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Tales Of The Abyss 〜Another story〜

作者:じーくw
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#2 戻らない記憶


 助けられてから1日目は、歩く事すら億劫だったが、何とか歩行は問題なくなり、食事も手をつけれる様になった。……とても美味しかった。優しさと一緒に感じる事が出来て、思わず涙を流してしまった。
 サラにはとても、驚かれたけれど……にこり笑うと安心した様にはにかんでいた。


「ん………」

 そして、あれから数週間後。彼は家の近くに有る高台へ来て空を眺めていた。日に日に体の方は特に問題なく回復したが、肝心な所が判らないままだった。

「……やっぱり、何も思い出せない。オレは……いったい……、誰……なんだろう」

 それは、記憶だった。ただ、それだけが、いつまでたっても戻らなかった。その兆候すら無かった。名前は、判る。あの時・・・に訊いた・・・から。

「やあ おはよう、アル。どうしたんだい? こんなとこで」

 そこに恩人の1人であるガーランド。サラの父親の彼が此処にまで来た。

「あ、ガーランドさん。 ……特に、理由は無いですよ。ただ、この空を眺めていただけです。何処まで続いてるんだろうなぁって思いまして」



 そういうと彼は……アルは、笑顔のままだけど、少し表情を暗くさせていた。恩人であるガーランドにその表情を見せまいと、再び空を見上げ。

「そう、か……」

 ガーランドは 頷き、穏やかな表情のままアルの傍にまで来て。

「隣…良いかな?」
「……ええ かまいませんよ」

 そう言うと、2人は並んで座った。ガーランドもアルに続いて、この空を眺めた。


「記憶は……、 まだ戻らないようだね」

 空を眺めている間、暫く無言だったが、ガーランドは静かに話をした。

「……ええ」

 心配は、かけたくないけれど、それは紛れもない事実だったから、アルは頷いた。

「……君がさ。たまに、とても辛そうな表情かおをするんだ、と サラから聞いてね。オレも心配していたんだ」

 ガーランドは空を見ていたが、言い終わると同時にアルの方を向いた。

「私の友人にも、記憶障害を持ったものがいてな、何か…すごいショックを受けて発症したらしいんだ。 その後は根気いいケア、そして彼の故郷に連れて行ったことで何とか回復してな……。それでも約2年もかかったんだ。 君が不安な気持ちはわかるよ。あの時の奴を見ているようだから。 でも、大丈夫だ。記憶障害は何かのきっかけで起こるもの、いつか必ず無くした心の鍵が見つかり分かるようになるさ」

 それは、いつもの陽気なガーランドさんの表情じゃなく、凄く真剣な表情だった。
 真剣だけじゃなくとても優しい。ガーランドは少し頭を掻き。

「オレ本人がなった訳はないし。……不安な所を、無神経だったかもしれない、けど」
「い、いえ! そんな事……無いです。ガーランドさん… 本当にオレはあなた方にお世話になりっぱなし、ですから。……どうも、本当にありがとうございます」

 いったい何度目だろうか?
 本当に心優しき家族だから。何度言っても、幾らお礼を言っても全く足りないくらいだった。

「……ハハハ! 本当に礼は良いって、私も君には感謝しているんだ。いつもいつも、鉱山の仕事で、あまり娘にかまってやれていなかったからな。 ……特にここ数年はいろいろと問題があってさらに輪をかけて、サラを相手にしてなかったし、出来なかった。 ……君のおかげでサラは大分元気になったよ。こちらこそ、どうもありがとう」

 そう言って手を差し出した。そして2人は握手を交わした。

「あ!やーっとみつけたっ!」

 暫く2人で話をしていると、この高台の下から声が聞えた。

「おぉいっ! パパっ! アルおにいちゃんっ! あさごはんのじかんだよぉっ!」

 声の主はサラだった。両手をぶんぶん、と振って自分達を呼ぶ。日も高くなってきてどうやら、もうそんな時間だった様だ。

「うん。判ったよ」
「おー!判った!」
「ふたりともー! はやくきてねー!」

 サラは、アルとガーランドが返事をした事を確認すると、家の方へと走っていった。
 食事の手伝いの最中だったのだろう。

「さ!行こうか。今日も1日が始まる。1日の始まりは飯からだからな」

 そう言うとガーランドは立ち上がった。

「あの…ガーランドさん」

 アルも一緒に立ち上がり話しかけた。

「ん?なにかな?」
「オレに何か手伝える事は無いですか?体の方は何とか回復しましたし、動く事は全く問題ないです。……このまま何もせずにお世話になりっぱなし、というのも悪いので……」
「う〜む、そうだな。 ……力仕事は他にもあるけど……、今は人数は揃ってるし…… うーむ……」

 ガーランドは、アルの話を訊いて暫く腕を組みながら考えた。

「よし。なら私達が留守の間は私の娘の勉強相手になってくれないか?家庭教師ということでどうかな?」

 ぴんっ! っと人差し指を突き上げて答えた。ガーランドの、家の人たちの役に立てるなら、と思っていたけれど……。

「えええ! オレ役に立てるかどうか… それによく思い出せて無いですし。この世の中の成立ちも……」

 役に立てるかどうか判らない、と不安そうにアルは言うが、ガーランドは軽く手を振ると。

「ハハ! いいじゃないか、娘とともに勉強してくれ! 君が勉強する姿を見せればきっと娘も真似をする。娘は本当に君の事がお気に入りだから。父親としては、少し複雑、だがね?」

 苦笑いをしながらそう言う。父親と言うのは、そう言うものだろう。そして更に続ける。

「ほら、今の君の知識も広がるし娘も勉強する……。一石二鳥じゃないか。何かを思い出す切欠にもなるかもしれないし。……ああ、後もし鉱山の仕事で手を借りたくなったら 力を貸してくれ! ……これでどうかな?」

 最後に ウインクしながらアルを見た。

「……わかりました! よろしくお願いします!」
「ああ!じゃ まず朝飯だな。早くせんとレイとサラに怒られる。」
「あはは… そうですね。行きましょう。」

そう言うと、自宅へと帰っていった。家族が、皆が待っている家へと。

 
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