Tales Of The Abyss 〜Another story〜
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#3 秘密の場所
サラとの勉強会を、そして時には鉱山での仕事、主に力作業が多い為 リハビリも兼ねての仕事を手伝わせてもらって、更に数週間がたった。
身体の方は、どんどん良くなり 力も恐らくは以前と変わらない程までに回復しただろう。……その間、記憶こそ戻らないが、その代わりに様々な事を学べた。
この世界は、≪オールドランド≫と呼ばれるものらしい。
それは、どこかで聞いたことのある名前だった。サラとの勉強中に一番最初に心に響いた言葉だった。
ぎこちなく、不慣れだったし、決して家庭教師、等とは言えないと自分でも思えるけれど、それでも一緒に頑張って勉強を続けた。
この世界。……この世界を包み込むように存在する音譜帯。《6大音素》そして最近発見されたと言われる《第七音素》。それぞれには固有の属性を持つらしい。
中でも7番目の音素、≪ローレライ≫については存在は公式にはその存在は確認されていないらしい。
歴史上、接触に成功したのは≪ユリア・ジュエ≫のみであるらしい。
様々な事を覚える為に、何度も読み時には記した。……モノを覚えるのは、本当に大変だ。勉強の難しさがよく判る、と言うものだった。
だけど……そんな中でも判った事もあった。
「知識が増える事はとても楽しい事だったんだ……。うんっ」
アルは、本を読みながらつい声に出てしそう言っていた。モノを覚える事の楽しさを知れたから。自分の視野が、自分の中の世界が広がっていく、無限に広がっていく様な感じがしたから。
一緒に勉強をしているサラはまだ幼い。
世界の成立ちや情勢について学ぶのはあまりにも早い事だった。基本的な幼少期に学ぶ教本を一通り共に勉強していたのだが、その中で、世界のことについて記載されている本が見つかったのだった。ガーランドさんに聞いても知らない本だと言っていた。おそらくこのアクゼリュスへ立ち寄った学者か誰かが落としたものらしい。ここまで、綿密に記載されている教本など見たことが無いからだそうだ。
記憶が無いとは言え、サラに教える立場だし、簡単な計算や読み書きが出来るのは、本当に不幸中の幸いだとも思えていた。
「ふふっ、おにいちゃん すーっごく たのしそうなかおしてるよっ!」
夢中に本を読んでいたから、気づくのが少し遅れたけれど、サラが俺の顔を覗き込みながら話しかけてきた。サラの顔も終始笑顔。時折難しさ故にか顔をしかめる時もあったけれど、殆どが笑顔だ。
「ははは……、そうかい? うん 本当に楽しいんだ。オレのことは何も思い出せないけど……。 いろんなことが知れて。それに サラ、君と一緒に遊んだり勉強したりするのも凄く楽しいよ。自分の中で……過去の事より今って思えるからね?」
アルは、そう微笑みかけながら、サラの頭を撫でてあげた。
「えへへへ〜〜」
サラは撫でられるのが嬉しいのか、目を細めて気持ちよさそうに、笑っていた。そして、アルの目をはっきりと見つめて。
「わたしも おにぃちゃんが、げんきになってくれてうれしいよっ! あ、そーだ!!おにいちゃん おべんきょうもおわったし おそとにあそびにいこう! わたしのひみつのばしょ、おしえてあげる!」
「へぇー……秘密の場所?」
「うん! みんなにはないしょなんだ! おともだちのみんなにも、まだおしえてないんだ! さきに おにいちゃんにおしえようとおもって!!」
サラはそう言うとイスからピョン、と飛び降りると、アルの腕をつかんだ。
「いこう! おにいちゃん!」
「ああ、判った。うん、よろしく頼むよサラ」
アルは、現在の時刻を確認しながら、頷いた。今日の勉強を開始してから、大分時間も立っている。休憩も兼ねて遊んだ方が良いだろう。……それに、一緒に遊ぶ事も大切な仕事、いや、仕事とは思いたくない。大切な事だから。
その後、アルとサラは、サラの母親であるレイさんに一言 言いに行く。家の外にあるとの事だから。無断で外出するのは基本的にダメだ。心配を掛ける訳にもいかないから。
レイは、話を聞くと。
「あまり 危ないことしちゃダメよ? アルもしっかり見ておいてね」
「はい。任せて下さい」
「はーい!」
直ぐにOKを出してくれた。でも、鉱山は子供が遊ぶには危険がある場所だ。あまり 娘に危ない事をしてもらいたくないのは親なら当然の事だ。だけど、父親の仕事の関係で鉱山の町と言うあまりに寂しい場所に住まなくてはならない状況は親に責任がある。
サラは、基本的には凄く寂しがり屋だ。だが、それに比例したかの様に大変よくできた娘でもある。その事を、決して顔には出さないようにしているのだ。大好きな母親や父親に迷惑をかけたくない、と言う事も思っているのだろう。
だからこそ、父親が帰ってきた時は これでもかというほど、甘えている。しかし、それも中々難しくなっていた。
鉱山の中から《障気》と呼ばれる原因不明の人体に悪影響を及ぼす気体が微量ながら出てきたらしいのだ。
故に、安全を第一、としている為 奥での作業は困難を極め そして時間もかなりかかるようになっている。人員に、仲間に被害が出ないようにする為なので仕方が無いだろう。
……だからこそ、家族との時間も激減した。サラもその事を実感していたのだ。
そんな寂しい時が続く中で、サラは倒れているアルを見つけた。とても親しくしてくれ、一人っ子であるサラが「おにいちゃん」っと呼べる人に出会えたのだ。
――……そして サラは日に日に元気になっていった。
決して顔には出さないようにしていたが、親には分かる。それが2人とも嬉しくて仕方が無い。そして、アルと言う男の子(18歳くらいだろうか?)数週間共に生活をしていて信頼できる人だと言う事も判った。
――……この子にならサラを任せれる。
だからこそ、最愛の娘がこんなにも慕っているのだ。
「いってらっしゃーい あまり遅くならないでね!!」
「「いってきます!」」
見送ってくれたレイに手を振りながら、2人は家を出た。
サラはこの時も、甘えるように……しっかりとアルの手を握っていた。
「おにぃちゃんっ! いこっ」
「うん。行こう」
アルもしっかりと手を握り返しサラの案内の元、その《秘密の場所》へと向かい始めたのだった。
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