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帝国兵となってしまった。

作者:連邦士官
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36


 突然の理由のわからない長文怪文書リプみたいな真似をしてきたアイツはおかしくなってるのは間違いないが俺の現実がおかしな奴らに侵略されてるのもまた事実。この世はおかしなことで出来ている。おかしなことがおかしなことを呼び込む奇妙な旅なのかもしれない。が、いきなり名前も名乗らずに怪文書ぶつけてくるとか恐怖新聞と変わらないだろ。

 「何をしようがお前はお前だ。それ以上でもそれ以下でもない。魚が鳥になれないように鳥も魚になれない。大海と大空どちらも広く、お互いにそちらの方が良いと羨ましがるかも知れないが、事実上はどちらも広く厳しい世界だ。憧れは理解から最も遠いと言われるが、理想の国も現実から一番遠い。アヴァロンがなぜ滅びたのかを考えれば理想の騎士たちが権力争いで殺し合ったからだ。理想は綺麗だからこそ汚く、現実は汚いからこそ綺麗だ。その差は変わらない。理想と現実を併せ呑む事ができないとどちらかに潰されて世捨て人になるだけだぞ。誰にならなくても、誰かになりたくても、誰かわからなくてもお前はお前だ。それが変わらないことだろ?変わらないことは変わらない。変わるべきものと変わらないものがないと世の中はよりおかしくなるぞ。この世を嗤い続ける男が出てくる。」
 相手の士官はサーベルに手をかける。頭の近くに構える上段の防御を無視したあの構えは……薬丸自顕流か薩摩示現流のような蜻蛉構え!?なんで帝国で薩摩の一の太刀!?何だあの最上位段の構えは!!迷いを捨てて命を捨てるのならば肉を切らせて骨を断つ薩摩剣術の威力があるかもしれない。帝都上空で帝国人が薩摩構えとか頭がおかしすぎる!とするとやつは猿叫をする!魔導師の加速力と速度から打たれる一の太刀はその威力は灯籠をも切るかもしれない。つまり、薩摩示現流、薬丸自顕流の最終境地。魔導刃で防殻が破られなかったとしても衝撃はどうしょうもない。故に相手は切られてでもこちらに衝撃を与えれば頭に当たれば脳挫傷か脳震盪、肩に当たれば鎖骨骨折、避ければ返す剣で逆真っ向や逆袈裟、横に逃げても太刀を入れられる覚悟ならこちらに何とでもしてくるだろう。

 サーベルをこちらも構える。迷いを捨てる……多くの剣豪や武人は迷いを捨てるために土を耕してきた。文化は耕すこと。すなわち、剣術も武術も全ては耕すことから始まっているのかもしれない。とするならば鍬を使う動作にも似た蜻蛉構えは正しいのだろう。農民は一日に何度も鍬を振るのだから。

 こちらも迷いを捨てるより他にはない。お互いに空中で構える。相手は蜻蛉構え、こちらは右上段に構えた袈裟構え。お互いに一撃を食らわせるのを目的の構え。

 帝都上空に二人の軍人……いや、男が上段の構えで対峙する。いくら時間が流れたのか一瞬だったかもしれない数時間だったかもしれない。お互いに肌に汗が滲み滴るのが分かる理解ができる。静寂な世界にお互いの握りだけが現実だと教えてくれている。奴は蜻蛉、つまりは前に進んで後退しないのを表している。それほどまでに不退転を決めた構え。一方俺は右上段袈裟構え、タイ捨流でよく見る構えしかし、奴ほど体を捨てれるかは未知数。

 誰かになろうとしていた男が誰にもなれなくて最後に自分という存在を見つけ出した後の蜻蛉構え。それ以上の構えから叩き出せる覚悟の力はない。奴は食らうのを前提に構えている。片や俺はそれを知ってそんな構えをしているだけに過ぎない。気迫は奴の方が上、しかし、実戦経験と白兵戦の経験は俺のほうが上。奴には存在Xがいるのだろうか?いや、居ないだろう。人の意思でしか人は本当に強くなれないのだから奴は存在Xを知らない。

 彼にそれは失礼だ。あの様に構えられる彼には存在Xなどは何ら意味をなさない。

 少し切っ先を揺らして誘ってみるも猿叫は来ない。なんで俺は帝都の上で猿叫からの太刀筋を求めるという字面だけ見たら魔界転生・大正編やら帝都物語〜もう一つの剣豪物語〜の始まりのような事になっているのだろうか?

 お互いに動けぬままに夜明けが近づくのを感じていた。そして、他の魔導師の気配も遠くに感じる。

 「決着はつかずか。そうじゃないよな。私は俺はそうならこれだけは見ていたい!夢は……キェェェェェイ!」
 突如としての猿叫、そして一気に近づき一撃を与える動き。避け続ければバークマンの部下たちがやってきてコイツらは拘束されるのだろう。戦わなくてもいいが、一人の男が自らの人生をかけて構えたのならば切り合わなければ失礼というものだ。薩摩の刀は初撃は貰うなと言われるがならばこちらも薩摩隼人になった気持ちで右上段袈裟斬りを繰り出すのに集中する。

 「キェェェェェイ!!ウェェェェェェ!」
 こちらも加速して一撃を食らわせるために動く!迎え三次元立体薩摩猿叫だ!!空中の加速を利用すれば一回転からの真っ向切りも袈裟斬りも容易い。加速で互いの猿叫の声も加速する。切ってから考えるのがこちらの良さだ!

 加速する猿叫がぶつかり合う時にガキンと金属が叩き合う。火花が散るしかしお互いに距離は取らない。何故ならばこの構えには防御がない。即ち全ての太刀が一の太刀、死ぬまで打ち続けるしかない。これが攻撃は最大の防御薩摩のイージスの盾。

 「キャッェェェ!キェェェ!ウャャャャャ!」
 何度も叩き込まれる上段斬り。こちらも上段袈裟斬りで弾き返す。三次元相互猿叫立体共鳴火花散る金属音弾ける切り合いが花火にも似た景色を作り出す。お互いに位置エネルギーや加速を使いながら空で使える速度の太刀を猿叫と共に打ち出す。生み出された猿叫の一撃一撃が体を震わせるような衝撃を生み出す。これが侍というものなのだろうか。多分違う、立体的な太刀筋と振るうたびに猿叫をお互いに出す状況ではテンポがわかる。しかし、猿叫で一撃が来るのがわかるならお互いにフェイント猿叫で一撃離脱戦法を取りながらも相手に一撃を入れようと虚実を使い刃を合わせる。猿叫が猿叫を呼び込み火花が太陽のように明るくする。夜明けの雄鶏が鳴くがごとくこの国の今を表す猿叫による夜明けの叫び。

 猿叫の木霊する街帝都と化しながらもこの打ち合いには俺に分があるのを感じ取った。魔力保有量の差だ。相手は魔力残量が徐々に枯渇しかけているのだろう猿叫と共に魔導刃と加速という猿叫そのものにも遠くに聞こえるように魔力を使っているマジカル薩摩三次元殺法。急に止まり蜻蛉構えを再び取る。つまり、奴は最後の一撃にかけたのだ。最初の一撃に全てをかける薩摩猿叫使いが待ちの姿勢から最後の一撃に全てを乗せるために止まった。最後の一撃が最初の一撃になる。お互いに一太刀あれば十分だと理解してるからこそ、息を吸い込む。

 まやかしの猿叫による探り合いは必要がない。相手が叫ぶだけなら俺は……。

 「キィィィィィエェッ!」
 とんでもないほどに振りかぶった唐竹割りを相手が放つ。加速はさっきよりも速い、本当に最後にして最初の必殺の太刀を放っている。薩摩隼人(帝国人)に突きは通用しない。突きは薩摩隼人を止めることは出来ない、突かれて横薙ぎされる間にも相手に一撃を食らわせるのを旨として進んでいる。猿叫により意識すら飛ばない、体の中の酸素を吐き出す事と叫びによりエンドルフィンやアドレナリンも出ているのだろう。脳内物質すら薩摩隼人に取っては容易い死は相手を殺す事のみで相手を殺せないことこそが、本当の意味での薩摩隼人にとっての死。一撃こそが薩摩の叫び、猿叫ではなく太刀筋にこそ叫びが入り一撃にこそ薩摩の真髄がある。ここは帝都、お互いに帝国人、互いにサーベル、格好は軍服で切り合い。実質ゴールデンカムイじゃないか?それか猿叫の国に入ってしまったのか実質キノの旅だ。猿叫の国とか挨拶でも猿叫してそう、先手の猿叫で強そうなキノを倒そうとしてキノに返り討ちにあって本当の強い兵に会えて満足して名前を聞いて笑いながら死んでキノたちを困惑させそう。これは北斗の拳かな?

 「チェッストォ!」
 こちらも唐竹割りで相手の剣を剣で掴むと巻き込み、そのまま右足で蹴りを相手の横っ腹に入れてから、それを軸に近づくとサーベルを捨てた。

 「捕まえた!」
 相手の片手をつかみ上げ防御させないように空いた片手で一方的に殴り付ける。相手の半身が片側に少し沈んだ気がする。つまりはこの感じ、隠した銃剣による刺突だろう。残念ながら刺突はわかってさえいればなんてことはない。

 迫りくる隠した片手からの銃剣の突きもすぐさまそちらに飛び腕ひし十字をキメるも自由になった片方の手で奴は拳銃を引き抜こうとするが無駄だ。何故、片側に取り付いたか理解していない。

 銃を奪う、少なくても捨てさせるのが俺の作戦だったのだ。

 「チェストォォォォォォォ!!キェェェェェェェェェ!」
 これは自爆するつもりだ。こんなところで自爆をされたら迷惑だが、最後の一太刀であれば見事だ。こうなるのをわかっての猿叫による飛び込み、誰だってできることじゃない。ゴールデンカムイなら誰だって出来そうだけど。変態仮面とかお断りなんで。

 直ぐ様に首元に手を掴むと演算宝珠を引きずりだし、遠くになげる。

 「キェェェェェイ!!」
 さっきから猿叫をやりすぎて投げるときにも猿叫が出てしまった。猿叫をやりすぎるってなんだよ俺までおかしくなってるじゃないか!!だから、薩摩隼人は駄目なんだよ人類にはまだ早すぎる。

 演算宝珠が天空で炸裂する様は先程の火花と猿叫による花火よりも花火だった。その火花が周りを照らすとかなりの数の魔導師が集まってきているのが見て取れた。掴んでいる士官の方に目を向けると意識が遠退いているのが分かる。花火の一瞬で人が多いし誰に引き渡そうか考えるとさっきのゴールデンカムイや北斗の拳の考えが恥ずかしくなった。

 「この……。」
 そう言えば誰なんだこいつ。帝国人猿叫薩摩蜻蛉構え反乱ボーイしかわからんぞ、要素をまとめたら鯉登じゃねぇか!!これが箇条書きのマジックか?

 「この戦友……強敵(トモ)……。いや、反乱者たちを拘束してくれ。地上は制圧しておいた。」
 ゴールデンカムイを考えすぎてつい頭の中の鶴見の発言や北斗の拳が出てしまった。あと拡声をまだやったまんまにしていたし、猿叫のやり過ぎで声が枯れて震えていた。あと寒くて体が少し震える。頭から汗が滴り落ちて目元に来る。目を擦り顔から滴り落ちる汗が涙みたいだなと遠くに感じた。長い夜だった。本当に長い一日だった。帝国のいちばん長い日だった。

 周りの集まっていた兵士たちは「了解いたしました!」と声を張り上げていたが、心なしか全員声が上ずっていた気もするが猿叫バトルを見ればそうもなるだろう。果てしなく俺は地平線の彼方から上がってくる太陽が恋しかった。それだけが今の癒やしだ。一生分の猿叫をした気がする。一生分の猿叫とか意味がわからないけど。そして、すぐにこの士官を誰か取りに来いよ。なんで、演算宝珠が無くなったから俺がずっとお姫様抱っこしてるんだよ。絵面が大正ロマンBLかなにかか?おかしいことが連続しすぎる。この空はこんなに広く風はまだ吹いているのに俺の周りだけはクリスタルが砕け散ったあとみたいな異変が起こるんだ?

 「あぁ、白んできたな。」
 空の明るさが高まるのを見ながら、早く誰かコイツを引き取れよと俺は心から強く願った。あの住民たちや検問の奴らは無事なのかな。まぁどうでもいいけど。今度とばかりは帝国軍人を辞める決意を固くするのに役に立つ。

 考えて思い出すとなんでサーベルで猿叫しながら切り合いをしてるんだろうか?誰かがコイツに薬丸自顕流などを教えたに違いないが秋津島軍人が帝都に沢山いるのも俺のせいなら、コイツがこんなに猿叫する羽目になったのも俺のせいなんだろうか?いや、断じて違う。大体こんな世界になってるのは存在Xのせいだろう。

 猿叫するのはコイツ個人の選択で責任だが、この世界を作っている製造者責任は存在Xにある。数ある分岐による並行世界はあるが分岐元を作ったのは存在Xである。人間が狂わないといけない世界ならば神に責任がある。神は死なねばならないこの世界に生きる正直で愚鈍で目の前のことに精一杯で考える暇すらない民の為に。彼らの中には天才もいるかも知れない、星よりも輝く命たちがこうも弄ばれるのならば神を落として殺してみせよう。自分だけは死なないと思っているのならば思い上がりだ。お前を引きずり出して殺してやる。必ず。

 人の世は、人で完結しなければ人は人足り得ないのだ!人の感情に寄生する害虫は駆除対象だ。お前らが何をしようとも修正力を果たそうとも鎖ごと食いちぎって破壊する!!天地神明、存在Xに誓って俺はやってやる。良いからやってやる。この腐りきった郭の中から人の手に人の世を落とす!

 気付いた頃には太陽が空に上がっていた。 
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