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ドン=ジョヴァンニ

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第一幕その七


第一幕その七

「冬は太った方、夏は痩せた方がお好きで大柄の人も小柄の人もそれぞれで」
「本当に拙僧がないわ」
「御年寄りはカタログを増やすため。けれど」
「けれど?」
「旦那が一番好きなのはまだおぼこい娘さんですね」
「そういう娘が好きなの」
「はい」
 こう答えるのだった。
「とにかく貧しかろうとお金持ちだろうと美人だろうが不細工だろうが」
「何でもなのね」
「スカートをはいていればもうそれだけでなのですよ」
「何て人なの!?」
「さて」
 エルヴィーラがここまで聞いてさらにエキセントリックになり自分から注意が逸れたのを見てレポレロも。こっそりと動くのだった。
「わしもこれでな」
 彼は姿を消した。後に残ったのはエルヴィーラ一人だった。その彼女は一人で怒りに震えていた。
「あの悪党はそんな調子で私を裏切ったのね。あの男は」
 わなわなと震えている。
「私の心を裏切ったあの男」
 きっとした顔になる。
「復讐をしてあげるわ。何があろうとも」
 こう決意して何処かへと去るのだった。また一人ジョヴァンニの敵が生まれた。
 その頃セヴィーリアのすぐ側の村では。村人達が夜だが祭を開いていた。そうしてその祭の中で口々に祝いの言葉を述べていた。
「おめでとう!」
「おめでとう!」 
 まずはこの言葉からだった。
「ツェルリーナおめでとう!」
「マゼットおめでとう!」
 祝福の言葉を述べながら若い二人を囲んで。それぞれワインを飲み御馳走をたらふく食べて楽しく騒ぎ歌い踊っているのだった。
 そこにいるのは太り気味の黒髪の青年だった。顔もやけに丸く人懐っこい顔をしている。見れば晴れ着であるがまさに農夫の格好だ。
 もう一人は小柄で浅黒い肌のまだ少女と言ってもいい年齢の女だった。髪は黒く縮れ気味でそれを上で束ねている。目は大きく黒いものではっきりとしている。唇は赤く大きい。顔立ちは可愛らしいものだがどういうわけかよく動く表情でしかも利発さが窺える。服は白い婚礼用のドレスである。二人は並んで周りの祝福を受けている。
「さあ、祝おう」
「二人も飲んで食べて」
「もう食べてるよ」
 まずは若い農夫が皆の声に笑顔で応えていた。
「充分にね」
「私もよ」
「おや、マゼットはもうかい」
「ツェルリーナも」
「そうよ。ほら、言うじゃない」
 ツェルリーナと呼ばれた少女は笑顔で言うのだった。
「恋せよ乙女ってね」
「うん、確かにね」
「それはね」
 皆笑顔でツェルリーナのその言葉に頷く。
「それでツェルリーナは楽しんでるんだ」
「恋を」
「そうよ。時を無駄に過ごさない為に」
 ツェルリーナはにこにこと、しかもそこに利発を入れて言葉を続ける。
「胸の中で心が沸き立つのを感じたならそれを癒す薬はほらここに」
「胸か」
「つまりは」
「そう。楽しむのよ」
 自分の胸を指し示しながらの言葉であった。
「だから恋せよ乙女なのよ」
「さて、じゃあ僕も」
 マゼットと呼ばれた農夫も言う。
「愚かな喜びは短いけれど僕の喜びはこれからだから」
「いらっしゃい、マゼット」
 ツェルリーナの方からマゼットを誘った。
「そして楽しみましょう」
「うん、そうしようよ」
「歌って踊って奏でて」
 ツェルリーナの笑顔での言葉が続く。
「そして楽しみましょう」
「この楽しい喜びを」
「ほう」
 丁度この場にジョヴァンニがやって来た。ツェルリーナを見てまず目を止めた。
 
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