魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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ANSUR7其は天秤の狭間で揺れる最後の王~Rusylion~
前書き
ルシリオン&アイリ戦イメージBGM
魔法少女リリカルなのはA's-GOD-「BRAVE PHOENIX ARR.」
https://youtu.be/QNt4lT81inQ
†††Sideイリス†††
「あのくそ猫! 見つけたらヒゲを引っこ抜く!」
「あんまり酷いことしたらアカンよ?」
アインスの対結界用結界のおかげで、幻術特化の融合騎エルフテの幻術結界は攻略できてたんだけど、解除したら解除したですぐに別の幻術結界が展開されるっていう面倒くさい状況に陥ってた。だけど・・・。
「急に結界が解除されたのよね。罠かしら?」
「アインスの結界に勝てねぇって踏んで諦めたんじゃね?」
「だといいのだがな」
シャマルの言うようにエルフテの幻術結界が突然ピタッとやんだ。ヴィータの説であれば嬉しいけど、シグナムとシャマルの懸念もまた理解できる。本当に突然だったからね。でも、それで足を止められるほどの余裕はわたし達にはなく、疑いを持ちながらひたすら前へ進むのみ。
「あ、アレって、セラティナの結界やね!」
目の前には桃色の魔力の壁があった。アギトがソレを見て『通れんのか?』って心配したけど、アインスが「セラティナは私たちを待っているから問題ない」って足を止めずに突っ込む。もちろん言われるまでもないってわたし達も結界の外壁に突っ込み、そのまま結界内へ侵入した。
「ホンット邪魔!」
――氷結の軛――
「アイリ、先行しすぎるな! カウンターが来るぞ!」
――風霊よ密かに爆ぜよ――
「ぅくぅぅ・・・!」
保管室前の広い通路で、「ルシル君! アイリ!」が、「セラティナ!」とガチバトルしていた。はやてに名前を呼ばれたルシル(格好は界律の守護神の聖衣、ステアと偽ってた頃に着てたやつだ)とアイリがこっちに向いた。
「はやて! それにみんなも・・・!」
「・・・やはり、お前たちも私を邪魔しに来たのだな」
ルシルの口調が神器王だった頃のものに変わっていた。きっと意図的に戻してるんだろう。わたし達との決別の意味を込めて。そんなルシルやアイリの奥には、息も絶え絶えでへたり込みそうになってる「セラティナ!?」の姿が。
「何をしたの・・・!?」
「勝手に魔力を消費しすぎてフラついているに過ぎない。いわば自滅だ。私の所為にしてもらっては困るな」
「まぁ、マイスターとアイリを相手にして、ここまで保ったのはすごいと思うよ?」
「ルシル君、アイリ・・・」
「はやて・・・。・・・私はもう堕ちるところまで堕ちる覚悟だ。だから、邪魔をしないでもらおうか!!」
VS・―・―・―・―・―・―・・―・
其はアンスールが神器王ルシリオン
・―・―・―・―・―・―・・―・VS
――瞬神の飛翔――
「はやて、アインス、ヴィータ、シグナム、シャマル、ザフィーラ、アギトお姉ちゃん、リイン。ごめんね?」
――コード・アンピエル・ツヴァイフォルム――
アイリの背後に大きな樹枝六花――雪の結晶のようなものが展開された。しかもアイリから神秘を含んだ魔力を感じる。アイリは魔術師化できないはずだったのに・・・。ううん、そんなことより『セラティナ! 結界を解除して少し休んで!』って、シグナムとヴィータとザフィーラがルシル達に突っ込んで行くのを見ながら思念通話を繋げた。
「なあ、ルシル! お前、オーディン本人なんだよな!?」
――ラケーテンシュラーク――
「ディアーチェ達から聞いているのだろう? それが真実だ、今さら私から語ることはない」
「アイリはずっと前から知ってたけどね~!」
『アイリ、てめぇ・・・!』
――コード・シャルギエル――
ヴィータの突撃からの強打を、アイリは生成した氷槍で受けてルシルを護り・・・
「お前がオーディンの記憶を持っていると知ったとき、実はあなたがオーディン本人だと知ったとき、そこには嬉しさがあった。初めて我々を人として、戦友として、家族として迎え入れてくれた恩人と、再び会うことが出来たからだ。だからこそ、今こうして敵対していることが悲しい・・・」
「ならば退け、シグナム!」
――集い纏え汝の閃光槍――
――紫電一閃――
「そうはいかん。今の私は局員であり、家族がこれ以上道を踏み外す真似を見過ごせん」
シグナムの“レヴァンティン”とルシルが“エヴェストルム”が何度も激突して、炎や魔力を周囲に散らす。というか、アイリが知らぬ間にヴィータと真っ向から殴り合えるほどの近接能力を手に入れてることにも驚きがあるんだけど・・・。
『ダメです。ルシル様とアイリを逃がさないためだけではなく弱体化させている結界でもあるので、解除すれば元の強さに戻り、逃げられる可能性が!』
「家族への愛と局員としての正義を天秤にかけ、選んだのは後者か!」
――闇よ誘え汝の宵手――
「その家族を先に切り捨てたのは誰だ!」
――鋼の軛――
「切り捨てる前に、相談は出来たはずよ!」
――戒めの糸――
「相談したところで私の真実など、誰が信じるものか!」
ザフィーラの拘束杭と、シャマルの魔術じゃない魔力ワイヤーによるバインドが、ルシルとアイリを襲う。ルシルは影の触手でシグナム達の猛攻を捌き、適度な距離が開いたところで、空いてる右手を手団扇として振り払って、「シルフィード!」って爆風を放った。一足飛びからの居合抜き体勢に入ってたシグナムは、避けることが出来ずに吹っ飛んだ。
「ならば、私に緘口の呪縛を施さなければ良かったのではないのか! エインヘリヤルの私からも皆に伝えれば、受け入れてもらえたかもしれない!」
――シュヴァルツェ・ヴィルクング――
アインスの打撃強化・効果破壊が付加された拳を受けることなく回避したルシルは、「かもしれない。だが、それは私の我儘だ」と言い放った。
『(ルシル様・・・?)だ、大丈夫! 創世結界の詠唱はもう終えているし、何よりわたし達は負けない!』
エルフテの結界に玩ばれながらも頑張って詠唱を済ませ、発動するのを耐えてきた。魔力も術式も今か今かと暴れ出しそうだし、そろそろ気持ちよく発動したい。
『創世結界・・・!? な、なるほど!』
『(ルシルもアイリもシグナム達の迎撃に入ったし、タイミングは今しかない)っと、その前に。セラティナ。エルフテ知らない? 近くに居るはずなんだけど』
『・・・・・・ただいまっと。あ、うん。実は・・・――』
セラティナと組ませてたはずのクララが居ない理由は判った。本局のどっかでクララはエルフテと戦ってるんだろう。幻術がいきなり解除された理由も、罠じゃなくて結界から遠くに飛ばされたから、だ。クララはいい仕事をしてくれたよ。
『なるほど。了解だよ。はやて達も聞いてたね? セラティナが結界を解除すると、ルシルとアイリが本来の強さを取り戻す。けど、すぐにわたしの創世結界でまた弱体化させる。その僅かな隙で全滅させられないよう注意!』
はやてとリインとアギトを除くシグナム達から『了解!』を受け、セラティナとタイミングを計って、『今!』と結界の切り替えを行った。セラティナの結界が消えると同時、ルシルとアイリから発せられてた魔力と神秘がグンッと高まった。
「剣神の星天城!」
創世結界を発動。本部ビルが桜の花弁が舞う広大な闘技場へと変化する。味方を強化し、敵を弱化させる効果を持つ結界で、ルシルとアイリの魔力も神秘が再び低下したことを確認できた。暴発しそうだった創世結界も無事に展開できたし、わたしもようやく参戦できる。
――舞い降るは汝の無矛――
無属性の魔力槍が100本近く展開されて、ルシルの「ジャッジメント!」の号令に下にわたし達全員に向かって射出された。
――真紅の両翼――
屋内戦闘用に刀身を短くしてた“キルシュブリューテ”を、本来のわたしの身長に合わせた長さに戻しつつ、背中から魔力翼を一対と展開。攻撃を中断してはやての側に馳せ参じたアインスに護られてる『はやて』に思念通話を繋げる。
『シャルちゃん・・・』
『辛かったら戦わなくてもいいんだよ? はやてがこの場に居るだけでルシルに十分な精神ダメージを与えられそうだし・・・』
シグナム達との交戦の最中でも、こちらを警戒してチラチラと視線を向けてきてるルシル。はやての一撃一撃が重いから、一発形勢逆転っていう可能性を考えるのは当然だ。うん、ルシルの集中力を散漫させるってだけでもいい働きだよ。
『主はやて。誰も責めません』
『・・・アインス。はやてをお願い。わたし行かないと』
――閃駆――
一足飛びでルシルへと突撃する直前に『あ、シャルちゃん・・・!』って呼ばれた。すでに攻撃態勢に入ってたからすぐには答えられず、そのまま続行。“キルシュブリューテ”の刀身に纏わせた炎を斬撃として飛ばす「炎牙崩爆刃!」をルシルに向かって放ってから、『どうしたの?』ってはやてに優しく応える。
ルシルはその炎刃を警戒して、大きく後退しての回避を選んだ。内心で手の内がバレてることに溜息。とにかく、炎刃を爆破して爆炎と爆風をルシルに叩き付けようとするけど、彼はもう効果範囲からは逃れてたから不発に終わった。シグナムとザフィーラが回避直後のルシルに追撃するのを見ながら、はやての言葉を待つ。
『シャルちゃんは・・・ルシル君の妨害して、大丈夫なん・・・?』
『ルシルの過去、そして今置かれてる状況を知って、わたしはルシルのために協力したい。その思いは変わらず強いよ』
『・・・私もそうや』
『でもさ。もし、わたし達がルシルとアイリを素通りさせたら、その先どうなるか判る?』
『戦闘に割かれる時間が無くなって、ルシル君たちと長く話が・・・ん? ひょっとして、出来ひんか?』
はやても察することが出来たみたい。ルシルはきっと『魔力保有物を奪ったら即座に姿を晦ませる。そして、わたし達の知らないうちにガーデンベルグを救い、そして消える』っていう路を選ぶ。あっちからわたし達を切り捨てるような真似をした以上、いろいろと引っ掛かることがあれどルシルは実行するだろう。
『ルシルとちゃんとお別れを済ませるためには・・・』
『ルシル君を力ずくで止めるしかない。それがルシル君にとって最悪なものでも・・・』
『そういうこと。わたし達の納得のために、わたし達の勝手を貫く。永遠の別れになるかもしれないなら、嫌われることを厭わずわたしは・・・戦う!』
――閃駆――
わたしの考えをはやてに伝え終わり、わたしもシグナム達に合流して戦闘再開。シグナムの高速居合抜きである「紫電清霜!」を紙一重で躱し、ザフィーラの三爪で引き裂くような形の魔力流攻撃である「龍牙!」を、魔力付加された“エヴェストルム”で斬り裂くことで潰したルシルの背後へ回り込む。
――シュヴェーベン・マギークライス――
宙に魔法陣の足場を立てるように展開して、そこに着地。ルシルとの距離は“キルシュブリューテ”の斬撃範囲ピッタリ。ルシルの防御を貫きつつ、体を斬り飛ばさないように刃を返して峰打ち狙いへ。
「光牙月閃刃!」
――女神の金衣――
ルシルの神父服の上から黄金に輝くロングコートと羽衣が展開されて、わたしの一撃を弾いた。ならば、と、左手に鞘を具現させて、“キルシュブリューテ”と鞘両方に魔力を載せる。そして、わたしと同じように“レヴァンティン”と鞘を手にしてるシグナムと一緒に、自身の周囲に光槍6本を展開したルシルを挟撃できる位置を探る。
『ルシルは私とシャルで何とかする。ザフィーラ、お前はヴィータとシャマルと共にアイリを押さえろ。アインスは主はやての護衛だ』
『承知した』
アイリの相手は、神秘カートリッジのおかげで疑似的に魔術師化できてるヴィータとザフィーラの2人。共に近接戦に強い騎士で、いくら魔術師化できるようになったとはいえ、アイリもそう容易く2人を撃破できないはず。さらに魔術は使えないけど後衛のシャマルが居る。
「第二波装填!・・・ジャッジメント!」
――第三波装填――
わたしもシグナムも放たれる魔力槍を最小限のバレルロールで回避。そこに、新たに展開されたばかりの12本の槍を「ジャッジメント!」の号令の下に発射したルシルへと、わたしは両翼を羽ばたかせ、シグナムは4枚ある炎翼のうち下2枚をロケットのように噴射させて、魔力槍を回避しながら一緒に追い縋る。
「ダメ、追いつけない!」
「やはり、空戦形態のルシルとの速度比べは負け戦か」
速度を落としたところで、はやてからの『シグナム、シャルちゃん。離れて』の指示。ルシルから距離を取るべく急速後退した直後に「デアボリック・エミッション・・・!」が発動された。わたし達が離れた瞬間、詠唱は聞こえずとも何かしらがあると踏んだルシルもその場から離れようとしたようだけど、完璧に呑まれた。魔力鎧の黄金のコートと羽衣が消失したタイミングでの直撃、少しでも魔力と神秘が削れたらいいんだけど・・・。
「ごめん。・・・ごめんな、ルシル君! 私、ちゃんとルシル君とお話して、そんでお別れしたい! そやから・・・戦ってでも止めさせてもらう!」
――曙光神の降臨――
デアボリック・エミッションが、サファイアブルーの魔力爆発に内側から呑まれて消失。そして、光の中から現れたルシルは外套を脱ぎ捨て、仮面と神父服はそのままに“エヴェストルム”を待機モードの指輪に戻してた。
「そうか。・・・ならば、はやて、イリス。シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、リインフォース・アインス、リインフォース・ツヴァイ、アギト。お前たちを完全に私と敵と認識し、本気で潰す。後悔するなよ? アイリ!!」
「ヤヴォール!」
2人は全力を出すということで、創世結界の弱化効果の中でさらに魔力出力を上げたかと思えば、2人の魔力から神秘が消えた。それはつまり「魔術師化を解いた・・・!?」ことになる。わたし達が魔術師化してる中での魔導師化なんて、降伏に近い行為だ。
「魔導師となっている私とアイリに対し、非殺傷設定の無い魔術で攻撃なんてしないよな?」
「そこは信じてるよ~」
――戦女神の暴天――
闘技場外縁の八方に巨大な竜巻が発生して、わたし達の居る中央に向かってゆっくりと進んできた。魔法として発動された以上、結界内の建造物どころかシャマルを除く魔術師化してるわたし達にダメージが入らない。それを踏まえたうえでルシルは魔術師化を解除、止めたければ掛かってこい、って勝負を挑んできた。
――其は戦場を駆け抜ける戦乙女の将。その美は全てを魅了し、その愛に果てはなく、愛おしむ実りの生誕と成長を見守る――
ルシルと、ヴィータやザフィーラと交戦してたアイリが高度を上げ始めたのを目で追いながら、わたしも魔術師化を解除することにした。
「ふっ、フフフ、上等よね。魔術の撃ち合いで互いの命の心配って、気持ちよく撃てないから結構ストレス溜まるのよね・・・」
「しゃ、シャルちゃん・・・?」
「行くよ、はやて、みんな! せっかくアイツが舞台を整えてくれたんだから、乗ってやろうじゃん! そんで、わたし達を相手にしても勝てるって自惚れてるアイツを後悔させてやる!」
――豊穣に転じて死と戦をも其は司らん。金色の光を纏いたるその苛烈にして華麗な威容。極光の天幕が靡く時、戦士を従え、希望と絶望を戦場へ運び往かん――
わたしの言葉にはやて達は目を丸くした後、ニッと笑みを浮かべて「了解!」と応じてくれた。魔術である以上はどうやっても手加減しちゃうから、この戦いは正直、不毛なものになるって考えてた。その危惧は、ルシルの方から晴らしてくれた。
「来るよ!!」
――女神の大戦火――
遥か空に描かれた巨大な魔法陣18枚より放たれてくるのは、閃光系・闇黒系・炎熱系・氷雪系・風嵐系・雷撃系、6属性の特大砲撃。わたし達はそれぞれの回避機動に入り、わたしもシグナムもヴィータもザフィーラもシャマルも、制空権を取り戻すべく空へと向かう。
――ユニゾン・イン――
はやても、アインスとユニゾンを果たして急上昇。そんなわたし達を待ち構えていたのは、「アイリ・・・!」だった。アイリはわたし達を見下ろしたまま「いらっしゃい。だけど、ここから先は行き止まりだよ」って小さく笑った。
――リーズィヒ・デッケル――
ルシルの砲撃が止む直前、わたし達とアイリの間に展開されたのは1㎞レベルの巨大なベルカ魔法陣。まるで、わたし達の行く手を塞ぐ蓋。魔法陣越しにアイリがバイバイと手を振ったことで、『アイリぃぃぃぃーーーー!!』ってリインとアギトは怒りや悲しみに満ちた叫び声を上げた。
「アカン! ルシル君の追撃が来る!」
魔法陣下に居るわたし達の周囲に複数の魔力反応が出現。どの魔法が来るのか判らないけど、逃げ道を間違えたら全滅する可能性がある。
「みん――」
「シグナムとヴィータは横、シャマルとザフィーラは下、わたしとシャルちゃんは上、三方へ退避! シャルちゃん、絶対切断いけるか!?」
「も、もちろん!」
――宝竜の抱擁――
いろんな属性の龍が雄叫びを上げながら出現して、わたし達を包囲するように周囲を旋回し始めた。シグナム達の退避ルートが潰されたことを示す。残るは下か、アイリが蓋する上か。とにかく、わたしは絶対切断スキルを解放して、“キルシュブリューテ”の刀身に効果を乗せる。
「はやてさ。自分の適性ポジションを忘れた?」
「アイリ・・・!」
「後衛は後衛らしく、下がっていた方が良かったと思うんだよね。だから、こんな一網打尽みたくされちゃうんだよ」
アイリが呆れた口調でそう言うと、わたし達を隔てる魔法陣が発光し始めた。シグナムとヴィータがはやてを自分たちの背後に追いやり、はやての目の前にシャマル、シグナムとヴィータの前にザフィーラが。で、わたしがさらに前に立つ。
「絶刃――」
「アドヴェント・ラヴィーネ!」
魔法陣下面からドッと膨大な量の雪――雪崩が降ってきた。背後に居るはやて達を護るため、“キルシュブリューテ”による乱撃、「斬舞無尽閃!」で、前方の雪崩を斬りとばしていく。
『シャルちゃん。私が魔法陣を壊すから、もうちょい耐えて』
『問題ないけど、ルシルの攻撃にも警戒しておいて。周囲を包囲してる龍が仕掛けてくる可能性が――』
『複数の魔力反応が急速接近! ルシル君のファフニールです!』
『一網打尽ってそっちかよ!』
『アギト! 薙ぎ払うぞ!』
『お、おう! 間違えて神秘カートリッジ使うなよ!』
『判っている!』
――火龍一閃――
『防御は私とザフィーラでするわ!』
なおも続く雪崩攻撃でわたしの背後で行われるシグナム達の迎撃。さらに「来よ、白銀の風、天よりそそぐ矢羽となれ」っていう詠唱が聞こえて、強大な魔力がはやてから発せられた。そして、多弾砲撃「フレースヴェルグ!」は空に向かって放たれて、雪崩を貫いてく。その効果はあったようで、砲撃は蓋に穴を空けて、雪崩の落ちない個所を増やし始めた。
「さすがだね。八神家とシャルを相手じゃ、快勝とはいかないよね。ねえ。なんで、マイスターを大人しく素通りさせてくれなかったの?」
雪崩がピタッと止むと同時、蓋も完全に消失した。雪崩の真っ白から、わたしの創世結界の景色に戻ってきた。アイリは雪崩発動時から変わらずわたし達を見下ろしていて、そんな質問をぶつけてきた。そんなアイリの近くにルシルの姿はなく、創世結界の術者であるわたしでもルシルの位置を確認できない。
「もし、ルシル君とアイリを素通りさせてたら、2人は魔力保有物を手に入れてそのまま、私たちに挨拶ひとつもくれずに去るんやろ?」
「・・・マイスター、どう思う?」
「そうだな。初めの方に言ったが、私は・・・俺は堕ちるところまで堕ちた。もう、君たちと交わせる心は無い」
(通信でも思念通話でもなく、拡声魔法での肉声。ルシルはまだ、創世結界から逃げてない!)
「確かに、ルシル君は数多くの罪を犯してしもうた。多くの人にたくさん迷惑をかけた。自分の死すら偽装した。私たちをものすごく悲しませた、裏切った。・・・そやけど! それでも私の、ルシル君を想う気持ちは変わらへん! これで最後やって言うんなら、ちゃんと言葉を交わしてお別れしたい!」
「ならば、別れをきちんと済ませると約束すれば、退いてくれるか?」
「それは・・・」
「即答できなかった時点で、この話は終わりだ。・・・挨拶と言うのなら、今まさに行われている戦闘こそが、俺からの、そして私からの別れの挨拶だ」
「ルシル君!」
ルシルが結界内のどこに居るか、改めて注意して探る。でも、なんかの魔法を使ってるのか、なかなか探知できない。魔術だったら即発見できるのに。ルシルはこれも見越して魔術師化を解除したとしか思えない。
「さようなら」
――女神の救済――
拡声された声じゃなくて、すぐ側からルシルの声が聞こえた。声のした方へ振り返ってみれば、「シグナム、ヴィータ!」の背後に立つルシルは2人の肩に腕を回して、ヴィータの薄い胸と、シグナムの豊満な胸に手を置いて、両手から魔力を吸収していた。
「「『『うあああああああああああ!!』』」」
「シグナム、ヴィータ、リイン、アギト!」
「ルシル君、あなた・・・!」
「シグナム達を離せ!!」
――狼王の鋼鎧・剛――
ザフィーラは全身から放出した魔力を鎧のように纏い、宙を蹴ってルシルに突っ込んだ。わたしも黙って見てることはせず、閃駆を使ってルシルの背後に回り、ザフィーラと挟撃してやろうとしたんだけど、「ザックガッセ!」ってアイリが魔法を発動。
「ぎゃん!?」
「シャルちゃん!?」
目の前に透明な魔力壁が展開されてたようで・・・。わたしは閃駆によって高速移動してたから、魔力壁への衝突の衝撃はとんでもなく・・・。ふがぁ、と鼻血を噴きながら仰向けに倒れ込みそうになる。
――女神の救済――
「むごぉぉぉあああああああ!」
「「ザフィーラ!」」
鼻の骨が折れたんじゃないか?ってレベルの激痛に思わず俯いて、袖口で鼻血を拭ってると、ザフィーラの苦痛に満ちた叫びと、はやてとシャマルのザフィーラを呼ぶ声が。ハッとして顔を上げれば、ルシルはザフィーラの拳を受けた左手から魔力を吸収してた。シグナムとヴィータ、それにユニゾン中のリインとアギトは気を失ってるのか、魔力の球体に大人しく閉じ込められてる。
「コード・イドゥンは、右手からでないと吸収できなかったはずじゃ・・・!」
「シャマル。それはいつの話だ。ガーデンベルグとの闘いに備え、イドゥンはその完成形にたどり着いた」
――優しき泡沫の揺り籠――
魔力を吸収し終えたのか、ぐったりしてるザフィーラも同様に魔力球に閉じ込められた。仮面を取ってないからハッキリとは判らないけど、ルシルの視線がシャマルに向いたような気がした。はやても察したみたいで、「これ以上は家族を傷つけさせへん!」って“シュベルトクロイツ”をルシルに向け、“夜天の書”を開いた。
『加減はしないぞ!』
「そうだ、それでいい。私はもう、八神家の一員ではない」
「っ!!」
「我が手に携えしは確かなる幻想」
「複製スキルの詠唱!? はやて!」
『シャマル、離れろ!』
クローンのルシルが使えなかった複製スキルを使えるってことは、今戦ってるのはオリジナルのルシルで間違いない・・・んだろうけど、魔力減少によって体の崩壊が始まってるはず。それなのに、よくわたし達を相手によくここまで戦えてるとしか・・・。
「逃がさないよ、はやて!」
「(っと、そんなこと考えてる場合じゃない!)それはこっちのセリフ!」
――光牙烈閃双刃――
はやての背後から襲い掛かろうとしてたアイリに向け、魔力付加してた“キルシュブリューテ”と鞘を振るって剣状砲撃二連を放った。はやては、ルシルから距離を取り始めてたシャマルに当たらないように注意しながらの10発の炸裂弾「クルージーン!」を、“シュベルトクロイツ”の先端から発射。
「おわっと!」
アイリに上手く回避されたけど、はやてへの襲撃を阻止できたことだけで十分。で、はやての炸裂弾はルシルの至近で一斉爆破されて、ルシルを飲み込んだ。
――尽滅の蹂躙軍――
それと同時、迫って来てた8つの竜巻は消失して、「プリムスの幻術!?」が発動。わたし達の周囲にシャマルとルシルとアイリの幻が何十人と出現した。まさかの夢幻王の幻術発動に、わたし達は行動を完全に止めてしまった。
「シャマル!」
――女神の救済――
「はい! 私はここで――っ! きゃあああああああ!」
「『シャマル!?』」
「やられた!?」
全方位に所せましとシャマルとルシルの幻がいるから、どれが本物から全然判らない。と、思ってた矢先に幻術が解除されて、シグナム達と同じように魔力球に捕らわれたシャマルと、側に立って魔力球を優しく撫でるルシルを視認。これで残る戦力はわたしとはやてと、ユニゾン中のアインス。ルシルが複製スキルを使えると判った今、絶対に勝てるっていう確証は消えた。
『イリス。現着したよ。どうすればいい?』
『おお! 良いところに! 保管室前まで来て。そこで今、わたしの創世結界内でルシルとアイリと交戦中なの』
『交戦・・・。ルシルさんの真実という映像、約束通り私ひとりで観させてもらったけれど・・・。ルシルさんとオーディン様が同一人物どころか、界律の守護神だとか、何万年も生きているとか、すぐには信じられないことばかりの情報と量に未だに混乱している。・・・だけど、ルシルさんとのお別れが近いのは事実だから・・・』
『うん。今はそれでいいよ。でね、今ちょっと苦戦していて。だからさ・・・――』
思念通話を送ってきたのは、ミーティングホールに居た時にメールを出して、ルシルとのお別れの挨拶を一緒にしようと誘った、わたしとはやてにとって恋のライバルの1人・・・。
『――と、そんな感じでお願いしたいんだけど。いいかな? トリシュ』
トリシュだ。トリシュも母様や他の騎士たちと同様に、“T.C.”メンバーとして召喚された“ヴァルキリー”に魔力を奪われた。だけど、トリシュにはリンカーコアが2つある。自身の魔法用とスキル用だ。スキル用の魔力を自分で使えることを知ってたわたしは、メールでそっちが無事だってことが判って、すぐにトリシュを呼び出した。
『了解』
『トリシュ。準備が出来たらもう1回連絡して。創世結界に招き入れるから』
『・・・ルシルさんを撃つのかぁ。嫌だなぁ・・・』
『れ・ん・ら・く、お願いね!』
思念通話を切ったわたしやはやてに、シャマルを閉じ込める魔力球をポンッと押してシグナム達を閉じ込める魔力球の側へ移動させたルシルは「さぁ、次はどっちがいい?」って、わたしとはやてに向かって両手を伸ばした。わたしは警戒したんだけど、はやては両手で自分の体を抱いて、「ルシル君のエッチ」って一言。
「へ?」
「だって、ルシル君。ヴィータとシグナムのおっぱい触った」
「んな・・・!」
「あー! そうだよ、マイスター! リンカーコアに近い場所だからって乳房に触る必要ないじゃん! 背中だっていいし、胸骨柄の辺りでもいいし!」
「そう言えばそうじゃん! ルシルのエッチー! へんたーい!」
『変態。どうせシャマルの胸も揉みしだいたのだろ?』
「揉んでいない! ええい! どこに触れようと、魔力を吸収できれば私には関係ない!」
「マイスター! 揉むならアイリので! いつでもどこでもウェルカムだからね!」
「やめんか!」
アイリはわざわざルシルの目の前にまで行って、ルシルの目の前に自分の胸を突き出した。ルシルがそんなアイリをグイッと横に移動させ、はやてが「セクハラ容疑も追加やね、ルシル君?」って目の笑ってない笑顔を浮かべ、ルシルがブルッと体を震わせたところで・・・
『ブルータル・シャオム!』
「「あ・・・!」」
アインスが魔法を発動した。ルシルとアイリを閉じ込めたのは、ルシルがシグナム達を閉じ込めてる魔力球と似通った魔力球。違いは、球内に何十個って言う小さな魔力球が一緒って言うくらい。
『イリス。私の最大魔法の準備完了。いつでもどうぞ』
『了解! すぐに召喚するから、もうちょい待って!』
『爆ぜろ!』
「マイスター!」
「させん!」
――女神の救済――
ルシルは自分たちを閉じ込めてる魔力球に触れて、その魔力を吸収することで自由の身にはなった。だけど、何十個の魔力球は完全に吸収できず、全方位からの何十回もの魔力爆発に呑まれた。
『ルシル。この魔法は、お前の闇黒系最強の女神の夜宴を基に組んだ魔法だ。ノートに比べれば威力は微々たるものだろうが、それでも効いたろう? 主はやて、シャル。これで終わったとは思えません。追撃の用意を』
『え、あ、う・・・うん』
「だね」
“キルシュブリューテ”の通常カートリッジをロードして、刀身に防御貫通系の魔法を付加していると、爆発と同時に発生した煙からルシルがボフッと出てきた。ルシルもアイリも無事っぽい。まぁ、ルシルの蒼翼もアイリの結晶翼も完全に砕けてるけどね。
「やってくれるな、アインス・・・」
「けほっ、けほっ。本気で撃墜しに掛かってきたよね。まぁ、ガチ戦闘なんだからしょうがないけど」
ルシルの機動力が落ちてる今がチャンスなんだろうけど、まだ確実じゃない。だから『はやて、アインス。ルシルだけでも足止して。わたしが近接で押さえるから、わたし諸共って感じでOKよ』って、割と今更な指示を出す。
『了解や』『了解した』
――閃駆――
宙を蹴って、一足飛びでルシルに突っ込む。アイリが「コード・シャルギエル!」って氷槍を1本生成して、わたしの前に立ちはだかった。そして後衛としての役目を果たすためか、ルシルは後退した。
「アインス!」
『はい!』
「『来よ、白銀の風!』」
「其は天と大気を司りし偉大にして至高の女帝。鷹の羽衣の纏いて空を翔け、遥かなる世界の空に煌幕を張り揺らめかせる」
「『天よりそそぐ矢羽となれ!』」
「かの女帝が従えしは12柱のいと美しき従士。其は巫女、其は医者、其は後見人、其は使者、其は従者、其は鋤、其は恋愛、其は縁結び、其は誓い、其は詮索、其は扉、其は礼儀」
「『フレースヴェルグ!』」
「従えし女中と共に、かの女帝は天にて舞い踊る」
アイリと切り結ぶ中、はやてから放たれた砲撃がわたしとアイリの側を通り過ぎ、ルシルへと殺到してく。連射される砲撃を、ルシルはイドゥンで吸収して、「魔力をありがとう!」ってお礼を言う。うん、やっぱ砲撃はダメかぁ。
「やるじゃん、アイリ! 近接戦力、すごく強化されてる!『はやて。1発だけわたしの直撃コースでお願い!』
――炎牙月閃刃――
「まあね! 元々持ってたみたいなんだよね。もうちょっと早くに起動してくれてたら、これまでのエグリゴリ戦争、もっと楽に戦えたと思うんだけどね!」
炎の斬撃で氷槍を切断しても、アイリはすぐに新しい氷槍を作り出してくるから厄介だ。
『えええ!? 大丈夫なん!?』
『問題無し!』
『じゃあ・・・行くよ!』
背後に向かって高速で砲撃が迫る中、アイリを射線に誘導して、さらに鍔迫り合いで足止め+ベルカ式バインド魔法の「拘輪環!」で、あの子の腰を拘束してやれば・・・。
「ぅあ! ちょっ、待っ、マイス――にゃあああああああ!」
――至高女神の聖極光――
砲撃を直撃させることに成功。その直後に、ルシル、わたし、はやてを隔てるようにバチバチと放電するオーロラが発生。わたしとはやてを隔てるオーロラに砲撃が次々と着弾するけど、1発たりとも通さない。攻防一体の雷撃系広域対空攻撃フリッグだ。
「アイリが墜ちたか」
「そ! あとはルシルだけ! わたしとはやてを相手に、どれだけもつかな!?『喚ぶよ、トリシュ!』」
『いつでも!』
――剣神モード――
アイリをバインドで宙に拘束すると同時に絶対切断スキルを発動して、ルシルの意識をわたしに集中させる。魔術ならいざ知らず、魔法は容易く斬り裂ける絶対切断に、ルシルも警戒心をあらわにした。
「召喚!」
と、ここでわたしはトリシュを結界内に呼び寄せるキーワードを詠唱。臨界を超えそうなほど集束した魔力矢を“イゾルデ”に番えたトリシュを、ルシルの真後ろに出現させた。
「っ!?」
「お久しぶりです、ルシルさん! あなたを愛するトリシュタン、参りました!」
――果て無き深淵を穿つは天壌の至宝――
「トリシ――」
――女神の救・・・――
集束砲をほぼ零距離で受けたルシルは、そのまま砲撃と一緒に闘技場の中央に着弾して、起こった強大な魔力爆発に呑まれた。
「イリス! 魔力を使い切ったので助力を!」
「あ、うん!」
――シュヴァーベン・マギークライス――
騎士甲冑は維持できてるけど、それ以外の魔力行使は出来ないみたいだから、トリシュの直下に魔法陣の足場を展開して、あの子を着地させた。ホッと一息ついてるトリシュから、濛々と立ち上る煙を起こしてる眼下、闘技場に目を移す。
『はやて、アインス。各個撃破されたくないから、追撃を用意しながらわたしに付いて来て』
最大警戒しながら高度を下げ、地上から10mほどまで降りる。ルシルを視認するために、風圧の壁を放つ「風牙烈風刃!」で煙を吹き飛ばす。地表に出来た巨大なクレーターの底、ルシルがよろよろと立ち上がろうとしてた。神父服もボロボロで、仮面も完全に砕けてる。俯いてることで前髪が垂れて表情は見えないけど、ダメージが深刻なのはなんとなく判る。
『さて。バインドで捕らえるか、追撃で撃墜するか、だね』
『シャルちゃん。もうええんやない? これ以上は、ルシル君の体が心配や。クローンやないやろうし、寿命問題を抱えてるはずや』
『それはまぁ・・・そうだろうけど。・・・じゃあ、バインドで――』
「――の御名の下、其に刃突き立てし者へ輝ける聖裁を与えよ・・・」
ルシルが「詠唱!」してるのが聞こえて、わたしは「もう止まって!」って叫びながら、クレーターを駆け降りる。
『シャル! 高速射撃を撃ち込む! 注意してくれ!』
『了解!』
――ブルーティガー・ドルヒ――
わたしに先行して放たれた血色の短剣型射撃魔法。その数20発がルシルに殺到する。
――暴力防ぎし汝の鉄壁――
だけど、ルシルの頭上に展開されたシールドが全弾を防御。その中でも「哀れな者らは泣き叫ぶだろう。しかし許しは乞わぬだろう」って詠唱を続けるから、直接攻撃で無理やり止めるしかないと判断。
「(この詠唱は、全方位無差別多弾集束砲撃バルドル・・・!)撃たせない! 光牙双月刃!」
――盾神の暴虐――
“キルシュブリューテ”と鞘に魔力付加しての斬撃と打撃の二連撃を打ち込もうとしたら、ルシルの足元から伸びてきた砂や岩石が両腕、両足、胸部や背中に巻き付いてく。そしてソレらは魔力付加されたゴツイ岩石の籠手、脚甲、胴鎧へと変わる。さらに、背中には浮遊する岩石の腕が6本と造られて、手の甲には円い岩の盾が装備された。
「堅い・・・!」
ルシルを護るように展開される浮遊する岩腕が盾となって、わたしの攻撃を的確に防いでくる。
「自らの罪と過ちを認めることを赦さず恥とするゆえに。汝よ。迷うことなかれ、憐れむことなかれ、悔やむことなかれ」
『ビーネン・シュティッヒ!』
『シャルちゃん! 離れて!』
はやての言葉に従って後退すると、螺旋状の大きな穂を持つ魔力槍が高速で飛来。腕の1つが槍を防ぐべく盾となって、手の甲の盾が槍の直撃を受けた。槍は盾に突き刺さるどころか手の甲を貫通した。
「(アインスに続け!)凶牙・・・奈落刃!」
闇黒系魔力を乗せた“キルシュブリューテ”を振り上げ、シールド・バリア・結界などの貫通効果を有する7つの影刃を放った。5つの浮遊腕や、ルシルの両腕に装着されてる岩籠手が防御に動いた。奈落刃はわたしの闇黒系最強の魔法。同じ魔法なら・・・負けない。影剣は浮遊腕や籠手を貫通して、ルシルの防御を一時的に不能にした。
「ゲイ・ボルグ!!」
そこに、全体に魔力付加された“シュベルトクロイツ”を突き出してるはやてが、超高速で真上から突撃してきた。ゲイ・ボルグは、なのは直伝の突撃魔法マニューバA.C.Sの完全版で、はやての有する数少ない近接魔法だ。
ずっと俯いてたルシルがバッと顔を上げて、はやてを見上げたんだけど・・・。その途中で見えたルシルの表情に、わたしは「なによ、それ。ふざけんな・・・!」って怒りが湧いてきた。
――護り給え汝の万盾――
流星のごとく突撃してきたはやての攻撃を防ぐべく展開されたのは、無数の小さな円い盾を広く重ね合わせて作る大シールド。
『なんだ、その表情は! 卑怯者め!』
「泣きたいのは・・・こっちや! ルシル君!!」
そう。一瞬だけ見えたルシルの表情は、泣くのを我慢してるようなものだった。はやてもアインスも怒声を上げ、突撃の勢いを弱めることなくシールドに“シュベルトクロイツ”を突き立てた。剣十字の先端がシールドを貫き、ルシルの目の前で止まった。そして・・・
「『クリューサーオール!!』」
砲撃6連射がルシルを襲った。わたしでもその場に留まれないほどの魔力爆発が6回。両翼を羽ばたかせて、その衝撃と爆風を利用してわたしは空へと上がった。再び煙にルシル、それにはやての姿が覆い隠される。
『はやて! アインス!』
『・・・シャルちゃん。ルシル君の撃墜を・・・確認。勝ったよ・・・』
『・・・了解』
はやてからの報告にそう答えた後、「泣くくらいなら、初めからこんな事しないでよ!」って、姿の見えないルシルに向かって吐き捨てた。
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