| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第12話:疑惑の胎動

翌朝。
俺はレーベンに起こされると,今日の予定を確認した。
スケジュール表を見ると,今日は午後から本局での会議に
出席することになっていた。

(じゃあ,朝から本局に行って,ユーノに会うことにしますか・・・)

俺は制服を着ると,朝食をとるべく食堂に向かった。


食堂に着くと,はやてとリインが居たので声をかけることにした。

「おはようございます。八神部隊長」

「ああ,おはよう・・・ってゲオルグくんか。変な呼び方するから
 びっくりするやんか。いつもみたいに”俺の愛しいはやて”って呼んでーや」
 
「いやいや,”俺の愛しい”なんてつけて呼んだことないから。ここいい?」

「もちろんええよ。リインもええよな?」

「はいです!おはようございます,ゲオルグさん!」

「おはよう,リイン。んじゃ,失礼するよっと」

俺は座って朝食を食べ始めた。

「そういえば,昨日はお疲れさんやったね。私なんにもせんでごめんな」

「いや,ああいうのが俺の仕事でしょ。それに,部隊長には
 どしっと構えといてもらった方が,隊員も安心するしね。
 そういえば昨日の挨拶はなかなかよかったよ」
 
俺がそういうと,はやては嬉しそうに笑った。

「ほんまに?どのへんがよかった?」

「長くなかったところ」

俺がそう言うと,はやてはガクっと肩を落としていた。

「ゲオルグくんに期待した私がアホやったわ。
ま,ああいう場での長い挨拶は嫌われるからねー」
 
「そうそう。ああいうのは簡潔に要所を抑えたもので3分以内,
 ってのが俺の持論」

「さすが,部隊長経験者の言うことは一味ちがいますなぁ」

「その部隊長さんを副部隊長に格下げしたのは,八神二佐ですがね」

「そこはそれ,そうまでして欲しい逸材やったっちゅうことよ」

「はいはい。誠心誠意尽くさせて頂きますよ,八神部隊長どの」

俺は雑談をこのあたりで切り上げて,本題を話すことにした。

「ところでさ,今日なんだけど,俺って午後から本局で会議だったじゃん」

はやては少し考え込むと,思い出したように言った。

「ああ,情報セキュリティ管理者のなんたらかんたらっちゅうやつやろ?」

「そうそう。でさ,予定では午後にここを出るつもりだったんだけど,
 他に本局で片付けたい用事ができたからさ,朝から本局に行こうと思うけど
 問題ないかな?」

「ええと思うけど,人員構成表と指揮系統図は今日中に
 私まであげて欲しいんやけど。明日には提出せなあかんし」
 
「そっちの作成はグリフィスに任せてるから問題無いよ。
 会議が終わったらすぐ帰ってくるから,夕方にはチェックして
 はやてに上げるよ」

「了解。ほんならええよ」

「さんきゅ。じゃあな」

俺は朝食を食べ終えたので,立ち上がろうとすると,はやてに袖を掴まれた。

「あかんよ,女の子を置いて先に行ってまうなんて」

はやてがそう言うと,リインも続いた。

「ですです。リインもゲオルグさんとお話したいのです」

結局,俺はそれから10分ほど2人と雑談をして,食堂を後にした。


それから,俺は自分の車で近くの転送ポートまで移動し,本局に到着した。
そして,まっすぐ無限書庫に向かった。
無限書庫に着いて,ユーノに会いにきたことを伝えると,司書長室に通された。
俺が部屋に入ると,ユーノがデスクに座って,うとうとしていた。
俺はユーノの目の前まで来ると,ユーノの顔の前でパンっと両手を合わせた。

「ん?ああ,ゲオルグか。ごめん,うとうとしてたよ」

「お前大丈夫か?前にも増して疲れた顔してるぞ」

ユーノは目の下に盛大なクマのある顔で俺を見ると,盛大なため息をついた。

「クロノが,またどっさり資料を請求してきてさ。3日ほど家に帰ってない」

「そっか。ゴメンな,そんなに疲れてるときに」

「ううん。呼び出したのは僕だし構わないよ。それに悪いのはクロノだからね」

ユーノはそう言うと,右手で眉間を揉んだ。

「で,連絡をくれた件だけど・・・」

俺がそう言うと,ユーノは右手で部屋のドアを指さした。

「ちょっと外で話そうよ」


俺たちは,本局の居住区画にある公園のベンチに座っていた。

俺が缶コーヒーを買ってきて渡すと,ユーノは一口飲んで話し始めた。

「実はね,見てもらいたいのってこれなんだよ」

ユーノはそう言って,俺に一枚の紙をよこした。
そこには,

 業務記録 新暦67年6月23日
 
 本日,ポイントC23に襲撃あり。
 襲撃者は全員撃退し,特に問題なし。
 襲撃者は,首都防衛隊の1部隊。
 研究データおよび被検体は”無限の欲望”によりポイントD18に移設。
 情報工作を実施し,研究に関する情報漏洩なし。
 今後,情報管理の見直しを実施予定。
 
と書かれていた。

「ユーノ。お前にはこの内容の意味するところがわかるのか?」

俺が尋ねると,ユーノは首を振った。

「ううん,全然。ただ,コイツの出処がね・・・」

ユーノはそこで一旦言葉を切り,周囲の様子を伺っているようだった。
周囲に人影がないことを確認すると,また話し始めた。

「実は,コイツの出処は,管理局中央の最高評議会事務室の業務記録なんだよ」

「なんだって!?」

俺が思わず大声を出すと,ユーノが俺の口を手でふさいだ。

「だめだよ!大声出しちゃ」

「わりぃ。でも,この記録によれば,”無限の欲望”なるものは,
 最高評議会と密接に関係があるってことになるよな」

「そうだね。ねぇ,ゲオルグ。友人として言うけど,この件には,
 首を突っ込まない方がいいと思うよ」

ユーノがそう言っているのを聞きながら,俺はあることを思い出していた。

(この日って,確か姉ちゃんが死んだ日だよな・・・)

「ゲオルグ?どうしたの?聞いてる?」

ユーノが俺の顔を心配そうに覗き込んでいた。

「・・・大丈夫だよ。なあユーノ。この件,他には誰にも話してないよな」

「話せるわけないでしょ。こんなの」

「ならいいんだ。忙しいとこ悪かったな,ユーノ」

俺はそう言うと,時計を見た。もう会議にいかなければならない時間だった。
俺は立ち上がると,ユーノの方を振り返って言った。

「お前はもうこの件に関わらないほうがいい。じゃあな」


その後,俺は呆然とした頭で会議に出席したが,
内容はほとんど頭に入ってこなかった。

隊舎に戻ってからも,はやてに頼まれていた仕事をいつもの3倍は時間をかけて
なんとか片付け,俺は寮の自室に戻り,ベッドに倒れ込んだ。

《マスター,大丈夫ですか?》

レーベンが心配そうに話しかけて来たが,俺は返事をする気力も無かった。


翌朝,いつもより10分遅く起きた俺は,朝食も取らずに部隊長室に向かった。
ブザーを鳴らしてから入るとはやてに話しかけた。

「はやて。急で悪いけど今日俺休暇とっていい?」

はやては驚いて俺の顔を見た。

「どないしたん,急に」

「いや,別に。ただ,ミッドに移ってから実家に帰ってないから,
 里帰りしようかと思って」

「そうなんか。かまへんけど・・・」

俺はそこまで聞くと,はやての話を遮った。

「ありがと,はやて。今度なんか埋め合わせするよ」

そう言って,俺ははやての部屋を出た。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧