魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Saga22-B真実への扉~The last 3 steps~
†††Sideフェイト†††
故人であるプレシア母さんとリニス、楽に行き来できないほどの遠い世界に住んでいるレヴィが現れたことに、私は驚きながらもやっぱり嬉しかった。プレシア母さんとリニスがどうして居るのか不思議、というか疑問はあるけど、それでもまたこうして話が出来て嬉しいんだ。
そんなプレシア母さん達は“T.C.”の一員であるようで、私たちが防衛任務にあたっていた研究施設に襲撃を仕掛けてきて、私たちと戦う意思を示していたんだけど・・・。
そこにまた新しく子どもの”T.C.”が現れたかと思えば、プレシア母さん達は剣呑な雰囲気になった。それもこれも、その子が私たちから魔力を奪うって話になったからだ。
「なんじゃ、プレシア、リニス。そやつ等を庇うのか? 高魔力量を保有する魔導師からも魔力を回収せよ、との命令があったはずじゃが?」
「けれど、それは絶対ではないわ」
「はい。あくまで最優先は魔力保有物の回収。局魔導師からの魔力奪取は絶対の指示ではなく無理に遂行せずともよい、とのことでした」
「無理ではなかろう? わしとお主等2人とレヴィ。この4人であれば、そこの娘から魔力を奪うことは容易いこと」
「いいえ。仕事はこれで終わりよ、カレン」
「お主等、王に歯向かうつもりか?」
「その王からも許可は貰っているわ。最優先任務であるこの子たちの足止めを果たした後、私たちは自由時間を与えられているのだから、どう過ごそうが勝手だわ。そう。彼の娘であるあなた達とは違ってね」
「それでも王のご厚意によって存在できている以上、王のために働くのは必定であろうが」
「確かに、彼には恩はありますが、それとこれとでは話が違います。カレン。私たちはここで下ります」
プレシア母さんとリニス、そしてカレンとのやり取りを見ていることしか出来なかった私たちは、リニスが最後にそう締めたところでカレンの雰囲気がガラリと変わったのを察知。すると母さんとリニスが、私とアリシア、エリオとキャロとフリードを護るように前に躍り出た。
「何のつもりじゃ」
「カレン。あなたが私の大切な娘たち、友人たちを傷つけるようなことをするつもりなら・・・」
「私とプレシア、あと・・・」
「ボク? ボクはどっちでもいいけど、この中で一番強いのカレンでしょ? ボク、強い奴と戦うの好きなんだ~。それに、ディアーチェからお願いされてるんだよね。オリジナルと姉っ子を無事に連れてこいってさ。だから、ボクはこっち側に付くよ、カレン」
レヴィも気になる事を言いながら私たちの先頭に立った。カレンは「よかろう。ならば、わしがお主等全員を始末すればよいだけのこと!」と、赤褐色の魔力を全身から放出させた。その勢いでフードか外れて、黒ショートヘアでツーサイドアップの髪、それが素なのか判らないけど蒼い半目な顔があらわになった。
「アリシア、フェイト。それに、エリオ君とキャロさん。あなた達は――」
「逃げないよ! 私たちも戦う!」
「そうそう! 私とフェイト、エリオとキャロとフリードだって強いんだから!」
「「お手伝いします!」」
「きゅくるー!」
「ボクひとりでも十分だけどね!」
――エルヴスムーブ――
レヴィに連携なんて望めないことは判っていたけど、背中の三対の電撃の羽と、両手首と両くるぶしの片翼4枚がバチッと音を出すと同時、電撃の塊となって超高速でカレンに突っ込んで行った。
「光雷斬、連続斬り!」
戦斧形態の“バルフィニカス”の斧頭から展開されている電撃の斧刃による直接斬撃を、カレンの足元以外の方向から高速かつ連続で繰り出す。
「雷撃がわしに通用するとは思わんことだ!」
――セグワーチェ・ファンタズマ――
電撃の斧刃を躱すカレンの周辺の地面が一斉に抉れた。ブワッと多量の砂が巻き上がって5つの柱となるとローブ姿の人型へと変化して、レヴィの攻撃を受ける盾となった。レヴィの“バルフィニカス”の斧刃は砂人形を斬り裂いてはいるけど、相手は砂。斬り裂かれても元に戻って、カレンの盾になり続けてる。
「レヴィ! 砲撃で吹っ飛ばす! 離れて!」
そう言ってアリシアはスナイパーライフル型デバイスの“ブレイブスナイパー”を起動させた。私もライオットブレードⅡ形態の“バルディッシュ”を構えると、プレシア母さんが「リニス、私たちも砲撃で押すわよ」と足元に魔法陣を展開した。
「キャロとフリードは待機。エリオは、私やレヴィと一緒に近接で攻める」
「「了解です!」」
――マルテッロ・ソルプレーサ――
「下がってください!」
リニスが然叫んだ直後に私たちの足元の地面が隆起して、石畳に使われていたレンガを含めた土や岩で構築された大きな壁が突き出た。私とリニスとエリオ、空に上がったばかりだったキャロとフリードは反応できて回避したけど、逃げ遅れたアリシアとプレシア母さんが空に突き飛ばされた。
「倒れてくる! 逃げて!」
高さ5m、幅2mくらいの岩の壁が私たちに向かって倒れてきた。魔術で作られたものだ、押し潰されたら確実に死ぬ。慌てて範囲内から離脱したところで「ミーナ」と、カレンが地面を蹴った。ゾクッと悪寒が走る。原因は足元の地面すべて。直感に従って「急上昇!」ってみんなに伝えながら空へと上がる。直後、地面の至る所が爆発を起こして、瓦礫やら砂塵やらがまき散らされる。
「アリシア、プレシア母さん!」
「私もプレシアママも大丈夫!」
「カレンは土石系の魔術師よ。空に上がって全力で爆撃すれば、あの子の防御力も突破できるはずだわ」
――トッレ・トンバ――
イタリアのマンジャの塔のようなデザインをした岩石で出来た塔が、私たちの居る高度までいくつも勢いよく突き出てきた。それを回避していると、単独でカレンに攻撃を仕掛けていたレヴィが「カレンがいなくなった!」って知らせてくれた。
「撤退した?」
「ありえません。必ずいます! 警戒を!」
私たちよりカレンを知っているリニスの言葉に従って警戒していたら、ある1つの塔の鐘楼部(鐘は無いけど)に隠れていたカレンが「スパーダ・グランデ・ディ・アンジェロ!」と、塔を構築している岩を使ってゴツゴツした大剣を生成。そして床を蹴って、私たちに突っ込んできた。
「エクスディフェンダー!」
プレシア母さんが発動したのは六角形のシールド7枚を繋ぎ合わせて作った大きなシールドで、カレンの岩の大剣を防御。大剣がシールドに触れた瞬間に発動したカウンターの巨大な雷スフィア、「ヴァリアントスフィア!」がカレンを襲った。放電する魔力爆発に呑まれたカレンだったけど、ほぼ無傷のままもう一度大剣を振るおうとしていた。
――ファストステップ――
「ジェットスマッシャー!」
そんなカレンの頭上に高速移動魔法で移動したリニスは直射砲撃を発射。叩き付けられるように真上から砲撃を受けたカレンは、その勢いに抗えずに砲撃もろとも落下していく。
「リニス!」
「はい! プレシア!」
――ライトニングバレット・スタンピード――
――フォトンランサー・ファランクスシフト――
「「ファイア!」」
プレシア母さんの数十発の電撃弾と、リニスの周囲に展開されたスフィア20基から電撃槍が数十発、そのすべてがカレンに殺到していく。プレシア母さんとリニスも魔術を使っているのは感じ取っている。だからこそ「何しているの!? カレンが死んじゃう!」ってアリシアが慌てふためいた。もちろん私だって「やり過ぎだよ!」って叱責した。
「問題ないわ。彼女は魔術を使えはするけど厳密には魔術師ではないし、何より人間でもないわ。それに、フェイト、あなたも察しているのでしょう? 私とリニスの正体についても」
「答えをそのまま伝えることは出来ませんが、ヒントくらい与えてもいいでしょうし。私とアリシア、それにレヴィは、カレンと同様に生物ではありません」
「「「「え・・・?」」」」
それを聞いた私の頭にはまた、ありえないと断じた可能性が浮かび上がった。生物と言うカテゴリーにはクローン、生まれ変わり、時間渡航者も入るだろうから、それ以外となればやっぱり・・・。
「そういうわけですから、カレンへの攻撃に手加減は必要ありません。いきますよ!」
――ジェットスマッシャー――
リニスの直射砲撃を皮切りに、私たちはカートリッジをロードして攻撃開始。レヴィの電撃砲「雷豪戦衝覇!」、アリシアの砲撃効果を有する大砲弾連射「ストリームコメット!」、エリオの中距離電撃刃「ブリッツメッサー!」、プレシア母さんの雷を落とす「サンダーレイジ!」が一斉にカレンを襲う。そして私も、電撃砲「プラズマスマッシャー!」を発射して、カレンはそのすべてを受けて魔力爆発に呑まれた。
――テンペスタ・ディ・サッピア――
私たちを包囲するかのように巨大な砂の竜巻が四方に発生して、中心に居る私たちに向かって同時に向かってきた。でも速度は遅いからすぐにその場から散開することで逃れる。
「きゃあああああ!」「うわあああああ!」
「エリオ!?」「キャロ!?」
竜巻から飛来してきた小さな石や大きな岩が、フリードの翼に直撃した。やっぱり魔術効果があるようで、フリードの装備である“ヴァンガード・ドラグーン”がガラスみたいに簡単に破壊されて、さらに墜落し始めた。助けに行こうとソニックムーブを発動しようとしたけど、「まずは2人と1匹じゃの?」と竜巻の中から多量の砂で出来た足場に乗ったカレンが飛び出してきた。
「まだ墜ちてないよ!」
「私が助けに行きます! プレシア達はそのまま交戦を!」
――ファストステップ――
羽ばたこうと頑張っているフリードの元にリニスが高速移動魔法で向かったのを横目で確認しつつ、「サッピアスパーダ」と足場の砂を剣に作り直したカレンを、“バルディッシュ”の斬撃で迎撃する。
「っ・・・!?」
「砂を高速振動させておるからの。切れ味は抜群じゃ!」
“バルディッシュ”の魔力刃と衝突した砂の刃がガリガリガリ!と、まるでチェーンソーのように魔力刃を削り取っていく。そしてバキッと魔力刃にヒビが入ったことで、“バルディッシュ”を持つ右腕を引こうとしたんだけど、「砂が・・・!」魔力刃に絡みついてきて、私を逃がさないようにした。
「安心するがよい。その身を刻むつもりはないからの。傷つけてはわしが王に怒られる」
「うちの娘を放しなさい!」
プレシア母さんが杖の先端のクリスタルから生成した魔力鞭でカレンを打とうとしたけど、竜巻から放たれてきた石礫が正確に鞭を撃ち抜いて破壊。とここで、“バルディッシュ”の魔力刃がバキン!とへし折られた。
「わしが生き物ではないと裏切り者より聞いた途端、情け無用に攻撃してくるとはな。お主等、誠にこーむいん?という者か? たとえ大罪人でも殺害はせんと聞いておったが、それはどうやらウソであったようじゃの。こんな十にも満たぬ幼子を害そうとするとはのぉ」
「ちが・・・!」
“バルディッシュ”の魔力刃が折られたことで解放された際、カレンの侮蔑の眼差しが私を射抜く。そうだ、確かに相手は子どもだ。いくらプレシア母さんとリニスが、カレンは生物じゃないと言っていても、非殺傷設定の無い魔術で、手加減なしで攻撃していいわけが・・・。
「ぼさっとしない!」
「っ・・・!」
――バインドバレット――
アリシアの怒声にハッとして、カレンの剣から槌へと変えた砂による殴打攻撃を、急降下することで回避。そこにアリシアの撃った魔力弾がカレンに着弾して、魔力弾はリングバインドとなってあの子を拘束したけど、「ふむ。ならば、ともに砂の暴力に呑まれようか」とニタリと笑った。そう、砂の竜巻は今なお迫って来ているし、石ら岩やらをまき散らして、竜巻の間や空などの逃げ道を完全に封鎖している。遅くても2分くらいで呑まれると思う。
「よく言うわ、カレン。見た目はそうでも、何百人といる兄弟の中で上から数えた方が早いほどの歳でしょ? フェイト、アリシア、レヴィ。少しの間、カレンを引き付けておいて」
まるで空に蓋をしているかのように飛び交う岩石流のギリギリ下まで高度を上げたプレシア母さんが足元に魔法陣を展開した。私とアリシアとレヴィは頷き合って、アリシアが「私がプレシアママをフォローする!」って、“ブレイブスナイパー”から短銃の“ラッキーシューター”に換装してプレシア母さんの元へ。
「レヴィ!」
「おーっし! 下の連中も無事のようだし、ボクとオリジナルでカレンをぶっ飛ばーす!」
「あと、エリオもね」
墜落していたフリードは、リニスの魔力網ホールディングネットで地面への激突は免れているし、エリオはフローターフィールドの連続展開で足場を作って、私たちに合流するために駆け上げって来ている。そんなエリオを見てカレンは「大人しくしておれば、痛い目に遭わずに済んだものを」と首を横に振った。
「そうはならない。私たちが勝つから」
私はそう宣言して、“バルディッシュ”を大剣形態のライオットザンバーに変形させた。
†††Sideフェイト⇒クラリス†††
なのはとヴィータとリインには、どうやら知り合いらしいシュテルっていう魔導師(なのはと顔立ちがそっくりで驚いた)を任せて、私はソアラっていう子と交戦中。
「アレクサンドロス、次!」
「グルファクシ! 再度突っ込みますよ!」
私が今駆っている黒の巨馬アレクサンドロス。ソアラが駆るのは同程度の大きさを誇る、キラキラと金色に輝く綺麗なたてがみを有する白の巨馬グルファクシ。得物は、私は方天戟と金砕棒の柄頭を連結させた“シュトルムシュタール”。ソアラはドリル状の大きな穂を有する突撃槍。
私たちは馬で駆け、接近しては互いの得物で攻撃を行うっていう、古代の騎馬戦のようなことをしてる。そしてこの瞬間にも、馬を反転させてからの突撃をして・・・
「フェアシュテルケン・ガンツ!」
「インヴィタ・ディストルツィオーネ!」
薔薇色の魔力を全体に帯びた“シュトルムシュタール”と黒い雷を帯びた突撃槍が、私たちが真っ向から交差する際に激突する。“シュトルムシュタール”から伝わってくる衝撃がすごくて、ソアラが見た目通りの子どもじゃないことを否応なしに理解させられる。後ろに通り過ぎていくソアラに警戒しながら、離れたところで黒雷で作り出されたチーターの群れと戦ってる私の召喚獣、九尾の狐ナデシコをチラッと見る。
(魔術で作られてるからか、ナデシコでも簡単には処理できないんだ・・・)
さらに言えば雷で出来ているから超高速で動き回れるチーターは、ナデシコの口から放たれる炎の直射砲や範囲攻撃を余裕で回避できいて、回避すると同時にナデシコに突撃を繰り返している。体当たりと同時に放電しているようで、ナデシコが時折苦しそうな声を漏らす。
(急いで片を付けないと、ナデシコの召喚を解かざるを得なくなる)
私の魔力と神秘が込められた“シュトルムシュタール”のカートリッジを3発ロードして、方天戟のオーベンフォルム、金砕棒のウンテンフォルムの2つに切り離した。そして跨っていた鞍の上に片膝立ちすると、向かって来るソアラが同じように鞍の上に片膝立ちした。
「アレクサンドロス! ちょっとだけ我慢して!」
「グルファクシ。すれ違わず、全力でぶつかってください。大丈夫です、あなたなら打ち勝てます」
私の考えに乗ってくれたソアラがグルファクシの首筋を撫でた。それでやる気が増したのか、グルファクシは一鳴きして速度を速めた。私とアレクサンドロスだって負けない。ただ一言、「勝つのは私たちだよ」って伝える。徐々に距離が縮まっていって、そしてアレクサンドロスとグルファクシが真っ向から頭突きで激突。
「ツェアシュテールングス――」
激突と同時、私とソアラはそれぞれ鞍を蹴って最接近。私はまず振りかぶっていた金砕棒を左薙ぎで振るった。私が“シュトルムシュタール”を2つに分けた意味を察しているらしいソアラは、突撃槍での攻撃じゃなくて、「スクード・シニストラ!」って左腕に魔力の六角シールドを展開した。
(シールドで防いでも、その細腕が耐えられるとでも!?)
見た目は10代前半くらいでも魔術師である以上、下手な手加減はこっちの負けに繋がる。だから腕の骨の1本くらいは我慢してほしい。そう考えて容赦なく金砕棒を振り下ろした。棍棒の表面にびっしりとある鋲をシールドに打ち付ければ、一瞬でヒビを入れ、そして砕いた。だけど・・・。
(硬・・・!?)
ソアラの細腕に拒まれた。人の体を殴った感覚じゃなくて鋼鉄を打ったような感覚が手に伝わった。ソアラが左腕を払うことで、金砕棒を持つ私の右腕も釣られて外へ向かって払われる。
「ショック!」
――インヴィタ・ディストルツィオーネ――
驚愕を振り払い、即座に方天戟による振り下ろしを繰り出して、左腕を払った勢いで旋回したソアラの突撃槍による薙ぎ払いが激突。私の魔力とソアラの黒雷は周囲にまき散らされる。それにしても、やっぱり魔導師や魔術師は見た目でどうこう考えるのはダメだって言うのを再認識。
「「っ・・・!」」
互いに得物が弾かれて後方に吹っ飛ぶ。空中で体勢を整えて、すでに距離を取っていたアレクサンドロスとグルファクシの鞍にそれぞれ跨り直した。これでいったんの仕切り直しだ。
「魔力盾を一撃で粉砕されるとは。想定より神秘が、破壊力が高くて驚きました」
「でも、あなたの肉体には掠り傷さえ付けられなかった」
「いえいえ。外からでは見て判らないでしょうが割とダメージ入っていますよ。・・・んー、クラリス。クラリス・ド・グレーテル・ヴィルシュテッター」
「え、なに・・・?」
いきなりフルネームで呼ばれて困惑してると、「風雷グレーテルの雷撃系魔術は使わないのです?」って聞かれた。ソアラが口にした名前は、ヴィルシュテッター家の長子が名乗ることが出来るものであり、ヴィルシュテッター家で一番有名な当主の名前。けど問題はそこじゃない。特騎隊のみんなしか知らない、グレーテルが雷撃の魔術を扱え、なおかつ私もその気になれば使えることを、ソアラが知っているっていう事実。
「まさかと思うけど、あなたもレオンとかプリムスとか、あの幹部連中と同じ時代の魔術師のクローンだったりする?」
「クローンとは違いますが、同じ時代に存在していたことは確かですよ?」
最悪。現代の魔術師ならまだやりようはあると思ってたんだけど、魔術全盛期の時代の魔術師となってくるとレオン達の強さを思い起こさせる。戦慄してる私にソアラは「悔しい話ですが、私はそこまで強くはないのですよ」って目を伏せた。
「よく言う。私の本気の一撃を受けてダメージが入ってるって言いながらのその余裕さ」
「もう、文句ばかりですね。ならば、風雷グレーテルの魔術を使ってみては? 彼女の雷撃系術式は、あなたの魔法との相性はいいはず」
「・・・私自身の魔法で勝ちたかったんだけど・・・」
ナデシコは少しずつだけど雷チーターの数を減らしてる。なのはとヴィータは、ヴィータはデバイスを破壊されて戦闘不能に陥ってるみたい。なのはとシュテルの射砲撃戦が繰り広げられてる。変な意地は敗北・・・か。しょうがない。深呼吸を1回して、グレーテルの術式をスタンバイする。
「風填顕雷・・・!」
“シュトルムシュタール”の全体に風が渦巻き、バチバチと放電し始める。風雷っていう二つ名の通り、グレーテルは風と雷を操る魔術師だ。ここからの闘いはアレクサンドロスにもダメージが入りそうだから、私は鞍から地面に飛び降りた。
「ありがとう、今日はもういいよ」
アレクサンドロスの頭を撫でてから召喚を解除。展開した召喚魔法陣に沈んでいくあの子を見届けてから、私を待ってくれてるソアラに向き直る。そんなソアラもグルファクシから降りていて、グルファクシの召喚を解除してた。
「今度は何を召喚します? 私、あと大きな鳥を召喚できますよ」
「私も、ステュムパリデスっていう召喚鳥がいるけど・・・、このままでいい」
グレーテルの魔術は召喚獣との相性がちょっと悪い。騎乗しながら魔術を発動したら巻き込みかねないからね。だから「この身ひとつで、あなたを倒す」って宣言した。
「いいでしょう。その方がしっかりと実力差が判るというものです」
――インヴィタ・ディストルツィオーネ――
突撃槍に黒雷を纏わせたソアラと、間合い8mほどを開けて対峙する。ジリジリと足を滑らせるように互いに間合いを図る。雷撃系は機動力に優れた属性だ。そして攻撃力も高い。雷撃系術師同士の戦闘は、ほぼ一撃で終わることが多いそうだ。
「(早くなのは達のフォローに行ってあげたいし、この一撃で沈めてあげるよ)シュトルムシュタール、カートリッジロード」
さらに魔力と神秘を増加させて準備万端。ソアラが突撃槍を持つ右腕をグッと後ろに引き、開いた左手の平をまっすぐ前に突き出す構えを取った。私も同じ構えを取って、グッと軸足に力を込める。そして地面を蹴って、ソアラへと突っ込んだ。
「ジャヴェッロット・トゥオーノ!!」
――パンツァーガイスト――
突撃槍を突き出すと同時に黒雷の槍を射出してきた。私は全身を魔力で覆って防御力を上げて、顔が地面スレスレになるまで前傾姿勢になって雷槍を躱す。
「威風・・・疾雷!!」
ソアラの懐に入りこめたその瞬間に、“シュトルムシュタール”全体を覆う風を爆風として石突側から放ち、その推進力で以て無理やり体を引き起こし、突き出されたままの突撃槍に雷撃付加の刺突攻撃を打ち込んだ。
「あ・・・! うぐっ!」
私の一撃で突撃槍が空高くにまで弾き飛ばされた。勢いの止まらぬ“シュトルムシュタール”を無理に制止するような真似はせず、引き上げられた体を捻ってソアラのお腹に後ろ回し蹴りを打ち込んだ。小さな体だから面白いほど蹴り飛ばされたソアラだけど、普通に着地してるところを見ればやっぱりダメージは低いみたい。
「ようやく雷獣どもを処理し終えたぞクラリス!」
そんなソアラの頭上から小さな姿になってるナデシコが降って来て、直前で本来の巨大な体に変身。両前脚でソアラをドォーン!と潰した。何やってんの!?って怒りそうになったけど、ソアラの防御力からして効いていないんだろうな~って、すぐに冷静になった。
「ナデシコ。チーターとの戦い、大丈夫だった?」
「ふんす! 速さは厄介じゃったが、ビリビリは肩こりに効いたぞ」
肩ってどこだろう?とは思ったけどツッコまず、とりあえず「ソアラはどんな感じ?」ってナデシコの大きな前脚の下に居るあの子のことを聞く。ナデシコは「うむ。逃れようと足掻いておるな」ってニシシって歯を剥いて笑った。
「防御力はあっても、レオンほどの膂力はないのか。じゃあバインドを用意するから、私の合図で手をどけて」
「承知した」
念のためにカートリッジをさらにロードして、捕獲輪を準備・・・完了。そして、いざっていうところで、「ぇぐ・・・!?」と私は苦悶の声を出した。私の胸から生える半透明の腕と、手の平に浮かぶ薔薇色に輝くリンカーコアが目に入った。
「クラリ――むおぅ!?」
「な、ナデシコ・・・!?」
ナデシコの胸のところからは、ナデシコのサイズに合わせたのか巨大な半透明な腕が飛び出して、白く輝くリンカーコアを取り出していた。
「「あぐぅぅぅぅぅ!!」」
強烈な胸痛が襲ってきて、私とナデシコはその場で蹲った。私のリンカーコアの輝きが徐々に失われていくにつれ、私の体からも魔力が無くなっていく感覚を得る。
「ごめんなさい、クラリス、それに召喚獣ナデシコ。あなた達の魔力、頂戴します」
ソアラのそんな謝罪を耳にしてすぐ、私の意識は途切れた。
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