったり叶ったりだった。
「ありがたい。これで……アイツを仕留めれる!」
戦える者が1人から2人になった事で、譜術を使用する隙が圧倒的に多くなったからだ。勿論、その間に1人で相手をしなければならない、と言うリスクは当然あるが……。
「瞬迅槍!!」
男は、取り出した槍をまさに疾風の速度でゴーレムの足に槍を突き刺した。かなりの威力なのだろう、あのゴーレムにとっては、針程の大きさの槍が当たって、足がぐらついた。
この男の正体はわからないが、リスクをものともしない程に、相当な手練れであると言う事はよく判った。
男の攻撃は、槍による一撃ではなく、あの槍で足止めをした後、すかさず追撃を入れる。
「唸れ烈風!大気の刃よ、切り刻め!《タービュランス》」
突然、巨大な竜巻が出現し、真空の刃をもって、ゴーレムを切り刻んでいく。相手が巨体の為、竜巻で浮き上がる事はなかったが、風の結界の様に、ゴーレムの動きを封じ込んでいた。
動きを封じてくれている今、勝機、と言うよりも千載一遇のチャンスと言えるだろう。
アルはその瞬間、頭に浮んでいる術式を再び描いた。そして、眼を瞑り、精神を集中させた。最大の力を持って、攻撃する為に。
「来れ3つの裁き。開け冥府へ続く扉。 …集え三幻神。無慈悲なる咆哮を彼の者に与えん」
詠唱を唱えながら、指先で空間に図形を描いていく。光のラインが空へと駆け上り、瞬く。まだ、譜術が発動していないと言うのに、空間が歪み、周囲には圧力の様なモノが生まれた。まるで、大気が震えているかの様に、震えに震え、空間がその振動に追いつかず、歪んでいるかの様だ。
「!!」
それは、異常な力だった。
一体どんな力なのかは、わからない。ただ、本能的にわかる。人は、古来より天災を恐れてきた。なぜか? 圧倒的であり、そして判らない力だったからだ。その場所でいた全員が、それを感じていた。
勿論、途中で参戦してくれた男。《ジェイド》もその力には気付いていた。気づかない筈は無い。直ぐ後ろで恐ろしいまでの力が集束、それは大気をも震わせていたのだから。
「ッ!いったい何ですか……これは、この力は!」
ゴーレムへの追撃の手をも止め、思わず見入ってしまう程。軍人としては有るまじき行為。敵前で視線を反らせてしまうと言う愚行。ベテランである彼がそれを起こしてしまう程の現象。
それは、あの男から迸る凄まじいエネルギーからだ。
(これは……まずいっ!!)
その正確な攻撃範囲に関しては判らない。でも、本能的に判った。今の立ち位置が危ないと言う事を。
「ッ! 直ぐにその場から離れろっ!!」
アルは、ジェイドにそう叫んだ。この力の強大さは、自分自身がよく判るからだ。巻き込んでしまう事、そして巻き込んでしまえば、非常に危険だと言う事も。
だからこそ、力いっぱい叫んだ。
ジェイドはと言うと、アルのその言葉を訊く前に、既に回避行動を取り離れていた。あの譜術の危険度には肌で感じていたから。『今すぐ全力で回避せよ!』と、身体が信号を発していたから。
アルは、ジェイドが離れた事を確認すると、ゴーレムの方を向き手を上げた。
「これで最後だ! 永久に眠れ、土塊の巨人よ。 《インディグネイト・デストラクション》」
空に開いた扉。冥府への扉。そこから強大な三本の光が降り注いだ。光の柱がゴーレムを包み込み、そしてを包囲した。逃げられない様に、……逃がさない様に。
上空から見てみれば、ちょうど正三角の形になっている。
「グ!! オオオオ!!!」
ゴーレムは、自分自身に何が起こるか悟った、と言うのだろうか? 感情など持たない土の塊であるゴーレムが、明らかに動揺した素振りを見せ、回避行動をとろうとしていた。決死に、その場から離れようとする。……が、光の柱は敵を逃さない。包み込んだ光は敵の自由を完全に奪っていた。
降り注いだ三本の光の柱。上空で1つの束になった。
そのまま、巨大な、ゴーレムの身体よりも巨大な1つの光の柱となって巨大なゴーレムの頭上に降り注いだ。
火山が噴火した……とでも言うのだろうか? 術発動前から迸っていた大気の震えがその技の大きさを予期していた様だ。それは、凄まじい破壊力。
比喩ではなく、まさに神の裁きと言える一撃だった。
光を浴びたゴーレムは、もう叫ぶ事も無かった。光を浴びたその一瞬で、頭の部分が消し飛び沈黙。そして、それは頭だけに留まらなかった。身体に光が浴び続け、……そして、数秒後には、ゴーレムの姿形、全てを残さず消滅していったのだった。
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