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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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セカンドトライ

 帰還した私とセシリアさんに伝えられたのは正式な作戦失敗。代表候補生たちは全員別命あるまで待機を命令されました。

 一夏さんは致命領域対応によってあれから3時間全く反応が無く、旅館の部屋一つを使った簡易治療室で寝たきりの状態らしいです。また至近距離からのエネルギー弾の炸裂により、一度見ただけでも重傷と分かりました。
 『白式』はダメージレベルDの大破状態でこの合宿中は動かすことは出来ないでしょう。一歩間違えれば死んでいたんですからそれを考えれば奇跡です。ISに感謝しないといけませんね。

 一夏さんの傍には今も箒さんが寄り添っている、はず。

 はずというのは私は今現在旅館の中にいないからです。

 目の前にあるのは砂浜に展開した状態の『デザート・ホーク・カスタム』。
 『スカイ・ルーラー』の4枚の翼『ワンショット・ブースター』は翼の内部にエネルギーを本体とは別に充填。それを使うことで本体のエネルギーを使わずに長距離飛行を可能としています。そして奥の手の超加速はリミッターを外すことで内部のエネルギーを短時間で燃焼させ、瞬時加速にも負けないほどの加速を行うと言うもの。ですがその分内部のエネルギーが尽きればそこまでで、しかもそれを使った場合はブースター自体が熱量で歪んでしまって直すまで使えない可能性もある未だに実験段階のもの。その特性上、修理できるのはどこかの施設、工房じゃないとできない。つまり今回これ以降の『スカイ・ルーラー』の使用は不可能。

 コンソールを弄って背後についていた『スカイ・ルーラー』を取り外す作業を続ける。最後の工程を終えてエンターキーを押すと同時に『デザート・ホーク・カスタム』の背後から音を立てて『スカイ・ルーラー』が砂浜に音を立てて落下した。

 そして隣にある機材、今回臨海学校用に本国から送られてきたパッケージにケーブルを接続していく。
 そもそも学園にいる時点で既にパッケージをインストールしてもらっていたのも本国からの指示です。なんでも今回の臨海学校に当たって二つのパッケージのデータを取ってきて欲しいとのこと。
 そしてそのパッケージの待機命令が出されている今、こんなことをしている理由は帰還後に本国から個人秘匿通信を通じて連絡が入ったからです。

内容は

『現在暴走状態にあるアメリカの第3世代軍用IS『銀の福音』の情報収集を命ずる』

 つまり、あの福音ともう一度戦って出来る限り軍用ISの性能を引き出せ、ということ。
 これは学園の外の範囲、専用機持ちとしての責務です。だからこそ、今の私はIS学園の制服ではなく、赤道連合の軍服に身を包んでいます。一応遠出するときは持ち歩いてますから。
 今現在私は豪州空軍少尉の身分。だからこそ謹慎命令に従わず、帰還してからはずっと浜辺でISを整備しています。見つかれば説教ですみませんでしょうね。

 ふと、帰還して顔を合わせた箒さんを思い出してしまう。
 あの時の箒さんはひどかった。いつもの凛々しさは『紅椿』を身に着けていたときよりも更に無くなっていて、ただただ後悔の念だけが漂っていたように思えます。

 あの精神状態は非常に危ういです。下手をすれば専用機に二度と乗らない、なんてこともあり得ます。と言ってもそれは箒さんの問題であり私の問題ではありません。喝を入れることは出来ても立ち直るか直らないかは箒さん次第。

 確かに箒さんは大事な友達ですが……専用機を持っている以上甘えは許されない。私だって本音を言えばもう福音とは戦いたくありません。ですけどそれは出来ない。なぜならそれが専用機持ちの、将来国の代表を担う可能性のある私の責任です。
 以前の箒さんと同じく専用機持ちに専用機のない人の気持ちが分からないように、専用機を持っていない人に専用機持ちの気持ちは分からないものなんですよね。

 出来れば私だって一夏さんの容態を見ていたい。セシリアさんもそうだ。だってこうなったのは私たちが一瞬でも遅れたせいだから。作戦自体は失敗だったけど最初からブースター全開で向かって入れば2人とも無傷でもう一回作戦を行えたはずだ。だからこれは私たちの、私の責任。

 だからこそ私は、今私の出来ることをする。

「あむっ……」

 コードを引っ張ってくる過程でキーボードから手が離せないので口で銜えて引っ張っていき、手の小指を使って器用に接続する。
 よし、これで一通り終わったかな。

 最終チェックのために投影型ディスプレイを接続して最終確認をする。

『外装追加……完了。
各種兵装の入れ替え……完了。
出力調整……完了。
追加装甲接続……良好。
装甲内部空気圧……良好。
密閉システム……良好。
センサー各種……良好。
保護フィールド……良好。
圧力計算は実戦にて微調整。

状況オールグリーン。各部実験データを参照の上、状況によって微調整を必要とす』

 はあ……確かにこの合宿は『ISの非限定空間における稼働試験』が目的で、他国にばれずにデータ収集できるのはIS学園だけだから送ってくるものは間違ってないんですけど……ことここに至っては完全に選択ミスです。本国の人を恨みたいですよ。

―周辺豪州監視衛星との接続を確認、索敵を開始―

 ISのハイパーセンサーを本国の衛星とリンクさせてこの周囲一帯に索敵をかけてもらう。あんな命令があった以上衛星がこの周辺に配置されているのは明らかです。
 ステルスモードに入っていれば通常の監視衛星で見つかるわけは無いけど……もしかしてってこともあるし、一応。

―『銀の福音』を確認、現在地より30km―

 嘘! 見つけた!? ということは光学迷彩は持ってないと……なんで?
 そう言えば、試作機はこういう暴走したときのことを考えてわざと弱点を残しておくって誰かに聞いたことがあるけど…ということは姿を消せないのが福音の弱点?
 まあ弱点と言えるかどうか微妙なところですけど姿も確認できないで見逃すよりはマシなところでしょう。

 そう考えて私は新たなパッケージを装着した『デザート・ホーク・カスタム』を身に着ける。太陽がいつの間にやら昼間のそれから夕方に変わっています。んー、集中していると時間経つの早いですね。

 さて、行きましょうか……

「何? あんた一人でやる気なの?」

「良ければ僕たちも連れて行って欲しいなー」

 砂浜から目の前の海に足を踏み入れた時……聞きなれた声が後ろからしました。そして次々に出てくるのはIS反応……数は5。
 振り返るとそこには、それぞれのパッケージをインストールしたISを身に着けた代表候補生と……右頬を赤くした箒さん。鈴さんが右手をわざとらしく痛そうに振っていることから恐らく叩いたのでしょう。
 でも箒さんのその顔にはさっきまでの顔は一切無くて、いつも以上の凛々しさが備わっています。

「箒さん、もう大丈夫なんですか?」

「ああ、迷惑をかけた。私は勝つ! もう、負けはしない!」

「そうですか」

 前も思いましたけど箒さんって本当に同い年ですか? 覚悟の決め方がそう思えないんですけど。
 普通代表候補でもない人が自分のせいで大切な人が傷ついて、あそこまでやられたら心折られますよ?

「で、だ。お前一人で行っても勝ち目はないぞ?」

「と言われましても国からの命令なもので……」

 ラウラさんの言葉にそう返す。いざとなれば一人で威力偵察でも何でもしないといけないんですよ。

「なーんだ。あんたもそうなんだ」

「へ?」

 鈴さんの声に私は皆さんの顔を見渡してしまいます。

「私も本国の方から情報収集を命じられまして、専用機持ちのつらいところですわよね」

 セシリアさんがヤレヤレと言った風に首を左右に振る。

「そういうことだ。ここは共同戦線で行こうじゃないか」

「そう、ですか。ふふ、そう言う事なら……仕方ないですね」

 ラウラさんのニヤリとした笑いと言葉に私も思わず笑顔になって笑ってしまいます。

「ならば作戦会議といこう。奴を確実に落とすためにな」

「はい!」


――――――――――――――――――――――――――――――


「よし、では状況を開始する。一七〇〇より私の砲撃が合図だ」

『応!』

 ラウラさんの声に全員が返事をします。

「目標再確認、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』は上空200メートル地点に停止中。ステルスモードだが光学迷彩はやはり無いようだ。監視衛星から確認できる」

 ラウラさんからの通信が入る。当初の予定通りですね。
 映像共有システムによりラウラさんの見ている映像が私の目の前に映し出される。福音が何をしているかまでは衛星では分からないけどその場から一切動かない。私たちが離れ漁船を破壊した後、一切その場から動かず何かを待っている風にも取れます。

 暴走じゃない? とも思ってしまいますが命令を受けている以上それでもやることに変わりはないです。

 既にこの場には各国の監視衛星が勢ぞろいしていることでしょう。恐らく、赤道連合も。
 
『目標まで距離5000、作戦開始時刻まで残り1分だ。全員準備はいいな?』


 眼帯を外したラウラさんがオープンチャンネルでそう声をかけてきました。

『当然!』

『もちろんですわ』

『ああ』

『大丈夫だよ』

 真っ先に鈴さんが答えてそれに続くようにセシリアさん、箒さん、シャルロットさんが答える。

「いけます」

 最後に私がゴーグル状のバイザーを掛けると同時にラウラさんに答えます。


 作戦開始まで……残り30秒……… 
 

 
後書き
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