| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Saga22-A真実への扉~The last 4 steps~

†††Sideフィレス†††

教会本部内での“T.C.”迎撃という任を受けた私は、聖王教会の教皇であり、教会騎士団の団長でもあるマリアンネ聖下と共に、“T.C.”の狙う魔力保有物が数多く収められた地下保管庫へと通じる床扉を護るため、ここに来るまでに騎士たちを単独で撃破してきたらしい敵戦力と交戦していた。

「聖下!」

「ええ!」

――穿ち止める氷杭(エスタカ・クエルソ)――

“T.C.”の一員であるローブを身に纏った女性が生み出したのは、炎の左右一組の巨腕。炎の両腕に向けて私が放ったのは魔術化している氷の槍。炎と氷という、相性から見ればこちらが不利だろうけど、僅かでもその動きを止めさえ出来ればいい。槍は巨腕の手首を貫通し、バインドとして手首を締め上げた。

――閃駆――

その隙に聖下が、炎のロッキングチェアに座り、膝上に乗せた分厚い魔導書に手を載せた“T.C.”へと高速移動で向かう。

――光牙双月刃――

聖下のデバイスは太刀“キルシュヴァッサー”と小太刀“キルシュガイスト”の二刀で、深紅の刀身には緋色の魔力が付加されている。“T.C.”は立てた右人差し指と中指で前方の空間を撫でるように横に振り、「エンシェント・ロジック」と、模様のような文章のような不思議なシールドを展開。聖下による二刀直接斬撃を完全に防いだ。

「っつ・・・!?」

「猛れ、炎の巨人。汝の炎腕にて敵を燃やし尽くせ」

――炎人之焚腕――

その盾は聖下を弾き飛ばし、追撃として“T.C.”は再び炎の一対の巨腕を創り出した。ルシルの白銀の巨腕を思い起こさせるその炎の腕が、虫を払うかのように振り払われた。大広間ゆえにこちらも回避できるけど、狭所だったら確実に回避しきれずに食らっていた。聖下も床に着地すると同時に大きく跳び、巨腕の一撃を回避。

『(魔術効果の結界が本部全体に展開されているから、こちらも多少の無茶も押し通せるはず!)聖下! 広域攻撃を撃ちます』

『判ったわ。彼女に隙が生まれ次第こちらも動くから、私のことは気にせずに派手にやっちゃいなさい!』

「『了解です』シュロス、カートリッジロード! 氷牢の刺突杭(コンヘラドル・セリオン)!」

自前で発現できる神秘魔力に、以前から蓄えていた自分の神秘カートリッジで魔力と神秘を増大させる。そして、ここ大ホールの天井・床・壁全体に展開した魔法陣より無数の氷柱(本来は先端の尖った杭だけど、非殺傷設定の無い魔術である以上は平たくしてある)を突き出させ、”T.C.”や炎腕に打ち付けさせようとした。

「っと・・・!」

座っていた炎のロッキングチェアが氷柱に狙われたことで飛び退きつつ、“T.C.”は着地するまでの間に迫る氷柱を魔導書の角で叩いて砕き続ける。炎腕も氷柱を溶かしてはいるけど、打ち付けられていることは変わらないからボコボコに潰されている。その中で聖下が氷柱の上を跳び回りながら、1本の氷柱に着地した”T.C.”へと接近。

「奔れ、紅蓮の砲光。敵に向かいて燃え穿て」

――轟火之砲光――

「雷牙双月刃!」

“T.C.”の周囲に発生した火炎スフィア4基より聖下に向けて放たれたのは火炎砲撃4発。聖下は“キルシュヴァッサー”と“キルシュガイスト”の刀身に電撃を纏わせ、迫る火炎砲を真っ向から斬り払いながら距離を縮めていく。それを黙って見守っているつもりのない私は、“T.C.”を挟撃するために今なお突き出させている氷柱に乗って、一気に“T.C.”の元へと向かう。

「はあああああああ!!」

「エンシェント・ロジック!」

聖下の激しい双刀連撃に対してシールドを展開して弾き返し続ける“T.C.”。私はそんな彼女の背後に回り込むことに成功し、古代ベルカ式の拘束魔法である「拘輪環!」を発動。彼女の両腕をその空間に固定して、宙を指でなぞって発動させるらしいシールドを封じた・・・はず。

「っ・・・!」

「(魔導書は手から離れても落ちずに宙に浮いている。はやて二佐の夜天の魔導書のような、特別な物であることは間違いないわね)ならば・・・!」

――悪魔の角(ディアブロ・クエルノ)――

50基の氷の螺旋杭を展開し、魔導書に目がけて一斉発射。螺旋杭は四方八方から超高速で魔導書に殺到し、次々と着弾しては炸裂してボフッと真っ白な冷気を発生させていく。

「双牙・・・!」

そして聖下は、身動きを封じられた“T.C.”へと小太刀“キルシュガイスト”の峰側での袈裟斬りを繰り出す。聖下の一撃は“T.C.”の左肩を強打。けれど彼女は膝を突かなかったどころか左肩に乗っている“キルシュガイスト”を左腕で掴もうとした。

――神速獣歩(ゲパルド・ラファガ)――

「光雷刃!」

聖下が一歩分後退しながら繰り出した太刀“キルシュヴァッサー”の電撃纏う峰打ちが、“T.C.”の腹部に打ち付けられた。それと同時に私は背後から魔力で覆った“シュロス”の腹で彼女の背中をフルスイングで打ち付ける。

(この手応え・・・、肉を叩いたものじゃないわ。シールドを叩いた感じ。ダメージは入ってないみたいね)

――リベレーション・フォース――

「「ぅく・・・!?」」

私の螺旋杭の猛襲を受けた魔導書から無数のページがブワッと宙に舞い、火の粉を周囲に撒き散らし始めた。小さな火の粉をこの身に受けるだけで、すごい衝撃と熱さが全身を痛めつけてくる。さらにページの勢いに抗えなかった私と聖下は、“T.C.”から大きく距離を開けられてしまった。

「あ、もうこちらの用は済んだようね」

“T.C.”がそのようなことを言って、地下保管室へと通じる床扉の方をチラリと見た。それにつられて私も今は遠くに見える床扉へと視線を移し、「うそ・・・」と目を見開いた。床扉がゆっくりと開いていき、保管室より出てきたのが「聖王オリヴィエ、覇王イングヴァルト・・・!?」と瓜二つの男女だったからだ。

「いったい、これはどういう・・・!?」

聖下の混乱も理解できる。おそらく偽者だとは思うけど、伝説に語られるオリヴィエ様やイングヴァルトがいきなり現れたら驚愕するのも仕方がない。しかも、聖下以外が開閉できないように封印処理されていた床扉が開いたのだからなおさら。

「オリヴィエ様・・・?」

「あ、はい。オリヴィエ・ぜーゲブレヒトです。私が歴代の聖王に交じって崇拝されているなんて、何やら気恥ずかしいものですね」

絵画などでしか見たことのなかったオリヴィエ様は頬を少し赤らめて微苦笑。私はオリヴィエ様も気になるけど、イングヴァルトの方も警戒。よくよく見てみれば佇まいが達人のそれ。偽者だとすればそれはそれで恐ろしい敵ということになる。

「保管室から出て来たけれど、いったい何をしていたの?」

「あたし達が答えずとも察してはいるはず。保管庫内にあった魔力保有物はもう回収済みであると。あとは・・・」

――スティールハンド――

「「ぁが・・・!?」」

“T.C.”が左足で床をトンッと軽く突いた瞬間、私と聖下は同時に体が反り返った。私たちの胸から突き出たのは半透明な人の腕のようなもので、手の平には光り輝くリンカーコアがあった。

「我らがT.C.の王は、少しでも多くの魔力を求めているの。あなた達2人の魔力量は魅力的だから、いただいていくわね」

リンカーコアの光量が次第に弱くなるのと同時に痛みが襲って来る。胸から生えている腕を攻撃していいのか、それともダメなのかも判らず、私は黙って魔力を奪われていく様を見ることしか出来なかった。“シュロス”を杖替わりにしても立っていられなくて、片膝を突き、両膝を突き、そして最後には床に倒れ伏してしまう。

(聖下・・・)

――影渡り(シュルプリーズ)――

私と違い聖下は倒れることなく、“キルシュヴァッサー”で“T.C.”に斬りかかろうとしたけど、“T.C.”の影からズズズと這い出てきたローブを着た10歳くらいの子どもが立ちはだかった。

「コゼット。こちらはもういいわ。計画通りにオリヴィエとクラウスを連れて移動を」

「判った。2人とも、わたしの側に来て」

「判りました」「判った」

――影渡り(シュルプリーズ)――

コゼットと呼ばれた少女(名前や声からして性別は女のはず)と共にオリヴィエ様とイングヴァルトが、コゼットの影の中へと沈んでいった。そして“T.C.”も「ではあたしもこれで失礼するわ。魔力、ありがとう」と一礼して、すぅっと消失した。それを見送ってすぐ、聖下は力なく倒れ伏して、私も意識を失った。

†††Sideフィレス⇒トリシュタン†††

「ようよう。トリシュタン、アンジェリエ。オレぁ、もうちょっと粘ってくれるって思ってたんだけどな」

息も絶え絶えな私とアンジェを見て、リッタはそう言って残念がった。聖王教会本部の正門の防衛を任された私とアンジェと兄様パーシヴァルは、リッタ、エッタと名乗る姉妹と交戦。激闘を繰り広げたのだけど、相手の方が一枚上手だった。

「ゴリラめ・・・!」

私は片膝を突き、仁王立ちでこちらを見下ろしてくるリッタを睨み上げ返す。アンジェも私と同じように疲労困憊のようで両膝を突いて、“ジークファーネ”を杖代わりにすることで倒れないようにしている。私とアンジェの2対1で戦ったにもかかわらず、リッタは笑えないレベルの防御力と、こちらのデバイスを文字通り削ってくる攻撃力の所為でピンチに陥っていた。

(兄様・・・)

銃器を扱うエッタの防御力もまたすさまじく、兄様の攻撃のすべてを無力化。ただ、エッタの攻撃も兄様の機動力に追いつけず、効かず当たらずで今なお少し離れた場所で交戦中。

「ゴリラで結構だぜ。自慢の拳を褒めてもらってるようなもんだからな! で、どうすんだ? もう足腰も立たねぇんなら、オレも姉貴に合流して、あのお兄さんをぶっ倒さないといけねぇからな」

「させ・・・ない・・・!」

「ええ・・・私たちが必ずあなたを止めます・・・!」

力を振り絞って立ち上がり、「よっしゃ! よく言ったぜ、お嬢さん達!」と嬉しそうに笑うリッタは構えを取った。私は弓形態の“イゾルデ”に魔力矢を番え、アンジェは“ジークファーネ”の魔力幕をピンと張った状態で魔力刃化させての大鎌形態へ。

「アンジェ」

「トリシュ」

――滅び運ぶは群れ成す狩り鳥――

小さく呼吸を繰り返して、私たちの攻撃を律義に待ってくれているリッタへと放つのは、射た矢が数百本の魔力光線として相手を襲撃する射撃魔法。もちろん神秘カートリッジの恩恵で魔術師としてさらに強化されているから、正真正銘の魔術師であるらしいリッタにもダメージは与えられる・・・はずだった。けれど、どうも彼女の防御を貫けない。
魔術にとって重要なのは、魔力量ではなく神秘という不思議なパラメータ。濃ければ少ない魔力でも強力になるけれど、薄ければどんなに魔力量があっても弱くなる。理想は神秘が濃く、そして魔力量も多いこと。その魔術のルールから見れば、私とアンジェや兄様の利用している神秘が、リッタやエッタの神秘より弱いということ。

(それでも退くわけにはいかない!)

「はあああああああ!!」

殺到する光線をその身に受けながらも私に向かって駆け寄って来るリッタに、アンジェが斬りかかった。リッタは足を止め、迫りくる魔力刃に向かって後ろ回し蹴りを繰り出した。刃面と足の裏が激突し、互いが弾かれた。

(この隙を逃さない、畳みかける!)

――凍て付かせし青銀の雪草――

ダメージを与えるのではなくて動きを制限させる魔術に切り替える。放つは着弾時に冷気を炸裂させ、相手を凍結封印するというもの。セレスの凍結魔法を基に組んだ矢、その数最大展開数の8本。アンジェが離れたところで、リッタは「面白れぇ!」と、これまた避けるような真似をせずに真っ向から連続拳打で迎撃。そして冷気に呑まれて姿が見えなくなった。

「やったと思いますか?」

「だといいけれど。おそらくは・・・」

「はっはー! 冷てぇ、冷てぇ! 体のあちこちに氷が張ってんぜ!」

リッタが歩くたびにパキパキと体の表面を覆っている氷片が剥がれ落ちていく。氷が張り、なおかつ動きづらそうになっていることから、私の選択は間違っていないことが判った。ならば、「このまま!」氷矢でリッタの身動きを封じることに専念する。右手の指の間に8本と生成し、「往け!」と一斉に放ち、即座に新たな氷矢8本を生成する。

「オレが状態異常系に弱いのは認めてやんよ! だがな!」

次々と着弾していくもリッタは気にも留めず、こちらに向かって来る。アンジェは「グリッツェンフェッセルン!」と、勢いよく伸長させた魔力幕でリッタの利き腕であろう左腕を拘束した。そこに私は間髪入れずに彼女へ氷矢を撃ち込んでいく。

「むお! ぬわ! うへ! おうふ! ちょっ! 待っ! のわーーーーー!!」

氷矢をどれだけ受けても馬鹿みたいに直進していたリッタだったけれど、とうとう足は止まったことで氷矢の直撃を受け始めた。いける。このまま誤って殺害しないように注意しながら、凍結させ続けてしまおう。そう考えて、計20本ほど射ったところでアンジェに「中断する!」と伝える。頷いたアンジェは、今もリッタの左腕を拘束している魔力幕を切り離す。そしてすぐに新しい魔力幕を展開して、リッタの動向を警戒。冷気が晴れ始めことで、私たちはいつでも攻撃を撃ち込めるように構えを取る。

「・・・リッタの凍結封印を視認。・・・アンジェ。念のために強めのバインドを」

――スティールハンド――

「了か――」

「「っ・・・!?」」

私とアンジェの胸から、半透明の人の腕が突き出した。そんな腕の先、手の平にはリンカーコアがある。アンジェのリンカーコアは1つ。私は自分の魔法発動用とスキル――クス・デア・ヒルフェ用の2つがあるけれど、そのうちの魔法発動用のリンカーコアだけが手の平の上で輝いている。まずい。サッと血の気が引いた。

「「ぅああああああああ・・・!」」

リンカーコアの光量が弱まるにつれて胸痛が激しくなり、体中から魔力が失われていく感覚が生まれる。痛みに耐えきれずにその場に蹲ると、「あーあ。時間切れかよ。遊び過ぎたか」と、リッタは自分を閉じ込めていた氷の檻を砕きながら残念そうに言った。

「悪ぃな、お嬢さん達。きっちり勝敗をつけたかったけどさ、オレ達の姉貴たちが仕事を終わらせたみてぇなんだよ。その合図が、お前たちの魔力収集だ。まぁなんだ。もう二度と会うことはねぇから、恨み言は聞けねぇが・・・じゃあな」

私たちの胸から生えた腕が消失すると同時に、リッタもまた音もなくその姿を消した。それを見届けることしか出来なかった私は、無念にも意識を失った。

†††Sideトリシュタン⇒ヴィヴィオ†††

キュンナさんと騎士グレゴールの襲撃を受けて結界に取り込まれちゃったわたしとフォルセティとイクスとアインハルトさんは、わたし達を殺害しようとする2人の交戦。分身体を駆使してくるキュンナさんに押されてたわたし達を助けてくれたのは、信じられない人たちだった。

「オリヴィエさんとクラウスさん・・・!?」

騎士グレゴールをわたしとイクスとアインハルトさんから引き離すために動いてくれてたフォルセティが連れてきたのは、アインハルトさんのご先祖様のクラウスさん。続いて空からふわっと舞い降りてきたのは、わたしのオリジナルのオリヴィエさんだった。

「もう一度言おう。僕たちの仕事は終わったため、今すぐ戦闘行為を中断して管理局に出頭せよ」

「嫌だと言えばどうするつもりだ、覇王クラウス・・・」

横たわってた巨狼姿の騎士グレゴールに聞かれたクラウスさんは「次は僕たちが相手になろう」と答えて、オリヴィエさんも「命令に従ってあなた達を逃がした責任です」と、キュンナさんと騎士グレゴールに向き直った。

「あなた達が・・・逃がした・・・?」

「待ってください、オリヴィエ殿下、クラウス殿下! この際、貴方たちがどうして生きているのか、どうしてT.C.に居るのかなどの疑問は横に置いておきます! 問題は、ヴィヴィオ達がこうして襲撃されることを前提に、キュンナ女王たちの脱走を手助けしたということですよね!? いったい何を考えているのです!」

「それは・・・、いえ申し開きはありません。上からの指示であったとはいえ従ったのは事実ですから」

「僕も言い訳はしないよ。ただ、あの子たちを死なせるようなことだけは絶対にしないと考え、行動していたことだけは信じてほしい」

怒りの感情を爆発させてオリヴィエさんとクラウスさんに詰め寄ったイクス。オリヴィエさんとクラウスさんは悲しそうにそう答えた後、わたしとアインハルトさんに向いて「ごめんなさい」と大きく頭を下げた。伝説の王2人に頭を下げられてるっていう現状もそうだけど、イクスが横に置いておくって言ってたことが原因で、わたしとアインハルトさんは未だに思考が少し停止中。

「わ、わたしは、その・・・大丈夫です、ので、あの、頭を上げてください、お願いします」

とりあえず王様に頭を下げられてるのは心地が良いことは言わないから、手をわたわた振りながらお願いした。そんな困惑してるわたしと違って、アインハルトさんはジッとオリヴィエさんとクラウスさんを見つめます。

「君が、僕の子孫のアインハルトだね。不思議な感じがするよ。遠い未来の子孫と顔を合わせ、言葉を交わせるなんて」

「私も・・・私もです。あなたから受け継いだ記憶の中で、あなたのことをいつも見ていましたが、あなた個人と会話が出来るのは不思議です」

「・・・僕が遺してしまった強い未練で君には大変な苦労を、君の幼少時代を犠牲にさせてしまった。今はもう、僕の記憶から解放されているそうだが、それでも君が辛い日々を送っていた事実は消えない。だから君にずっと謝りたかったんだ」

「ずっと、ですか? その口ぶりですと私があなたの記憶を受け継いでいることも知っていたようですし、あなたは、あなた方はいつからこの世界? いえ現代? そもそもあなた方は本物ですか?」

「ん~~っと、いろいろと順番を間違えたような気もしますが、このまま私たちの目的を果たしましょう。まず、私たちやT.C.の正体などは話せませんが、私とクラウスの目的は話します」

「とはいえ、先ほど果たしてね。アインハルト、君に謝る事が僕の目的だった」

「私も、あなたに謝りたかったのヴィヴィオ。聖王のゆりかごを起動させるために私のクローンとして生み出されたあなたに、そしてあなた達が古い時代の人間たちの思惑や業に振り回されたこと、ベルカの因縁を背負わせてしまったことを、私は謝りたかった・・・」

「謝りたいという目的のために、僕たちが必ず助けるつもりであっても君たちを危険な目に遭わせたのも事実。どのような罵詈雑言や攻撃も受けるつもりだ。個人的な目的を果たせた以上、あとはT.C.の一員としての仕事、キュンナとグレゴールを出頭させるだけだからね」

「はい。さぁ、どうぞ」

目を伏せてわたし達の前に立つオリヴィエさんとクラウスさん。わたしはイクスやアインハルトさんに顔を見合わせて、「判りました」って頷いた。もちろん罵詈雑言も攻撃もしない。3人で「顔を上げてください」って言って、お2人が顔を上げるのを待つ。

「お2人からの謝罪は確かに受け取りました」

「ですから、わたし達から言うことは何もありません」

「ヴィヴィオとアインハルトが納得するのであれば、私からも言うことはないです。・・・あなた達が何者でもまた逢えて嬉しかったですよ」

オリヴィエさん達とも笑顔を向け合う中、「本当に惨めな気分です」とキュンナさんがポツリと零した。そして騎士グレゴールと一緒に一足飛びで遠くまで距離を開け、「オリヴィエ、クラウス! あなた達が消滅するまで逃げきればいいだけのこと!」と、騎士グレゴールの背中に飛び乗ろうとしたけど・・・。

――電光石火――

「「「「っ・・・!?」」」」

オリヴィエさんの姿が掻き消えたかと思えばフワッと風が流れた。オリヴィエさんは一瞬でキュンナさんの頭上へと跳んでいて、「逃がしません」と振りかぶった右拳を、キュンナさんに向けて繰り出した。

――夢影――

キュンナさんは分身体を出現させて、オリヴィエさんの一撃から身を護るための盾として利用。騎士グレゴールの背中でオリヴィエさんとキュンナさんが相対する。と、そこにクラウスさんが足元に魔法陣を展開して、二足飛びで騎士グレゴールさんに突っ込んで・・・

「覇王流・・・壊牙!」

突進からの正拳突きを打った。背中でオリヴィエさんとキュンナさんが闘ってることで騎士グレゴールはその場から動けず、クラウスさんの拳を右前脚の肉球部分で受け止めた。

「むおっ!?」

クラウスさんの一撃を受け止めきれなかった前脚が変な方向にボキッと曲がって、その影響で体が大きく揺れて伏せの状態になった。その瞬間、オリヴィエさんはキュンナさんに肉薄して、「旭日昇天!」と、右手の平に生成した小さな魔力スフィアをキュンナさんの腹部に掌底と一緒に打ち込んだ。キュンナさんがその一撃を受けて数mと空中に吹き飛ばされて、オリヴィエさんが騎士グレゴールから飛び降りた。

「覇王・・・断空拳!」

「があああああああああ!!」

そこにクラウスさんの断空拳が騎士グレゴールの上あごを打ち抜いて、その衝撃で狼の口、鼻、目、それだけじゃなくて騎士グレゴールの顔からも出血して、ドスン!と頭が完全に横を向いて倒れた。遅れて着地したオリヴィエさんは、空から落下してきたキュンナさんをお姫様抱っこで受け止めて、意識を失ってるキュンナさんを地面に横たえさせた。

「あ!」

「結界が・・・!」

「解除されていきます・・・!」

「僕たちの仲間が、結界を展開していたエーアストと言う融合騎を打ち倒したんだ」

「あ、あの子です」

オリヴィエさんが振り向いた先に、わたしと同じくらいの身長で、フード付きのローブを身に纏った子が居た。その子はアインハルトさんの記憶の中で観た男性、エーアストさんの髪を引っ掴んで引き摺ってきて、キュンナさんの側にポイってした。見た目と違って力持ちみたい。

「ではフォルセティ。君の拘束魔法で彼女たちを捕えてくれ。魔術化しているのなら、魔術師ではないキュンナとグレゴールは逃げられないだろう」

「判りました。エマナティオ、カートリッジロード。コード・ファンゲン」

フォルセティが左手に持つ“エマナティオ”のカートリッジを1発ロードして、キュンナさんと騎士グレゴールとエーアストさんに向けて魔力弾を1発ずつ発射。着弾すると同時にリングバインドとなって、2人を拘束した。そしてフォルセティは続けてオリヴィエさんとクラウスさんにも銃口を向けて、「フォイア!」って発射した。直撃を受けたオリヴィエさんとクラウスさんもバインドを受けちゃった。

「フォルセティ!?」「フォルセティさん!?」

「僕は八神家の人間だ。相手が伝説の王であっても、T.C.に与する犯罪者であることには変わらない。あなた達も一緒に拘束させてもらいます」

「私もフォルセティと同意見です。オリヴィエ殿下、クラウス殿下、悪く思わないでください」

「いや。当然の措置だと思うよ」

「ですが、ごめんなさい。・・・私たちはもう役目を終えたので・・・」

オリヴィエさんとクラウスさんの姿が少しずつ薄くなり始めた。それを見てフォルセティは「信じたくなかったけど、やっぱり・・・」って悲しそうに零した。

「最後に改めて。ヴィヴィオ、アインハルト。ベルカの因縁に押し潰されることなく、健全に育ってくれて嬉しかったです。ありがとう」

「これからも君たちに幸福があらんことを祈っている」

そう言い残して、オリヴィエさんとクラウスさんは完全に消失。さらにエーアストさんを倒して連れてきた子も、いつの間にか去っていた。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧