戦国異伝

「だから若狭からは多くの兵が向かうことはできませぬか」
「その通りです。ただ喜ぶべきことは若狭も丹後も国人衆の殆どが我等につきました」
　武田氏や一色氏だけではなくだ。彼等もだというのだ。
「両国はそのまま織田家のものになりました」
「そのうえで丹波を狙うのですな」
「我等が手に入れるのは丹波一国です」
　そうなっているとだ。丹羽は明智に答えた。
「そして主な相手は波多野氏ですが」
「その波多野氏ですが」
　どうかとだ。ここで和田が言ってきた。
「今は居城である八代城を拠点に守りを固めております」
「あの城にですか」
「はい。その守りはかなりのものです」
　和田はこう述べていく。
「八代城だけではなく多くの支城もあります」
「そしてその兵は」
「一万を超えております」
　和田は波多野の兵の数もだ。丹羽に答えた。
「それだけの兵でそこにいます」
「対する我等はここにいる一万にです」
　丹羽は自分達の兵の数の話をした。
「そして若狭、丹後の兵、全て合わせて一万程度です」
「では二万ですな」
　和田は頭の中でその兵の数を合わせてから述べた。
「波多野氏には優に勝てますな」
「いえ、ここはより多くの兵が欲しいところです」
　ここでも淡々とだ。丹羽は述べた。
「二万以上にです」
「二万以上にですか」
「そうです。丹波には波多野氏とは別に多くの国人衆がおりまする」
　ここでも国人だった。どの国にもいるのだ。
「その国人衆を取り込み我等に組み入れるべきです。そしてです」
「そしてですか」
「波多野氏の方も切り崩していきましょう」
　丹羽は彼等についても攻めるというのだった。兵を用いずにだ。
「そのうえで丹波のかなりの部分を手に入れてです」
「そうしてですか」
「最後に八代城に向かうべきです」
　順序も決めていたのだった。丹羽はそこまで考えていたのだ。
「そうしていけばこの丹波は手に入ります」
「成程。ではまずはですな」
　細川が述べてきた。
「国人衆についてですか」
「織田家に組み入れていくべきです」
「すぐに織田家に加わろうとする家もあるでしょう」
　自分達からだ。そうしてくる国人達もいるというのだ。
「そうした家を重く用いますか」
「はい、そうすれば態度を決めかねている家もこちらに加わります」
　要するにその所領を安堵するというのだ。国人達が最も気にかけているそのことをだ。
「他にもこちらから人が向かい国人達を組み入れていますし」
「新五郎殿達がですな」
　細川は林の動きを知っていた。林達はその弁や識見を使い都の周りの国人達を織田家に次々に組み入れていっているのだ。彼はこのことを言ったのである。
「そうしているが故に」
「そうです。我等はこのまま八代城に向かいます」
「そのことですか」
　ここでだ。明智が丹羽に言ってきた。その言うこととは。
「一つ考えがあります」
「考えとは」
「はい、我等のその波多野氏への切り崩しです」
　明智が言うのはこのことだった。
「このことですが」
「切り崩しですか」
「はい、それですが」
「では波多野についている国人達もまた」
「声をかけていきましょう」
　こう述べる明智だった。
「是非共」
「ふむ。敵の城自体を攻めますか」
「はい」
　まさにその通りだというのだ。そしてだ。
　それ以外にもだとだ。明智は庭に述べたのである。
「してその城の本丸もです」
「本丸というとやはり」
「波多野氏自体もです。声をかけるべきだと思います」
　明智がこう言うとだ。丹羽ではなくだ。彼の同僚である細川と和田が怪訝な顔になってそのうえでだ。二人で彼にこう言ってきたのだった。