ソードアートオンライン 弾かれ者たちの円舞曲
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第参話 《第一層ボス攻略戦》〜後編〜
前書き
今回は参話の後編です。
前編、及び中編を読んでからの方がより一層楽しめることでしょう
亜人の女王が天高く雄叫びを上げ、斧を腰に水平に構えた。
「に、逃げ――――」
キリトが焦った声で叫ぶやいなや、コボルドクイーンはソードスキルを発動させた。
周囲にいた槍を主武装とするH隊の一部、更にキバオウが率いるE隊のメンバーが横薙ぎに払われた巨大な斧に巻き込まれ、無数のプレイヤーが大きく宙を舞った。
彼らをふっ飛ばしたソードスキルは、水平に回転斬りを繰り出す両手斧用ソードスキル《スピンストライク》。両手斧系統のソードスキルの中では、比較的威力が弱いスキルではある。が、この低層でプレイヤーが使うのと同じでも、ボスが使うものでは補正などが加算されるので比較にならない。
宙を舞っている殆どのプレイヤーがHPを半分程度奪われ、受け身も取れずにひび割れた地面に落下した。
「ちっ……!」
小さく舌打ちして、距離をつめクイーンに飛び掛るシキ。
だが、クイーンは思いの外素早く、ハルバードにも似た戦斧の柄で防御される。
「グルアッ!」
短く叫び、シキを弾き飛ばす。
シキが着地すると同時にその長いリーチの斧を振り下ろしてくる。
「シキ!」
シキと頭上から迫る斧との間にチルノが割り込み、受け止めた。
自分の体躯よりも大きい刃にも物怖じせずに受け止められるあたり、この少女のことを流石だと評価せざるを得ない。
「うらぁっ!!」
おおよそ女の子らしくない勢いの良い声を発し、斧を押し返す。
クイーンは跳ね返された斧を勢いに任せ身体をぐるりと回転させ、そのまま回転斬りを繰り出す。
「危ないっ!」
そんな声が流れ、チルノとシキを押しのけるとほぼ同時に二人の眼前で斧と剣がぶつかり、派手なライトエフェクトと金属音が鳴り響いた。
「大丈夫ですか?」
アティが言いながら、剣に目を落とす。
「貴女の方こそ大丈夫? その剣もう……」
「はい。もう駄目ですね」
少しの躊躇もなく言い切って、アニールブレードを捨てる。
ヒビの走った片手剣は地面に落ち、カシャンと音を立てて刀身が砕け散った。
「……で、どうする?」
「倒すだけだ」
ベータテスターであるキリトの不安の混じる声にも動じず、シキは素っ気なく言う。
「だが、キリト、アスナ、それとシン。お前らはディアベルの所に行け」
「何で?」
アスナの静かな問いに、シキも静かな声で返す。
「コイツを倒す為にはディアベル達の加勢が必要だからだ。ディアベル達本隊の加勢を得るにはコボルドロードを倒さなければならないからな。だが、コボルドロードを倒す為にこれ以上人員を割いてしまえば、全員が助かってボスを倒すことは不可能となってしまう。……無茶を言ってるのは解ってるが、それを承知で頼む」
「……仕方ない」
諦めの溜息を吐き、キリトは頷いた。
「だが、絶対に死ぬなよ。俺達が上手くやってもお前らがしくじったら意味無いんだからな」
「それこそ解ってるさ」
にやりと笑い、シキとキリトは軽く拳をぶつけ合ってから、それぞれの標的へと向いた。
○●◎
「さぁて、いっちょ何とかしてみますか」
笑ったまま、シキはコボルドクイーンを見据え、見据え―――ー溜息を吐いた。
「どうしたの?」
「線が見えん」
その笑みは苦笑へと変わり、その青い目でチルノを捉える。
やはり、線とその途中に点在する点は見える。
だがコボルドクイーンにはそれが両方とも見えない。
厳密には見えないのではなく――。
「見辛い、か?」
見えないのではなく、コボルドクイーンの身体に走る線が極端に薄いのだった。
「……線の見えないシキって、三年間鍛錬積んでない剣道家と同じようなものじゃない……」
「例えが解りづらいっての。……まぁ、作戦会議といこうか」
遠くで斧を振るっているコボルドクイーンに視線を走らせる。
「まず……アティ」
「は、はい」
「剣が無いが、代わりはあるのか?」
アティは少し逡巡してから、「はい」と頷いた。
「そうか。ならアティとチルノは前衛で時間を稼いでくれ。俺は行動遅延食らってない奴らと周りの連中を避難させてから戻る」
「了解」
「解りました」
二つ返事で頷いてくれる二人の剣士がこの上なく頼もしく思えた。
「それじゃ、行くぞ」
コボルドクイーンは大きく沈んだ青銀色の瞳で複数の敵を認識し、顎を限界まで開き吼えた。
「グルルルオオォォ――――……」
その叫びが急に止み、何事かと訝しみ違和感の原因を探ると、
「…………!」
アティが天へと腕を上げていた。
それだけでなく、アティの全身から碧色の光が溢れだしている。
「……『このアティが盟約に基づいて呼ぶ』……」
小さく開いた口から言葉が流れ出す。
「『我、汝を求め、汝、我を欲す』」
碧色の光はより一層強さを増し、アティは叫んだ。
「来て下さい! 『碧の賢帝』!」
その叫びでアティの振り上げた手元がガラスにヒビが入ったかのようにピキピキと音を立て傷のようなものが現れた。
ヒビの入った空間はガシャァァンと甲高い音を響かせながら砕け、中から一本の淡い碧の光を放つ剣が出現した。
「……はぁぁっ!!」
アティは剣を掴むと短く叫んだ。
剣を掴んだ直後、アティを包んでいた淡い光が一層強く輝いた。
「なっ……!」
光が治まるとアティの姿は一変していた。
髪色は赤から真っ白に、瞳は青から薄い緑に。
碧色の剣をその手に携えたアティは、
「……行きます」
顔を俯かせ、シキとチルノの表情を見ずにコボルドクイーンへと走った。
「あのバカ……!」
チルノが吐き捨ててアティの後を追う。
「あ、お前ら……っ!……ああ、くそ!」
シキも思わず吐き捨てて、だが自分の仕事を全うすることにした。
「おいお前ら! 行動遅延になってる奴らを連れて下がれ!!」
「いや、だが……」
「いいから早く! 死にたくないなら早くしろ!」
行動遅延を免れたH隊の四人はシキの切迫した響きの声に弾かれるように周囲のプレイヤーを抱え、アティとチルノがコボルドクイーンを引きつけている間に彼らは入り口へと逃げていく。
「これで何とかなるか。後は……」
シキは横目で二人を見やる。
チルノが攻撃をさばき、アティがその光る剣で斬りつける。
アティが斬りつける度に、コボルドクイーンのHPバーは異常な早さで減っていく。
「…………」
アティのその鬼神の如き戦い様はシキの胸中に恐怖と羨望を抱かせた。
そして、身を震わせて一言。
「…………嗚呼、解体してみたい……」
そこまで言って、気がついた。
「俺は今、何て言った……?」
いつの間にか歪んでいた口元。
それを自覚して、自分に嫌気がさした。
「くそ……! 訳が分からん!」
そんな風に悪態をつき、シキもセンチネルを片付けながらコボルドクイーンへと向かっていく。
○●◎
「おや……。正にジョーカーということか」
くっくっと劇役者風の男は笑う。
「何が可笑しい。お前の創造したボスが今正に死のうとしているだろう」
無表情をほんの少し歪ませ、白衣の男は問う。
「私はこの舞台劇を脚本通りに進める気は毛頭ない。全てを君の意思に任せる気は無いのだよ。今は君に従うが、私は元来根無し草の自由人。誰かの管理下に置かれるなどまっぴらごめんだ」
薄笑いを崩さず、ただただ言う。
「それに、私は役者のことではなく舞台を最優先して考えている。面白いか否か。エンターテイナーとして、私はそれを追求するのみだ」
劇役者風の男と白衣の男の思考は大きく異なる。
劇役者風の男は舞台を盛り上げるのみを考え行動している。白衣の男は――。
「さて……。これから君はどうするかね?」
「見物するだけではつまらない。私も脚本に踊らされてやるとしよう」
「――ハ。それでこそ、それでこそ君だ。私と同じく、自らの起源と快楽を根本とし活動する。そうでなければ、人間ではない――――!」
「違うな。私と君とは違いが多すぎる。欠陥が多すぎて人間から外れた君と、いつの間にか人間から外れていた私。この違いは明白だろう」
白衣の男の無遠慮な台詞に劇役者風の男は違いないと笑った。
「それでは、君に、君の信じる神のご加護があらん事を」
そんな台詞を残し、劇役者風の男は煙のように影も残さず消え去った。
白衣の男は小さく溜息を吐いて、
「……全く、私の周りにはどうしてこうも訳の解らない者ばかりなのだ」
○●◎
コボルドロードはキリトとアスナのソードスキルで、コボルドクイーンはシキの死線への一閃で終了し、松明の色が変わったボス部屋では、勝利の余韻に浸る者達が床にへたり込んだり、抱き合ったりしていた。
そんな中、トンガリ頭の男を筆頭に鋭い目つきの少年が取り囲んでいた。
「お前……。どないなことしてあのボス倒したんや」
「………………」
「答えい!」
キバオウの叱咤に、シキは小さく答える。
「知らねえよ」
「知らんやと……? そないなこと、誰が信じるっちゅうねん!」
キバオウは今までのウサを晴らすかのように声を張り上げる。
「まぁまぁ。全員無事で勝てたんだから――」
「勝てたとしても、こんないつ裏切るかも分からへん奴、受け入れられるわけないやろが!」
キバオウはディアベルの諌める声も聞かず、シキを責め続ける。
「大体、お前みたいなんはパーティーの和を乱す。トラブルの火種なんか置いとけるわけ――」
「アンタの言い分は分かったよ。要は俺が消えればいいんだろ? それじゃ大人しく消えてやるよ」
心底どうでもよさそうな態度で言って、シキは右手を振った。ウインドウからコボルドクイーンのラストアタックボーナスで手に入れた片手剣《ブレイド・オブ・カテドラル》を乱暴にディアベルに放る。
「そいつは選別だ。俺が持ってても仕方ないし、お前に渡しておいた方が攻略に役立ててくれそうだからな」
にこりともせず言って、シキは第二層へと続く扉を押し開けた。
無言のままシキは階段を登っていく。
彼の胸中には悲哀など無い。ましてや絶望など皆無だ。ではなぜ彼が無言なのか。
いつか、こんな日が来るような気がしたからだ。
「予想が当たるってのも、あんまり面白くないもんだよなぁ……」
そんな風に自嘲して、シキは階段を登り切った。
登り切った先には扉があった。扉を開け放つと、断崖の頂上に出た。
「…………」
その光景に絶句し、ある光景を思い出した。
それは子供の頃、父親や母親が死ぬ前に一緒に行った山の頂上の光景に、よく似ていた。
「――――よう。元気か?」
そんな声にゆっくり振り向くと、そこにはF隊の皆がいた。
「何で、来た?」
「勿論、仲間だからだ」
当然だとでも言いたげなシンの言葉に絶句する。
「お前ら、ディアベル達の話し、聞いてなかったのか……?」
「聞いてたわよ。でも、シキは別に一緒に来ちゃいけないって言わなかったし、ディアベル達からも言われなかった」
屁理屈ですけどね、とチルノの台詞に苦笑しながらアティが言う。
「……だけど、お前はヒーローだよ。お前がいなかったら、全員生き残ってボスを倒すことなんて、到底できなかった」
「ありがとう。シキ」
アスナやキリト達の言葉にゆっくり頷いて、
「こちらこそ、こんな不甲斐ない俺についてきてくれて、ありがとう」
心からの笑顔でそう言って、シキは「これからどうする?」と皆に訊く。
「俺は……ソロとしてやってくよ。クリアするにはレベルが必要だからな」
「私も同じく」
頑張れよ、と端的に励まして、シン達へと向いた。
「で、アティはどうするんだ?」
「私は……貴方達と一緒に行こうかな、と思ってます」
「…………大丈夫か?」
何がです? と首を傾げるアティ。
「いや、俺と一緒にいたら……」
「それこそ心配無用です。そんな程度で挫けるような女じゃないですよ。私」
ははっと笑って、シキは握った右手を前に突き出した。
「ほらみんな、手出せよ」
シキらしいな、と笑いながら右手の握り拳をシキの手の近くに持っていくシン。
はぁ〜、と呆れた風な溜息を吐きながらも笑って右拳をシキの手の近くに持っていくチルノ。
? と疑問気な顔をしながらも右手の拳をシキの手の近くに持っていくアティ。
たまにはこんなのもいいか、と失笑しながら拳をシキの手の近くに持っていくキリト。
くすくす、と小さく笑いながら薄い手袋をはめた拳をシキの手の近くに持っていくアスナ。
「よし、とりあえずお疲れさん。それじゃ、また全員生き残って再開できることを祈る! また会おう!」
「オーッ!!」
後書き
斬鮫「さて、今回もグダグダした後書きを始めましょうか」
チルノ「自分で言っちゃったよこの人」
斬鮫「気にするな!」
チルノ「まぁ、今回の後書きでは私の紹介をしていくわ」
PLネーム…チルノ(Chirno)
(リアルネーム…浅霧散乃)
身長…158cm 体重…46kg
年齢…14歳(中学二年生)
ヘアカラー…青
アイタイプ…青
性格…基本的に物静かだが、仲間を馬鹿にされたり胸や猫舌について追求されると簡単にキレる
特有のバグスキル…《エンゲージ》
備考…剣道有段者で、大会で直葉にもあったことがある。猫舌。(貧乳)
チルノ「…………」
斬鮫「えー、チルノのプロフィールはこんな感じですね」
チルノ「ちょっと待ちなさい斬鮫」
斬鮫「……何でしょう?」
チルノ「貧乳と書くなって言ったわよね……?」
斬鮫「あ、ちょ、ま……」
チルノ「問答無用! 死ね!!」
斬鮫「あぎゃあああああぁぁぁっ………」
シキ「…………。作者が死んだし、俺が代わりに解説しよう。チルノのバグスキルは《エンゲージ》といって、あたりと書かれたアイス棒型の剣《当たり剣》、スイカを半月状に切ったような薄刃の剣《スイカソード》、片刃の鍔の無い茶色の片手剣《チョコエッジ》二本と同じく鍔が無く先端が平たい黄色の片手剣《ウエハースブレイド》二本を召喚できるスキルだ」
斬鮫(シキが喋ってる間に復活した)「そして、それを結合させることで両手剣《バスタードチルノソード》を作り出すことが出来ます。…………因みに、彼女のスリーサイズは上から、73・64・74です」
チルノ「誰が言ってイイって言った……?」
斬鮫「じゃ、シキあとお願い!」
チルノ「待て! 逃げるな!」
シキ「…………はぁ。チルノの元ネタは『東方Project』ではなく、その二次創作の『ADVENT CIRNO』の主人公のチルノだ。プロフィールは殆ど適当に決めたものだから、この作品内での設定ということに注意してくれ」
斬鮫「ぎゃあああああぁぁぁ…………」
チルノ「あー、終わった終わった。ということで、ここまで読んでくれた皆さん、有難う。いつも感想、有難うね。斬鮫はいっつも返信する際には何故か指が震えてるのよね」
シキ「感動のせいじゃないか? では次回予告だ」
第三層、そこでシキはあるクエストを受けることになる。
簡潔に表現するとそれさえ達成できれば、ギルドが作れるというクエストだ。
クエストクリアの条件は簡単だ。しかしそんな表面上の難易度など比較にならない破壊者が、シキを待ち受けていた。
次回、《壊すモノ》
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