仮面ライダーAP
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夜戦編 蒼き女豹と仮面の狙撃手 第9話
前書き
◆今話の登場人物
◆東方駿介
世界を股に掛ける特殊救命部隊「ハイパーレスキュー」の隊長。例えどんな相手であろうと救える命は救う、という己の信条に忠実な人物であり、そのためならば世界中のどこにでも駆け付けるストイックな青年。新世代ライダーの一員である「仮面ライダーアルビオン」こと東方百合香の実兄に当たる。当時の年齢は29歳。
※原案はMegapon先生。
◆巽・D・仁
駿介の部下である、世界を股に掛ける特殊救命部隊「ハイパーレスキュー」の副隊長。粗野で飄々とした印象を受けるニヒルな男だが、隊長である駿介の信念に対しては忠実に従い、これまで数多の現場で救護活動に奔走して来たベテランのレスキュー隊員。当時の年齢は34歳。
※原案はX2愛好家先生。
「あったよ……船が! 船を見付けたよ、皆ッ!」
「上福沢、でかした!」
島の外周を回るように先頭を走っていたGNドライブは、ついにホークアイザーが言っていた洞窟を発見する。その奥に隠されていた青基調の特殊哨戒艇――「マリンプロテクターサイクロン号」は、新世代ライダー達を待っていたかのように海上に佇んでいた。
「よし良いぞ、出せッ!」
「任せたまえよッ!」
その船体を目の当たりにしたGNドライブ達は即座に飛び乗り、素早くエンジンを始動させて行く。ホークアイザーの言葉通り、この船は並々ならぬ苛烈な駆動音と共に、凄まじい勢いで走り出していた。青い船体が海を切り裂き、大海原を疾走する。
「くっ……! 皆、振り落とされるなよッ!」
「さ、殺人的な加速ですわっ……!」
海を掻き分け海上を爆走する特注の哨戒艇は、ライダー達を乗せて瞬く間に洞窟の外へと飛び出して行く。ほんの10秒程度で最高速度に達した船体は、機雷の爆炎すら一瞬で突き抜けていた。手摺りや甲板にしがみ付くライダー達は、振り落とされないように必死に堪えている。
「あうぅっ……!」
「水見鳥ッ!」
船の移動速度自体もかなりのものだが、そこに機雷の爆発による衝撃も加わっているのだ。ホークアイザーが言っていた通り、並の人間なら容易く振り落とされてしまっていたのだろう。4人の中では最も腕力が低く、負傷者でもあるG-verⅥは手摺りから手指を滑らせてしまい、船上から転げ落ちそうになっていた。
「ぐっ、ぅおおぉッ……!」
「水見鳥、森里ッ! 2人共頑張れッ! もうッ……すぐだッ!」
そんな彼女の腕を咄嗟に掴んだタキオンは、脇腹の痛みに顔を顰めながらも懸命に耐えている。やがて彼も力尽き、手摺りから手を離しそうになっていたのだが――その寸前でターボがタキオンの肩を掴み、事なきを得ていた。
「……! 皆、見ろ! シャドーフォートレス島が……!」
「あ、あぁ……!」
そして。彼らを乗せた青い船が海上を駆け抜け――島から遠く離れた海原にまで辿り着いた頃。ついにタイムリミットを迎えた自爆装置が、その時を迎えた。
シャドーフォートレス島全域を飲み込むほどの爆炎が天を衝き、朝陽が昇る空を眩く照らし出して行く。ようやく安全圏に辿り着いたマリンプロテクターサイクロン号は、そこでエンジンを停止させていた。
「ふぅっ……! 皆、無事かい!? まさしく間一髪だったねぇ……!」
「あぁ、全員ここに居る。……まさか、最後の最後で敵に助けられるとはな。俺達もまだまだ、ということか」
「んはぁっ、はぁっ……!」
その光景を目の当たりにしたライダー達は、この船が無ければ自分達の命は無かったのだということを肌で理解する。舵を取っていたGNドライブの呼び掛けに対し、タキオンは安堵の息を漏らしながら己の未熟さを自嘲していた。一方、G-verⅥは喋る余裕も無かったのか、女座りの姿勢で悩ましく息を荒げていた。
「……」
そして――ミロス・ホークアイザーという男の確実な「死」を実感したターボは仮面を外し、憂いを帯びた貌を露わにしていた。赤い仮面を小脇に抱えたターボは、手元に残されたホークアイザーの認識票に視線を落とし、物憂げな表情を浮かべている。朝陽に照らされた彼の赤い外骨格が鮮やかな光を放ち、首に巻かれた白いマフラーが海風に靡いていた。
「……いいや。あの時のアイツは……敵なんかじゃなかったさ」
「……あぁ、そうかもな」
タキオンに言われた通り、立ち止まってなどいられない。例え悲しみながらでも、自分達が警察官であり仮面ライダーである以上、この戦いの旅から降りるわけには行かない。
ターボはその宿命を胸に刻み、タキオンが溢した「敵」という言葉を否定する。仮面を外して素顔を露わにしたタキオン自身もまた、ターボの呟きに静かに頷いていた。
「……」
その一方で。ターボの背中を見つめるGNドライブの脳裏には、ホークアイザーが最期に残した言葉が過っていた。
――「仮面ライダー」の名は……俺達には、過ぎたものだったようだ。お前達に……返、す――
あの言葉が何を意味していたのかは、今でもハッキリとは分からない。だが、仮面ライダーを想起させるあの外骨格の形状を見れば、ある程度の事情を推し量ることは出来る。彼らは自分達を超えた存在に――この時代の仮面ライダーになろうとしていたのだろう。
「……馬鹿なことだよ。『仮面ライダー』はなろうと思ってなるものじゃない。その力で何を為すか。何のための力か。……大切なのは、それだけさ」
「ですが……『仮面ライダー』の名は、ますます重くなってしまいましたわね。彼らの屍を超えて行くことになった以上……私達は、決して道を誤ってはならない。『仮面ライダー』であるということには……それだけの責任がある。それを肝に銘じなければなりませんわ」
「……あぁ。俺達がライダーでいるっていうのは……そういうことなのかもな」
悲しげにそう呟くGNドライブは、ターボの手元に残されたホークアイザーの認識票から目を背けるように踵を返す。G-verⅥも同じ気持ちだったのだろう。彼女も仮面の下で苦い表情を浮かべ、唇を噛み締めていた。その言葉に頷くターボは、涙を堪えるように空を仰いでいる。
決して世間に肯定されることなく、全世界から絶対悪として断罪されるしかないノバシェード。その一員に堕ちながらも、最後には己の死に様よりも大切なものを見付けたホークアイザーという男。
そんな彼の最期を目の当たりにしたからこそ。ターボはせめて自分達だけでも彼らの真実を覚えていようと、認識票を独り握り締めている。朝陽の輝きを浴びたマリンプロテクターサイクロン号は、その青い船体を華やかに煌めかせていた。
「……!」
――すると、遥か彼方からヘリのローター音が響いて来る。
その音に顔を上げたターボ達の視線の先には、数機の救助ヘリの姿があった。世界を股に掛ける特殊救命部隊「ハイパーレスキュー」。その所属機であるヘリが、ターボ達を乗せたマリンプロテクターサイクロン号に接近していたのである。
「あれは……ハイパーレスキューの救助ヘリですわね」
「あぁ……どうやら、誰かがここに手配してくれていたようだね。しかし、一体誰が……?」
その機影に安堵するGNドライブはG-verⅥの言葉に頷きつつも、あまりに素早過ぎるハイパーレスキューの動きに「引っ掛かり」を覚えていた。
今回の調査任務は極秘のものであり、新世代ライダー達の中でもごく一部の者しか知らなかったはずなのに、何故彼らはこれほど早くここに来たのか。まだこの場に居る誰も、救援など要請していないというのに。
「あの船がそうか……! 救えるうちに救うぞ、巽!」
「はいはい、分かってるよ隊長」
そんなGNドライブの疑問をよそに、マリンプロテクターサイクロン号の頭上に移動した数機の救助ヘリは、迅速な動きでレスキュー隊員をロープで降下させて行く。ヘリからのリペリング降下で船上に舞い降りた2人の男は、負傷者であるG-verⅥとタキオンの元に素早く駆け付けて来た。
どちらも鍛え抜かれた屈強な肉体の持ち主であり、特に「隊長」と呼ばれた黒髪の青年は、「絶対に救う」という苛烈なまでに強い意志を宿した瞳で、2人の負傷者を見つめている。その精強な眼差しは、多くの修羅場を潜り抜けて来た「歴戦」の重みを感じさせるものであった。
「ハイパーレスキューの隊長、東方駿介だ。匿名の通報があってここに来たのだが……信じて正解だったようだな」
「同じく、副隊長の巽・D・仁だ。……どんな奴とやり合ったのかは知らねぇが、あんた達がこんな傷を負うなんて……よっぽどやべぇ事件だったらしいな」
ハイパーレスキューの隊長、東方駿介。彼の戦友にして、副隊長でもある巽・D・仁。そんな組織のツートップが直々に出向いて来たところを見るに、彼らも今回の通報内容を重く見ていたらしい。彼らの迅速かつ的確な応急処置を受けながら、タキオンやG-verⅥ達は顔を見合わせていた。
「……匿名の通報だって? あんたが来たということは、百合香……アルビオンからの通報だと思ったんだが」
「いや、俺達も妹からは何も聞かされていない。妹なら今まさに、別の現場でノバシェードと戦っているところだ。……匿名の通報など珍しくもないが、素人には知り得ない情報を幾つも出して来た女性が居てな。悪戯の類ではないと思って来てみれば、この事態……というわけだ」
「幸い、2人とも急所は外れていたみてぇだな。弾もとっくに抜けてるから、摘出の必要もない。しばらくは入院生活だが……なぁに、心配は要らねぇ。あんた達の回復力なら、すぐに現場復帰出来るさ」
ターボの問い掛けに対し、G-verⅥとタキオンの傷を処置している駿介達は静かにそう答えている。新世代ライダーの一員である、「仮面ライダーアルビオン」こと東方百合香。彼女の実兄である駿介が来たということは、同僚の百合香が自分達の身を案じて通報したのではないか……とターボは推測していたのだが、どうやら彼女が駿介達を呼んだわけではなかったようだ。
「東方君が通報したわけではない……。では一体、誰が君達を……ハイパーレスキューをここに……?」
「さぁな。……間違いないのは、俺達は傷病者であれば誰であろうと助けに行く。それだけだ。あんた達新世代ライダーだろうが……ノバシェードだろうがな」
「そういうこった。俺達ハイパーレスキューは、そういう連中の集まりなんでね」
GNドライブのその呟きに対し、答えを出せる者は居ない。それでも駿介と巽は迷うことなく、ただ真っ直ぐに己の使命に邁進している。この状況の「真相」を知るただ1人の女傑は水上バイクに跨り、マリンプロテクターサイクロン号の遥か後方から、駿介達の様子を見つめていた。
「……」
「どうした?」
「……いや」
その女傑の気配を直感で察していた駿介は、鋭い顔付きで一瞬だけ振り返る。だが巽に声を掛けられた後、すぐに気を取り直すように処置を再開していた。
誰の思惑が絡んでいようが、誰に利用されていようが関係ない。どんな相手であっても、ハイパーレスキューの隊員が死に瀕している命を見捨てることはない。例えそれがノバシェードの構成員であろうとも、その一点に揺らぎはないのだ。
「……そうね。あなたはそういう男よ、東方駿介」
決して揺らぐことのない信念に従い、己の使命に邁進する駿介。そんな彼の逞しい背中を遥か遠方から見守っていた真凛・S・スチュワートは、1台の水上バイクに跨ったまま自嘲するような笑みを溢している。戦いの中で手を汚して来た自分とは「対極」であるとも言える、東方駿介という男。そんな彼の背は真凛にとって、このシャドーフォートレス島を照らす陽光よりも遥かに眩しいものだったのかも知れない――。
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