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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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延長戦

「たあ!」

「でやあ!」

 私の構えた『アドレード』とシャルロットさんの『ブレッド・スライサー』、両手に構えた計4本の刃が激突して火花を上げる。
 一瞬だけ競り合った後、ほぼ同時に距離を取る。その時にはシャルロットさんの手に既に『ブレッド・スライサー』はなく、五五口径アサルトライフル 『ヴェント』2丁がこちらを向いています。

 それを見て私は『アドレード』を投擲、投げた瞬間両肩から『カイリー』を引き抜いて弧を描くように投擲します。

 『アドレード』は当然撃ち落とされましたが、その間に両腰の『ハディント』『エスぺランス』を引き抜いてシャルロットさんに向けて引き金を引く。

 2人で円状に飛翔しながら射撃の応酬をしつつ、もう一組の方に意識は外さない。

『カルラ! そちらに行ったぞ!』

「どりゃああ!」

 個人間秘匿通信で箒さんの声が響きます。
 その瞬間に一夏さんが私に向かって『雪片弐型』を構えて切りかかって来ていました。

「ぐ!」

 円状に飛翔するのを止めて何とかその突撃を回避。よし、一夏さんの上を取った!

『甘いよ!』

「っ……!」

 一夏さんに狙いをつけた瞬間、飛行を続けていたシャルロットさんに後ろを取られてしまいました。
 その両手には先ほどの『ヴェント』ではなく、近距離で威力を発揮する六二口径連装ショットガン『レイン・オブ・サタディ』。

『させん!』

 そのシャルロットさんに向かって箒さんが近接ブレードで切りかかる。シャルロットさんは予想していたのかその攻撃を簡単に避け、『レイン・オブ・サタディ』の目標を私から箒さんに移し引き金を引く。

 近距離でショットガンの射撃を受けた箒さんが後方に吹き飛ばされながらも左腕に展開していた『重籐』でシャルロットさんを狙い撃った。

『まだまだ!』

 左手の『レイン・オブ・サタディ』がいつの間にか物理シールドに入れ替わっており、『重籐』から放たれた榴弾を阻む。
 やっぱりシャルロットさんは器用すぎる。ほとんどダメージが通らないっていうのは思ってた以上にきついです。

 それに加えて……

『もらったぁ!』

 この一夏さんの『瞬時加速』による突進力! 一夏さん一人だけならいくらでも対応できるって言うのに!!

シュン

 一夏さんを迎撃しようとした私の目の前を銃弾が通過する。撃ったのは当然シャルロットさん。
 この的確すぎる援護がまた……!

 振り下ろされた『雪片弐型』を辛うじて回避してもシャルロットさんの弾丸の雨に晒されて、大きくシールドエネルギーを削られてしまいます。

『カルラ、無事か!』

「ええ、ご心配なく!」

 通信で箒さんに答えつつシャルロットさんに対応すべく動く。シャルロットさんの行動は全て先読みと攻撃方法による相手の誘導。更にはあの高速切り替えによって常に相手へと有利な戦法を取れるということ。

 なら……

「箒さん、しばらく一夏さんを抑えられますか?」

『ああ、任せろ!』

「お願いします!」

 出来なくてもいい、今はやるしかない!

 両手の『ハディント』と『エスペランス』を上空に放り投げる。

『え!?』

『何!?』

 それを見ていたシャルロットさんと一夏さんが驚きの声を上げる。当然ですけど。
 そして両手に再度武装を展開。右手に『ミューレイ』左手に『ダラマラ』。
 更にそれも上に放り投げる。更に武装を展開、右手に『コジアスコ』左手に『グリニデ』。
 それも上空に放り投げて最後の武装、右手に『イェーガン』、左手に『オーガスタス』を展開する。

 相手が全て武器を入れ替えられるならこちらはそもそも準備して使う武器を読ませないだけ!

「行きますよシャルロットさん! 高速切り替えの準備は万端ですか!?」

 そして躊躇い無く『イェーガン』を振りかぶり、一夏さんとシャルロットさんの間に投擲する。

―『イェーガン』内温度急速上昇、危険区域に到達―

『一夏、回避!』

『お、おう!』

 二人とも爆発する前に直撃コースから回避。
 うん、鈴さんに一度やりましたし流石に読まれますよね。


 ガン!


『ぐお!』

「「「へ?」」」

―『白式』シールドエネルギーempty―

「う、嘘だろーーーーーーーーー!」

 一夏さんの叫び声と共に『白式』が動きを止めました。
 えっと…何が起こったかというと……避けた先に背後から飛んできた『カイリー』が一夏さんに当たってシールドエネルギーが0になりました。それだけです。

「えい」


 ポカ


「あう……」


―シールドエネルギーempty―

 シャルロットさんのブレードで軽く頭を叩かれてシールドエネルギーが0になりましたけどそんなのもう関係ないくらいやる気なくなりました。
 元々『カイリー』投げたのシャルロットさん対策だったんですよ!? 爆発回避してその先にシャルロットさんを誘導するつもりだったんですよ!?
 シャルロットさんはちゃんとそこも読んで『カイリー』を回避してるのに!

「な、何かゴメンね……」

「いいんです……いいんです……全て私の未熟さが引き起こしたことですから……」

 ああ、シャルロットさん。その優しさが今は痛いです。
 あれ? 何か忘れているような………


ヒューーーーーーーーーーー

ドゴドゴドゴドゴ!


「にゃあ!?」

「ふぎゃ!」

 わ、私の放り投げた銃が落ちてきて私とシャルロットさんに直撃………
 更にその放り投げた『グリニデ』のグレネードが外れて………誘爆した!

―『ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ』シールドエネルギーempty。勝者、カルラ・カスト&篠ノ之 箒ペア―

「「「えええええええええええ!?」」」

 零距離でグレネードが爆発したことで……シャルロットさんのシールドエネルギーが0に。
 一夏さん以外の叫び声がアリーナに木霊しました。


―――――――――――――――――――――――――――


「すいませんシャルロットさん。あんな情けない終わり方で……」

「ううん……僕も似たようなものだったしいいよ……」

「「はあああああああ……」」

 隣を歩いているシャルロットさんと共に深いため息をついてしまいます。だってあの終わり方は代表候補生としての面目というかプライドというかそんなものが全部壊れた気がします……

 セシリアさんたちが全員用事でいなかったのが不幸中の幸いというところでしょうか……
 ラウラさんは一時帰国中です。VTシステムを積ませたのは誰であれラウラさんのISに積んであったのは事実ですからその説明、ということで。予定では今日帰ってくるはずです。

「ま、まあ二人とも。そう落ち込むな。本番で失敗せねば良いだけの話だ」

「まあ……そうなんですけどね」

「うん、そうだね。そう思うことにするよ。ありがとう」

 私たちの後ろを歩いていた箒さんがそう言ってくれて少し楽になった気がします。私とシャルロットさんだけだったら無限ループしちゃいそうでしたから。

「とりあえずこのことは他の人に内緒ということで」

「ああ、分かっている」

「流石にこんなの恥ずかしくて言えないよ」

「と、とりあえず勝ちは勝ちということで、シャルロットさんの事情、説明していただけますね?」

「うん、というより元々話すつもりだって言ったのに、どうして?」

 元々シャルロットさんは事情を説明してくれるつもりだったようなんですけどなんと言うか、私が無理言って模擬戦を頼みました。

「なんというか、私もやるからには負けたくなかったというか」

「へ?」

「いえ、あのままトーナメントが続いていたらシャルロットさんたちはセシリアさんたちと戦うことになっていたじゃないですか。だから……実力を知っておきたかったと言いますか」

 なんでしょうね。上手く言葉に出来ないです。そもそも戦うのは嫌いなはずなのに……
 熱血は私のステータスにはありませんよ。うーん、自分でも分からなかっただけで負けず嫌いなんでしょうか。

「くすっ、カルラって面白いね」

「そうですかね?」

「面白いというより分からないといった方が正確だ。戦いが嫌いなくせに何故か銃器が好きなところなんて特にな」

 ぐえ、箒さんの言葉が胸に刺さります。もうそのことは勘弁してくださいよ。

「へえ、そうなの?」

「え、ええ。部屋にいくつかあるので後で見に来ますか?」

「ほう、それはいいな。今度私も見せてもらおう」

「ええ、どう……ぞ?」

 あれ? 今ここにいるはずのない人の声が……

「む、何を揃って顔をきょろきょろしている」

「「「わあ!」」」

 ら、ラウラさん!? いつからここに!?

「む、いつから、という顔をしているな。来たのは今だ。カルラが銃好きというところからだな」

「そ、そうですか……いえ、それ以前にいつ戻ってきたんですか?」

「今日の午前中には日本についていたんだが入国手続きに時間がかかってな。学園に戻ってくるのがこんな時間になってしまった」

 登場の仕方が心臓に悪いです。いえ、別にラウラさんが悪いというわけではないのですが……

 帰国の過程でラウラさんの出生が本国からの連絡で明らかにされました。
 ラウラさんは遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)として生み出された試験管ベイビーであり、戦うためだけに作られた存在だということ。さらにはラウラさんがしている左目の眼帯は『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』と呼ばれているらしく、肉眼へのナノマシンを直接移植処理することで、脳への視覚信号伝達の爆発的速度向上と、超高速戦闘状況下における動体反射の強化を可能としているらしいです。
 その為、ほぼ人体実験とも呼べるこの二つの非人道的内容と、ISへのVTシステムの搭載と言う条約違反に対し各国からドイツには激しい非難が集中。
 一時的には米国のようなIS大国や私の所属する赤道連合、中国やロシアのような様々な大国からドイツのISを剥奪するべきだと言う声も上がったようですが、ヨーロッパ統合防衛計画『イグニッションプラン』を推し進めるEU首脳陣はこれ以降ドイツを監視、指導するということで擁護。更にはVTシステムの搭載とラウラさんを生み出した施設が先日、詳細不明の事故により文字通り地上から消えていたため各国は証拠不足によりそれ以上追及することが出来ず、何とか決着がつきました。


閑話休題―

 ちなみにラウラさんには名前で呼べと言われました。本人曰く

『嫁の友達なら私の友だ。名前で呼び合っているなら貴様もそうしろ。私も今日からカルラと呼ぶ』

 だそうで。ラウラさんらしいというかなんというか……
 でもラウラさんが前より話しやすくなったのはきっと一夏さんのお陰なんでしょうね。一夏さんには感謝しないと。

「うん? 鈴とセシリアはどうした? お前がいるならあの二人もいそうなものだが」

 箒さんがそうラウラさんに聞きました。そう言えばいませんね。

「さあな、どうせ嫁のところにでも行っているのではないか?」

「ラウラさんはいいんですか? 行かなくても」

「何を言っている。既にあいつは私の嫁だ。ならば放っておいてもどうということはないだろう」

 おおおお……箒さんの顔色がものすごいことに……シャルロットさんが苦笑いしていますし……なんなんでしょうね。
 というよりそもそもが一夏さんのせいなのでどうこう言えませんけど。

「とりあえず立ち話もなんですし、私たちの部屋に行きます? あ、シャルロットさん。ラウラさんには……」

「ああ、うん。ラウラは全部知ってるみたい」

「へ?」

 そう言えばシャルロットさんが女性だと判ってから一夏さんとは別の部屋になったんですよね。確かラウラさんと同室だと聞きました。
 ということはもう男性として来た理由は話してある? ……いえ、今の言い方だとラウラさんが自力で気づいていたと……

「我が軍の諜報能力を甘く見てもらっては困るな」

「……そうでしたね」

 忘れていたわけではありませんがラウラさんはこう見えても生粋の軍人で、しかも部隊長だそうで。となればドイツ軍の諜報能力を持ってすればそれくらい調べるのにわけはないということですか。

「ま、そういう訳だから私は今回は遠慮する。知っていることをわざわざ聞くのは時間の無駄だからな」

「そ、そうですか」

「あ、あはは……」

「…………」

 そういうラウラさんの顔にはシャルロットさん当人の目の前だからとかいうのはありません。淡々と事実だけを述べていく様はやはりこの人が軍属だということを思い出させてくれます。

「ちょっと一夏!」

「お待ちになってくださいませ!」

「絶対嫌だー! お前ら二人と模擬戦なんてどんなイジメだ!」

 その時聞き慣れた声が聞こえました。その声にラウラさんの無表情だった顔が反応します。

「嫁のピンチのようだ。では私はいく」

「は、はあ。気をつけて」

 それだけ言うとラウラさんは声の聞こえたほうに猛スピードで走っていきました。

「とりあえず……部屋に行きましょうか」

「うん」

「ああ」


―――――――――――――――――――――――――――


 部屋に戻ってお茶を入れて、一息ついてからシャルロットさんの話を聞きました。

 自分がデュノア社社長の愛人の子供であること、母親が亡くなって引き取られたその先で偶然高いIS適正があると分かったこと、デュノア社の苦境のこと、そして自分がIS学園に男性として送られた目的……広告塔と『白式』のデータを盗んで来いと命令されたこと、女だということがばれたこと、一夏さんに説得されて卒業まで学園にいることを決めたこと。
 そこまで私と箒さんは黙って聞いていました。その間シャルロットさんは何か自分のことではないかのように語っていました。
 喋り終えたのかシャルロットさんはほとんど冷めた紅茶を一口含む。と同時に固まっていた表情が元に戻りました。

「うん、僕の話はこんなものかな」

「……何かわけがあるとは思っていたがそれ程の内容だったとはな……」

「何かごめんね。騙してて」

「いや、それこそ理由があったからなのだろう?」

「そうだけど……結局は断りきれなかった僕のせいだから」

「むう……そこまで気にするな。私もカルラも気にしていない」

「はい」

「そう、そう言ってくれると楽になるよ。ありがとう」

 箒さんの言葉にシャルロットさんは俯いて返事をします。デュノア社についての苦境は公然の秘密というやつでしたし、そこまで驚くことではなかったのですが……これではシャルロットさんは3年後にフランスに帰るわけにもいきませんね。
 命令違反にそもそもデュノア社がそういう内容でシャルロットさんを送り込んでいます。それがばれたとすれば非難を浴びるのは必然です。となればシャルロットさんの存在を隠すしかない。良くて牢獄、悪ければ……命令違反を押し立てての銃殺、何ていうのもあり得ます。

「で、どうするんですか?」

「え?」

 居ても立ってもいられず私はシャルロットさんに尋ねていました。
 私の問いにシャルロットさんが顔を上げて答える。

「う、うん。一夏も言ってたけど3年間あるし……ゆっくり考えてみようと思う」

「そうか」

「嬉しかったなあ……僕、ここにいていい、なんて言われたの初めてだったから。エヘヘ」

 そう言うシャルロットさんの顔にはいつもより感慨深い笑顔と薄っすらと涙が伝っていました。

「む、そうか……」

 箒さんがどこか複雑なような表情をして黙り込んでしまいます。シャルロットさんが一夏さんを好きになった理由がこれでは責めるに責めれませんし心境的には複雑なところでしょう。
 そう考えると普通の家庭の私の現状は幸せなんでしょうね。今まで無自覚でしたけど途端にそう思ってしまいます。

「じゃあ、いっそのこと亡命しちゃいます?」

「「は?」」

 そう言った私に二人が理解不能といった感じの顔を向けてきました。
 まあ……いきなり国を裏切れなんて言ってるんですから分かりますけどね。

「赤道連合の体系は知ってますよね?」

「う、うん。複数の国で連合を組んで一つのISを作るっていう……」

「その過程でほとんどの国は優秀な人材なら国籍を差別せずに企業、国に所属できます。まあ亡命ともなるとその分チェックも警戒もかなり厳しいですが……」

 自国の体系とシャルロットさんの専用機を考えれば十分亡命は考えられる。当然フランスからのIS返還要求はあるでしょうがそれでも代表候補生クラスの人材はどの国も喉から手が出るほど欲しいはず……

「カルラ……」

「はい」

 途中まで言いかけてシャルロットさんに止められました。

「気持ちは嬉しいけど……まだ決められないよ……」

「シャルロットさん……」

「確かにデュノア社には戻らなくていいかもしれないけど……やっぱりフランスは僕の故郷で……母さんと一緒に住んでた思い出があるから……」

「あ………」

 私は……なんて軽薄なことを……
 そうですよね。私も同じ立場だったら直ぐ決められるわけありません。

「でも本当にそう言ってくれて嬉しかったよ。ありがとう」

「すいません。シャルロットさんの気持ちも考えずに勝手なことを……」

「ううん。選択肢としてはそれもいいと思う。そうなったときはよろしくね」

「はい」

 そう言って顔を上げたシャルロットさんはいつもの人懐っこい笑顔を浮かべていました。
 箒さんといいシャルロットさんといい、私の周りの人は心が強いですね。誘いを掛けた私の方が涙ぐんでしまいますよ……

「わ! わ! な、何でカルラが泣いてるの!」

「ぐすっ……ずいまぜん……」

「ほ、ほらティッシュ使え」

「ありがじょうごじゃいましゅ……」

 箒さんが差し出してくれたティッシュで涙を拭きます。

 うう、情けない

「な? こいつは分からないといったろ?」

「うん、そうかもね」

 そう言って箒さんとシャルロットさんが笑いました。笑わないで下さいよもう…… 
 

 
後書き
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