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神葬世界×ゴスペル・デイ

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第一物語・後半-日来独立編-
  第十七章 ざわめく空の下

 
前書き
 待望かどうかは知らないけど新章投稿。
 今、高らかにスタート! 

 
 世界時歴一〇八二年、四月七日。
 朝の八時頃。
 空には雲が流れ、日射しが大地を照らしている。
 山には靄が立ち、それに光が反射し輝く。
 そんな山に囲まれたなかにある、日来には複数の艦が空を支配するように航行していた。
 円を組み航行している艦の中央、そこは外交区域だ。
 その外交区域なかの、大きな時計塔の下。そこに日来学勢院高等部の校舎がある。
 日来学勢院高等部、三年一組の教室に二つの席以外の席には全員座っている。
 空いた席の一人。前髪を真っ直ぐに切った、黒の長髪の少女が机に座っている皆を見るように教卓に立っている。
 しかし、もう一人は見当たらない。
 だがそれを気にせずに彼女は映画面|《モニター》を表示しており、それに何かを記入している。
 記入が終え、映画面を反転。拡大。それを皆に見せた。
「これを見てくれ」
 閉じていた口を開き、皆はそれを聞いて別々の方向に向けていた顔を映画面に向ける。
 皆が見る映画面には、一~三の文字が記入されていて、短い文が線で三つに囲まれていた。
 教卓に立つ少女は、咳払いを一つし、
「これに記入されているのは、今後の行動を簡単に示したものだ」
 覇王会伝達者の飛豊は言った。
 映画面には三つ、こう書かれていた。
 一:社交院との会議前。
   つまり今。
 二:社交院との会議開始。
   ここで色々話し合う。
 三:日来の行方。
   会議の結果次第で変わる。
 彼女の後ろにある電子黒板には、本日授業無し、と表示されている。
 背後にそれを置き、飛豊は言葉を続けた。
「これから私達は社交院を相手に会議を行うことになる。当然覇王会が出るが、出来るなら他の皆にも見に来てほしい」
「事態の把握と今後の行動を知るためで御座るな」
「それもあるが、本命は学勢も日来を動かすことが出来ると示したいからだ」
 教卓に手を置き、体を支えるように立つ。
 皆を見て、
「本来ならば治安を担当する学勢院だが、独立宣言をしてから軍事を担当をする社交院に治安の権限が持って行かれようとしている」
「なら、どうして独立宣言なんてしたの?」
 片手でペンチを回す、継叉の疑問に答える。
「皆知っていると思うが、日来は奥州四圏の操り人形状態でな。日来が戦闘用の神騎や艦を持てないのはそのせいだ」
「アタイが私有している神騎も、年に数回チェックが入れられてるよ」
 煙管をくわえる入直が、煙管をふかしながら言った。
 火皿には専用の香草が入れられ、周りに花の甘い匂いに似た香りが漂う。
 崩壊世界での煙草と言うものを元にして作られたもので、煙草は害があるとし香草を積めた香棒|(アロア)と呼ばれるものがある。
 入直のは煙管タイプのもので、香草を巻かれている通常タイプと違い、火皿に香丸と呼ばれる玉を潰し火をつけ吸引する。
 リラックスが出来たり、気を沈める効果などあり人気の商品だ。
 吸引出来るのは十六歳からだが、子ども用に香草の量を減らしたりして子どもでも吸えるようにしている。
 気管支炎の治療にも使われるとか、そんなことを本で読んだことがあるのを飛豊は思い出した。
 間が空いていることに気づき、内心少し焦りながら口を開く。
「これは日来が世界で唯一のアマテラス系加護の場所だからだな。アマテラス系加護は万象宗譜|《トータルスコア》の唯一の加護だ。その最大の特徴は流魔を生成出来ることだ」
「だから嫌われているのはそこなんだよ。無闇に流魔を生成することは創生区域の崩壊を招くからね。だから奥州四圏は流魔の生成を行えないようにするために、規制を掛けたんだ」
 机に腕を置くレヴァーシンクは、こちらに言うように発言した。
「ついでに、それによって日来が反攻しないように武装をさせず貿易や食糧生産を優先させたのさ。そうすれば自分達は日来から安価に食糧を輸入して、軍事に専念出来るからね」
「それってもう前からのことですよね?」
 ロロアが問うたので、頷き、
「三十年前のことさ、だけど日来はそれより前に独立出来るようにしていたらいしけど」
「そう言えば社交院の葉木原が日来を終わらせる、とか言っていた」
「それうちも聞いたネ。長のセーランしか話してないみたいヨ」
 悩むようにレヴァーシンクは顎に指を付け、考える姿勢を取った。
 あちらにもその真意が解らないのだろう。
 数秒考え、視線を上げた。
「当たりだけど、終わらせるのは日来。自分達は降服して救われる、て意味じゃないかな?」
「社交院側ならそうだろうと私も思う」
「会議でもちょっとぐらい話題になるかな。こちらはそれには反対だからね、一応有利な発言が出来るよう資料でも集めておくよ」
「頼む」
 レヴァーシンクは映画面を出し、慣れた手つきで操作し始める。
 それを確認し、彼に向けていた視線を皆に戻す。
「こちらの立場は日来の存続だ。そして住民の意思を聞き、可能ならそれに答えようと思う」
「だが、どうやって日来を存続させる?」
 腕を組むアストローゼは、鋭い視線をこちらに向ける。
「日来を下手な方向に向ければ撃沈されるのが目に見えている」
「機動力が高いワイバーン級戦闘艦が十二艦、バランスがいいドラゴン級戦闘艦が三艦あるからな。随分と艦を使ったものだ」
 飛豊は窓の向こう。空を移動する艦を目に捕らえる。
 艦の背後の加速機からは流魔の青が吐き出され、宙にそれが溢れる。
 輝く塵のようなものは、ある程度落ちてから消滅している。
 窓に向けた顔を皆に戻し、
「まあ、それ程こちらに構ってくれてることになるんだろうな」
「いい動きをすれば、世界にいい宣伝になるぞ」
「日来の存続はセーランの担当だったからな、皆あいつから何か聞いてないか?」
 疑問を皆に投げ掛けるか、返ってくるものは何も無かった。
 ため息を心のなかで済ませ、頭を苛立ちから掻いた。
「こういうときのために、考えを紙にまとめとけって何時も言ってたんだけどなあ。意味が無かったか」
「それでもするしかないだろ、クソゲーもそうなように!」
「アンタが発言するなんて珍しいじゃないか」
「やっと記念すべき百本目のクソゲーを全クリ出来たんだ、今テンションマックスだぜ!」
 最後列に座るサエルは、手に持ったゲーム機の画面を皆に見せ付けた。
 狩り猫モンスターズニャンター? ああ、あれか、猫が怪物を狩るんだよな。当り判定がどうとか、素材が何とか、怪物の龍が空ばっかいるとかの批判が凄かったっていう。……やったことないけど。
 変な知識を覚えている自分に、飛豊は変な関心を覚える。
 入直がサエルの頭を誉めているのか力一杯叩いているが、これ以上馬鹿にならないことを祈る。
「ええっと、セーランが負傷中のため日来存続の説明は私が行う。ある程度話す内容はまとめておいたからな」
「ねえねえ、いいかなあ?」
 と、テイルが机にもたれ掛かって何故か両手を挙げている。特に意味が無さそうなので、突っ込まないで話を聞く。
「会議で社交院が勝ったら日来は降伏、他勢力群|《イレギュラー》に移住ってことになるんでしょ? なら私達が勝ったら日来ってどうなんの? そこ説明ほしいなあ」
「そうだな、それにはセーランが前にぼやいていてな」
 手振りをしていた腕を組み、記憶を思い返しながら話す。
「日来を動かし日来を救う、それでついでに世界も救うとか」
「セーラン君らしい考え方ですね」
「ふふふ、でもその前に世界を相手になんて出来るの?」
 美兎の後、灯は平然と誰もが思っていることを言う。
 それに関しては自分も不思議に思っているが、長はそれを解決するための道を示した。
 これまでの彼の行動からそれは伝わり、
「それにはな、まず辰ノ大花攻略が必須条件だ」
「「辰ノ大花を?」」
 一部を除き、皆は口を揃えた。
 薄々は感じてはいるだろうが、説明が必要だろう。
 一つ咳払いをした後、皆に説明する。
「黄森による辰ノ大花の宇天長の解放。今日の午後五時に行われるこのときまでに、会議を終了させ日来を辰ノ大花へと向かわせる」
「それにはわたくし、疑問がありますわ」
「いいぞ、話してみろ」
 ええ、とネフィアは話し始める。
「五日前に辰ノ大花には危害を加えないと取引したのでは? 非公式とは言え、近くには黄森の隊隊長がいましたし」
「宇天の隊長の様子を見ていたら解るだろ? 辰ノ大花は宇天長の解放を望んではいない。それを手助けするのが危害であったとしたら、辰ノ大花の行動は一体何なんだ。こちらのその行動を危害と見なすのであれば、辰ノ大花の行動には意味が通らないだろ」
「辰ノ大花も救いを望んでいるのですからね。では、黄森のその行動には一体何の意味が有りますの? わざわざ竜神の力を解放に導く、その意味は」
 容赦なく次々と疑問を投げ掛けるネフィアは、口を流れるように動かした。
「そして解放に介入する黄森が納得いくような大義名分は何ですの?」
「それが今一番の悩みなんだよな。黄森を悪とし、辰ノ大花と共闘出来る大義名分が見つからない。せめて黄森を悪と出来ればいいんだが」
 眉間にシワを寄せる飛豊は、しばしそれについて考える。
 黄森を悪とするには、宇天長の解放が間違っていることを指摘する必要がある。
 しかし、それが出来ない。いや、まず悪とする理由が何処にも無いのだ。
 黄森は何故、国力とも言える竜神の力を解放するのか、そしてそれを防衛に使うとはどういうことなのか。
 不思議だ、と飛豊は思う。
「黄森のやることは分からないが、それでもやるしかないのが現状だな」
「当たって砕けろ戦法ですね。セーランがよくやる」
 机に幾つもの空の弁当箱が散乱している点布が、口にものを放り込みながら言う。
 隣にいるロロアが嫌そうに、机を彼から離している。その状態で、
「砕けたら意味無いと思うんですよねえ」
「砕けたらくっつければいいから大丈夫よ」
「恋和さんて、たまに考え方が凄いですよね」
 その言葉が理解出来ないのか、恋和は笑顔のまま首を傾げている。
「まあ、これに関しては社交院を上手く納得出来る方法を取るさ」
「先が思いやられるな」
「ルヴォルフ、そんなことを言ったらお前がやれってことになるよ」
「それもそうだな、これは失礼した」
 ルヴォルフの言葉をグレイが指摘し、ルヴォルフが獣毛で敷き詰められた頭をこちらに下げた。
 気にしていないと、組んだ両の腕をほどき掌を見せて飛豊は首を振る。
 黒髪が左右に揺れ、振るのを止めるとその揺れは徐々に小さくなっていった。
「考えてることは各自違うだろうが皆、これだけは解ってくれ」
 教卓に両の手を付き、力強く言う。
「日来はこれから辰ノ大花の宇天長を救出を目的とし、今後は世界を渡り歩く。これは日来を存続させるため、そしてアマテラス系加護を守り抜くためだ」
 真剣な眼差しを皆に向け、あちらもそれに答えるように視線で応答した。
 他のクラスは授業の真っ最中なので少し声を抑えたが、皆にはちゃんと聞こえたらしい。
 頷き、飛豊は背後の電子黒板の隅に表示されている時間を確認する。
 午前十時三〇分少し過ぎを表示している。
 確認し、後ろに向けた顔を前へと向ける。
「軽く説明はしたが、社交院との会議は面倒なことになるだろう。黄森の監視隊も覗きに来るだろうから、無闇に思ったことを発言出来ないから覇王会の皆は気お付けるようにな」
 社交院との会議は午前十一時からだ。
 後、三〇分も無いので内心不安で焦っている。
 しかし、皆を不安にさせないためにそれを表へとは出さない。
 一息。自分を落ち着かせるように息を吐く。
「後少ししたら、会後場である西二番外交区域の社交領へと向かう。それまで好きなことをやっといていいぞ、多分その会議で大きく日来は動くことになるからな」
 飛豊は視線を窓際に寄せ、
「美琴に頼みがあるんだがいいか?」
「え? なに?」
 窓際に座る美琴は、急に自分の名前を呼ばれ少し慌てた。
 飛豊は落ち着くまで、少し間を置き、
「セーランの見舞いを頼めるか? 花とこの手紙持ってさ」
 飛豊はポケットに手を入れ、そこから抜くと同時に白の折られた紙を掴んだ。
 教卓から美琴の元へと、それを届けに歩く。
 床を打ち付けながら、机の前に到着するとその紙を前へと向けた。
「いいか?」
「うん、いいよ。おはなは?」
 あそこだ、と飛豊は指を後ろのロッカーの上を差した。
 紙に優しく包まれた、黄色や白の花の花束が置いてある。
 あれを持っていくのだと、理解し頷く。
「今からのんびりと行くといい。咲先生には後で言っておくから」
「琴姫一人だけじゃ可哀想だから、私も付いていこうかしら」
「明、お前は駄目だ。怪我人のセーランに対しても手加減しなさそうだからな、美琴一人方が何かと安全だ」
 灯が半目でこちらに訴えてくるが、それは無理だと顔を横に振る。
 チッ、と舌打ちが聞こえたが気にしない。
「皆にも手伝ってもらうことがあるかもしれないから、そのときは宜しく頼むぞ」
 へーい、分かりました、承知、えええ、などの人によって返事は違うが肯定の返事だと勝手に解釈する。
 美琴はそれを笑いながら手紙と花束を持って教室から出ていこうとしたら、昇降口までと灯が付いていった。
 そのまま付いていく気がしたので、美兎を後から行かせたら案の定。その勘は当たった。
 まるで子の巣立ちを悲しむ母のようだったと、美兎が言っていた。
 教室いる皆には、主に資料を集めてもらった。さながら、受験勉強のラストスパートみたいな状況だった。
 それから幾らか経った後で教室を発ち、会議場を目指して校門を抜けた。
 道中。監視隊と数回出会ったが、会議のことを知らされているのか特に何かをすることはなかった。
 空には当たり前のように戦闘艦が飛び、耳障りな音を立てながら監視を行っていた。
 そんななかで着いた、西二番外交区域社交領。そこは前に宇天学勢院と会議を行ったときの形とは違い、大きく円が描かれ、そのなかに相対するように二つの線が引かれていた。その線上に立ち、会議する形を取るのだとすぐに理解出来た。
 既に片方の線には四人の社交院の者達が立っており、円の外側には住民が会議を見にそこに立っていた。
 黄森の監視隊は見えない。別の所で見ているのか、それとも後から来るのか。
 それを頭で考えながらも、三年一組の群れは二つに別れる。
 一つは円内に入り線上へ立ち、もう一つは円の外で会議を見るように立った。
 円内の二組は無言のまま、視線だけを相手に向けていた。
 会議が始まるのを今か今かと待ちわびて、数分後。会議を知らせる警報が鳴り響いた。
 それは日来全土。まるでこれから行われる会議を歓迎するかのように、空にも山にも響き渡った。  
 

 
後書き
 次回再びの会議。
 なんだよまた会議かよ、と声が聞こえてきそうですので忍法“何も聞こえないの術”を発動させていただきます。
 長であるセーランがふざけたせいで、社交院は面倒な会議を開いて自分達で今後の日来を決めることとなります。
 先が決まれば無駄な騒動が少なくなりますしね。
 と、呑気なものですが宇天長は本日午後五時に解放開始。
 呑気にしてますとヤバい状況。
 仲間割れしてる場合じゃないでしょ皆さん!
 次回は言葉の対決、会議となりまーす。  
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