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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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空の支配者

 音速を超えた突撃槍『メガホーン』は先端が高速回転することによって、ISの物理シールドといえども貫通するだけの威力を誇る。
 その超高速の槍の先端を……あろうことか福音は両手で掴んだ!
 高速回転をしている先端と福音の両手の間で甲高い金属音と共に激しい火花が飛び散る。

 そのまま福音はブースターを吹かすことで私の勢いを止めに掛かる。
 さらに槍の先端の回転が両手によって徐々に止められつつある。

 なんて……滅茶苦茶! 音速を超える、しかも高速回転している槍の先端を掴むなんてISであっても簡単に出来ることじゃない。

 でも掴んだのが先端だったのは間違いですね!

 既に私の思考を読んだISによって命令が出されている。

―『メガホーン』切り離し(パージ)―

 瞬間、突撃槍の円錐部分の付け根が吹き飛ぶ。露出したのは3つのブースター。それが同時に火を吹いて取っ手から分離。
 先端は高速回転を保ったままのため、それを正面から受け止めていた福音は回転しながら海へと落下し水柱を立てた。

―爆破―

 福音の落ちた位置から轟音と共に新たに水面が盛り上がり再び水柱を立てる。先端部分に内蔵された高性能爆薬の零距離爆発だ。落とせないとは思うけど……

 離脱するなら今しかない!
 先端の無くなった『メガホーン』の柄を捨てながら空中で呆然と止まっている『紅椿』に向かう。

「い……ちか……」

「箒さん!」

「カル……ラ?」

 一夏さんが海面へ落下していくのを見て放心した箒さんを再度音速飛行に移行して攫うように右手を取る。
 その勢いで箒さんの髪が昼間なのにその場だけ夜のように広がった。戦闘のせいなのか、いつもつけていた髪留めのリボンが無くなっています。

「は、離せ! 一夏が!」

「あちらはセシリアさんが行っています! 一気に離脱しますよ!」

 我に返った箒さんが一夏さんの方に飛んで行こうとするのを慌てて押さえ、手をとって高度を取ろうとした。

 ……けど、重い!? 『紅椿』のエネルギー切れは確定ってことですか!
 PICを維持するだけで精一杯のせいで加速ブースターまでエネルギーが回ってない証拠。
 そのことに内心舌打ちをするのとほぼ同時にセシリアさんから焦った声が聞こえる。

『カルラさん!』

「どうしたんですか!?」

『一夏さんのISが強制解除されてしまいましたわ! これでは……!』

「なっ…!」

 その言葉に絶句してしまう。確認するとセシリアさんの腕の中にはISスーツ姿の血に染まった一夏さんが横たわっていました。それはISが操縦者の命が危険と判断するほど深いダメージを受けたときに起こる現象、致命領域対応。
 全てのエネルギーを防御に回すことで操縦者の命を守るこの状態はISの補助を体の深くまで受けているため、ISのエネルギーが回復するまで操縦者は目を覚ませない。

 そしてそれ以上に重要なことは一夏さんは生身ということ!
 『白式』さえ展開されていれば私とセシリアさんの超音速飛行で離脱することが可能でした。しかしISの補助なしで超音速飛行なんてしたら一夏さんが窒息死してしまう。

「くっ!」

 状況的にこれしかない!!
 咄嗟に判断して箒さんを引っ張りながら海面スレスレを飛行していたセシリアさんの横に併走する。

「セシリアさん! 箒さんに一夏さんを!」

「な、何!?」

「なるほど、了解しましたわ」

 箒さんは理解できなかったようですが、それだけでセシリアさんは心得てくれたようです。抱えていた一夏さんを箒さんに無理やり押し付けると、私とは反対側にバレルロールしながら急上昇していきます。

「お、おい! どういうことだ!」

 一夏さんを放っておくわけにもいかず箒さんが左腕でしっかり一夏さんを受け止めます。それを見て私も箒さんの右手を離してセシリアさんと反対方向に上昇を開始。

「箒さん! 離脱を!」

『その間は私たちが抑えますわ!』

『そ、そんなこと!』

 箒さんの顔が映像を通して映し出されます。その顔は悲しさ、悔しさ、情けなさなど様々な感情が入り混じっているせいでいつもの凛々しさの欠片もありません。いつもなら私が折れるところですけど……

「一夏さんは今生身です! 私たちの音速飛行には耐えられません! 箒さんは一夏さんを頼みます!」

『庇いながら戦える相手じゃないのは貴方が一番ご存知でしょう!』

『くっ!』

 私とセシリアさんの言葉に箒さんが俯く。理解はしているけど納得は出来ない。そういうことでしょう。
 でもそれを了承できる状況でもありません!

「早く!」

『くっそぉ!』

 私の叫びに箒さんが一夏さんを背負うと海面スレスレをゆっくり離脱していく。
 それを待っていたかのように福音が海から矢のように飛び出してきた。

 エネルギー切れとは行ってもそこはIS。100km近い速度であっという間に戦闘区域から離れていきます。
 まあ……その約2,5倍の速度を出せるISを抑えないといけないわけですが!
 セシリアさんが既に福音の周りを高速で回転しながらレーザーライフルで牽制しています。それを避けた福音が箒さんたちの方向にブースターを吹かす。

「行かせない!」

 『スカイ・ルーラー』の各翼に設置された4つの5連装小型ミサイルポッド『シュライク』を一斉射し、20発のミサイルが福音のいる周囲の空間に爆発による弾幕を張る。
 近接信管と時限信管による弾幕は確実に福音の行く手を塞いで追撃を緩めさせた。

 爆発に福音が包まれたせいで目視での確認ができなくなる。
 爆煙が晴れるとそこにいたのは全く無傷の卵のような白い球体。

―熱紋照合、『銀の鐘』と確認―

 『銀の鐘』をシールド変わりに……それにしてもなんて堅さ!

 私がミサイルポッドを切り離すのとほぼ同時に、動きの止まった福音の『銀の鐘』に上空から極太のレーザーの雨が降り注いだ。セシリアさんのライフルによる狙撃。でもその攻撃でさえ『銀の鐘』にダメージを負わせられたようには見えない。
 一撃の貫通力ならミサイルを大きく上回るレーザー兵器ですらあれには通じないと……そういうことですか!

『堅い……ですわね!』

「援護します!」

『コジアスコ』を展開して銀色に光る球体に射撃を開始する。
 再三に渡るセシリアさんと私の攻撃にも関わらず、球体は全く傷つくことなくその場に静かに在り続ける。
 私たちは高速機動をつづけながら四方から撃ち続け反撃の機会を与えないようにします。しばらくするとセシリアさんの冷静な、それでいて焦りを含んだ声が聞こえてきました。

『カルラさん、少し撃ち過ぎたようですわ』

「え!?」

『エネルギー残量が少々きつくなって参りましたの』

 それは、考えてみればそうかもしれません。私の『コジアスコ』のような実弾兵装はマガジンさえ入れ替えれば攻撃の持続が可能だけど、セシリアさんが装備しているのはレーザーライフル。しかも『ストライク・ガンナー』を装備してからはビットを封印することによる攻撃力低下を防ぐために、3mを超えるレーザーライフル『スターダスト・シューター』に変更されていて一撃の威力を重視したものでした。それで先ほどからの攻撃回数と高速機動による消費を考えればマガジンは既に空で機体そのもののエネルギーをつかっているはず。エネルギーが足りなくなってくるのは道理です。

 その言葉に一瞬動揺した私と、セシリアさんの射撃が止む瞬間が重なってしまいました。

 攻撃が緩んだ瞬間に球体は翼に戻り、福音がまるで聖書に描かれている天使の光臨のように両翼を広げる。

 そしてその姿は先ほど球体になる前と全く同じ。
 ダメージ……0!

「く! 流石……軍用の名前は伊達じゃないと言うことですか!」

『カストさん、オルコットさん!』

 再び高速飛行に入ろうとしたときにオープンチャンネルで声が響きました。この声は……

「山田先生!?」

『篠ノ之さんと織斑君は教師陣が保護しました! 二人とも離脱してください!』

「了解です!」

 と、言われましても。どうしましょうか……これ。
 今でも迫ってくるエネルギー弾を迎撃することしかできないんですけど!

『さて、丁度いいタイミングですけれど……』

「それが出来れば……!」

 苦労しません!

 接近してくるエネルギー弾に、右手に展開していた『エスペランス』の銃口を向けて引き金を引く。
 ばら撒かれた弾丸に触れたエネルギー弾が誘爆して眩いばかりの光と衝撃波を発する。
 これ直撃したらまずいですね。

 セシリアさんは福音の頭上に陣取って高機動からの的確な狙撃を繰り返すことで射撃回数を減らしながらも動きを阻害しています。
 でもこのままじゃジリ貧です。何かいい装備は……

 ……あるじゃないですか。

―空域にIS反応、『アラクネ』確認―

 装備一覧を見ていたとき、不意にISが知らせてきた。
 え、何? 『アラクネ』? ってことはアメリカ側の援軍が追いついてきたってこと?

―『アラクネ』ステルスモードに移行を確認、ロスト―

 ロスト? ロスト位置は……密漁船のいた位置……? どういうことでしょう。
 教師陣の警告を無視したのと何か関係が……
 いえ、今はそれを気にしている場合ではありませんね。

「セシリアさん、先に離脱出来ますか?」

―『ワンショット・ブースターⅠ、Ⅱ』起動準備―

『あら、私の方が超音速下の稼働時間は上ですのよ?』

 それを見せ付けるかのように福音の目の前にレーザーの光が降り注ぎ、福音が鬱陶しそうにそれを回避しました。

「速度は私の方が上ですから離脱するだけなら私の方が向いています。エネルギー、きついんですよね?」

『……はあ、言わなければ良かったですわね。ではお任せしますわ。無事に帰ってきてくださいね』

 ため息と共にそう言うとセシリアさんが最後の援護とばかりにライフルで3連射して福音の足を止めるとその隙に超音速飛行に入り、空域を離脱します。
 目の前には福音、確かに1対1で勝つのは無理でしょうけど……セシリアさんに言った通り『スカイ・ルーラー』で速度だけなら!

 セシリアさんの背後を撃とうとした福音に向けて展開した『ミューレイ』のグレネード弾をばら撒くことで足止め、既に放たれていたエネルギー弾を誘爆させる。

 セシリアさんなら長い時間稼ぎはいらない。一瞬でも時間を稼げればその分距離を稼げる!

 福音がセシリアさんを狙うのを止めて私の方を、向いた。
 その瞬間に私も福音に背中を向ける。

 そんな大きな隙を軍用ISが見逃すはずも無く、すぐさまISが警告音を上げる。

―警告! 接近弾多数! 直撃コース!―

 ええ、そうでしょうとも。ハイパーセンサーにも背後からとてつもない数のエネルギー弾が迫っているのは分かります。

―『ワンショット・ブースターⅠ,Ⅱ』起動、点火限界時間3秒―

 その表示が出た途端、、体が吹き飛んだような感覚が襲い掛かる。
 しっかり準備していたつもりでも手と足が後ろに流されそうになるのを必死に耐える!
 ISでは急旋回によるGは感じても意識が飛ぶことはない。だからこそ……痛い!

 今までに感じたことのない重さが体中にのしかかり、体中の骨や筋肉がギシギシと音を立てているのが分かる。

「こ…の加速……は!」

 きつい、ですけど!

―『ワンショット・ブースターⅢ,Ⅳ』起動準備、『ワンショット・ブースターⅠ、Ⅱ』臨界点まで0,2秒―

「まだ……まだぁ!」

 もう一回!

―『ワンショット・ブースター1、2』臨界点。『ワンショット・ブースター3,4』起動、点火限界時間3秒―

 その表示通り、追加されていた翼の左右二つ平行翼のブースターが切れ、その瞬間には後進翼に搭載された巨大なブースターが発動する。
 終わりかけていた加速が更に追加され、翼2つの燃料分軽量化したISは先ほどよりも更に高い速度をたたき出す。

「ぐ、が!」

 あまりの衝撃に言葉が出ない。現在速度……時速6520km………!
 この域は経験したことがない未知の世界。あまりの速度に自分の視覚が狂っているのが分かる。超高感度センサーさえ間に合わず未だに周囲の空に浮かぶ雲や眼下の海がゆっくりとスロー再生のように後ろに流れていく。

―『ワンショット・ブースターⅢ,Ⅳ』臨界点―

 ようやく、と言ってもわずか数秒のこと。福音を完全に引き離した私の体が徐々に通常のISの速度へと戻っていく。背後の翼、全ての『ワンショット・ブースター』から真夏の昼間にも限らず熱量による湯気が大量に発生して、巨大な音を立てている。

「はっ! ……はっ! ……はっ!」

 今まで無意識に止めていた呼吸が速度が落ちることで戻ってくる。圧迫していた胸がゆっくりと解除されて肺にたっぷりと空気が入ってくるのを感じた。
 体中の汗が止まらないし、全ての骨と筋肉がギシギシと未だに悲鳴を上げているけど、うん、異常なし。少し休めば大丈夫なはず。

『カルラさん!』

 間近で聞こえた声に顔を上げるとセシリアさんがこちらに飛んでくるところでした。
 
「一夏さんたちは?」

「まずは自分の顔色を見てから仰ってくださいな」

 セシリアさんが呆れながら私の右手を取って引っ張ってくれる。どうやら相当な顔をしているらしいですね、私は。

「一夏さんは現在治療中とのことですわ。箒さんも無事。これで大丈夫ですわね?」

「はい、ありがとうございます。あ、そう言えばあの密漁船は?」

「私も帰還したわけではないのでそこまでは……」

「そうですか」

 見知らぬ人とは言え、無事だといいんですけど……

 帰還後、密漁船は福音によって破壊されたと山田先生が教えてくれました。それによる被害者は確認できず、死体も漂流者も発見されなかったそうです。

 一体この海で何が起こってるんでしょう…… 
 

 
後書き
「殺人的な加速だ!」

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