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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第13話:里帰り、そして・・・

はやての部屋を出た俺は,自室に戻って私服に着替えると,
格納庫にある自分の車に乗り込んだ。

俺の実家は,クラナガン郊外の居住区画にあり,
6課の隊舎からは車で2時間ほどの距離だ。

実家の前につくと,玄関脇の呼び鈴を鳴らした。
中からパタパタという足音が聞こえ,玄関のドアが開くと
母さんが顔を出した。

「はいはい,どちら様・・・ゲオルグ?」

「ただいま,母さん」

実に,1年ぶりの帰郷だった。


「もう,帰るなら帰るって前もって言っておいてくれないと困るじゃない」

1年ぶりに再会した俺たち親子は,居間でお茶を飲みながら,話をしていた。

「ゴメン,母さん。でも,急に休みが取れてね。ずいぶん帰ってないから
 久しぶりに母さんの様子でも見ようと思ってさ」
 
「そう言ってくれるのは嬉しいけどねぇ」

母さんの顔は複雑な心境を表しているようだった。

「そういえば父さんは?」

「仕事に決まってるでしょ。あんたが帰ってくるなんて聞いてないんだから」

俺の父はクラナガン市内の商社に勤めるサラリーマンだ。

「しょうがないよ。それに,父さんと顔を合わせても喧嘩になるだけだから」

「お父さんは,あんたのことが心配なのよ。大切な仕事だとは分かってるけど,
 息子が危険な仕事をしてたら当然でしょ?
 まして,エリーゼはあんなことになったんだし」
 
俺の姉,エリーゼ・シュミットは首都防衛隊に所属する魔導師だった。
だが8年前,俺が時空航行艦での任務に出ている間に,任務中の事故で死んだ,
と地上本部からは知らされている。

「俺はこの仕事はやめるつもりないから。少なくとも当分はね」

俺が断固とした口調で言うと,母さんはため息をついた。

「わかってるわよ。まったく,あんたもお姉ちゃんも昔っから頑固なんだから。
 そんなところだけ,お父さんに似ちゃって。
 ま,あんたも忙しいんだろうから,今日はゆっくりしていきなさい」

「うん,ありがとう。でも夕方には帰るつもりだから。明日も朝から仕事だし」

「はいはい。じゃあお昼は食べていくのね?」

「うん。ところで母さん。姉ちゃんの部屋に入ってもいいかな」

俺がそう言うと,母さんは驚いたようだった。

「・・・大丈夫?あんた,あれから一度もお姉ちゃんの部屋には
 入ろうとしなかったのに・・・」

「うん。やっと,心の整理がついたよ」


俺は2階に上がると,エリーゼと札のかかった部屋に入った。
部屋の中は,姉ちゃんが生きていた頃と何も変わっていなかったが,
時々母さんが掃除をしているのか,綺麗なものだった。

俺は姉ちゃんの使っていた机を右手で撫でた。

(姉ちゃん,ごめんな。ちょっと机の中漁らせてもらうよ)

机の引き出しを上から順番に開けていくと,2段目の引き出しから
俺は探していたものを見つけた。
それは,姉ちゃんが死ぬ直前までつけていた日記帳だった。

(そういえば,一度勝手に読んで姉ちゃん殴られたっけ・・・)

俺は後ろの方から白紙のページをめくっていくと,
最後に書かれた日記を見つけた。それは,6月22日。
姉ちゃんが死ぬ前日のものだった。


 6月22日
 
 今日は,ゼスト隊長に稽古をつけてもらった。
 最後に模擬戦をやったけど,やっぱり歯が立たなかった。
 いつか,互角にやり合える日がくるのかしら?
 ま,こんなふうに弱気になってる間は無理かな?
 明日は,出撃だ。
 隊長によれば,ジェイル・スカリエッティのアジトの一つみたい。
 今度こそ,足手まといにならないように頑張らなくちゃ。
 そのためにも今日は早く寝よう。


(ジェイル・スカリエッティ・・・だと!?)

俺は狼狽していた。
想像を遥かに飛び越えた大物の名前が飛び出したこともそうだが,
自分が指揮する立場になったからこそわかる,作戦の無謀さに。
いかに首都防衛隊が精鋭とはいえ、たかが一部隊という少数で
挑んではいけない相手だと思った。

(これは・・・当たりか?)

俺はさらに調査を続ける必要性を感じ,姉ちゃんの日記帳をそっとカバンに
しまいこむと,部屋を出ることにした。

(・・・姉ちゃん。姉ちゃんの敵は俺がとるから。もう少しだけ待ってくれな)


1階に降りると,母さんがキッチンで昼食を作っていた。

「ああ,降りてきたのね,ゲオルグ。今日のお昼はオムライスよ。
 あんた,好物だったでしょう?」
 
「ああ,うん。ありがとう,母さん」

俺がそう言うと母さんは何かに気づいたのか俺のほうを振り返った。

「あんた・・・泣いてたの?」

「は?泣いてねーよ」

俺はそう言って,自分の目から涙が溢れているのに気がついた。

「ゴメン,気がつかなかった。やっぱり,こみ上げてくるものがあったみたい」

母さんはエプロンで手を拭くと,俺の頭を抱き寄せた。
俺は母さんよりも頭一つぶん背が高いので,ちょっと不自然な感じだったが。

「あんたはお姉ちゃん子だったからね。泣きたい時は,泣けばいいのよ」

母さんの言葉を聞いて,俺は母さんの胸に顔を押し付け,声を上げて泣いた。


昼食にはすっかり遅くなってしまったが,俺と母さんはダイニングで
母さん特製のオムライスを食べていた。

「美味しい?」

「うん。うまいよ。昔と全然かわってない」

「ありがとう」

「母さん,ごめんな。みっともなく泣いたりして」

俺がそう言うと,母さんは呆れたような顔をした。

「あんたは,母さんの息子なんだよ。いくつになっても」

「そうだね。ありがと,母さん」

「どういたしまして」

そう言って笑った母さんの笑顔は,昔のままだった。


俺は,その後少し母さんと話をして,日も傾いてきたところで,
家を出ることにした。

「今はミッドにいるから。また来るよ」

「いつでも帰っておいで。今度は泊まっていけるようにね」

「うん,じゃあ母さん。行ってきます」

「はいはい。行ってらっしゃい」


1時間後,俺はクラナガンの繁華街から一本裏通りに
入ったところにあるバーに来た。
ドアをあけて入ると,顔見知りのマスターが声をかけてきた。

「やあ,いらっしゃい」

「よう,マスター。どれくらいぶりだい?」

俺がそう言うと,マスターは少し考えたように間をとると,口を開いた。

「・・・もう1ヶ月になるんじゃないかなぁ」

「そんなに来てなかったっけ」

「・・・なんにする?」

「今日は車だからな。ノンアルコールでなんか適当に」

「・・・はいはい。そういえば,例のもの入ってるよ」

「ホントに?見せてよ」

「んじゃ奥に行こうか」

マスターはそう言うと,アルバイトらしい青年にちょっとの間頼むというと
店の奥に向かった。
俺があとについていくと,マスターは棚を横にスライドさせた。
そこには,IDカードを通すためのスリットと,指紋認証プレートがあった。
マスターは,胸ポケットからカードを取り出し,スリットに通してから,
自分の親指をプレートに押し付けた。
すると,壁がスライドし奥には所狭しとたくさんの機器が並んだ部屋が現れた。
俺がマスターのあとに続いてその部屋に入ると,また壁がスライドして
入口が閉じた。そこで,マスターは息を吐いた。

「旦那。いい加減このめんどくさいやり取りやめません?」

「だめだ,魔法で俺やお前の容姿を使われる可能性がある。」

俺が店に入ってからの会話はすべて,俺が俺であること,
そしてコイツがコイツであることを確認するための合言葉だった。

「そっすね。で,今日はなんです?」

コイツは,俺が情報部に居た頃から情報屋として使っている男だ。
一応クレイという通り名は知っているが,本名は知らない。
表向き,場末のバーのマスターをしているが,本業は凄腕のハッカーだ。
前に,本局のデータベースに侵入したカドで俺が捕まえたのだが,
俺に協力する見返りに見逃してやっていた。

「お前さ,地上本部のデータベースに入れるか?」

俺がそう聞くと,鼻で笑った。

「楽勝っすよ。あそこのセキュリティはユルユルっすからね。
 地上本部だけでいいんですか,旦那」

「とりあえずはな,依頼内容と金はここにあるから。

俺はそう言うと,一枚の封筒を手渡した。
クレイは封筒から札束を取り出し確認すると,近くの机の上に無造作に置いた。

「毎度あり。んじゃ,2週間くらいしたらまた来て下さい」

「わかった」

俺は店を出ると,隊舎にまっすぐ帰り,自室で眠りについた。

 
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