ドン=ジョヴァンニ
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第一幕その五
第一幕その五
「旦那が陥落させた女の人は」
「恋をなくした女に新しい恋を与える」
ジョヴァンニは物陰から出ながらレポレロに告げる。
「それはいいことではないのか?」
「ただのこましでなければ」
レポレロの今の言葉は無視して美女の前に出た。そうしてそのうえで彼女に声をかけるのだった。
「若し、セニョリータ。いえ」
「いえ?」
「ミスですかな」
彼女がイギリスの女ということを感じ取っての言葉だった。
「若しかして」
「私がイギリス人とわかるのですか?」
「感じで」
「待てよ」
レポレロもまた物陰から出て来た。そうしてその美女をいぶかしむ顔で見ながら言うのだった。
「このシルエットは確か」
「そう。貴女はまさに」
「!?貴方は」
美女はジョヴァンニの言葉を聞いているうちに目を顰めさせた。
「この声、その顔は」
「何っ、まさかと思うが」
「ドン=ジョヴァンニ!」
「ミス・・・・・・いやドンナ=エルヴィーラ!」
驚きのあまりスペイン語で呼んでしまったジョヴァンニだった。
「ここにも来たのか!」
「遂に見つけたわこの悪党!」
ドンナ=エルヴィーラはきっとしてジョヴァンニに告げた。
「ここで会ったが百年目、故郷のセヴィーリアに戻っているのは聞いていたけれど」
「よりによってこんな場所で会うとは」
「この悪魔!悪党!ペテン師!女たらし!山師!!」
エルヴィーラはヒステリックに喚く。レポレロはその喚きを聞いて呟いた。
「まさにその通りだな。旦那を知るにはうってつけだよ」
「まあ落ち着け」
ジョヴァンニはうんざりした顔でエルヴィーラに言った。
「落ち着くのだ。いいか?」
「私にあんなことをした癖に」
しかしエルヴィーラのヒステリーは止まらない。
「私の家に忍び込んで誘惑して夢中にさせて」
「そうだったよなあ」
レポレロはエルヴィーラのそんな言葉を聞いて呟いた。
「あの時もなあ。旦那は見事だったよ」
「私を花嫁にするなんて言ったりして三日後には消えて」
「そうだったかな」
「そうよ。そして私を悲しみの中に置いたのよ。貴方を愛したばかりに」
「それには理由があったのだ」
だがジョヴァンニは苦しいながらも反論する。
「そうだったな」
「え、ええ」
いきなり話を振られたレポレロは咄嗟に言い返したのだた。
「その通りですとも」
「理由が?」
「そうです。あったんですよ」
レポレロは慌てて身体中から冷や汗をかきながらエルヴィーラにも答えた。
「実はね。そうだったんですよ」
「あれが裏切りや浮気でなくて何なの?」
しかしエルヴィーラはさらに言うのだった。
「けれそ公平な天の神が貴方に会わせてくれた。復讐の為に」
「レポレロよ」
ジョヴァンニはここでレポレロに告げた。
「ありのままを話せ」
「事実をですか」
「そうだ。事実だ」
事実を言えというのだった。
「いいな」
「何をお話すればいいんですか?」
レポレロが知っている事実は一つではないらしい。
「それで何を」
「そうだな。何から何までもだ」
ジョヴァンニは特に考えることなく素っ気無く述べた。
「わかったな」
「はあ。それでは」
「あの、エルヴィーラさん」
レポレロはジョヴァンニの言葉を受けてからエルヴィーラに顔を向けて言うのだった。
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