IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐
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始まる誤解
「織斑君クラス代表決定おめでとう!」
『おめでとう!』
声と共にクラッカーが乱射されました。夜の食堂を貸しきってのクラス代表決定のお祝いです。
食堂の一つのテーブルを陣取って席の中央には一夏さん、その左に箒さん、右側に私とセシリアさんという位置取りで座っている。他の人たちは周りに立っていたり近くの席に座ったりしてこちらを見ています。
席にはジュースやお菓子が持ち寄られて結構豪勢になっているのですが……始まる前からいくつか袋が空いているのはご愛嬌ということですかね?
「なあ二人とも、本当に俺がクラス代表でよかったのか?」
一夏さんが私とセシリアさんに向けてまだ疑問の声を上げました。
「はい、元々私はそういうガラではありませんし……」
「私に勝ったカルラさんが良いと申すのでしたらそれで構いませんわ」
「そうそう! 二人とも分かってるー!」
周りのクラスメートから助けが入りました。私たち二人だけで説得できないと悟ったのでしょう。
「折角唯一の男の子がいるんだからここは押していかないとね!」
「そうだよオリムー! 好意は素直に受け取るものだよ~」
訂正、面白がっているだけのようです。しかしオリムーって言ったのはダボダボの制服をいつも着ている、えっと……確か布仏さん? でしたっけ?
なんというネーミングセンスでしょう……前にやった日本のポケ○ンというゲームで確かそんな名前のモンスターがいたような気が……
そう考えると私はなんと呼ばれているのか怖くなってしまいます。
「人気者だな、一夏」
「そう見えるんだったら眼科に行ってくれ……」
箒さんは一夏さんが他の女性にチヤホヤされているのが気に入らない様子です。でも一番座っている距離が近いんですよね。素直じゃないんですから。
その時、眩しいフラッシュが一夏さんを照らしました。
その方を見るとメガネを掛けた黄色のタイをつけた人が立っています。ということはこの人は二年生ですか。
「どうも、有名人さん。私は新聞部副部長、二年の黛 薫子。以後よろしく! ってことで名刺をどうぞ」
第一印象は活発で明るい人。友達に一人は欲しいタイプですね。
黛さんはそう言いながら手作りらしい名刺を私、セシリアさん、一夏さんに渡してきました。
ですからそういう風にやると……
ああ、また箒さんが睨んでいます……もう止めてください……
「で、早速なんだけど! 写真を一枚! あ、セシリアちゃんとカルラちゃんも一緒にいいかな?」
「わ、私もですか?」
「注目の専用機持ち二人だからね! ほら、カルラさんは一夏君の左側に!」
「は、はい。えと、箒さん、失礼します」
一夏さんの前を抜けて箒さんの間に入ります。
で、ですから私を睨まないでくださいってば~!
「あ! 三人揃って前で手を組んでもらってもいいかな? 団結の証、見たいな感じで!」
「こ、こうですの?」
セシリアさんがいち早く一夏さんの手を握って前に差し出す。私はセシリアさんの上から被せるように手を乗せた。
「ほら! 三人とももっと寄って!それじゃ行くよー!35×51÷24は~?」
なんなんですかその全く関係ない計算は……そこは普通に1+1でいいじゃないですか……
「え、えっと~…………?」
「74,375ですね」
「おお! カルラちゃんすごい! 今暗算したの!?」
頭を捻る一夏さんに見かねて私は暗算して答えます。これくらいはまあ、なんとか。
やはり第一印象で人を判断するものではないですね。友達として欲しいけど面倒なタイプです……そこに律儀に答える一夏さんも一夏さんですけど。
それともこの人の笑顔にする方法、みたいなものなんでしょうか?
首を傾げているとその間にシャッターが切られてしまった。
シャッターが押される瞬間、近くにいたクラスの皆さんがフレームの中に集まったのはやはりご愛嬌というものでしょう。
「な、何故皆さん入ってますの!?」
「まあそう怒りなさるな御嬢さん」
「セシリアとカルラだけ抜け駆けってのはないでしょう?」
「団結の証ということだし写っていても問題あるまい?」
「むー!」
あ、膨れたセシリアさんも結構可愛いかも。
一夏さんのインタビューを終えた後は就任祝いというのもあり織斑先生に解散させられるまで騒いでいたでしょうか。
それから箒さんもセシリアさんも何気に写真を要求していましたね。
なぜか私も貰えるようになっていましたけど………集合写真は良いものかもしれません。もらったら部屋に飾りましょう。
――――――――――――――――――――――――――――――
「カルラさん!」
「はい?」
パーティー終了後、部屋に戻る途中で後ろから声をかけられたので振り返ると、セシリアさんが走って私のところにやってきました。
「少々お話がありますの。お時間をいただけます?」
「はあ、ここで、ですか?」
何の話だろう?
「いえ、出来ればどちらかのお部屋で」
「じゃあ私の部屋で。すぐ傍で相部屋の人もいませんし」
「あ、それでは10分ほどしてから参りますわ」
「? 分かりました」
時間がかかるようでしたら私の部屋じゃなくても……あ、でも内密な話ならセシリアさんは相部屋ですし、一人部屋の私の部屋の方が都合がいいんですね。
部屋に戻ってから来客のため少し散らかっていたプリントや荷物を片付けます。お湯を沸かして紅茶のティーバッグを用意してから、セシリアさんはイギリス生まれなのだからこんな味では失礼でしょうか? などと考えてしまいました。
でも私の部屋にはこれ以外紅茶なんてないし……
コンコン
悩んでいるうちにセシリアさんが来たらしい。ノックされた扉を開けるとそこにはセシリアさんと……箒さんがいました。
なぜか箒さんはむすっとしていますが……はて?
「あれ? 箒さん?」
「私が呼びましたの。よろしいかしら?」
「は、はい。どうぞ」
部屋に二人を入れて箒さんの分のコップを用意して紅茶を渡します。
「どうぞ」
「あ、ああ。ありがとう」
「わざわざ申し訳ありません」
二人が向かい合ってベッドに座っているので私は三角形になるように椅子を出して座ります。
ちなみにこの部屋、本来二人部屋なのに私一人のせいでひとつのベッドは完全に荷物置きと化しています。
「それでお話というのは?」
「ええ、そのことですけど……」
少し間を置いたので私は紅茶を啜る。
む、少し砂糖入れすぎたかな?
「お二人は一夏さんのことを好いてますわよね?」
「ぶっ!」
思わず口に含んでいた紅茶を吹き出してしまいましたよ!
さらに二、三度咽てようやく落ち着いたところで箒さんが口を開きます。
「それがどうした。お前には関係ない」
「わ、私は一夏さんが好きなわけでは……」
「私も一夏さんには好意を持っていますわ! いえ、好意なんて言い方ではありません! これはLove、愛ですわ!」
どうしてこうなってしまったんです! どうしたこうなってしまったんです!? そして私の発言完全にスルーされました!?
「映像越しでも分かるあの凛々しいお姿、降り注ぐ弾丸をもろともしない勇敢さ、あれこそ私の求めている理想の殿方ですわ!」
あー、私のせいですか……私のせいなんですね。
箒さんすいません。私のせいですごめんなさい。
「な……! この間まで男を侮辱していたやつの言葉とは思えないなこの猫被り!」
「あらあら、好きな人の前で鬼の形相をしているよりはマシだと思いません?」
「ええと……あのー………」
全く持って私のことは蚊帳の外になってしまっている。ていうよりなんで私は巻き込まれているんですか!?
「コホン……本題から反れましたわね。今日はお二人に宣戦布告をしにきましたのよ!」
ドォーン! という感じでセシリアさんが立ち上がり右手を腰に、左手を私たちに突きつけて言い放ちました。
さて、ここでの宣戦布告なんて悪い予感しかしないんですけど……!
逃げてもいいですか? 逃げてもいいですよね!?
「宣戦布告?」
ああ、箒さん! 逃げるタイミングをばっちり潰してくれましたね! なんて優しい人なんでしょう!
「ええ。私だけ抜け駆けして一夏さんの恋人になってしまって、後から文句をつけられるのも癪ですしね」
……もう箒さんが爆発寸前の顔をして怒りに我を忘れそうなくらい肩を震わせています。
爆発物処理班の電話番号は何番ですか!? 私、感情が爆発する人の処理の仕方なんて知りませんよ!
「私は一夏の幼馴染だ! ポッと出のお前たちに一夏を渡すものか!!」
「分かりませんわよ? 選ぶのは一夏さんですからね!」
お前たち!? たちって言いましたか箒さん!? ですから私にそのような感情はああああああ!
私が悶絶している内に二人の会話はドンドンエスカレートしていく。私の穏やかな学園生活はどこへ行ってしまったのだろう?
カムバック平穏!
コンコン
そんな時、天の救いか誰かが私の部屋の扉をノックする音が聞こえました。もしかしたら近隣から騒音の苦情かもしれないけどそれでも今の状況よりはマシでしょうし……
「お、お二人とも! 来客の様なので少しお静かに!」
「む、なら仕方ないな」
「あら。それは失礼を」
二人とも流石に言い争いを止めて静かになったところで扉を開ける。
「ようカルラ」
しまったー! 近隣って一夏さんも含んでいましたっけね!
外を確認しないで開けた私のミスでした!
まさかこの状況の元凶を招きいれてしまうとは……
「一夏!?」「一夏さん!?」
一夏さんの声に反応した二人がほぼ同時に扉まで駆けてきます。
「こ、こんな時間に女子の部屋に何のようだ! 一夏!」
「そ、そうですわ! ま、ままままままままま! まさか既にカルラさんとそのような関係で!」
ああ、誤解が深まっていくのはもう決定事項なのですね。神は我を見捨てたもうたのですか?
……神様申し訳ありません。あなたのことを少しでも疑ってしまうとは神の子失格ですね。ちなみに私は熱心ではありませんがキリスト教徒です。
「ん? 何を言ってるのかはよく分かんないが、俺はカルラの部屋から声が聞こえて、丁度頼みたいことがあったから尋ねただけなんだけど……」
「「へ?」」
「箒には今までどおり剣の使い方を教えて欲しいんだ。白式には雪片弐型しかないからな」
「あ……ああ! 任せろ!」
「そうか、ありがとう」
「私への頼みというのは?」
「うん、カルラには今後もISの使い方を教えて欲しいんだ。戦いの立ち回りとか仮想の試合相手とか」
「ま、まあそれは構わないんですけど……」
「あ、あの……一夏……さん?」
置き去りにしていたためセシリアさんが控えめに話に入ってきました。
「ん? どうかした? オルコットさん」
「そ、そんな他人行儀にしなくても! 私のことはセシリアと呼び捨てにしていただいて構いませんわ!」
「そ、そうか」
「それで、ですわね。私もその……よろしければISのことについて教えて差し上げますわよ?」
セシリアさんは少しだけ腰をかがめて上目づかいに一夏さんを見つめています。うーん、本当に恋する乙女……ってうわー……箒さんの顔が天から地獄ですね……もう見ないようにしようかなー。この百面相見ていると本当に心臓に悪いんですけど。
「本当か? そりゃ助かる。よろしく頼むよセシリア」
「ええ! ええ! もちろん協力させていただきますわ!」
「ん? でもこの間まであんなに言ってたのにどうして急に?」
「ま、まあ……あれは私も大人げなかったと言いますか……男性と女性では基礎知識に差があって当然ですし……そこも含めて私が付きっきりで」
最後の方が尻すぼみになって一夏さんにはよく聞こえていなかったようですが隣にいた私と箒さんにはばっちり聞こえています。
まあ、場が収まったから良しとしましょう。神と悪魔が同じだったというのはなんという皮肉でしょうね。
「私も構いませんよ。寧ろ一夏さんの弱点を探させてもらいますからね」
「そうか。三人ともありがとう。そういえば三人は何してたんだ?」
「わ、わわわわわわ私たちは特には何も!」
「そうだな! 特にということは!」
「嘘付け。怒鳴り声がこっちまで聞こえてきたぞ?」
ああ、やっぱりそうですよね。最初にそう言っていましたし。
「ISの議論をしていただけですよ。少々熱くなって大声を出していたことは謝ります。すいません」
「あ、そうなのか? だったら俺も呼んでくれれば……」
「PICの原理やハイパーセンサーの応用、反重力力翼などなどの専門用語が飛び交う会話ですが呼んだほうがよかったですか?」
「遠慮しておきます……お構いなく」
とりあえず適当にISの教科書に出ている難しい単語を並べてみると、一夏さんはシオシオと自分の部屋に戻っていきました。
「「ふう」」
「お二人とももう少し落ち着いて」
「あ、ああ。すまなかった」
「反省致しますわ」
二人とも本当に反省したのかショボンとしてしまいました。今の段階で一夏さんに恋心を抱いているというのはばれたくないみたい。
「と、ともかく! 私の話はここまでです! 正々堂々、戦いますわよ!」
セシリアさんが立ち上がって私と箒さんに指を突きつけた。
「ふん! 望むところだ! 私と一夏の絆がいかに強いか見せ付けてやる!」
「それではカルラさん、お邪魔しました」
「ああ、お茶も美味しかったぞ」
二人はそう言うと部屋を出て行った。
嵐は去りました。後には何も残さずに……
「あ!」
一夏さんを好いているって否定するのを忘れていました……どうしよう………
前言撤回です。私に受難が残りました……
後書き
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