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神葬世界×ゴスペル・デイ

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第一物語・前半-未来会議編-
  第十六章 青の雷竜《3》

 
前書き
 待ちわびた物語の続き。
 意思よ届け!  

 
 辰ノ大花の戦闘艦・華空の個室のなか。
 そこに一人の者がいる。
 委伊達・奏鳴だ。
 個室に置かれた椅子に座り、眼前に表示した映画面|《モニター》で実之芽の闘いを見ていた。
 映画面には、傷ついた日来の長が映っている。
 そこから、声が自分へと向かってくる。
『もしお前が、まだ、少しでも、生きたいと思ってンなら。俺が、行くまで、待っててくれ』
 何時倒れてもおかしくない身体を引きずり、自分へと言葉を掛ける。
「……何故なんだ」
 自分しかいない、一人の個室のなかで言った。
 そこまで傷つき、自分を止めようとするその意志は何処から生まれる。
 冷たい雨のなか、日来の長はなおも動き続ける。
『お前の、元にさ、行ったら。俺の言葉、伝える。それで、後はお前の……好きなように、やっていいから』
 そして彼は歩みを止め、肺に息を大きく幾つも送り込んだ。
 血を吐きながら、苦しく息をしている。
 それを見て、奏鳴は一つの映画面を出した。
 そこに映るのは。



 実之芽は自身の眼前に、映画面|《モニター》が表示されたのを見た。
 それに映るのは、自分達の長である奏鳴だ。
 眉を上げた顔を和らげて、
「どうしました、奏鳴様?」
『ちょっと伝えることがあってな』
 奏鳴は言葉を紡いだ。
『もうここには用は無い。だから、早く戻ってきてくれ』
「なら、日来の長をどうかするしかありませんね」
『なるべく二度と近づかないようにしてほしい』
「解りました。ならば、終わりにしましょう」
『何時も迷惑を掛ける』
「それが奏鳴様のためならば迷惑ではありません」
 では、と実之芽は言うと映画面は消えた。
 一息し、雨の音を聞いた。
 身を、心を静めるために。
 和らげた表情を、再び眉を上げた表情に戻す。
 そして、背後に立ち止まっている日来の長に言う。
「日来の長、もう勝負は決したのよ。今立ち止まっている体を動かし、地に足を踏み込むならば死を選んだものと知りなさい」
 聞こえてくるのは、雨が降る音と、地面を打つ音だけだ。
 彼は無言で、その場を動かなかった。
 意志よりも、命を取ったのだ。
 実之芽はそんな彼とは対照的に、足を前に押し出し歩き始めた。
 濡れた地面を打つ音が響き、それと重なるように、
「お前は、自分の、長をどう思ってんだ?」
 日来の長の声だ。
 前へ行こうとした片足を引き実之芽は立ち止まり、それに答える。
「仲間であり、友であり、私の大切な人よ」
 はっきりとそう言った。
 これに答えられないようでは、覇王会を務める資格は無い。
 その言葉を聞いた日来の長は、
「そうか、なら、いいや」
 この言葉の後、日来の長が取った行動に、実之芽は驚いた。
 足を地から離し、上げたのだ。
 何故そんなのことをするのか、理解が出来ない。
「俺は、日来の長だから。立場、はっきりさせとかねえと、示しがつかねえから」
 その言葉は続く、
「だから、お前は、お前の立場を……示せ」
 足を地に下ろし、
「お前らも、頑張れよ」
 足が地面に着いた。
 馬鹿な奴、と実之芽は吐き捨て、直後。雷が空と地の間を走った。
 言葉通りの、これまでにない強力な一撃。
 黄森の隊長はそれを見た。
 空から、日来の長に走った青の柱を。
 その一撃は、彼の全身を打ち、その身を焦がした。
 硝子が割れる冷たい音が響き、日来の長の身体は後ろへ倒れた。
 そのとき左の腕が上がり、正面。停泊している辰ノ大花の艦に、手を伸ばしているように見える。
 濡れた冷たいコンクリートの上に載り、仰向けのまま、顔は空を向いている。
 雨が涙のように頬を流れ、彼の身に打ちつける。



  西二番貿易区域の北側。
 コンテナを積み上げている、そこに多数の学勢がいた。
「どうするのだ!? セーランがやられたぞ!」
 そう言うのは、獣人族のレヴォルフだ。
 西側にいた、自分達の長が倒れたのを遠目で確認した。
「無茶してくれたね。回収しようにも黄森の隊員が邪魔だから」
「流石にヤバい状況――、ぎゃあ」
 レヴァーシンクの言葉にロロアが言葉を重ねる。が、そのとき小柄な彼女の横を勢いよく何かが通り過ぎた。
 それを後ろから見ていた飛豊は、
「おい、待てネフィア!」
「クソッ、ネフィア嬢はあちらの覇王会隊長に向かう気だろう」
 人族ならぬ動きをしている者を見て、アストローゼ言った。
「ルヴォルフ、飛豊を担いでネフィアを追え。覇王会伝達者はその場の決定権を持つからな、事態を収めるにはうってつけだ」
「頼む」
「よく掴まっておくのだぞ」
 そう言い、肩に飛豊を乗せ、レヴォルフはコンテナを蹴った。
 大気を割り、一気に行く。
 下には黄森の隊員がおり、それを上から追い抜く。
 巨大な穴が空いた中心。そこには長である、セーランが空を向いて倒れていた。
 穴と辰ノ大花の艦の間。
 半獣人族であるネフィアが、自分に背を向けて立つ宇天の隊長の後ろに立っていた。
 二人はネフィアの少し離れた後ろに着地。レヴォルフは、振り落とされないように掴んだ飛豊の足から手を離し、飛豊は尻でジャンプように飛び下りた。
 そのとき二人は、半獣人族の声を聞いた。
「我が覇王をよくも、痛めつけてくれましたわね」
 宇天の隊長に向かい、その怒りの声を出した。
 それを実之芽は背後で聞き、振り向かないまま言う。
「私と同じ覇王会隊長ね。いいのよ? 別に仕掛けてきても」
「言わせておけば!!」
 怒りを露わにしたネフィアは、右の手首に着けている銀の腕輪を鞭状に変形させ、宇天の隊長に打ちつけようとする。
 速度を付け始めた攻撃を飛豊は止めるために、
「止めろネフィア! ここで手を出せば、日来は本格的に独立行動をしたと見なされ、潰れるぞ!」
「ですが長が!」
「ネフィア! ここは覇王会伝達者である飛豊の言う通りにしろ」
「……」
 ルヴォルフの言葉に、挙げた腕をネフィアは下ろし地に座り込んだ。
 銀の鞭も同様に、宇天の隊長を襲う寸前で力なく地に落ちた。鞭の形状をした銀は液体となり、元の腕輪へと戻る。
 飛豊はそれを見て、前へと進んだ。
 座り込むネフィアの前に立ち、目の前にいる宇天の隊長に言う。
「ここは覇王会伝達者の権限で私達の長が負けたことを認める。だから宇天側はこの事態を見逃してほしい」
「取引ね。見逃したときのこちらの利益は?」
「日来の長に勝ったことを誇ってもいいし、この勝利を何かに利用して構わない。後は、辰ノ大花に今後日来は危害を加えず、必要ならば日来は辰ノ大花のために動こう」
 実之芽は、なかなかいい利益だと思った。
 特に最後のはとても魅力的だ。
 必要ならば辰ノ大花のために動く、とは。これは日来を売り、裏切ってもいいわけだ。
 つまり、日来は辰ノ大花の手の内にあるようなものだ。
 これを利用すれば、黄森などの話し合いの場ではかなり有利になる。
 少しの沈黙を置いて、
「取引成立ね。今回のことは大目に見るわ」
「有り難い、これから私達は長の回収を行うが何か言うことは無いか」
「それはあちらに聞いたら?」
 宇天の隊長の言葉に、黄森の隊の隊長は咳払いをした。
 その方向。左に体を向けた。
「入院中であろうとも、日来の長の直接監視を行いたい。こちらもそれが仕事なのでな」
「異論は無い。手当てする病院が決まり次第、報告するのでいいか?」
「構わない」
 そう言い、中年の隊隊長は下がる。幾らか離れた後に隊員達を集結させた。
 素早く隊員達は彼の元へ集まり、隊隊長を声を聞いた。こちらが話したことと、今後のことを簡単に説明しているのだろう。
 飛豊は見て、地に座るネフィアをそっとし置く。だから、飛豊はセーランの元へと走った。
 巨大な穴が空いている中心。そこに、セーランが力無く載っていた。
 穴を滑るように落ちる飛豊は、ある者を見た。
 先に行っていたレヴォルフが、様子を確認している。
 だが、その様子は焦っており、
「息をしていない、鼓動が止まってる」
「無茶してくれたな」
「先程の雷撃のショックでだろう、一番近い病院は――」
「東一番居住区域だ」
 その声は、穴の上に立っているアストローゼだ。
 その横には何時もいる補佐ではなく、長いクリーム色の髪を持つ恋和だ。
 彼女は映画面|《モニター》を表示しており、
「住民のために一つの大きな病院があるからね。そこにもう連絡はしておいたから、行けば大きな建物だから分かる筈よ」
「なら私がまた運ぼう」
「何分ぐらいだ」
 飛豊の問いに、レヴォルフはすぐに答えた。
「横二キロの区域が二つ分くらいだろうから幾らもしないだろう」
 それを飛豊は聞き、頷いた。
 レヴォルフはそれを了承の合図だと察し、力無く倒れているセーランの身を持ち上げる。
 人形のように動かない彼は、何かを悲しんでるように見えて、しかし何処か追い求めているようにも見えた。
 彼の身体が大きく上下し、レヴォルフの背中に乗ったのだと確認した。
 レヴォルフはこの場にいた飛豊の顔を見て、言葉を交わさずに飛んだ。
 高さ十数メートルの大跳躍。
 それが音を立てながら、見えなくなった。
 飛豊は穴から出て、外の様子を目にする。
 まず目にしたのは、黄森の隊員達が帰っていく様子。空を行く戦闘艦の幾つかはこちらに来たようだが、既に元の場所へと戻って行った。
 次に、日来住民が帰っていく様子。
 何かを言っているように見えるが、雨の音のせいで聞こえなかった。
 最後に目にしたのは、青の戦闘艦へと戻る宇天の隊長だ。
 長い髪を左右に揺らし、堂々と帰って行った。
 それを見て、地に座るネフィアの前へ飛豊は近寄る。
「何うじうじしてるんだ、お前のやることは他にあるだろ」
 言い、ネフィアの腕を取る飛豊の体に、ネフィアが飛び付いた。
 それに慌てふためき、
「な、どうしたんだ!?」
「わたくし、責任感じやすい性分なので。……慰めて下さらない?」
「そういうのはあまり得意じゃないんだけどなあ」
 苦笑いで済ませようとする飛豊の体に、ネフィアは絡めた腕に力を入れる。
「ちょ、お前! わ、解ったよ、お前は悪くない、だから元気だせ! これでいいか? いいなら腕を離すか、力を緩めてくれ」
「ふふ、慰め感謝致しますわ」
 ネフィアは絡めた腕を離し、いたずらが成功したように笑った。
 圧迫され上手く息が出来ない状況から解放され、飛豊は荒く短く呼吸をした。
 その後ろ姿を見ていた飛豊の元に、足音の群れが来た。
 足音の持ち主は、走りながらこちらへ向かう仲間達のものだ。
 仲間達は、飛豊の周りに集まった。 
「レヴォルフが長運んで行くのが見えたけど、どうなったんさ?」
「一応は大目に見てくれるように取引はした。だが、セーランの様子はあまり良くないな」
 それを聞き、入直は表情を暗くした。
 そうかい、と頷いただけだ。
「黄森の者達は監視に戻ったで御座るな」
「こんな茶番に付き合ってる程、暇じゃないってことでしょ」
 そう言うのは、走っていてずれた帽子を正している継叉だ。
 正し終えると、その両の手をズボンのポケットに突っ込んだ。
「どうしよっか、これから」
「……随分と冷静だな……」
「彼のやることは分かっていたからね。まあ、これを他人事で済ませはしないけどさ」
「一度教室へ戻ろう、東一番居住区域の大病院には後に行くことになるな」
「レヴォルフはそこに向かっているんだね」
 継叉の声に頷く飛豊は、皆に言う。
「よく聞け皆。これから先にあるもの、それは社交院との会議だ」
 この事態を起こしたことで、社交院は自分達は止めようとしたことを示さなければならない。
 黄森にそれを伝えるために。
 そしてその会議で、
「その場で、今後の未来について話し合うことになるだろう」
「だけど、長であるセーランはどうなるんですか?」
 ロロアの問いに、飛豊は答えを返す。
「怪我の具合を見たが、セーラン抜きの会議になるだろうな」
 雨が降る貿易区域のなかで話した。
 飛豊は雨の空を見て、
「戻ろう、ここにいても意味がない。加護で雨は防げても、体温の減少を防ぐ加護は高いから発動したくないし」
「え! 発動しないんですか、なら三割引きでどうですか!?」
「商売挟んでくるな!」
 指を三本立てた美兎に、飛豊は言葉を放った。
 それに傷ついたのか、涙目の美兎がこちらに訴えてきた。
「発動しないんですか?」
「そんなことしても無理なものは無理。観念してくれ」
「……そうですか」
 肩を下ろす美兎の後ろ、オールバックと長髪の金髪男女がいる。
「かわいそうに、でも職業には付きものよ!」
「ああ、気にすることはない。日来の営業者達がものを買わせようとしてるが、全て無駄に終わっているからな」
「商業区域に行ったら、一気に店の人が寄ってきたのはお前らのせいか!!」
「貧乏の奴の言うことを聞くなよ、耳が腐るからな!」
 ははは、と笑いながら逃げるように先に戻る二人の後ろ姿を見て、右の拳を飛豊は握り締める。
 あの二人、絶対目にもの見せてやるからな……!
 そう心に誓った。
 拳を握り締めている飛豊に、
「ほらペタン子さっさと行くわよ。ほらほらほら」
 背後から、灯が自身の胸を飛豊の背にアタックさせる。
 弾むように前に出た飛豊は、ため息にも似たものを吐く。
「ならさっさと行こう。午前なのにどっと疲れたよ」
「あら、皆もう行ったわよ?」
「早いな! てか、いつの間に!?」
 この場にいるのは、自分と灯だけだ。
 他の者達は既に先の方へ歩いており、自分達が最後となっていた。
 それを見て、慌て飛豊は彼らの元へ走り、灯は後ろから笑いを漏らしながら付いていった。
 皆の後ろ姿は何処か物悲しさを感じ、それを感じ取った皆はそれを口にはしなかった。
 黙って今は無理にでも笑おうと、そう思ったのだ。



 同日、午前十一時。
 辰ノ大花の艦は日来の地から離れ、地元へ帰るため出航した。
 大気を震わせ、加速機から音を鳴らす。
 宇天の長を乗せたドレイク級戦闘艦・華空は方向を変え、海の方、西へと向かった。
 轟く加速音は徐々に小さくなっていき、巨大な艦の姿も山の向こうへと消えていった。
 それを合図とするように、日来は完全監視状態となり、地上にも本格的に黄森の隊員が監視に当たった。
 雨はまだ止むことなく、何かを告げることもなくただ降り続いていた。
 怒りがこもった雷雲は何時しか消えて、今は悲しく、寂しく。
 ただ、空から雨が落ちるだけだった。
 そして、この日から二日後。辰ノ大花所属宇天学勢院覇王会会長ヶ長、委伊達・奏鳴の解放は三日後の午後五時に行うと、黄森から神州瑞穂全土に通達された。
 つまり、彼女の余命は解放が行われるそのときまでだ。 
 

 
後書き
 セーランは召されてしまった……。
 あ、死んでないですよ。
 これから日来はどうなるのか、など思ってくれたら嬉しい限りです。
 まだまだ文章力が鍛えられていませんが、読んでみたら面白かったと言えるような作品にしていきたい。
 とにかくのんびり、ゆっくりといこうと思います。
 次回は……どうなる!  
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