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ソードアートオンライン 弾かれ者たちの円舞曲

作者:斬鮫
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第参話 《第一層ボス攻略戦》〜中編〜

 
前書き
今回は第参話の中編です。
先に前編を見ることをお勧めします。 

 
「よう、シキ」
誰だ、お前……?
「お前は俺を知らねえよ。俺はお前を知っているがな」
で、何の用だ。
「何の用もないさ。ただ、俺はお前に言っておかなきゃいけないことがあってね」
言っておかなきゃいけないこと?
「ああそうさ。ちょっと忠告にな。……話は変わるが、お前自分の起源ってものについて考えたことがあるか?」
無い。
「だろうな。俺はあるが、まぁ、今そんなことはどうでもいい」
結局何が言いたいんだ。
「そうだな……。起源ってのはそいつの根本に住んでるもので、そいつを『そいつ』として形作ってるものだ」
それで?
「お前の起源は最も注意が必要なもので、言っちまうと『殺意』だ」
殺意、だと?
「そう、殺意だ。お前は根本的な所で人を殺したいと思っている。だが、それを必死に理性で押さえつけてる。……違うか?」
…………。
「図星みたいだな。まぁ、言いたいことはそれだけだ」
……まえ。
「ん?」
お前は、何だ。
「俺か? ……そうだな。名前はまだ無いが、敢えて名乗るなら、我、(かげ)(なり)、故に『影也(かげや)』とでも名乗ろうか」
影也……?
「……じゃあな、シキ。もう二度と会えないことを祈ってるよ。……互いの為にな」
名前なんて聞いてない! お前は――――。

      ○●◎

「ん………」
窓から流れこむ陽光を恨めしく思いながらも、目を開き身体を起こす。
寝ぼけたふらふらした足取りで部屋から出、部屋のある二階から一階へと降りて洗面所へ行く。
ばしゃ、何度か顔に半透明の水を叩きつけ、手元にオブジェクト化させてあったタオルで顔を拭く。因みにこのタオルはどの部屋にも必ず一つは置いてあり、宿屋から持ち出すと自動的に元あった場所に戻る仕組みとなっている。
「…………?」
違和感を感じ、顔を上げて鏡を見る。
鏡そのものに書かれた線も、そこに映っているシキの顔も、シキに書かれた線も変わらない。だが……。
「何か、変だ」
鏡に映った自身の顔を指でなぞって呟いた。
鏡に書かれた線も指でなぞっていく内、違和感の正体を掴んだ。
「線の途中に、点が……?」
違和感の正体は、点だった。
点は鏡に書かれた線の途中途中にあり、その大きさも大小様々だった。
「……まぁいいか。それより今は――ボスとの戦いに集中した方がいいな」
右手を軽く振ってウインドウを呼び出し、いつもの黒一色の布装備を身に纏う。視界の端の時計を見、時間がまだ残っていることを確認し部屋へ戻るべく洗面所から出た。
「うん……?」
部屋に戻ると、いつの間にか支度を終え窓の脇の椅子に腰掛け本を読んでいるシンがいた。
「起きてたのか」
「起きたのは今さっきだ。お前こそ、時間までまだ余裕あるじゃないか」
本を閉じて、シキを視界に入れた。
「チルノは?」
「まだ見ていない。大方、まだ眠っているんじゃないか?」
ウインドウに本を格納し、椅子から腰を浮かす。
軽く背伸びして、シンは一言だけ、
「さて……今日は頼むぞ? リーダー」
「善処するさ」
そんな皮肉にシキは苦笑で答える。
ただの娯楽(ゲーム)に過ぎなかったはずの世界は、死を孕んだ世界へと変貌した。そして今日初めて、大多数のプレイヤーが組み、第一層ボス――《イルファング・ザ・コボルドロード》との死闘が始まろうとしている。

      ○●◎

集合時間の五分ほど前に集合場所へと行くと、既に他の三人は来ていた
「よう。全員集まってるみたいだな」
軽く手を上げて挨拶を寄越すキリトと小さくお辞儀するアティ、そして何の反応も示さないアスナ。
「…………」
アスナのその態度がシキに一年ほど前の自分を想起させたが、即座にそれを頭から追い出す。
「んじゃ、決意表明よろしくな。リーダーさん」
「おいてめぇ、これ以上俺に面倒事押し付けるなよ」
そんなキリトの無茶振りに笑い混じりの声で返す。
「決意表明じゃないが、簡単な指示を出す。今回の大規模戦闘での俺達F隊の役割はE隊と周りの《ルインコボルド・センチネル》の殲滅が目的になる」
「そんなのいつ決まったんだ?」
キリトの至極最もな問いに「ついさっきだ」と答える。
「因みにE隊はキバオウが指揮しているが――まぁそれは今どうでもいいな。とにかく、センチネルの殲滅が俺達の仕事だ。仲間が頼れない場合は個人の判断で何とかしろ。最後に、敵を倒すことよりも生きることを優先しろ。絶対に死ぬな」
以上だ、と締めくくるとほぼ同時に後ろから聞こえた「おい」というおよそ友好的でない声に、シキは振り返る。
そこにはやはりと言うべきか、キバオウがいた。
「何だ? キバオウ」
「何だ、やないわ。朝イチのリーダー会議でも言ったけどな。ジブンらは後ろに引っ込んでどいて――――」
「嫌だね」
至って無表情、そして無感情な声で返答する。
「アンタらの後ろに引っ込んでるなんて死んでもゴメンだ。それに、アンタらはどうせ経験値を奪っていく俺達を邪魔ににしか思ってないんだろうけど、それで死んだらとんだ笑い者だ。――まぁ、そうなりたいんだったら話は別だけどな」
最後に不気味な笑顔を見せつけると、キバオウは怒りの形相で、しかし自制して地面に苛つきを叩きつけるようにどしどしと歩いてE隊の元へと戻っていった。
「ハ――、いい気味ね」
「レディがそんなはしたない言葉を使うものではないぞ」
チルノは不愉快極まりないといった調子だったが、それを諌める渋いバリトンが流れた。
再びの背後から声にシキは振り向いた。
「エギル…………だったっけ?」
シキの向く先には、茶色肌の巨漢が佇んでいた。
「おいおい。人の名前くらい覚えようぜ?」
「失礼。人の名前を覚えるのは苦手でね」
キバオウに見せたものとは正反対の歓迎の微笑みを浮かべるシキ。
しかし、と前置きしてエギルは疑問の声を発する。
「何故君はあそこまで彼を嫌悪する? 確かに彼はベータテスターを憎悪しているようだが……君がベータテスターなわけではないのだろう?」
「……そうだな。単純に、ああいう誰かに差別的な目を向ける奴が嫌いなだけだと思う」
根も葉もないことを苦笑いと共に吐き出して、追求を逃れたい思いを抱き空を仰いだ。
それを察したのか、エギルはそれ以上追求せずに、
「俺達が前線を支えてやる。その代わりに雑魚どもの始末は任せるぜ」
にかっと笑って仲間のB隊の元に戻っていった。
しばし、沈黙。
「みんな、いきなりだけど――ありがとう! たった今、全パーティー四十八人が、一人も欠けずに集まった!!」
おおおっ、と周りのプレイヤー達が歓声を発する。
ディアベルはぐるりと周りのプレイヤーを見回し、満足げに頷いて右拳を天へと向けた。
「今だから言うけど、オレ、一人でも欠けたら今日は作戦を中止しようって、そう思ってた。けど……そんな心配、みんなへの侮辱だったな! オレ、すっげー嬉しいよ。こんな、最高のレイドが組めて……」
笑う者や口笛を吹く者がいれば、同じように右手を突き上げる者もいる。
ディアベルは両手を広げて喚き声を鎮めて、
「みんな……もうオレから言えることはたった一つだ!」
青髪の騎士は剣を引き抜き天に向け、言った。
「……勝とうぜ!!」
ディアベルの声に応じる鬨の声は、洪水のように耳を震わせた。

      ○●◎

所変わって白い部屋。
「ねぇ」
いつものようにチェスを差している二人の内、青髪の少女が言う。
「何かな?」
「いえね、気になっただけなのだれど」
言いながら、男の黒い兵士(ポーン)を自軍の白い兵士(ポーン)で倒す。
「彼、完全な覚醒には至ってないんじゃない?」
そうだな、と男は頷く。
「まぁ、仕方ないとは思うがね。私にとっても彼の覚醒は予想外な程早い」
だが、と歯切れの悪い台詞を残す。
「だが、なに?」
「……いや、気にしないでくれ。王手(チェック)
思案する素振りも見せず的確に駒を動かしているあたり、こいつは脳が二つあるのではないかとすら思う。
「……それで、他の覚醒の兆しは?」
「無い」
男は駒の動かしながら断言した。
「本当に?」
「私を疑うかい? まぁ、無いものはないで変わらないのだけれど」
素っ気なく言って、男は椅子を軋ませる。
「焦ったところで意味などない。私が君に言えることはそれぐらいかな」
「……そうだけど」
小さく項垂れて、少女はよく解らないとでも言いたげな表情で顔を起こす。
「でも、貴方だったら強制覚醒だってできるでしょう?」
その言葉を聞き、男はしばらく唖然とした表情だったが、その内に口の端を小さく歪めた。
「確かに私と、そして彼がいれば、それは出来るだろう。だが、そうはいかない。強制覚醒をしてしまえば、私が真に見てみたいものが見れなくなってしまう。……私の些細なこだわりだがね」
軽く肩を竦めて、男は立ち上がる。
「何処へ行くの?」
「少し、ゲームを盛り上げる為の下準備にね」
そう言い残し、男は白衣を翻して部屋に唯一ある木製の扉(勿論これも白一色)を押し開け、外へと踏み出した。
「あ、ちょっと!」
呼び止めようとしたが、もう男は扉を閉め終わったところで、少女の呼びかけは無駄に終わった。
「ああ、もう。もう少しで私が勝ったのに」

      ○●◎

「……行くぞ、みんな」
ボス部屋の前の大扉でディアベルが立ち止まり、振り向いて銀色の光を放つ長剣を高々と掲げる。大きく頷いて、皆を見回す。
四十七人のプレイヤー達も同じように自身の得物を抜き、天へと掲げる。
ディアベルは青い頭髪をなびかせて扉に向き直り、扉の中央へと置いて、
「――――勝つぞ!」
短く叫んで、思い切り扉を開いた。

第一層のボス部屋は奥へと延びる長方形型の空間だった。左右の幅はおよそ二十メートル、奥までは百メートル程度だろう。
「(意外と広いな……)」
シキがそんな感想を抱いた直後、暗闇に沈む部屋の左右の壁から吹き出た暗いオレンジ色の炎が粗雑な松明を燃やす。
炎は段々と奥へ走っていき、最後の松明に火が灯った数瞬後に内部のしっかりした構造が確認できた。
ひび割れた石床や壁。その各所をおどろおどろしく彩るのは大小様々のドクロ。そして部屋の最奥には、粗雑ながら巨大な玉座に座する何者かのシルエット。
リーダーである青髪の騎士は高く振り上げたままの銀の刃を、さっと振り下ろした。
それを合図に四十八にも及ぶプレイヤーの群れは大音量の鬨の声を発しながら大部屋へと雪崩込んだ。
コボルドの王、イルファング・ザ・コボルドロードは多数の侵入者を確認してか、鋭い乱杭歯が並ぶ(あぎと)を開いて天高く咆哮を挙げた。
かくして、(フル)()()()のパーティーとコボルドの王とその親衛隊の戦いが始まった。

      ○●◎

「スイッチ!」
その鋭い声に身を弾かせ、後方にステップで下がる。
それと入れ違いにキリトが《ルインコボルド・センチネル》とシキの間に割って入る。
キリトは直ぐ様片手剣用ソードスキル《ホリゾンタル》を発動させ、全身を固められた装甲の隙間である首元を深く切り裂いた。
「ナイス」
「そっちこそ」
互いを称賛し合った後、更に隣のセンチネルを切りつける。
ベータテスト時、センチネルの数は三体だったが、今回の正規版では五体と大幅に増えている。しかしコボルドロードには大した改変はされていないらしく、本隊のパーティーに苦戦している印象は無い。
「……っとぉ!」
シキに向かって振るわれた片手剣を上体を大きく反らして躱す。
センチネルが僅かに硬直した一瞬に片手剣を持つ右腕の線を断ち、顔面を上下分割するかのように横に向かって書かれた線を切り裂く。短い間を置いてセンチネルが爆散する。
「グルウオオオォォッ!」
苦痛の雄叫びを挙げ、コボルドロードの四段のHPバーの一本目が全損する。それと共に新たなセンチネルが五体現れる。
「キリがないな……」
小さな舌打ちを打って、シンはセンチネルを殴りつける。
入れ替わりにチルノが赤い大剣を振り下ろし、センチネルにトドメをさす。
「確かにな。まぁ、こっちもキツイってわけでもないが」
シンの呟きにシキはそんな台詞を返す。
更にキリトとの連携でアスナの細剣(レイピア)がセンチネルの喉元を正確に捉えた。
「グオオオルルルゥゥッ!」
シキ達から離れた部屋の奥からコボルドロードの叫び声が聞こえてくる。二段目のバーが消え、更にセンチネルが追加。
「ちっ、多いっての」
そんな風に悪態をついて、シキはセンチネルに飛び掛った。

      ○●◎

「…………」
シキ達が戦っている様子を微笑しながら見ている、一人の男がいた。
ほっそりした体躯、顔は端正で金髪に糸目、そしていかにも暑そうな濃い紫のマントと同色の劇役者のような衣服を纏っている。
「…………おや?」
ぴくりと金の眉を動かし、その目を闖入者へと向ける。
そこには、あの真っ白い部屋にいた白衣の男がいた。
「…………」
「何の用かね? いや、君が私に会いに来る理由は限られているが」
微笑を崩さず、劇役者のような男はともあれ、と芝居がかった動作でお辞儀する。
「ここに来たことは歓迎しよう。私は基本的に他者に頼られない生き方をしているものでね。どうも会話というものに飢えているのだ」
「アレは使えるか?」
不躾ともとれるその質問だが、劇役者風の男は顔色一つ変えずに頷いた。
「成程、つまりはこういうことかね? 私の手を借りたい、と」
「その通りだ」
間髪入れずに頷く。
「……ふふ」
口元を押さえて笑う劇役者風の男。
「何か?」
「いや、君がそこまで素直だと何か違和感がね」
くっくっ、と笑う劇役者風の男を尻目に、白衣の男は小さく溜息をつく。
「(……この男は扱い難いのが玉にキズだな)」
「さて、と。では――」
劇役者風の男は口元に凄絶な笑みを浮かべ、大きく天を受け入れるかのように腕を広げ、宣言した。
「――開幕といこう」

      ○●◎

シキは違和感とも言える何かを感じ、身体ごと反転させ振り向いた。
ゆらり、と入り口付近の空間が歪み、赤みがかった茶色の毛に包まれた腕が現れた。
「なっ……!」
肘部、二の腕と腕が完全に虚空から現れ、次いで同色の毛皮に包まれた脚部と右腕が姿を現す。
銅の鎧を身に着け、鈍い鉄色の光を撒く通常よりも遥かに巨大な両手(バトル)(アックス)を背負った巨大な体躯、飢えた病的なまでの沈んだ青銀の瞳、ヨダレが滴る鋭い牙が覗く、狼にも似た顔――。
「ま、さか」
ごくり、と思わず息を呑んだ。
そいつはにやりと笑うかのように口の端を吊り上げ、そして天へと口を向け、吼えた。
「グルウウウォッ!!」
モンスターのすぐ隣に全四段のHPバーが表示され、小さく申し訳程度の名前が表示される。
その名前は、《イルファング・ザ・コボルドクイーン》。
第一層に、二体目のボスが、出現した。 
 

 
後書き
斬鮫「どうも皆様、最近たるんでる作者No.1の斬鮫です」
チルノ「いきなり自虐?」
斬鮫「それはまぁ当然では? 一週間で上げるぜ(キリッ ってある友人に言ったのにそれを守れませんでしたからね」
チルノ「まぁそれはともかくとして、突如尺の都合で中編が出来てしまったわ。次は後編だ(キリッ って言った作者はどこにいるの?」
斬鮫「ちょ、ひどい」
チルノ「自業自得よ。今度こそ後編が出来るけど、時間がかかる可能性が否定できないわ。流石に一週間ぐらいで新作に上がってると思うけどね?」
斬鮫「ええ。流石に一週間あればなんとかなるでしょう」
チルノ「……フラグにしか聞こえない」
斬鮫「酷い…………」
チルノ「では後編で会いましょう。さようなら」
斬鮫「指摘や補足、アドバイス等お待ちしています。では、サヨウナラー」 
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