ドン=ジョヴァンニ
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第一幕その六
第一幕その六
「世の中には何でもそれなりの訳というものがありまして」
「それなりの?」
「そうです。四角が丸でないということもまた」
「貴方も私をからかうの!?」
エルヴィーラの怒りはレポレロにも向かおうとした。
「そんなこと言って・・・・・・あっ」
ここでジョヴァンニが姿を消したことに気付いた。
「何処に。一体」
「あっ、そういえば」
レポレロはわかって演技をした。
「何処かに行かれましたね」
「また私を置いて」
何故かここで嘆き悲しむエルヴィーラだった。
「折角ここまで来たのに」
「まあ旦那はそういう人ですから」
レポレロは嘆き悲しむエルヴィーラとは対称的に素っ気無かった。
「別に何も思われることは」
「あの悪党はまた私を裏切ったのね」
「まあまあ」
また怒りだしたエルヴィーラにレポレロが告げた。
「御聞き下さい」
「何を?」
「旦那にとっては貴女は最初の恋人でも最後の恋人でもないんですよ」
「私だけではないのね、やっぱり」
「はい」
エルヴィーラに対して頷きもするのだった。
「その通りです。ほら」
ここで懐からやたらと長い紙を取り出してきた。その白い紙には何かと書かれていた。見ればどれも人の、しかも女の名前であった。
「このカタログですが」
「そのカタログがどうかしたの?」
「あちこちで旦那が陥落させた女の人の名前が書かれているんですよ」
「何てことなの」
「エルヴィーラさん」
レポレロはさらに語りだした。
「これがうちの旦那が陥落させた美女のカタログです。私が作ったんですよ」
「共犯なの?」
「だったらよかったんですが」
少し残念そうな顔にもなったがそれは一瞬だった。表情を戻してさらに言うのだった。
「一緒に御覧になって下さいね」
「また随分と多いわね」
何だかんだでそのカタログを一緒に見るエルヴィーラだった。
「ええと?」
「イタリアでは六四〇人、ドイツでは二三一人、フランスでは百人」
「フランスが少なくないかしら」
「フランスにおられた時は短かったですから」
だからだというのだった。
「そのせいですよ」
「そうなの」
「トルコでもそうでして九一人、イギリスは三一一人」
「私の国ね」
「はい。そして祖国のスペインでは」
ジョヴァンニの祖国である。
「この国では?」
「もう一〇〇三人です」
四桁なのだった。
「一〇〇三人、その中にはですね」
「どんな人がいるの?」
「村娘もメイドさんも町娘もいますし」
様々である。
「伯爵夫人も男爵夫人も侯爵夫人もプリンセスもおられます」
「身分にはこだわらないのね」
「旦那はあれでも身分にはこだわらないんですよ」
ある意味において凄いことである。
「ありとあらゆる地位の姿格好の年齢の方々を」
「陥落させてきたというのね」
「ブロンドの娘さんは上品さを、鳶色の髪の方は貞淑さを、白髪は優しさを褒めて」
髪についてはそうであった。
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