IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐
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黄昏の海
私の周囲にゴボリと音が立つ。あまり立たないでほしい音。それでも私のいる位置を考えれば仕方ない。
カウント5……3……2……
『…一七〇〇、作戦開始(ミッション・スタート)』
瞬間、『銀の福音』に超音速の弾丸が飛来し、大爆発を起こした。
『初弾の命中を確認』
ラウラさんの通信が聞こえる。その身に纏っている『シュヴァルツェア・レーゲン』の装備はいつものそれとかなり違います。
80口径レールカノン『ブリッツ』を両肩に2門と狙撃、砲撃に対する物理シールドを左右2枚、正面2枚の合計4枚を含む砲戦パッケージ『パンツァー・カノニーア』。
それによる射程ギリギリからの遠距離砲撃。さらにラウラさんは最初から眼帯を外すことで射程ギリギリといっても命中率は衰えることなく初弾はしっかりと福音を捉えて、命中しました。
しかし爆煙から飛び出してきた福音はダメージらしいダメージを負った様には見えません。
『敵機健在を確認。このまま砲撃を続ける』
ラウラさんとの視覚共有によって福音の横に記されていた距離を表す数値がものすごい勢いで減り始める。
あっという間にラウラさんと福音との距離が1000mまで縮まる。ラウラさんもただ近づかれるわけではなく砲撃を続けています。
しかしその超音速の弾幕を福音は、『銀の鐘』による急加速、急制動、射撃を行い回避と撃墜を行いながら接近してくる。しかも初弾以外有効弾は見受けられません。
『予想より早いか!』
ラウラさんの声が聞こえる。
砲戦仕様というのは反動相殺のために、機動性はいつもの『シュヴァルツェア・レーゲン』に大きく劣る。接近されれば……不利。
残りの距離を一気に詰め、肉薄してきた福音はその右手をラウラさんへと伸ばして……
『セシリア!』
その手がラウラさんに届く前に、ラウラさんが叫ぶと同時にその腕がレーザーにより弾かれました。
最初に砲撃を行うラウラさんには当然援護をつけています。ステルスモードで直掩に回っていたセシリアさんの強襲。
真上からの射撃により福音は突撃を止めざるをえない。
セシリアさんは最高速度で滑空すると福音とすれ違い、その瞬間には反転して背後から福音を狙い撃つ。
『敵機Bを確認、排除行動』
『遅いな』
『ですわね!』
セシリアさんを迎撃しようとした福音の背後から、シャルロットさんがステルスモードを解除して強襲、ほぼ零距離でのショットガンによる射撃が炸裂した。
その射撃は福音にダメージを与えたようには見えないけど、爆風で身体のバランスを崩した。そこに追い討ちでラウラさんとセシリアさんが射撃を撃ち込む。
その砲撃と射撃も『銀の鐘』で防がれ、体勢も一瞬で立て直した福音はすぐさま『銀の鐘』による一斉射撃で広域殲滅攻撃を開始する。
降り注ぐエネルギー弾をセシリアさんは高機動で回避、機動性で劣るラウラさんの前には防御特化パッケージ『ガーデン・カーテン』を装備したシャルロットさんが立ちはだかる。
合計4枚の物理シールドとエネルギーシールドが前面に装備された完全防御型のパッケージで、福音の攻撃でさえも受け止めて見せました。
『予想より……重いね!』
とはいえ、その砲撃の密度が高く、シャルロットさんが顔を顰める。
シャルロットさんはそのシールドで防いでいる間も得意の高速切り替えでショットガンをアサルトカノンに切り替えて隙を見ては福音を狙い撃ち、そうしている間にラウラさんは再度後方へ退避、砲撃の用意に入ります。
近距離での圧倒的防御力を持つシャルロットさんを軸に、中距離から高速機動によるセシリアさんの狙撃、遠距離からラウラさんの強力な火力での支援砲撃。
流石に福音も押され始めたようでジリジリと後退を始めました。
さすが欧州の精鋭ISと代表候補生です。この3人で組むのは初めてのはずですけど3人ともそれぞれの機体の性能を把握して自分の役割を遂行しています。
不利と悟ったのか、福音がシャルロットさんたちに背を向けました。
『逃げる気だ!』
それを悟ったシャルロットさんが背後から迫ります。
しかし福音が再び『銀の鐘』で一斉射撃、それは攻撃ではなく逃げるためのものだったらしく、近距離でそのほとんどが爆発する。
流石にシャルロットさんも追うことが出来ず、足止めされたことで福音が背中のブースターを吹かし、最高速度で離脱するために一気に加速し始める。
『させるかぁ!』
その福音の進路上の海面が、爆ぜる。
現れたのは『紅椿』とそれに乗った『甲龍』。『甲龍』の装備しているのは『龍咆』の機能増幅パッケージ『崩山』。いつもの衝撃砲に加えて更に増設された衝撃砲が2門、合計4門を装備しています。
『離脱する前に落とす!』
『当然!』
『甲龍』を纏った鈴さんが箒さんの肩を蹴って一気に加速し『崩山』を福音の進行方向に射撃、同時に箒さんも『雨月』で進路を塞ぐように攻撃する。
『崩山』が放っているのはいつもの不可視の弾丸ではなくエネルギーを拡散させた熱殻拡散衝撃砲からの攻撃は視認できる赤い炎を纏った炎弾。そして更に福音に勝るとも劣らない威力と弾幕を形成していく。
そして『紅椿』の『雨月』から放たれたエネルギー刃が『崩山』の炎弾と共に福音に直撃して爆発した。
『どうよ!』
『鈴さん、まだですわ!』
『次が来るぞ!』
あの威力を受けてもなお健在な福音に向けてセシリアさんとラウラさんが再び遠距離からの射撃を行う。
…この堅さ異常じゃないですか!?
『銀の鐘最大稼動、開始』
その機械的な声が聞こえた瞬間、福音が左右の腕をいっぱいに広げて翼の全てが外側をむく。それと同時に福音は回転を開始することで、全36門からのエネルギー弾を無差別にばら撒き、たちまち激しい弾幕を形成する。
『箒!』
『応!』
シャルロットさんの呼びかけに答えた箒さんが素早くシャルロットさんの『ガーデンカーテン』の裏側に潜り込む。
ただでさえエネルギー消費の激しい『紅椿』の展開装甲は今、自動的に防御にエネルギーを回さないように設定を変えています。
シャルロットさんの防御パッケージがなければまず出来ない防御時のエネルギー限定範囲設定。つまり今の箒さんは攻撃には極端に弱い。集団戦闘の利点を生かした役割分担により、箒さんは攻撃に集中することができる。
『ぐ!』
それでも福音の異常な連射を受け止めきれず、シャルロットさんの物理シールド1枚が耐え切れずに吹き飛ばされる。
『ラウラ! セシリア!』
『ああ!』
『お任せを!』
それを見て砲撃範囲から離脱していたセシリアさんとラウラさんが再び高機動狙撃と遠距離砲撃による弾幕を張ることで二人の離脱を援護。
その攻撃により再び福音の動きが鈍る。
そして動きが鈍れば……
『いくぞ!』
『もらったあ!』
福音の真下から『双天牙月』を両手に構えた鈴さんが、シャルロットさんの後ろから飛び出した箒さんが福音に襲い掛かる。距離的に近い箒さんが『空裂』を近接ブレードとして頭部を狙う。
それは大振りだったのか福音は難なく回避、でもその先に……
『ナイス箒!』
鈴さんの振り上げられた青龍刀が振り下ろされ、『銀の鐘』の左翼を直撃。文字通り捥ぎ取った。
初めての目に見える大きなダメージ。それでも福音は怯まず鈴さんの左胴を蹴り飛ばす。
2450kmを出すことの出来る大出力ブースターを備えた蹴りは、その一撃だけで鈴さんを海に叩き込みました。
『ぐ!』
『鈴!』
仲間たちが全員そう呼びかけますが誰一人鈴さんには向かわない。
信頼しているから、大丈夫と信じているから。そしてここでこいつを逃がすわけにはいかないから!
『よくも鈴を!』
シャルロットさんの声が聞こえますが突っ込むような真似はしません。そうすれば防御型の特性を生かせないと分かっているからです。
近接戦闘の担当は箒さんと鈴さん。シャルロットさんはあくまで援護と防御に回るのが役割!
『おっりゃああああああああ!』
怒りをぶつけるかのような叫びと共に『雨月』と『空裂』を両手に抜き放った箒さんが福音に切りかかる。
片翼を失ったはずなのに福音は依然として機動性を失わずにその攻撃を両手で弾いている。
でも……
『頭上ががら空きですわね!』
素早く真上に回りこんだセシリアさんが福音の頭部を狙い撃つ。間一髪頭部への直撃を避けた福音の右肩にレーザーが直撃し福音が大きくバランスを崩した。
そして肉薄している箒さんがその隙を見逃すはずはない。
『もらったぁ!』
残った右翼に『雨月』を突きたて、その距離でエネルギー刃を放出。
翼に差し込まれた『雨月』のエネルギー刃は翼を内部から破壊してその外側を完全に吹き飛ばした。
それでもまだ砲門は残っているようで、爆発の衝撃で落下しながらも福音が残った翼を広げる。
『ラウラ!』
『承知!』
『銀の鐘』からエネルギー弾が撃たれるよりも早く、ラウラさんの砲撃が福音に直撃した。それだけではなく、直撃したあとも続く『ブリッツ』の砲撃は残った『銀の鐘』を丸々吹き飛ばし、空中で大爆発を起こした。
ブースターを含む『銀の鐘』を失った福音は糸の切れた人形の用にまっ逆さまに海面へと向かい、堕ちた。
『流石にこれだけやれば……』
『ああ……』
セシリアさんの言葉にラウラさんが頷く。
ここまでやればいくら軍用ISとは言え落ちたでしょう。というよりこれ確実にオーバーキルですね。
私何もせずに終わりました。でも不確定要素の高いパッケージを装備した私を作戦の要として入れるわけにはいきませんし一か八かの賭けにならなくて良かったかも……
ボン!
そう思った瞬間……海面が強烈な光の球によって吹き飛ばされた!
吹き飛んだ海は元に戻らず、そこだけが福音の発する高密度のエネルギーによって時間が止まったように球体状に凹んでいる。
「な!?」
『な、何だ、どうなっている!?』
『これは……まさか……『第二形態移行』か!?』
ラウラさんの叫び声にその場の空気が止まったような気がしました。
第二形態移行……全てのIS操縦者の目標! 国家代表者でさえ今現在ほとんどの人がそれに至っていないって言うのに……!
『キアアアアアアア……!!』
今までの機械的な音声ではなく獣のように咆哮した福音がラウラさんへと飛び掛る。
あまりの速度にラウラさんは反応することが出来ず、右足を掴まれる。
そして破壊された翼の付け根から、砲撃により壊れた頭部からエネルギーの翼が……文字通り生えた(・・・)!
『ラウラを離せぇっ!』
それを見たシャルロットさんがすぐさま武装を切り替えて近接ブレードを展開して突撃する。
けれどその刃は空いた方の手によって簡単に受け止められてしまった。
『ちぃ! 私にかまうな! これでは……』
ラウラさんのその言葉は最後まで続かず、福音のエネルギーの翼に抱かれる。
その翼の内部が一瞬だけ光った刹那、エネルギー弾の雨を零距離で食らったラウラさんが全身をズタズタにされて海に墜ちる。
ゴボリ……
握り締めた手の平から気泡が現れて上へ(・・)流れる。それを見た瞬間、上からラウラさんが水面に落ちた衝撃が伝わってきました。
『ラウラをよくも!』
掴まれたブレードを捨てたシャルロットさんが距離を取りながらショットガンとアサルトライフルを展開、攻撃を行う。
ことここに至っても皆さん冷静さを欠いていない。
と言うより逆です。冷静さが無くなったら全員………死ぬ!
ドンッ!!
響き渡る爆音……こちらの攻撃による物では無く、福音から発せられた音でした。
見ると福音の胸部、腹部、背部、装甲がまるで卵の殻のようにひび割れ、次の瞬間には小型のエネルギーの翼が生えていた。
その翼それぞれが先ほどまでの『銀の鐘』と同レベル……いや、それ以上の威力のエネルギー弾を作り出す。
『セシリア! 頼む!』
『お任せを!』
遠距離砲撃を担当していたラウラさんが落ちてしまったためセシリアさんが中遠距離支援に入る。再度高速機動に入り、先ほどよりも苛烈なエネルギー弾を辛うじて避けながらもレーザーライフルによる狙撃を開始する。
ただ、福音は動くことなくそのレーザーを翼で防いで見せた。
『くっ! 私ではあの翼を突破するのは不可能ですわね!』
そう言いながらもセシリアさんが必死の狙撃を繰り返し隙を狙う。
『行くぞ!』
箒さんが再び自分の役割を果たすため福音に斬りかかろうと動き始めた途端……福音が消えた!
『な!?』
瞬時加速……それも一夏さんたちが行うようなものではない。全ブースター同時の瞬時加速により消えたように見えただけ……!
「セシリアさん! 退避……!」
私の注意の声に答える前にセシリアさんのレーザーライフルが福音の手刀によって砕かれた。
その衝撃に体勢を崩したセシリアさんに向けて両翼からエネルギー弾が一斉射され、悲鳴を上げることもできずにセシリアさんが撃墜される。
『きっさまあ!』
箒さんが射撃によって動きの止まった福音に向けて突撃する。それを迎撃しようとした福音の頭部が後ろに仰け反った。
いつの間にか狙撃ライフルを展開したシャルロットさんの射撃だった。
その隙に箒さんが福音に再び肉薄し、格闘戦に持ち込む。
『痛った~……やってくれたわね!』
通信から聞こえた声に確認すると海に吹き飛ばされた鈴さんがようやく復帰してきました。
『ダメだよ鈴! 今は……!』
『分かってるわよ! あんなのに私もついていける気しないし……』
シャルロットさんの声に鈴さんが悔しそうに言う。今現在空中では『銀の福音』と『紅椿』による超高速戦闘が行われています。
あれではシャルロットさんの狙撃も不可能ですし、『崩山』は面での制圧が主なので箒さんも巻き込んでしまいます。
箒さんは1対1であるのにも関わらず展開装甲を局部的に利用することで不規則な動きを行い福音の攻撃を回避、それと同時に両手の刀でアクロバットのように攻撃を繰り広げている。
そしてその攻防は徐々に速度を上げ、その猛攻に福音が押され始める。
行ける、と私たちが思った瞬間、『紅椿』の動きが急に鈍った!
その途端、思い出した。あの『紅椿』の弱点……エネルギーの消費率。
だからこそ今まで展開装甲を使わなかったけど、今この時点ではフル稼働じゃないと圧倒できなかった……それが今、最悪のタイミングで切れた。
『ぐあ!』
その瞬間福音の蹴りが箒さんの腹部に直撃し、海へと落ちてくる!
『ちぃ!』
それを見た鈴さんが落ちてくる箒さんを受け止めました。
『ぐ……すまん鈴』
『謝ってる暇なんて……くっ!』
『二人とも危ない!』
鈴さんがそう言おうとした瞬間、動きの止まった二人に向かってエネルギー弾が降り注ぐ。そしてそれを……シャルロットさんが庇って前に出て『ガーデン・カーテン』による防御を試みる。
『ぐあ!』
強烈なエネルギー弾の雨を受けて『ガーデン・カーテン』の強固な3枚のシールドがわずか数秒で破壊され、その余波でISの装甲の一部を破壊されたシャルロットさんが弾き飛ばされた。
『舐めんじゃないわよぉ!』
シャルロットさんの稼いでくれた一瞬の時間で鈴さんが『崩山』による砲撃を開始する。確かに福音に対応する可能性の最も高かった武装……そう、だった。
拮抗したのは一瞬で、福音の砲撃は『崩山』を大きく上回る質量を誇り、あっという間にその均衡が崩れる。
『ああああああ!』
最後まで抵抗した鈴さんが遂に押し切られてエネルギー弾の爆風の中に消え、海に沈む。
『鈴ーーーーーーー!』
『くっ!』
エネルギー切れの箒さんからシャルロットさんは離れることができない。
福音が確実に止めを刺すために二人に向かって急降下してくる。
シャルロットさんが箒さんを庇うように近接ブレードとアサルトライフルを展開して前に出る。
『シャル……』
『ぐあ!』
ほとんど足止めすることも出来ずにシャルロットさんが海へと叩き込まれた。
残ったのは箒さんだけ………
ゴボゴボ……
空気が漏れる。大きな気泡が上へ、上へと上る。
箒さんの悲痛な声が通信から聞こえる。
場所は真上、海面10mの位置。ここなら……
福音の右腕が箒さんの首を掴むのを確認した。今福音に映っているのは『紅椿』のみ!
ゴボッ……!
今までで一番大きな気泡が浮かび上がると同時に、私は動いた。
―ステルスモード解除、スーパーキャビテーションシステム稼動時間を0,5秒に設定―
同時にIS全体から空気が発生し、気泡が全体を覆う。
水の抵抗をなくすために体を回転させながら、背中の換装したハイドロジェット推進器を吹かしさらに。
次の瞬間には体が急速に浮上していくのを感じる。そして私は……
ドバァ!
激しい飛沫と共に海から飛び出した!
後書き
誤字脱字、表現の矛盾、原作流用部分の指摘、感想、評価等などお待ちしてます
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