Tales Of The Abyss 〜Another story〜
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#12 マルクト軍艦タルタロス
〜3週間後〜
アクゼリュスの町から場所は変わり、ここはマルクト軍の軍艦タルタロス艦内。
そこで彼は目を覚ました。
「ん……ぁ……」
意識が覚醒していき、ゆっくりと瞼を開いた。まだ、上手く身体を動かす事が出来ない。でも、目を開く事くらいは問題なく出来た。暗闇、だったけれど、意識が戻ってから、瞼の裏でも、僅かながらの光が見える。
「ん……… あ…… あれ?……ここは、いったい……」
目を完全に開けると……そこは知らない、身に覚えの無い所の天井だった。そして、何やら身体が揺れてる様にも感じた。アルは、目を開けると同時にこれまでの事を思い返す。
「は……はは…… オレこんなの多いな…… 目が覚めたらどこか……わかんないって言うの……」
そう、以前もこんな感じだった。目を開けると見知らぬ天井が見えるこの状況が短時間で何度も起きるなんて、と苦笑しながら アルは上半身を起こした。
「とりあえず、オレ 生きてる……みたいだ。それにしても、妙な声が又聞えてきたけど……。やっぱり、なんだったんだろう……ん?」
アルは、部屋の壁にある窓を覗き込んだ。景色が……目まぐるしく移動している。
「なんなんだろう、ここは……。窓の外が動いてるし……、振動も。 ……乗り物の中……かな?」
そう思い、今度は窓だけでなく、周辺を見渡した。だけど、そこには備え付けられている椅子はあるものの、自分以外には誰一人いなかった。後、見えたのは様々な器具。……判るのは、清潔感がある医療器具らしき器具が沢山ある部屋だと言う事。
医療室と言う言葉が、ぴたりと当てはまる。
「状況が……あまり掴めないけど…… とりあえずは人を探そう…… 何とか身体、……動けるみたいだ」
以前と違って、何度か手足を動かし、そして肩を回す。……問題なく動ける。そこから、意識を失ってもそう時間は経ってないだろう、と判断した。
……実際には3週間経っているのだが。
そんな時だ、突然 静寂な部屋で、機械が作動している音、作動音以外は殆ど無音である部屋で がちゃりっ、と言う音が響いた。……どうやら、ドアを開ける音の様だ。開かれたドアの方を反射的に見てみると。
「「あ!!」」
そこには髪が緑色でちょっと中性的な顔立ちの男の子(?)と人形を背負った女の子がいた。目があった。
(あれ…… この人たち、見たことある、様な……)
目が合った時にアルは考えていると……。
「わーーー!!おーーーきたーーーーー!!」
女の子の方が、突然大声を、大絶叫を上げた。締め切った部屋にその音は激しく響き渡り、その全方位の凶悪な音波攻撃は、正確にアルの耳の中に直撃した。キーーンっ! と言う音? が聞こえた気がするが……、それよりも。
「わぁぁぁ!! み、耳がぁっ!」
響いた音は、鼓膜を思い切り揺らし、衝撃を与え続けた。アルは、その少女の絶叫で耳を塞いで悶絶してしまったのだ。
因みに、女の子の隣にいた男の子の方は笑顔で、耳を塞いでいた。
「あ、ははは……。どうもすみません。 でも、目が覚めてくれて、本当によかったです。お身体の方は……、大丈夫ですか?」
男の子が笑いながら話しかけてきた。でも 何処か心配をしてくれている、と言うのも感じた。
「あ……ははは……、う、うん。だいじょう……、いや、耳以外は……だけど……」
アルは、苦笑しながら答えた。先ほどの大絶叫での音波攻撃がなければ、多分健康体の筈だったから。
それも、幾ら大絶叫でも、所詮は人間のものだし、一応……攻撃じゃないし。彼のその声も辛うじてだけど聞こえる。
「ははは、そうですね。アニス!!怪我人の前で 突然そんな大声を上げちゃダメじゃないですか」
隣の女の子に注意をしていたけれど、悪気があった訳じゃなさそうだ。
「だーーってーーー、 彼、やっと目が覚めてくれたんですもん! イオン様も、私の気持ちわかるでしょ〜?」
そう言っていた。どうやら2人は 女の子のほうがアニスと言う名で 男の子の方がイオンと言う名らしい。
自分がいる事を忘れたかの様に、それはそれは、 楽しそうに言い合いをしていた。
「あはは……お楽しみのところ申し訳ありませんが……。ここはいったい……? それにオレ……どうなったんですか?」
まだ話している2人に アルはそう聞くとやっと返事が返ってきた。
「ああ……すみません。 貴方はアクゼリュスで魔物を討伐した後、倒れてしまったんです。 とりあえず町の医療設備だけでは、十分な医療を受けられないのでセントビナーまで貴方を運びました。といっても運んだのは僕じゃありませんが……」
イオンは 苦笑しながらさらに続けた。
「とりあえず、命には別状はなかったのですが、意識が戻らない原因がつかめないらしく…… これ以上何も出来ないといわれましてね。 で、それならばタルタロスの医療器具で十分と言うわけで、ここで治療の方を続けていました」
イオンからの説明は終わった。でも、その説明を訊いて、アルは素朴な疑問が生まれた。
「えーーっと。……なんで船の上の医療室で? そのまま病院の方が良かったのでは?」
そう、その事だ。
患者を移動させながら治療するよりは大きな病院で安静の方がいいのは当たり前だと思うし……、あまりこうはっきりと言いたく無いけれど、常識だと思う。
この部屋は比較的静かで振動はないのだが乗り物の上なのはかなり不安だ。
(まあ、もう起きる事が出来たから良いけど。―――……ん……良いの、かな??)
アルは自問自答をしていると……、イオンが答えてくれた。
「あははは 僕もそういったんですけど……ね。」
苦笑をしながら。そこにアニスも加わってくる。
「えっとねー。大佐があなたに、どーしても話を聴きたいって言って聞かなくってさ〜! 町では荒方、話聞いたみたいだけど、足りないって。 それに、タルタロスここの医療設備は、並じゃないから安心してよ。ってか無事だったし、イイじゃん!」
アニスが、目の横に《✩》が、出てくるかの様なばっちりなウインクをしながら、ケロリンっと話した。正直、アルは思う所は沢山ある様だけど。
「あ……いやっ、えーっと…… うん、もういいや…… それで」
アニスに何言っても、多分ケロリンっ、と回避されそうだったからとりあえず何も言わず、突っ込まないようにした。
絶対に間違いないのは、2人が命の恩人である事には変わりないから。
だけど、アルはもっとも大切な事を思い出した。
「ああ!!そうだ!アクゼリュスのみんなはっ……」
そう、あの時の事を思い出したのだ。あのゴーレムは倒す事ができたんだけれど……やはり心配だった。まだ、モンスターが全部倒せたかどうか判らないからだ。新たに、あんなモンスターが現れたら、と思ったら、不安が尽きないのだ。
「大丈夫ですよ」
アルが、最後まで言う前にイオンが話しをしてくれた。
「アクゼリュスの町ならば大丈夫です。……あの後、モンスターは少なからず現れましたが、その都度、マルクト軍の方たちが、撃退して下さって、もう、鉱山内も町も、以前の静かさに戻っているという報告もあったそうです」
イオンの話を聞いて、アルはほっと、肩をなで下ろした。真偽は判らないけど、イオンが嘘を言っているようにも、嘘を言う様にも思えないから。
「じゃあ…… 皆大丈夫……なんだよね……?」
「はい……。 ですが、ただ………。」
そこでイオンの顔が曇った。モンスターの驚異は去った様だが、新たな驚異が町を襲っているのだ。
「アクゼリュスでは、障気が……、坑道の奥より出てくる量が増えたらしいのです。 ですから、完全に安全とは言い切れません」
「え……っ!そんな!じゃあ町の皆は??」
アルは、それを訊いて、慌てて起き上がりイオンの肩を掴む。障気の話は、以前からガーランドに訊いていたのだ。……人体に非常に有害だと言う事を。これまでは、微量だったから、まだ大事には至らず、仕事には時間がかかるものの、問題なかったから。
「あー!ちょっと!!何をすんのよー!」
イオンに掴みかかったアルを見て、アニスが割って入ろうとするが、イオンはアニスを制した。
「アニス、良いんですよ。 アクゼリュスは、《マルクト》と《キムラスカ》の両国の国境付近に位置しています。そして今現在では、アクゼリュスは、マルクト帝国の領土となっています。……しかし 町への街道にまで障気の影響が出てしまい、マルクト側からでは、進むことが出来ないのです。……なので、マルクトから手は出せません」
イオンは更に続けた。
「なので……これからキムラスカに行き、マルクト陛下、ピオニー陛下の和平新書を届けるのです。 これが出来れば、キムラスカ側へ救援を求める事も出来ます。アクゼリュスを救う事もできますよ」
イオンに、一通りを説明してもらった。 両国が険悪な状況に有るのはサラとの勉強会の時、調べたばかりだった為、割と早く理解できた。だけど……だからこそ、不安も過ぎる。
「……マルクト、キムラスカ。……ずっと続いてる、睨みあいがそう簡単に……終結するのでしょうか……? その間にアクゼリュスの皆が……」
アルは、 不安の顔を隠せず、そう呟いていた。それを訊いたアニスが、イオンの前に来て。
「大丈夫! だってイオン様がいるから!」
そうアニスが高らかに宣言をした。人差し指を、ぴんっ! とアルに指しながら。
「……え?」
アルは自身は、よく解らず、国と国の間の問題に、何で彼がいれば大丈夫なのか? と、言う表情をする。どうやら、アニスは、そのアルの表情を読み取ったのか、
「あっ……! ひょっとしてアンタ! このイオン様の事……知らないの!?」
アニスは今度は『こいつ……頭大丈夫か?』って、感じの表情で言われた。でも、そんな風にいわれても、判らないものは判らない。
「うう…… うん……。 オレ、そう言えば君達の名前しか知らないから」
ちょっと申し訳なさそうにアルは、そう答えると、アニスは更に呆れた様に話をした。
「そうだとしても! 導師イオンの名前くらい知ってるでしょー! この御方をー!」
アニスが突っかかるように言ってくる。でも、イオンがアニスの腕を掴んだ。
「アニスっ!」
更に詰め寄ろうとするアニスの行動を阻止すると、アルの方を見て、謝った。
「すみません……。 僕からアニスの非礼をお詫びします。貴方の事は、町の人たちに聞きました。記憶障害ですよね。 ……彼が僕達の事を知らないのは当然なんですよ、アニス」
イオンはアルに頭を下げた後、アニスに言い聞かせる様に話した。
「……えっ?」
アニスは、その事は知らなかった。……イオンの傍からは離れない様にしているんだけど、すぐに単独で何処かに言ってしまうから、その間に訊いたんだろう。
「……あっ、そーだったんだ。 その……ごめん……。」
だから、アニスは素直に謝った。だが、アルから返ってきた言葉は意外な言葉だった。
「いえ……、えっ……と? イ……オン……? ローレライ教団の……トップである 導師イオン……、 貴方がそうだったのですか?」
イオンの顔を見て、その名前を呼び、驚きの表情でアルはそう言っていた。
「「え!」」
アルのその返答に2人は驚いていた。彼は記憶が無いと言っていたのに、イオンがどう言う存在なのかを知らないのだと思っていたからだ。
「もしかして、記憶が戻ってたのですか?」
アルにイオンがそう尋ねた。
「いえ……、アクゼリュスに滞在してた時、オレ、勉強しましたから。色々と。……ですから、完璧……とまではいきませんが、ある程度はわかります。流石にイオン様の容姿まで知らなかったので……」
アルは、苦笑しながら頭を掻く。それを訊いたイオンは。
「へぇ…… 貴方は凄い人ですね……」
イオンがアルを尊敬するような眼差しで見ていた。
「凄い………ですか? オレが……?」
「ええ…… 自分が誰かもわからないという、苦悩……そしてその孤独感は尋常じゃなかったと思います。 記憶障害と言う症例を持つ者は、決して多くはありませんが、僕は何度か相対した事がありますから、判ります。……それでも、貴方は常に前を向き行動しているように感じます。それは決して並大抵の事じゃ出来ない事ですよ。凄いです」
イオンはそう続けた。流石に、ここまで凄い凄いと、ストレートに言われたら、アルは照れてしまった様だ。
「い、いえ……。……きっと、オレが目を覚ました所が、良かったからだと思います。 アクゼリュスの町の人達と一緒だったからこそ、オレは、頑張れたんだと思います。 でも、……辛くなかったか。と言えば、それは嘘になります。 でも、あの町で皆と生活を共にして、オレは一人じゃないって思えたんです。だから、大丈夫だったんです」
少し照れながら……笑顔で話した。アニスもイオンも感心しっぱなしといった感じだ。記憶が無いという事はそれほど大変なのだろう。当事者なのに実感が湧かないのは、苦悩はあっても、孤独を感じた事は無いから。それはとても、満たされていた環境だったからと思いたい。
――……いや、間違いなく、孤独じゃなかった。
アルは、そう考えていた。
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