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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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趣味と人

「むにゃ……」

 ふわ……眠いです。なのに目が覚めてしまいました。
 んー、まだ6時半ですか……もうすぐ7月ですから布団から出られないということはありませんが眠気とそれは関係ありません。

 ふと隣のベッドに目をやると箒さんは……いませんね。いつもの朝練でしょう。所属は剣道部ですからね。と言っても一夏さんの特訓に付き合ってますから放課後部活に行ってるのほとんど見たことないですけど。
 あと30分位すれば箒さんも戻ってくるでしょうしもう少し寝ても……

『やめろ! やめろって馬鹿!』

 ………脳内の私? 隣から何か聞こえましたか?………

 いいえ、心の私? 聞こえていませんよ?

 そうですか。気のせいですね。ではもう一眠り……

『チェストオオオオオオオオオオ!』

 脳内の私? 箒さんの声も聞こえたようですけど?

 いいえ、心の私? それは夢を見ているからですよ?

 そうですか。ということはもう私は寝ているんですね。こんな騒がしい夢は覚めたほうがいいかもしれませんが……


――――――――――――――――――――――――――――――


 今日は何故か……何故か! 朝練の箒さんの帰りが遅かったので私は一人で寮の食堂に来ています。理由なんて知りませんし知りたくもありません!

「カルラさん、おはよー」

「はい、おはようございます」

 この間の学年別トーナメントで唯一公式試合をやり抜いたせいか、それとも専用機持ち同士の戦いだったからなのか、私の名前は完全に一人歩きをしていて今も全く別の知らない人に挨拶されました。
 でもこういう時が逆にいい機会です。利用して交友を増やしましょう。
 私の方からも挨拶をすることで友達とまではいきませんが挨拶するくらいの仲にはしたいですね。
 なんてことを考えていると……

「しまった……」

 食堂を使う時間帯間違えました。
 いつもは箒さんと一緒に出るため早めに来るから席は空いているのですが、今日は箒さんを待って遅くに来たせいで席が全然空いていません。
 うーん、どうしたものか……

 そう考えて視線を巡らすと、何故か一つの机が丸々空いていました。そこにいるのは一人だけでその人の周りを避けるように人が座っています。

 何で?

 何はともあれそこしか空いていないのであれば行くしかないでしょう。
 近づいてみると、その一人で座っている女の子の顔には見覚えがありました。代表候補データベースで見た人で名前は確か……

更識(さらしき)……(かんざし)……?」

「……何?」

 き、聞こえていたんでしょうか。凄い小さく言ったつもりだったんですけど……
 振り向いたということはやはりこの人は更識さんで間違いないようですね。
 髪の毛は肩を過ぎた辺りのいわゆるセミロングで色は綺麗な淡い青色。
 瞳は赤色でその目には申し訳程度に小さなメガネを掛けてます。

「いきなり呼び捨ては……失礼……」

「あ! すいません!」

 私が謝ると更識さんは再び朝食を始めました。

「あの~、更識さん?」

「……やめて…………」

 私が名前を呼ぶと更識さんがこちらを見ないで言いました。

「簪で……いい……苗字は……嫌いだから……」

「はあ、じゃあ簪さんと」

「ん……」

 それで満足したのか簪さんはまた朝食を開始します。うう、やりにくいなあ……
 何で苗字が嫌いなの、とか言いたいことは色々ありますが。なんというか……

 暗い!

 第一印象がそうなってしまいます!

「………で」

「はい?」

「あなた……本音と……同じクラスの…オーストラリアの……候補生……用があるから……呼んだんじゃないの?」

 そうでした、忘れてましたよ。

「あの、隣いいですか?」

「?」

 簪さんが『どうして?』と言うように少しだけ首を傾げます。物静かなのもあってお人形さんみたい。可愛い人だな~……じゃなくて!

「他に席が空いていないので」

 私がそう言うと簪さんは初めて気づいたというように首を少し回して辺りを見てから、少しだけ頷いてくれました。

「ありがとうございます」

 そう言って私は簪さんの隣に座って朝食を開始します。
 今日は珍しく和食にしました。ご飯にお味噌汁に焼き鮭、漬物、目玉焼きというこれでもかというほどの日本食です。
 お箸の使い方はこの3ヶ月で練習しました! そして箒さんにも習いました! いざ、実食!

 まずは目玉焼きから~。やっぱり目玉焼きにはシンプルな塩……

 ふと、何故か隣から視線を感じたので左を見てみると、こちらを見ていた簪さんと目が合いました。

「あ、あのー……」

「…………」

 何も言わずに自分の朝食を食べ始める簪さん。なんだったんでしょうか?

「だーかーらー! あれは誤解だったって言ってるじゃないか!」

「ふん! 布団に入られるほうが悪いのだ! 少しは反省しろ!」

 聞き覚えのある声に顔を向けると、入り口から一夏さんと箒さん、そしてラウラさんが食堂に入ってくるところでした。

ガタッ!

 一夏さんたちが来たのを見ていると急に簪さんが立ち上がりました。

「簪さん?」

 簪さんは私の声には答えないでトレーを片付けると素早く食堂から出て行ってしまいました。

 アムアム……

 どうしたのでしょう?食べ終わったにしてはあそこまで急ぐ理由は無いと思うんですけど?

 パクパク……

 だってまだ時間ありますし………うーん。

 モグモグ…

 そういえばさっき一夏さんとじゃなくてのほほんさんと同じクラスって言われましたね。

 ウムウム……

 ということは簪さんはのほほんさんとお知り合いなのでしょうか? もう少し話を聞いておきたかったですねー。

 カチャカチャ……あれ?
 
 はっ! 考え事をしていたら朝食がもうないです! 何てことでしょう……やはり考え事をしながら食事をするものではありませんね。味が全然分かりませんでした……

 時間もいい感じですし、私は先に行きますよーっと。あの剣幕の3人に巻き込まれるのはゴメンですからね。

 学食を出ると何故か顔を真っ赤にしたシャルロットさんが走ってきました。

「おはようございます。シャルロットさん」

「わ! カルラ! お、おはよう! ごめん、僕急いでるから!」

 そう言ってシャルロットさんは学食に入っていきました。珍しい、あのシャルロットさんが寝坊だなんて。相部屋は軍規を具現化したようなラウラさんのはずですから寝坊なんてするはずないんですけど……そう言えば何でラウラさんはシャルロットさんとじゃなくて一夏さんと箒さんと一緒に? 早朝のことなんて知らないですよ?

 時間的に今から朝食だと遅刻ギリギリですね。ファイトですよ、シャルロットさん。

 結局シャルロットさんは間に合わず遅刻……ではなく遅刻しない過程でISを部分展開とはいえ学内で使った方が問題視され、その上何故か一緒に一夏さんもいたので放課後の教室掃除の罰を言い渡されました。

 何か今日のシャルロットさんはらしくないです。何かあったんでしょうかね?


――――――――――――――――――――――――――――――


 時間は放課後、今日は一夏さんとシャルロットさんが朝のIS使用の件の罰で教室の掃除を行っていて練習はしないということなので部屋に戻ってきました。
 一夏さんがいないと皆さん部活に行くので必然的に私は一人で寮の部屋に戻ることになります。私も何か部活やりましょうかね?
 そう考えながら扉に鍵を差し込むと……

「うん?」

 あれ? 開いてる。
 ………も、もしかして泥棒!?
 ……いえ、IS学園に限ってそれはないでしょう。ということはただ単に朝に鍵を掛け忘れたんでしょうか?
 今日は箒さんの方が出るのが遅かったので分かりませんね。

 電気は……点いてません。どうやら鍵を掛け忘れただけ……


ガサゴソ


 今……音がしましたよね。気のせい?


ガサガサゴソゴソ


 明らかに誰かいます! しかも漁ってます! やっぱり泥棒!?
 落ち着け……相手が泥棒なら不意を付いて後頭部に手刀の一撃でけりが付くはず。

 足音を立てずに部屋の中に。


ガチャガチャ


 電気も点けないで私の銃の飾り棚漁ってますね。鍵は掛けてあるのでそれを外そうとしているようです。


カチャリ


 嘘! 外れた!? 上と下に2つも鍵付けてるのに!?

 まずい、いくら弾が入ってないとはいえ銃はそれだけで凶器! 何に使われるのか分かったものではありません!

 相手が棚に集中している今がチャンス!
 電気のスイッチを点けると同時に相手の背後から襲いかかる!

(とった!)

 完全に右手の手刀が首筋に入ったと思った瞬間、その首筋が……消えた!?

「え?」

 私の体が一瞬の浮遊感の後地面に組み伏せられていて、同時に相手の右手によって首を締め上げられる。

「ぐ……あ!」

 その相手が私に馬乗りになり、振り上げた左手には……巨大なサバイバルナイフ……が……




ドス!




 右の首筋ギリギリの所の床にサバイバルナイフが突き立てられました。

「なんだカルラか」

「は?」

 その声にナイフから意識を外して相手の顔を確認すると、そこには……眼帯をしていないラウラさんがいました。
 右目と違う色の左目。『越界の瞳』を使うことで電気が無い中でも部屋を見渡せていたのでしょう。

「急に襲い掛かってくるから敵かと思ってしまった。許せ」

「こ、殺されるかと思いましたよ……」

 ラウラさんはそう言うとナイフをしまって私の上から退いてくれました。
 まだ心臓のバクバクが止まりません。というより心臓本当に一瞬止まりましたよ……泣いてないのが嘘みたい。

「そもそもお前が相手を確認せず襲い掛かってくるのが悪い」

 いえ、まあそうなんですけど……ってそうじゃないです!

「それ以前に何で私の部屋にいるんですか!?」

「お前が銃器を集めるのが趣味だと聞いてな。見に来た」

 だからそうじゃないですってば!

「鍵掛かってましたよね!?」

「簡単に開いたぞ?」

 そう言ってラウラさんはピッキングツールを取り出しました。
 先生、せんせーい! ここに不法侵入者がいまーす!

「ここの学園はもう少し内部の防犯にも気を遣うべきだな。スパイや暗殺者が入り込んだりしたら一夜で全員殺されるぞ」

「それ以前に勝手に部屋に入らないでください!」

「細かいことを気にするな。禿げるらしいぞ」

「禿げません!」

 呆れながら地面に落ちている二つの錠を拾います。

 あーあー、本当に鍵外しちゃってますし。
 これ4桁の暗証番号と鍵もないと開かないタイプの錠なのに、番号完璧ですし鍵も多分ツールで開けたんでしょうね。鍵穴全然傷無いのに本物の鍵で開けたくらい綺麗です。ラウラさんスペック高すぎ。

「で、だ。我がドイツのものはあるのか?」

「え? あ、はい。一応……」

 ラウラさんが眼帯を戻しながら聞いてきたので、開けられた棚にあった『MP7』を手渡します。

「ふむ、H&K社の『MP7』か。手入れもしっかりしている。いい銃だな」

 そう言いながら『MP7』を構えるラウラさんは眼帯も相まってすごい絵になります。格好いいです。

「しかし何故弾が無いのだ?」

 マガジンが空なのに気づいたのでしょう。ラウラさんがマガジンを取り外して中身を確認しながら言ってきました。

「撃ちませんから弾はありませんよ」

「む? 撃たずにどうする?」

「私はそれを見るのが好きなので」

「見る? 鑑賞用ということか? 理解できんな。銃は使ってこそだ」

「まあ、そこは個人の感性の違いと言うことで」

「確かにそこにとやかく言うつもりは無いが……ふむ、まあ武器庫が確保できたと考えるか。弾は私の方で準備しよう」

「いや、準備しなくていいですから。むしろ止めてくださいお願いします」

 何かある度に首にナイフ突きつけられたらたまりませんよ。床のフローリングに空いた穴を見て私は思わずため息をついてしまいます。

「そう言えばここには拳銃が無いな」

「あ、拳銃はこっちに」

 その言葉に私はベッドの下にある大型のアタッシュケースを引っ張り出します。拳銃系統はちょっと飾る場所が無くなって来たのでこの間こっちに移したんですよね。えっと暗証番号打って……っと。

「はい、どうぞ」

「『デザート・イーグル』に『グロック17』、『ベレッタM92』か。有名どころが揃い踏みだな。ドイツのものは無いのか?」

「あるには……あるんですけど……」

「む? 何か含みのある言い方だが」

「まだ組み立ててないんですよ」

 私はそう言ってベッドの下から今度は大きなダンボールを引っ張り出してふたを開ける。組み立てていない銃器が入っているダンボール。

「えっと……あ、あった。『P8』ってそうですよね」

「うむ」

 バラになった状態の『P8』の入ったケースを手渡すとラウラさんはそれを開けて……

「って何やってるんです?」

「決まっているだろう。組み立てるだけだ」

「え?」

 言った瞬間にはラウラさんがものすごいスピードで『P8』を作り始めました。って速い速い! 私なんて取り扱い説明書見ながらじゃないと無理な作業。それをラウラさんはいつの間にか眼帯を取って両目で銃を組み立てていく。
 その間わずか一分。速すぎです。
 そしてラウラさんは眼帯を戻し、窓を開けました。何で?
 見ていると自分のポケットから銃弾を取り出してマガジンに込めるとそのまま銃へとマガジンを装填し安全装置を解除……って!

「ちょちょちょちょちょちょっと!! 何してるんですか!」

「見て分からんか。撃つ」

「止めてください!」

「大丈夫だ。外に撃つ」

「だからそれを止めてください!」

 引き金に手を掛けようとするラウラさんの手に飛びついて引き離します。

「銃身が正確に正面を向いているか確認せねばならんだろう」

「観賞用ですからそういうのはいいんですってば!」

「イザと言うときに使えねば武器ではない」

「だからそういう用途じゃないんですってば!」

 止めようとする私を華麗に避けたラウラさんが再び銃を窓の外に向ける。あー! 誰かこの人を止めてぇ!


 ヒュンヒュンヒュン!


「へ?」

 何かが目の前を猛スピードで通り過ぎて……


 スパーン!


 はい?

「むが!」

 通り過ぎた何かがいい音と共にラウラさんに直撃……って出席簿!?

 その出席簿はラウラさんの額を的確に抉るとその頭を基点にホップして再び風を切りながら来たほうに戻っていきます。
 パシっ、と見事な音を立ててキャッチする音がした方を見ると、入り口には予想通りというかあなたしかあんな事できないでしょうというか……織斑先生が立っていました。

 えー……っと……ブーメラン?

「警報が出たから何かと思えば、貴様の仕業か」

「き、教官!?」

「織斑先生、だ。それから不法侵入は立派な犯罪。それが寮内の人間でもな。ラウラ、来い」

「は、はい!」

 何故か嬉しそうに連行されていく額を赤くしたラウラさん。
 うーん……というよりあの出席簿って本当にただの出席簿なんでしょうか?
 どっちかって言うより織斑先生が規格外なだけなんでしょうか?
 それともどっちも?

 考えても分からないし……放っておくしかないですね。
 とりあえず鍵、増やそうかな……… 
 

 
後書き
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