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仮面ライダーAP

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夜戦編 蒼き女豹と仮面の狙撃手 第8話


 一光のハッキングによって開かれたドアを突破し、要塞の最奥を目指して走り続ける真凛。彼女はついに、オルバスとミサイルスパルタンが対峙していた最深部に辿り着き――地下の格納庫に繋がる「大穴」を発見していた。

「……! ヘレン、オルバス……!」

 この要塞の最深部に相当する、ミサイルスパルタンの専用格納庫。そのエリアに繋がる「大穴」から噴き上がって来る猛烈な爆炎が、そこで繰り広げられている戦闘の激しさを物語っている。鋭く目を細めつつ、その大穴の淵に駆け付けた真凛は、そこから真下の格納庫エリアを見下ろしていた。

「弾切れ……!? こんな時にッ! オルバス、あなたの最大稼働スキル(フィフティーファイブレイク)は!?」
「生憎、まだ充填期間(クールタイム)が終わってねぇ……! ちくしょう、こんなところでッ……!」

 格納庫で無遠慮に暴れ回る、ミサイルスパルタンの要塞形態(フォートレスフォーム)。その巨大な鉄人と対峙しているヘレン・アーヴィングのマス・ライダー軽装型と仮面ライダーオルバスは、どちらも武器や必殺技を使い果たしてしまったらしい。
 一斉射撃を繰り出そうとしているミサイルスパルタンに対し、彼らは決定打となる攻撃を繰り出せずにいた。このままでは2人とも、鉄人の砲火によって消し飛ばされてしまうだろう。

(待たせたわね、ヘレン。お節介な元先輩からの、ちょっとした餞別よ)

 だがもちろん、このまま黙って2人の様子を眺めている真凛ではない。彼女はこうなった時のために、「古巣」の武器庫からサラマンダーを失敬して来たのだから。

「……はぁッ!」

 背負っていたサラマンダーのカスタムパーツから負い紐(スリング)を外し、真凛はその「切り札」を勢いよく「大穴」の淵から放り投げる。この戦いに終止符を打つ最終兵器が今、ヘレン達の前に舞い降りようとしていた――。

 ◆

 拳が先か、弾が先か。その紙一重の一騎打ちを制し、ホークアイザーを打ち倒した仮面ライダーターボ。彼は岩壁にもたれ掛かっているホークアイザーが戦闘不能となっていることを確認し、近くに倒れていた仮面ライダータキオンの側に駆け寄って行く。肩を貸して「仲間」を助け起こすターボの様子からは、かつての軋轢など微塵も感じられなくなっていた。

「……おい森里、生きてるか?」
「ふん、改造人間の俺がこの程度でくたばるものか。……俺を助ける気など無かったのではないのか?」
「何の話だ? もう忘れたよ」
「……ふっ。やはり単細胞だな、お前は」

 互いに不敵な笑みを向け合い、軽口を叩き合い。ターボの肩を借りて立ち上がったタキオンは、脇腹を抑えながらも両の足で地を踏み締めている。自分や周りから何と言われようと、身を挺して囮役を完遂して見せたタキオンの献身を目の当たりにして、ターボも考えを改めたのか。2人の間にあったわだかまりは、いつの間にか霧散していた。

「やれやれ……共に死線を潜り抜けても、あの2人は相変わらずか。参ったね、水見鳥君」
「……でも、前よりは良好な雰囲気のようですわ。これくらいで丁度いい……ということなのでしょう。彼らにとっては」

 そんな2人の様子を遠巻きに見届けていた仮面ライダーGNドライブも、傷付いた仮面ライダーG-verⅥを横抱きの要領で抱え上げていた。顔を見合わせた2人は安堵の息を漏らし、仮面の下で微笑を溢している。どうやら、G-verⅥの止血も完了していたらしい。

「ふっ、くくく……これでは、司令のことを笑えんな。節穴は……俺の方だったということか……」
「……! お前……!」

 そんな中、合流して行く新世代ライダー達の様子を眺めていたホークアイザーが小さく呟く。そのか細い声を聞き付けたターボが振り返った時、孤高の狙撃手は憑き物が落ちたような微笑を浮かべていた。ようやく己が探し求めていた「死に場所」を見付けたのだと言わんばかりに。

「……お前達の勝利だ。さぁ、好きなように嬲り殺すが良い。それが、敵に捕えられた狙撃兵の宿命というものだ。今さら逃げも隠れもせん。それが出来るような状態ではなくなったからな」
「……」
「俺の死に場所も、ようやく見つかった。もう、悔いは無い。さぁ……一思いに()れ」

 戦場で多くの兵士達を一方的に殺害した狙撃兵は、ただの歩兵よりも遥かに多くの憎しみを一身に集める。そんな狙撃兵が敵の捕虜となった時は――筆舌に尽くし難い「地獄」が始まるのだと言われている。

 その覚悟を決めた上でターボ達に挑んだホークアイザーは、然るべき「裁き」を受ける時が来たのだと、達観した様子で瞼を閉じる。だが。彼の前に立ったターボは怒りを露わにしないばかりか、冷静な佇まいで片膝を着き、彼の両手に手錠を掛けていた。

「……午前4時29分、被疑者を確保」
「なに……? どういうつもりだ、仮面ライダーターボ。この期に及んで、俺に情けでも掛けようというのか。テロリストに堕ちたこの俺を……!」
「お前達の道理なんざ知ったことか。俺達は仮面ライダーであり……警察官だ。無抵抗の相手を手に掛けるような、殺し屋になった覚えは無い」
「……そういうことだ。楽に死ねるとでも思ったか? 残念だったな」

 激情に流されることなく、仮面ライダーという名の特務警官として粛々と職務を遂行しようとするターボ。そんな彼の行為に声を荒げるホークアイザーに対し、脇腹を抑えたまま立っているタキオンは不遜に鼻を鳴らしていた。
 彼らの言葉に瞠目するホークアイザーは、自分が戦っていた相手の「強さ」を目の当たりにすると――打ちひしがれた様子で脱力し、乾いた微笑を溢す。

「……俺の負けだな、何もかも……」

 その敗北宣言を経て、この戦いが真の決着を迎えた――直後。突如、このシャドーフォートレス島全体が激しい揺れを起こし、ライダー達の体勢を乱し始めた。予期せぬ地震にターボやタキオン達は顔を見合わせ、何事かと目を見張る。

「なっ……何だ、この揺れは一体っ……!?」
「……自爆装置だ。どうやらお前達の仲間が、俺達の司令(ボス)を倒してしまったらしいな。あと数分で、この島全てが焼け野原と化すぞ」
「何だって……!?」

 苦虫を噛み潰したような表情で辺りを見渡したホークアイザーの言葉を受け、ターボ達に緊張が走る。彼の発言が脅しの類ではないことは、島中から飛び出す火柱や地震の激しさが証明していた。
 まさにこの瞬間。真凛・S・スチュワートからサラマンダーを託されたヘレン・アーヴィングの一撃がミサイルスパルタンを撃破し、シャドーフォートレス島の自爆装置が作動していたのだ。島全体が丸ごと焦土と化すほどの爆炎を呼ぶ、機密保持と証拠隠滅のための機能。そのカウントダウンが、ついに始まってしまったのである。

「不味いな、それなら早く脱出しないと……!」
「……お前達。その装甲の水滴を見るに……途中で機雷に船を壊された後、泳いで上陸して来たのだろう? 爆発の範囲は島の外にまで及ぶ。いくら最新式の外骨格と言えども、泳ぎでは到底逃げ切れんぞ」
「じゃあどうしろってんだ!?」
「……これを、持って行け」

 ターボが詰め寄る中、ホークアイザーは手錠を掛けられたまま最後の力を振り絞るように懐へ手を伸ばし――何らかの「鍵」を地に落とした。乗り物のエンジンを起動させるキーのようだ。その鍵を目の当たりにしたGNドライブが、仮面の下で目を丸くする。

「これは……?」
「俺の旧型外骨格(スナイパースパルタン)のために開発されていた、専用哨戒艇の起動キーだ。哨戒艇と言っても、最高時速は500kmを超えるモンスターマシン。並の人間が乗っても、そこまで加速する前に振り落とされてしまうところだが……お前達なら問題なく乗りこなせるはずだ」
「その船はどこにありますの?」
「この斜面を海岸線まで下り、右手沿いに回り込んだ先の洞窟に隠してある……。その船の装甲なら、島の外周に撒かれた機雷など問題にもならん」

 鍵を拾い上げたGNドライブに対し、ホークアイザーは脱出の「切り札」となる自分専用の船の存在を伝える。G-verⅥの問いに答えながら船の位置を指差す彼の手は、力無く震えていた。もはや、自力でまともに動けるだけの力も残っていないのだろう。

「海岸線から右手沿い……!? かなりの距離じゃないか! 間に合うかどうか……」
「諦めるな仮面ライダー、お前達の足なら必ず間に合う。……この俺を打ち破った男が、情け無いことを言うな」
「……あぁ、そうだな。よし、それならお前も一緒に……っ!?」
「それに……心配など要らん。俺が……間に合わせて(・・・・・・)やる」

 そんなホークアイザーを連れて島を脱出しようと、ターボは手を差し伸べるが――彼はその手に応えようとはしなかった。「間に合わせる」というホークアイザーの言葉が意味するものに、ターボが気付くよりも速く。肩部のスイッチに触れた彼の全身は、眩い輝きに包み込まれていた。

「……! よせぇッ!」

 いち早くホークアイザーの意図に勘付いたタキオンが、咄嗟に地を蹴って手を伸ばそうとする。だが、もはや手遅れだった。

「……『仮面ライダー』の名は……俺達には、過ぎたものだったようだ。お前達に……返、す……」

 微笑と共に、ホークアイザーが最期(・・)にそう呟いた瞬間。青と黒の外骨格が、激しい閃光と共に爆ぜる(・・・)。やがて、その衝撃波がライダー達全員に襲い掛かるのだった。彼らは為す術もなく吹き飛ばされ、その勢いのまま斜面を転げ落ちて行く。

「うわあぁあぁあっ!?」
「きゃあぁあっ!」

 地震によって体勢が崩れていたところで至近距離での爆発を受けたターボ達の身体は、姿勢を立て直すこともままならず、木々を薙ぎ倒しながら猛烈な勢いで海岸線まで滑落して行く。爆発の勢いを乗せたその滑落は、ライダー達の走力すら凌ぐ速度に達していた。

 超加速能力(クロックアップ)もストライクターボも使い果たした今の彼らでは、例え全力で山を駆け降りたとしてもこれほどの速さで斜面を下ることは出来なかっただろう。スナイパースパルタンの外骨格を「自爆」させたホークアイザーは、文字通り命を賭して、ターボ達を島の海岸線まで「間に合わせた」のだ。

「ぐうぅうッ……!」

 木々との衝突により、少しずつ滑落の速度が落ちて行く。そんな中で海岸線が見えて来た瞬間、ターボ達は両膝と両手で地面を削りながら全力で「減速」し、辛うじて海に飛び出す直前のところで停止することが出来た。あと僅かでも遅れていたら、島の外周を漂う機雷に頭から突っ込んでいたところだ。

「……ッ!」

 すると、その時。何とか立ち上がったターボの頭上に、一つのネックレスのようなものが落下して来る。咄嗟に片手でキャッチしたそれは――「MILOS(ミロス) HAWKIZER(ホークアイザー)」という名が刻まれた、認識票(ドッグタグ)だった。
 爆炎に焼け爛れたその「証」を握り締めたターボは独り、声にならない慟哭を上げる。だが、今の彼には悲しんでいる暇もない。島が爆炎に飲まれる瞬間は、刻一刻と近付いているのだ。

「……立ち止まるな、本田。奴が命と引き換えにしてまで俺達に望んだことは……一体何だ?」
「あぁ……分かってる。行こう、森里」

 人知れず嗚咽を漏らすターボの肩を叩き、他のライダー達と共に走り出して行くタキオン。そんな彼の後に続き、ホークアイザーの遺言を頼りに脱出用の船を探すターボは、一度だけ斜面を見上げ――炎が立ち昇る光景を仰いでいた。
 
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