帝国兵となってしまった。
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猿叫と猿叫がぶつかる薩摩ファイトを終えて疲れた俺は深い眠りについた。深い深い眠りだった。睡眠は体の疲れを取り、記憶を整理させる。故に必要なものだ。流れた涙はあくびのせいか朝の風はまだ冷たく夜風のように汗や涙を撫でる。その感覚に気持ちよさが追いついてくる、風が止まるのか風が涙を流すのか朦朧とする意識の中で俺は脳裏と瞼にこびりついた猿叫顔が浮かび上がる。なんでだろう。帝国だろこれ。俺が何をしたと言うんだ…。
数日後、事情聴取に行ったライヒ流秋津島示現タイ捨忍術の館長からいきなり足元からの一閃を放たれるも、足で踏みつけてから蹴り飛ばして飾ってあった秋津島刀を引く抜く様に見せて鞘をすべらせて柄で頭を思いっきり叩くと「よくいらっしゃいもした。おまってこっておいもした。見事てぇ、剣こしたえ感心もした。」と謎の言葉をかけられて免許を貰った未だに何がしたかったのかわからない恐怖を感じる。
そんなことはどうでもいいが、あの帝都クーデター未遂ではバークマンとゼートゥーアは自己の権益の拡大を計り、俺は新聞に書かれた帝都演習成功とされている記事を見る。詰まる所は、バークマンとゼートゥーアはあの戦いを演習だと口裏を合わせて言い切って押し通したのだ。そして、バークマンとゼートゥーア自体は事情を知る者たちに俺が助命嘆願と説得をしたと説明して黙らせたらしく俺に頭を下げる関係者も多くいる、あの事件をそのままに事件化すれば26部隊が再編対象となる可能性が高かったそうで、それをしてしまうと作戦能力に支障が出るのでクーデターを演習として扱い、演習に参加したものを特別選抜隊として再編して固めて最前線送りで終わらせたというのがあらましだ。そして、俺は汽車で任地に着いた。駅に降りて、レンガがコツコツとブーツに当たる。ブーツの底を減らしながら土の匂いを背に石畳に馬車が止まっていた。車より馬車が用意されていた。それは儀礼用の馬車で6頭立てだ。
馬車に乗ると走り出す。中はベルベット張りだ。頭の上でズレていた軍帽をかぶり直す。軍服もキレイにホコリを取る。走る馬車の中で考える。
この事件でバークマンとゼートゥーアは死兵となる航空魔導師の部隊を手に入れた。というよりも手に入れるしかなかった。他の人間にどう見えるかはわからないがあと数週間で開戦が始まるのをひしひしと感じている彼らは俺の開戦予想を元にして国民の麦と森林三州誓約同盟のパスポートを持った工作員、外交官を通してフランソワの物資の運搬量、また無線などの入電総量、手紙などの数、列車の本数、鉄や銅に布や紙の生産や納入量を加味した結果やはり戦争は近いと判断したのが彼らだ。
故に今回の事を荒立てはしないのだろう。軍法裁判にかけるよりもそれよりも戦力として最前線に配備してすり潰すのが妥当と思ったのだろうが気になることがある。ゼートゥーアとバークマンの中で政治的な取引があったとは思うが議会を黙らせる何かを二人が持っていたことになる。またパイプは誰なのだろうか?
いや、これはもしかして全ては逆だ。金の流れや装備の流れから辿ってこの短時間で議会か貴族の仕業かを証拠揃えたというのが……。何故か、バークマンに引き止められたのにバーグマンに帰れと言われて帰った。当然、あのときの運転手はバーグマンの息がかかった……帰り道が若干変わっていた気がする。なるほど、最初から仕組まれていたのかもしれない。ならば、ゼートゥーアとバークマンが特に金は国民の麦などから用意ができる。武器も総司令としてダキアなどの派遣と敵の鹵獲武器の管理、講和会談の処理や補給をゼートゥーアが協力していた。その時に隠匿兵器を作ったのだろうか?これらと軍の諜報機関の一部を使えるゼートゥーアが人脈と諜報、ルートを担当してバークマンは金と武器を提供したと考えるのがこの短期間で証拠を揃えれたカラクリだろうな。
議会では軍の予算に文句を言っていた貴族や社会運動家系議員が軒並み憲兵隊による取り調べで白昼堂々と連行されている。その上、貴族派の頭になるはずだった東部貴族派の大物すら、賄賂と脱税などの容疑で国民の麦の政党から議会参考人招致を食らい、他の派閥の下のものも連日証人喚問を受け、国民の不満はそちらの貴族らしくない単なる資本家として国を裏切った貴族派に対して向けられていた。
特に皇帝派と市民派と言われる者たちが合作で挑んだのが貴族権権益の解体と中央集権化であり、強い中央政府が強い国家を生み出すと同時に多民族国家である帝国の基礎体力にもなるとして、貴族の権益を補填金を渡し国家へ帰属させるという動きが強まった。元々計画されていたと言わんばかりに行われたこれらの改革は皇帝に近い近衛軍と中央参謀本部が関わってるとされていて、特に総力戦に貴族権は不要、同時に産業の合同化と大規模化、帝国東部の工場などで移転できるものは中央に移転させたと言われている。また、東部貴族の中で耐えきれなかった者たちは全員、皇帝が領地を買い上げをする形で決着し数多くの貴族派が中央に降伏した。
国内の再統合が急速に進む中でも強い帝国はセーフティ・ネットの配備も急ぎ、失業者対策として線路の拡張やフランソワとの国境地帯の南に塹壕が建設、再びの道路の敷設、また牛馬家畜と機械化による農業改革はやはり、軍部主導である。農業の機械化の推進(国民の麦が安い国民農業車を提供している。)と同時に石油を絶たれたときのために牛馬も農地に割り当てられた。国民の麦が増産したものがここでも使われていた。総力戦体制移行かは知らないが産業業界も協会が作られて統廃合を繰り返し一番効率がいい体制になるべく進んでおり、新聞記事によると海上封鎖されても10年は戦えるほどの備蓄物資を国と民間で溜め込み、人工石油と人工ゴムの産業化が進んでいるらしい。中小工場の推進もやっており業界再編中小工場の建設を同じにやっているとは良くわからない施策だ。
同時に国民の麦は秋津島にも人工ゴムと人工石油のプラントが建てる代わりに高炉を増産するように時の総理原田孝に要請したとのことで、最初にまず秋津島の港湾クレーンの製造に技術者を派遣している。聞くところによるとダム建設にも数年前から手を貸しており、東北の港湾・道路整備、鉄道敷設、発電機の販売による東秋津島の周波数に電力を統一などが原田孝総理からの要求だったらしい。
それを受ける形で各事業を推進をし、ついでと言わんばかりに九州の別府などを始めとする港湾事業にも参入し国民の麦のブルドーザーなど国民の麦の製品を大量に現地生産も進めている。国民の麦と原田孝などの秋津島政財界は力強く手を握っているらしく特に旧幕府側の地域の地方議員などと懇意にしていて、地方からの圧倒的な支持を背景に原田孝総理を支えているらしい。何やってるんだろうか?
秋津島を強化して合州国の目を秋津島に引かせている方向にある。また帝国も秋津島も未だ不景気が長引く合州国から鉄スクラップを買い占めており、不景気から廃業をした工場から鉄スクラップとして工作機械なども運搬している、合州国が総力戦に入る前に工作機械などを運搬してすぐには立ち直れないようにするのが目的のようだ、これらはもう5年以上は続けられているとのことだ。誰が一体こんな事を指示しているのかは不思議だが俺は関係ないだろう一般人だし。
帝国が秋津島に合州国のインチ工作機械を援助もしているらしく、秋津島の工業化により合州国の収益が減るとの算段だ。帝国も国民の麦が工作機械を新しいものに更新し、数を増やすのと同時に古い帝国の工作機械はイスパニアとダキアに引き渡され、帝国規格をダキアとイスパニアにも守らせつつ、弾薬も統一化を進めているという。帝国も秋津島もダキアもイスパニアも全てが科学的管理法と失敗学により効率化をさせていってるようだが、なぜこんなにも手際が良く事が進むのか何らかのビジョンを文章化した手本書でも誰か書いてるんじゃないんだろうか?それを書いたやつはおかしいだろう。総力戦が来ると思って他国の国力をひたすら削いで、自国の国力を上げるより他国を下げるのに注力をしてそうだ。孫子の兵法が頭に回ってそう。ターニャの仕業か?俺は関係ないなこの件も。
なにか、昔書いた気もするがあんな怪文書を信じるやつなんか居ないだろうから別の力が働いてると思う。やはり、別の力を働かせることができるのはターニャ・デグレチャフだろう。そう、全部ターニャ・デグレチャフと存在Xだろうな。俺は時流に流されるだけの一般人だし、未だに軍人すら辞められない情けない男だから未だに恋人すらいない。
それにしても何故か女性軍人に話しかけても口を抑えて固まられるだけだし、縁談だって来やしない、俺は一般人なのだ。おかしいな高級軍人になれば縁談の一つや二つ来てもおかしくない。逃げたら一つ、進めば二つなんていうがなにも手に入りはしない。なんで、女性に避けられるのだろうか?見た目だってマルセイユとリヒトホーフェンの中間みたいなTheドイツパイロットって顔立ちで金髪なのに、身長も最近計ったら173cmだったし、栄養失調が多い中で帝国では平均身長だ。おかしい見た目はパスしているはずなのに……もしかして、臭うのだろうか?平時は一日一回風呂とサウナに入り、シャワーは2回はしているし、1週間に一回は散髪しているぐらい小綺麗にしているのに。
歯並びも矯正したからしっかりしてるし、歯磨きも日に3回するのに清潔感が足りないのだろうか?何にせよ大した問題でもない気がする。
と言うのを考えている間に、基地に着いた。
ここがフランソワとの国境近くであるがフランソワと開戦したならば即座に撤退する地帯である。係争地からの部隊の脱出により、フランソワ内の世論を二分させ係争地以上に帝国領土ライン川近くに攻め込ませてフランソワ軍の補給線が伸びた時点で反転攻勢を開始するそれが筋書きだ。各所に坑道も掘り進めていると聞く。後方分断からの殲滅と思うがそんな力が帝国にあるかはわからないのが現状だ。
「これは……。」
倉庫に並ぶのは五十両以上の三号戦車という名称で作られた国民の麦が作った戦車が並んでいる。乗員5名、全車両に無線機と側面につけられた薄い鉄板の前掛け、長5cm砲と水密装備、足回りは幅広い履帯が搭載されたトーションバーの31トンらしい。
「これがこの基地の主力か?」
並んでいる三号戦車に呟くと隣から声をかけられた。
「少将閣下ですね?小官は先に到着しました参謀のホルンガー大佐です。この戦車達は主力じゃありません。これらは囮用で本来ならばイスパニアとダキアに輸出する二線級ですよ。本来は指揮用に配備されているあの四号戦車が我が軍の主力です。」
そこにあったのは、40トンはある戦車、主砲は長75cm砲だ。装甲も傾斜しており側面につけられた鉄板にはゴムとタイルとベニア板がついていた。
「見た目は悪いですが帝国で名高い窯のマルセンタイルが貼られているだけあって側面でも正面並の装甲だと整備班が言っております。あちらには国民の麦の協力により、車体と規格が統一された騎兵用、砲兵用、歩兵用、戦車兵用、空軍用の砲自走車があります。配備される用途と部隊により名前は変わりますが。」
見てみると、自走砲、突撃砲、駆逐戦車、砲戦車、戦車駆逐車、対戦車自走砲などなどの区分で分かれてるのがよくわかる。各兵科により微妙な差があるのもわかるし、天板が手榴弾を投げ込まれないように鉄板かぶせただけのものやオープントップや正面に鉄板がついただけのものにイスパニア内戦やダキアで見た帝国の旧式戦車の砲塔を剥がして榴弾砲を載せたようなものに、ダキアやイスパニアで鹵獲した他国の戦車を砲塔を剥がしてヘッツァーのようにしたものなどが並んでいた。転輪の数で帝国ではないのがわかるし、元々日本では特に役に立たない人間メジャーや人間測量機と言われるような特技があった。
二次元と三次元における空間把握能力が高いから出来ていたと言われたが空間把握能力が生活の役には立たない。空間把握が高いからなんだというのだ。
軽く、ホルンガー大佐やその他の面々と懇談後に開戦に備えて、準備をした。
まさに大戦は始まる前だと言うが駆けずり回りながら国境地帯の市民たちと会話したが意外と帝国への反感は係争地の北部国境地帯でも酷くはない。国民の麦により経済活動により、ダキアへの建設事業出稼ぎや帝国工業地帯への出稼ぎで若い男の大半は居ない、それに年配にしても上がり調子のこの帝国の国民でいることに価値を見出し始めていた。特に共和国時代よりも生活水準は上がり始め、国民の麦の党は緩衝地帯としての北部係争地帯およびアレーヌ・ロイゲン地域の価値を認めていた。
どちらかが所有するから問題となるだけであり、自治区などとして、緩衝地帯として独立させる。国民の麦の党は北部係争地地帯、アレーヌ・ロイゲン地方を2個の国としてフランソワからの防波堤として機能させようと考えているようであり、日夜議会で言及しており、北部係争地地方とアレーヌ・ロイゲン地方からは支持を受けていた。当然、フランソワから見ても緩衝地帯はやぶさかではない。フランソワ内部からも賛同者は出ていた。
かの地域の人々からすれば自らが最前線になるとわかっているのだ。ならば緩衝地帯として、帝国とフランソワから独立保障を手に入れれば戦争に巻き込まれる心配はない。特にアレーヌ・ロイゲン地方からは鉄鉱石と石炭が出るため帝国とフランソワで揉めている。逆に言えばアレーヌ・ロイゲンが独立すればフランソワと帝国に輸出ができるためにアレーヌ・ロイゲンは潤うことが間違いない。特に目覚ましい帝国のような発展がフランソワでも起きればアレーヌ・ロイゲンは豊かな独立国となること間違いなしである。
形式上、帝国からの独立のために国民の麦の党の新聞によると王国としての独立を発案し、独立に必要な行政官や役人を育てるというやり方らしい。
また、帝国議会も概ね賛同的であり、火種を消すというのは素晴らしいと考えている。軍人も賛同者は多い。しかし、逆に北部係争地やアレーヌ・ロイゲン地方からは帝国シンパが出ており、帝国に所属したほうが実りある経済の恩恵を確約されている。フランソワの大不況を見て賛同できはしないという派閥もあるが中規模に収まっている。帝国発展地域への出稼ぎ労働者の家族たちがこれに当たる。
あのアレーヌ攻防戦が起きないのであれば良かろうと思いながら、南部は比較的まだマシだろう。一気に北部係争地帯を攻めてくるフランソワに対して帝国内部まで引き込むのだから、南部まで攻める力はないのは明らかだ。
ライン川まで一気に退く、これによりフランソワ軍の兵站に負担をかけるのと同時にある作戦も実行されると決定した。
この現在いる基地ともおさらばだなと最終準備に取り掛かると北部国境地帯に配備されたこの師団を退く。参謀本部も了承済みでゼートゥーアは書面で私にいい考えがあると伝えてきた。そもそも国境地帯なのに1個師団しか配備されてないのを怪しく思わないフランソワ軍とは何なのだろうか?今も帝国諜報員から情報は筒抜けなのだ。
「やっとはじまるのか。」
俺は急速な運動を前にして睡眠を得る貴重な時間を使うことにした。
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