IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
人外?
あの宣戦布告事件の翌日、結局否定しても敬遠しているだけと取られてしまいましたし、あの二人には完全に恋のライバルと認定されてしまったらしいです。
そして今日も今日とてISの授業で私たちは第3アリーナに来ています。
今までの半月でISの基礎知識を、今からの半月でISの基本動作を叩き込むということでしたので今日から本格的にISを使った授業に入ります。
流石に半月も経つと一夏さんも慣れてきたみたいで、授業も集中して聞いているみたいですね。
「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を専用機持ちに実践してもらう。織斑、オルコット、カスト。試しに飛んで見せろ」
「「「はい!」」」
織斑先生の呼びかけに3人で前に進み出て、私はいつも通り首に掛かっている指輪を握りこんで意識を集中しISを呼び出します。
一瞬光に包まれた後、『デザート・ホーク・カスタム』が私の体を包んでくれました。
よし、今日もいい感じ。
「何をしている。オルコットやカストは展開まで一秒とかかっていないぞ」
織斑先生の声に振り向くと一夏さんはまだ慣れていないようで呼び出せていませんでした。
右腕を突き出して一夏さんの専用ISの『白式』の待機状態のガントレットを左手で掴みました。あれから何度かISを起動させる機会がありましたがあれが一番集中できるようですね。
その瞬間一夏さんを白い光が包み込み、次の瞬間には『白式』を身に着けていました。
相変わらず綺麗な白色ですね。
ちなみにセシリアさんはとっくに『ブルー・ティアーズ』を呼び出しています。
「よし、飛べ!」
織斑先生に言われてからセシリアさんが真っ先に、続いて私、一夏さんの順に空へと舞い上がる。
一夏さんはまだ垂直上昇に慣れていないのか、私たちに追いついてこれていませんね。
『スペック上では二人のISよりお前の白式の方が上だぞ。しっかりせんか』
開放通信から織斑先生の容赦のない叱責が飛びます。
確かにそうですが急上昇急降下は昨日習ったばかりなんですけど……一夏さんは一回実戦を行っているので昨日習った内容としては考慮されていないのでしょうね。
『進行方向に角錐をイメージって言ってもなあ……』
『一夏さん、イメージは所詮イメージですわ。自分がやりやすい方法を模索するほうが建設的でしてよ?』
一夏さんが授業で習った内容をぼやいているとセシリアさんが一夏さんの左側に並んで付きました。
私はそれを見て一夏さんを挟むように右側位置につきます。2人でサポートするならこの位置が最適ですね。
「そうですね。結局教科書に書いてあるのは基本ですから。自分に慣れたやり方の方が楽ですしね」
『そうは言ってもなぁ。……空を飛ぶ感覚自体がまだあやふやなんだよ。そもそもこれどうやって浮いてるんだ?』
私もセシリアさんも最低一年以上は飛んでいますからね。まだ半月ほどの一夏さんでは中々イメージが掴めないのでしょう。
私も最初はそうでしたし……
『説明してもいいですけど、長くなりますわよ?』
「ええっと反重力力翼と、流動波干渉の話と、あと……」
『いや、いいや。遠慮しておく』
ただでさえ初心者なのに専門用語を連発されて、一夏さんはそれこそ頭がパンクしてしまうといった風に肩を落としました。
『ふふ、残念ですわ。一夏さん? よろしければ前にも言いましたけど放課後に指導して差し上げますわよ?』
『一夏っ!! いつまでそんな所にいる! 早く降りて来い!!』
セシリアさんが何か言いかけた時、聞きなれた声が物凄い音量で響いたので下を見ると山田先生のインカムを箒さんが奪っていました。
って、生徒にインカム奪われるって先生としてどうなんですか山田先生……
『何をしているか馬鹿者が』
『痛っ!』
まあそんなことすれば当然織斑先生のお叱りを受けるわけで。
予想通り箒さんの頭には出席簿(トール・ハンマー)が炸裂しました。
その箒さんの目の端に涙が浮かんでいるのが見えるのもISならではの特性。そもそも宇宙空間での活動を想定されているから何万キロも離れた星の位置で自分の居場所を確認しないといけないため、これくらいは苦ではないらしいです。
ちなみにこれでもまだ制限が掛かっているというのだから束博士というのは本当に天才ですよね。
『3人とも、急降下後に完全停止。目標は地表から10cmだ』
『了解です。ではお二人とも、お先に失礼しますわ』
そう言ってセシリアさんが真っ先に地上へと向かう。あっという間に小さくなったセシリアさんは地面直前で見事に完全停止をやってのけた。
「では私も行きますね」
『あ、ああ』
背中のブースターを吹かして急降下。地表直前で全ブースターを逆噴射してピッタシ10cm、セシリアさんの真横につけた。
「よし、次!」
織斑先生の言葉と共に最後の一夏さんが急降下してくる。直前で逆噴射………したのだけど……
「やばっ!」
ズン……
勢いをつけすぎたのか、激突は避けたようだけど地面に右膝をついて膝立ちの状態になってしまっています。
「馬鹿者が、誰が接地しろといった。空中で止まれといったんだ」
「すみません……」
「あと勢いも足りん。あれでは実戦で遅れを取るぞ。精進しろ」
「はい……」
そういえば起動一回目で墜落していましたね……ちょっとトラウマなんでしょうか?
「よし、次に武装展開をやってもらう。ああ、そう言えばカストのISは最初から展開されていたな。ではそれ以外の武装を展開しろ」
『はい!』
セシリアさんは当然『スターライトmkⅢ』、一夏さんは『雪片弐型』、私は『グリニデ』を展開します。
ちなみにタイムは私とセシリアさんがほぼ同時の0,5秒、一夏さんは0,7秒。
「遅い。0,5秒で出せる様になれ」
初心者は1秒で出せれば早い方なんですけど、織斑先生はばっさり切りましたね。
「二人は流石代表候補生と言ったところか。ただしオルコット、銃を横に向けずに正面に向けて展開できるようにしろ」
セシリアさんのライフルには既にマガジンが装填されていていつでも撃てるような状況なのですが、左腕を真横に突き出しての展開でした。それが織斑先生にはひっかかったようです。
「で、ですがこれは、私のイメージを纏める為に必要な……」
「直せ。いいな?」
「は……はい…………」
正に一刀両断です。正面に構えるように教えてくれた先輩方に今は本当に感謝します!
無駄な動作はコンマ一秒とはいえ隙が出来る。その隙は戦闘では致命的となることもある、と織斑先生が言いたいのはそういうことなのでしょう。
「次だ。まずオルコット、近接用武装を展開しろ」
「あ、は、はい! ……あ、あら?」
どうしたんでしょう? セシリアさんの右手には小さな光がクルクルと回っているだけで一向に形になりません。
そういえば、クラス代表決定戦のときも確か私相手に近接武装を出そうとして間に合っていませんでしたね。本人が遠距離狙撃タイプなせいで近接武装を展開し慣れていないんでしょう。
「っ……! 『インターセプター』!!」
半ばやけ気味に武装の名前を叫ぶとようやく近接ショートブレード『インターセプター』がセシリアさんの手元に現れました。
しかし武装の名前を呼んで出すのはIS教本の頭に載っている所謂『初心者用』の出し方で、こんな時間が掛かっていては……
「何秒掛かっている馬鹿者。実戦でも相手に待ってもらうつもりか?」
織斑先生が頭に手を置いてヤレヤレといった感じで言います。
「じ、実戦では相手に接近なんて……!」
「ほう、カストの時はそれが間に合わなかったせいで負けたのにか?」
「う………」
いえ、そんな恨めしそうにこっちを見られても過去のことですし……あの時はああしないと負けちゃうんですからしょうがないじゃないですか!
こ、今度一緒に近接戦闘の練習をしましょう。ええ、一夏さんと一緒ならセシリアさんも満足できるでしょう。
むしろ一夏さんに教えてあげてって頼めばいいんでしょうか? ああ、それだと箒さんがはずされてしまいますね。
ということは箒さんに二人の近接戦闘の練習を頼めばいいのでしょうか。そうですね。それなら……
いえいえ、それだと恐らく一夏さんは私も誘うでしょうし私が皆さんに教えれば……
「次、カスト。同じく近接用武装の展開だ」
「ひゃい!」
い、いけないいけない。今は授業に集中しないと………
『デザート・ホーク・カスタム』に搭載されている量子化された近接武装は『イェーガン』しかないのでそれをイメージ。
右手が一瞬光って『イェーガン』が実体化、私はそれをいつものように……
「あ……」
「ほう………教師に武器を突きつけるとはいい度胸だ」
そう、最悪なことに……いつもの様に頭上で数回回してから正面に構えてしまった。
つまり傍から見ると『イェーガン』の先端を織斑先生の鼻先に突きつけている状態なわけで……
「………………………………………………………………」
「………………………………………………………………」
気まずい……非常に気まずいです! いえ、もうこれは気まずいとか言うレベルの問題ではなく生死レベルの問題です!
私の目の前には両腕を組んでこちらを真っ直ぐに見つめている織斑先生(修羅)がいます。私は助けを求めて頭を皆の方に向けます。
セシリアさん……完全に目を逸らしています。
箒さん……流石に無理だって顔をしています。
一夏さん……目で諦めろって言っています。
山田先生……あわあわしています。
クラスの皆さん……なんで手を合わせているんですか! そして何故念仏を唱えているんですか! 布仏さんだけは何故か手を振ってくれています。
ああ、その優しさが痛い!
日本ではこういう時にどうすれいいんでしたっけ!? えっと……えっとぉ!
そうだ!
「すいませんでしたぁ!」
両膝をぴったり合わせ地面について、地面に頭をつけて両手をその頭の上で地面につける。
ジャパニーズドゲザ。目上の人に失礼をした時、日本ではこうすると書いてありました。
必ずしも許される謝り方ではないですが最上級の礼儀だと……
「ふん」
「痛い!」
私の頭に出席簿……しかも横じゃなくて縦の額縁が炸裂しました……
い、痛いです。死ぬほど痛いです! 比喩表現じゃなくて本気で頭が割れるかと思いました!
あの……織斑先生? ISの絶対防御があるのになんでただの出席簿が痛いんでしょうか? いえまあ絶対防御が発動しない程度の強さだったのでしょうけどこういう時は絶対防御の仕様を恨むしかありません。
ちなみに痛さ的にはセシリアさんのBTレーザーの直撃を受けた時よりも痛かったです。
「貴様もその癖は直せ。一々上で振り回すくらいなら元々正面で構えろ」
「わ、分かりましたぁ」
結局私はその日ISで生身の人間にドゲザした史上初の人間としてクラスで噂される羽目になりました……
皆さんクラスの恥になるので言いふらしたりはしないでくれたのが唯一の救いです。友情って美しいですね。
あれ? なんででしょう? 目から汗が止まりませんよ?
後書き
誤字脱字、表現の矛盾、原作流用部分の指摘、感想、評価等などお待ちしてます。
ページ上へ戻る