魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Saga22-C真実への扉~The last 2 steps~
†††Sideスバル†††
アリサさんのそっくりさん、名前をフラム・ザ・リベンジャーさんとの戦闘を任されたあたしとティアは、ラスティアって名乗った“T.C.”メンバーの女の子と戦ってるアリサさんとミヤビさんの邪魔にならなように、少し離れた場所で交戦中だ。
「ミラージュシュート!」
ティアナが両手に持つ“クロスミラージュ”2挺と、周辺に展開してる魔力スフィアから魔力弾が20発以上と発射された。アリサさんの“フレイムアイズ”と同じ形をした片刃剣や小型のシールドを展開して、フラムさんはティアの弾幕を迎撃する。
「む? 放たれてくる魔力弾の中には幻術が紛れているでありますな」
片刃剣で1発の魔力弾を斬り払おうとしたフラムさんは、斬り裂いたはずの魔力弾がすぅっと消滅したことに少し驚きを見せたけど、すぐに「ただ、魔力の密度を見ればいいだけであります」って、本物の魔力弾に対しては小型シールドの連続展開で防御しながら、あたし達の元へ駆けて来る。
「スバル!」
「うんっ!」
右腕に装着した“リボルバーナックル”に装弾されてる神秘カートリッジを1発ロードして、あたしの魔力にシャルさんの神秘を載せる。練習の時も感じていたけど、リンカーコアが暴走してるような感じがちょっと苦しいんだけど、それ以上に何でも出来そうってあたしを昂らせてくれる。
『かく乱するわ!』
――ダンシングバレット――
「シューット!」
新しく生成した魔力スフィアから発射される9発の魔力弾。フラムさんは足を止めることなく「無駄であります」って迫りくる魔力弾をまた連続シールドで防御しようとしたけど、魔力弾はシールドに着弾する直前に軌道を変更。ほぼ直角に曲がって、シールドを回り込んでフラムさんに着弾した。
「のわっ!? のわわっ!」
「今よ!」
≪Mach charge≫
“マッハキャリバー”のローラーが勢いよく空転してからのダッシュ。フラムさんは「鬱陶しいであります!」って片刃剣やシールドで魔力弾を迎撃しようとするけど、魔力弾はそれを軽やかに躱してフラムさんに着弾していく。
「リボルバーキャノン!」
「おぶっ!?」
高速回転させたナックルスピナーが生み出した衝撃波を拳に乗せて打ち込む一撃を、フラムさんのお腹に打ち込んだ。外見が色違いなアリサさんだからちょっと抵抗があったけど、交戦前にアリサさんから、手加減しなくていいわよ、って言われたから・・・うん、全力で打ち込んでみた。殴り飛ばされたフラムさんは空中で体勢を立て直してから着地。片刃剣を石畳に突き刺して制動をかけて止まった。
「あいたた。むぅ、やはり・・・」
「・・・あの、さっきからフラムさん、別のところ・・・アリサさんとミヤビさんに気を向けてますよね・・・?」
割と気になってた。フラムさん、あたしとティアと交戦開始する前からチラチラとアリサさん達の方を気にしてるな~って。
「・・・少し、手合わせをこのままお願いするであります。話はその最中にするであります」
フラムさんはそう言って、あたしに向かってきた。そして振りかぶってた片刃剣を振り下ろしてきたんだけど・・・。
『(遅いし単純な剣筋。やっぱ全力じゃないよね・・・)ティア』
『ええ。聞こえていたわ。罠の可能性もあるけど、とりあえず付き合いましょう』
そういうわけで、フラムさんと全力じゃないけど、それなりに本気での戦闘を行うことに。振り下ろされた片刃剣を半身で躱して、即座に“リボルバーナックル”でカウンターを狙う。フラムさんはあたしの懐にグイッと体を潜り込ませることで、あたしのカウンターを回避。
「おぬしの言う通り、私の意識はアリサ達に向いているであります」
「うわっ!」
懐に入ってきたフラムさんはそのままショルダータックルして、踏ん張り切れずにあたしは後退させられた。そこに追撃の横薙ぎの斬撃。魔力も付加されてないものだけど、念のために防がずに回避を選択してしゃがみ込む。頭上を通り過ぎたことを確認してから曲げてた膝を勢いよく伸ばして、フラムさんのお腹に頭突きをかます。
「おふっ。けほっ。我らの任務は研究所から魔力保有物の回収の他に、高位魔導師からリンカーコアの奪取というものがあります。・・・っと、ほらほら、怪しまれないように攻防でありますよ」
「なるほど。だからアリサさんとミヤビさんを見て、いつ奪えるかのタイミングを計っていたと・・・?」
――ガンブレイズアサルト――
「というか、監視されてるの私たち?」
「正確にはおぬしらではなく、我われ近衛以外の兵の仕事ぶりを、であります」
ティアの誘導操作弾18発がフラムさんに向かって来る。あたしは邪魔にならないように一旦距離を取った。フラムさんはステップを踏むように回避していくからその隙を突けないかなって考えて、なおも続く弾幕の中を突っ切る。
「でぇぇぇぇい!」
「おっと、甘いであります」
あたしはフラムさんに最接近して中段蹴りを繰り出す。あたしの蹴りを片刃剣の腹で受け止めて弾き返したフラムさんは即座に反撃の振り下ろしをしてきたけど、あたしは左裏拳で弾き返した。
「話を戻すでありますよ。前者は王と参謀からの厳命であります。しかし後者のリンカーコア奪取は、参謀より承った命令であります。が、王はその命令に対して、あくまで無理せず可能であればと、消極的な指示でありました。しかし、ラスティアを始めとした姉妹たちは王の子らということもあって、親である王が魔力を望まれていることで、何としてでも奪取しようと執拗に狙ってくるはず。それを阻止したいのであります。あ、魔法も混ぜてほしいであります」
――アトロポンカ――
――ミスティックスナイプ――
アリサさんのバーニングスラッシュと同系統魔法、デバイスに炎を纏わせての斬撃を繰り出したフラムさん。あたしが何かをするより先にティアの精密狙撃が片刃剣を弾いた。
「阻止って、どうしてですか? T.C.のリーダーが消極的なのも変だし、それに・・・!」
――ディバインバスター――
「それに、参謀のリンカーコア奪取命令を、リーダーがちゃんと却下しないとダメじゃないの? それだけで済む話じゃないの?」
――クロスファイアシュート――
「王には王で、途轍もない苦悩があるのでありますよ。まぁその話はまた後程、みなが合流してからにするであります」
――エレンスゲ――
――ウイングロード――
あたしの近接砲撃を躱した後、フラムさんは全身に炎を纏わせて鳥になると、追撃としてティアの放った魔力弾幕を真っ向から突破することで対処した。フラムさんはそのままあたしに向かって来たから、帯状魔法陣の道を展開して空に上がる。
「むっ! ワイヴァーン!!」
あたしの足元を通り過ぎたフラムさんは、炎の鳥に利用していた炎を片刃剣だけに纏わせる。そしてあたし達に向けてじゃなくて、ラスティアと交戦中のアリサさん達に向かって三連斬撃として放った。高速で迫ってきた炎の斬撃3つをアリサさんとミヤビさんが躱すと同時、アリサさん達がたった今まで居た空間から半透明の腕が2本と伸びてきた。
「な、何アレ・・・!?」
「腕!?」
「スバル、ティアナ! 手伝ってほしいであります! ラスティアと、あの腕の使い手のレイルからアリサを護るであります!」
「え? あ、はい!・・・って、ミヤビさんは?」
「ディアーチェ陛下からは、チーム海鳴メンバーを最優先に守れ、と指示を受けている故。ミヤビはついでであります」
そう言ってアリサさん達の方へ駆け出すフラムさんに、あたしとティアは「ディアーチェって誰?」って首を傾げた。えっと、とにかく、レイルって人がアリサさんとミヤビさんの魔力を奪おうとしてるってことは何となく判ったから、あたしとティアもフラムさんに続いて駆けだした。
「奇襲とは上等じゃないフラム! まとめて相手してやるわ!」
「アリサ先輩、それは少し大変です。私と先輩はラスティアひとりに苦戦しているので・・・」
「少し待つでありますよアリサ! あと、動き続けるであります、狙われるでありますよ!」
「はあ!?」
「おそらくアレですよ、アリサ先輩」
「何よ、あの腕?」
何もない空中から半透明の腕が生えてるのを見て、怒り心頭だったアリサさんも冷静に。腕が消失すると、フラムさんが「いいから動くであります!」って、アリサさんを勢いよく突き飛ばした。直後に今いたところに、さっきみたいに半透明の腕が生えた。それでアリサさんも「新手ね!」って納得して、立ち止まらないように動き始めた。
「ちょっと! さっきから何なのフラム! 敵を庇ってばかりじゃない!」
「レイルが仕掛けてきたということは、研究所から魔力保有物を回収する任務が完了したことを示すであります。その瞬間、おぬしらとの協力関係は終わったのであります。これより紫天一家特攻が一、フラム・ザ・リベンジャーは、管理局側に付くであります!」
≪Flamberg form≫
“T.C.”のラスティアに敵対宣言したフラムさんは、片刃剣を半実体化した炎が波打つ剣身の大剣(フランベルクフォームって聞こえた)に変形させた。フラムさんのその宣言の間にあたしとティアは、アリサさんとミヤビさんにフラムさんの目的を簡潔に伝えた。
『――なるほど。とりあえず、フラムたち紫天一家は期間限定の敵で、今は仲間なわけね』
『信じてもいいのでしょうか? 私は紫天一家の人たちのことを知らないので・・・』
『まぁね。詳しいことはまた後で話すけど、あの子たちはあたし達チーム海鳴の友達で戦友なのよ。だからT.C.にいることが本当に不思議で、信じられなかった。・・・詳しい話を聞かないといけないのだけど、今は信じて協力するわ』
『・・・アリサ先輩がそう仰るのであれば、私も信じましょう』
『ありがと。しっかし、ん-・・・つうか、これはもう、いよいよT.C.の王が誰だか判ったかも』
『『『え・・・!?』』』
フラムさんとラスティアが戦闘開始したのを横目に、止まない半透明の腕の襲撃を回避をし続けてるアリサさんとミヤビさんの念話に耳を傾けていたら、アリサさんが突然“T.C.”のリーダーの正体が判ったって言った。
『あくまで推測よ。だから本部に帰ってからみんなの前で話すわ。今はラスティアと、レイルとかいう姿隠してあたしやミヤビの胸に腕を転送してくる変態をぶっ飛ばすわよ』
『『『了解!』』』
気にはなるけど、確かに長々と戦場で話を続けるわけにもいかない。まずはレイルって人を探すため、アリサさんの指示で “クロスミラージュ”のカートリッジをロードしたティアは「フェイクシルエット・インクレース!」を発動した。神秘カートリッジで大幅に強化された幻術魔法によって、アリサさんとミヤビさん、あたしとティア、そしてフラムさんの幻がブワッと何十人と現れた。
「また幻術によるかく乱・・・! 」
「お、おお!?」
一度見てることでラスティアは驚くことなく、広域攻撃が出来る宝石を手元に取り寄せた。驚きを見せたのはフラムさんと、たぶん腕攻撃を中断した術者のレイル。アリサさんとミヤビさんとフラムさんの幻はラスティアに向かって、あたしとティアは自分の幻に紛れて散開した。
『スバル。レイルって人を発見してもすぐに交戦しないように。アリサさん達に指示を仰いでから対処よ?』
『うんっ!』
ティアは幻術の維持と再発動のために身を隠さないといけないから、あたしは単独でラスティアからの流れ弾に注意しながら幻と一緒に結界内を駆け回った。結界は直径3㎞だ、そんなに広くない。ただ、さすがに幻に紛れていてもあたしの動きはレイルから見て怪しいって思われたらしくて・・・
――フィストカノン――
「腕・・・!?」
複数の半透明の腕が砲弾みたく降り注いできた。スピードを落とすことなくジグザグに駆け抜けつつ、「一瞬、魔力反応が・・・!」した方へ向かう。
――ハンマーアーム――
「わっとと!」
ルシルさんの銀の巨腕イロウエルみたいな半透明の腕が出現。あたしを薙ぎ払うかのように振るわれてきたから、「ウイングロード!」を発動して空へと上がる。そんなあたしを叩き潰そうと新しい腕が生み出されては振るわれてくるけど、ウイングロードの軌道を変えて回避。
「居た!」
4つある研究棟の屋上、給水タンクの上に立ってる男の人を発見。見た限り20代半ばで、円い眼鏡を掛けた優しそうな男の人だ。胸の前には、八神司令の“夜天の書”のような宙に浮く分厚い本が1冊。
「あ、見つかってしまったか。まぁ始めから隠れるつもりもなかったけどね」
「あなたがレイル・・・さんですね? 管理局です! 執行妨害などいろいろな罪状で現行犯逮捕します!『レイルを発見しました! 第3研究棟屋上の給水タンクです!』」
「面白いことを言う子だね。君の魔力量はそれほど多くないようだけど、ついでに貰ってあげようか?」
――エレンスゲ――
アリサさん達にそう報告すると、「私が戦うでありますよ~~~~!」っていうフラムさんの声がフェードインしてきた。炎の鳥化してるフラムさんが、「フィストカノン」って腕を飛ばすレイルに突っ込んでく。フラムさんは体を傾けて腕を躱し、レイルにそのまま突撃しようとしたけど・・・。
――パームシールド――
レイルを護るように大きな右手の平が創り出されて、炎の鳥のくちばし――大剣の先端を受け止めた。そしてフラムさんを握り潰そうと指を曲げ始めたから、あたしはフォローになればいいと考えて衝撃波、「リボルバーシュート!」を放って、中指が完全に曲がるのを遅らせる。
――ミスティックスナイプ――
続けてティアの狙撃が人差し指と親指に着弾して、ガツン!と大きな音を立てて弾いた。その間にフラムさんは「感謝するでありますよ!」って親指側の方から離脱。レイルから距離を取りつつフラムさんは大剣の剣身である炎の半実体化を解除して・・・
「アンフィスバエナ!!」
炎の剣状砲撃としてレイルに放った。
†††Sideスバル⇒シグナム†††
砕け得ぬ闇事件の頃に理解はしていたが、やはり紫天の盟主ユーリ・エーベルヴァインは・・・強い。アギトとユニゾンし、戦闘力を引き上げた私、ルシル亡き今チーム海鳴の単独最強であるアインス、そしてザフィーラを相手にしながらも全くと言っていいほど、ユーリが沈む気配はない。
「エターナルセイバー!」
ユーリの背後に浮かぶ2つの靄――魄翼を長大な炎の直剣と化し、右剣を私、左剣をアインスに向かって振るってきた。私とアインスはそれぞれの回避機動で躱し、ザフィーラが「牙獣走破!」と、魔力を纏わせた状態での突進蹴りでユーリへと突撃。
「あぶっ! でも効きませんよー!」
ザフィーラの強烈な蹴りを腹に受け、踏ん張り切れずに蹴り飛ばされながらもすぐに体勢を立て直したユーリ。その凄まじい魔力量と戦闘能力で、かつて我々を苦戦させたあの子だが、その分弱点も存在している。魔法発動中および直後はその場から動けずないというものだ。
素の防御力が高いため苦労はするが、回避に専念し、あの子の攻撃を躱すと同時に反撃すれば、ほぼ間違いなく攻撃は入る。あとは持久戦だ。かなりの綱渡りだが、撃墜まで持ちこたえることが出来れば我々の勝ちだ。
『なぁシグナム! コイツ、以前はどうやって勝ったんだよ!? マジで強すぎんだろ!』
私の内に居るアギトがそう声を荒げた。当時はまだアギトはプライソン一派に居たからな、知らないのも当然の話だ。私はそんなアギトに『ああ、強い。何せルシルを一撃で撃墜寸前に陥らせたことがある』と、あの頃に驚いたことを教えた。
――アルゴス・ハンドレッドレイ――
『マジか!? 子どもの頃とは言え、それをたった一撃!? ルシルは単独でエグリゴリのグランフェリア?を倒したんだろ!? ありえねぇ!』
『言いたいことは解るが、とにかく今は戦闘に集中だ』
拡げられた魄翼の面より何十発と言う魔力弾幕が放射状に発射された。我々は弾幕の中を翔け、回避に専念。その中で私は“レヴァンティン”のカートリッジをロード。右手に“レヴァンティン”を、左腕に炎の剣を纏わせ、徐々にユーリへと近付いていく。
『多弾砲撃を放つ! ザフィーラは注意! シグナムは合わせてくれ』
『『了解!』』
「ナイトメアハウル!」
アインスが空に翔け回りながら設置していたのは大き目の魔力球、その数8基。そして最後にアインス自身から1発の砲撃が放たれ、それに連動して8基の魔力球も砲撃としてユーリに向かった。攻撃直後だったあの子は、狙い通りに回避も防御魔法も出来ずに8発全弾の直撃を受け、魔力爆発に呑まれた。
「『火龍一閃!』」
間髪入れずに左腕より伸びる炎剣を大きく伸長させてから振り下ろした。私の斬撃を受け、魔力爆発が収まる前に火炎爆発にユーリが呑まれる。直撃した手応えはあったが、通用したかどうかは判らん。
『やはり近接ではなく中遠距離からの攻撃の方が、通用しているかどうかは別として通るな』
『私とザフィーラが合流するまで、お前は直接殴りに行っていたのか・・・? 無謀が過ぎるぞ』
『私の有する防御貫通系は、近接の方が効果を高いからな。・・・当時に比べて私の地力ははるかに強化されているから、何とかなると判断したのだが・・・。甘い考えだった』
そう言って悔しがるアインスや私たちの視線の先、無傷でその幼い姿を再び見せつけてきたユーリは「いきますよぉー!」と、気合を入れた。
――ヴェスパーレッドモード――
ユーリの防護服が赤色に染まり、体の一部に紋様が浮かび上がった。その形態を知る私とアインスとザフィーラは「な・・・!」と絶句する。事情を知らないアギトが『え、なに? なんかヤバいの!?』と困惑した。
「ヴェスパーレッドモード。早い話が魔力出力を上昇させた形態だ」
『・・・って、ことは、だ。ただでさえ強ぇのに、さらに強くなるって!? 冗談だろ!?』
「シグナム、来るぞ!」
――アルゴスハンドレッド・ファイア――
ユーリの魔力が膨れ上がり、足元にベルカ魔法陣を展開した。そして大きく拡げた魄翼より火炎砲撃が何十発と発射された。この多弾砲撃の欠点はロックオン機能はなく、ランダムに放射状に発射されるというもの。ゆえに避けやすい。
「いっきまーーす!」
――クリムゾンダイブ――
全身だけでなく大きく拡げた魄翼もすべて炎に呑まれ、巨大な炎の鳥となって突撃してくるユーリ。突撃速度も十分であり、その巨体から周囲へまき散らされる炎の羽根もまた危険だ。紙一重ではなく大きく距離を開けるようにして我々は回避した。
「遠き地にて、闇に沈め! デアボリック・エミッション・ドッペルト!」
消失していく炎の中から姿を見せたユーリを左右から挟み込むように発生した巨大な魔力球。バリア発生阻害効果を持つ空間攻撃だが、「む。やはりダメか」と残念がるアインスの言葉通り、ユーリは1つとなった魔力球の直上より飛び出してきた。我々は次の攻撃に備え、反撃用の魔法を準備したところで・・・。
「っ! ディアーチェ!!」
ユーリが声を荒げ、ディアーチェの方を見た。つい先ほど見た限りでは、主はやては“フォートレス”を失い、“ストライクカノン”一基を手に単独でディアーチェと闘っておられた。が、ユーリの強化形態の発動の影響で私は少し意識を外してしまっていた。その僅かな間に主はやてとディアーチェの戦闘に何かあったのかと、私も視線をそちらに向けた。
「どういう状況だ・・・?」
「ディアーチェが、我らが主の手を引いて逃げている・・・?」
『なぁ。はやての背中に向かって何か出てきてね?』
「あの半透明の腕は・・・!」
何も無い空中に突如として出現するのは、空の色に紛れてよく見えないがアインスの言う通りなら腕なのだろう。その腕は主はやてを狙うかのように、動き回る主はやての背後を狙って出現している。
「皆さん! これより私とディアーチェはT.C.より完全に離脱し、T.C.近衛兵レイルからはやてを護ります! ご協力を!」
そう言ってユーリは、主はやてとディアーチェの元へ向かう。私とアインスとザフィーラは顔を見合わせ、事情は判らないがその真剣さから「行こう!」と、ユーリに続いた。そして「主はやて!」と合流を果たすのだが、ディアーチェが「止まるな子鴉!」と叫び、自分の胸にグイッと抱き寄せた。直後、主はやてが先ほどまで居た空間に半透明の腕が出現、すぐに消失した。
「レイルは、貴様の膨大な魔力を狙っておるのだ! 立ち止まった瞬間、リンカーコアを背後から抜き取られるぞ!」
「どうゆうことなん!? 急にこんな・・・!」
「詳細は後だ! 今はこれだけを聞いておけ! 我らの仕事は、T.C.の近衛が研究所から魔力保有物を回収するまで、貴様らを足止すること! もう1人の近衛が子鴉のリンカーコアを狙ってきたということは、回収担当の近衛が任務を終わらせたことを意味する!」
時間稼ぎをされていることは察していた。かつてのユーリの実力を思えば、あの子が全力を出していれば我々が今なお無傷でいられるはずがない。当初の我々の作戦では、時間稼ぎ要員を早々に打ち倒して本命を叩くというものだったが、ユーリという厄介な要塞戦力の登場で見事に失敗してしまったようだ。
「ディアーチェ! 私がレイルを探してきます! 皆さんのことはお任せです!」
「ああ、任せるぞ! そのまま倒してしまえ!」
「りょーかいです!」
ユーリが主はやてのリンカーコアを狙う近衛、レイルという者の捜すために急上昇しつつ研究棟の方へと向かった。我々も手伝うべきかどうか迷ったのだが、主はやてが狙われている以上は離れるべきではないと判断する。
「・・・よいか? 我らは貴様を始めとしたチーム海鳴を近衛から護るためにやって来た。それがきっと、T.C.の王の為になると思うのだ。自ら絆を切り捨てておきながら未練からか、いざ参謀が立てたリンカーコア奪取案について許可も却下も下さず曖昧にし、近衛出撃後に我らだけに無理に奪わなくていいと言った、迷ってばかりのあの哀れな男の心を救うのだ、と・・・」
「・・・魔力保有物、リンカーコアなどの魔力がたくさん要る。それやのに狙われてるのは人間の私だけで、魔力生命体のアインス達はターゲット外。そんで、私らに関係はあったけど今はもう別れてて、私らチーム海鳴を傷つけたくはないと考えてはいる・・・。王の正体は、信じたくないようで、そやけどそうであってほしいような、複雑な気持ちやな・・・。まぁ推測があってればの話やけど」
あの傲岸不遜を地で行くディアーチェが、“T.C.”の王のためにそこまで考え、行動していることに驚いた。ディアーチェがそこまで思い入れる“T.C.”の王とは一体・・・。その疑問は、主はやての言葉が晴らしてくれた。私の頭の中ではもう、“T.C.”の王の顔がハッキリと浮かび上がっていた。
「ディアーチェ。回収担当の近衛とは誰だ?」
「ナーティアだ」
「あの子か・・・」
「アインスはT.C.の近衛のことを知ってるんやな? やっぱり、アインスは元エインヘ――」
――真技・瀑波大帝国――
主はやてがそこまで言いかけたところで、突如として空気が振動した。すると至る所から激しい水柱が立ち始めた。間欠泉のごとく噴き出す水柱からはシャワーのように水が降り注ぎ、その水飛沫に触れた個所がズキズキと痛みだす。間違いなく、これも攻撃の一種だ。
「始まったな! おい貴様ら! 近衛のナーティアは水を操る魔術の使い手だ! 子鴉は、立ち止まらぬように常に動き続けろ! 立ち止まったが最後、リンカーコアを抜かれるぞ!」
「わ、判った! てゆうか、もうさっきからうろうろ動き続けてるけどな!」
今は収まっているが腕による奇襲を警戒して空中を右往左往しておられる主はやてのためにも、早々にレイル、ナーティアという新手を撃破しなければ。そう考え、周囲警戒を任せていたザフィーラに続いて私も周囲警戒を行おうとしたとき、1つの研究棟の4階部分が爆炎で吹っ飛んだ。
「ユーリがレイルを見つけたようだな。対レイルのためにヴェスパーレッドモードになったのだ、このままあやつが引き受けてくれよう。我らはナーティアを討つ。アレは転移するかの如く水の中を高速で移動する。結界内はすでに湖のようになっておるから、どこから奇襲を受けるか判らん。注意せよ」
――蠢縄洗辱手――
「皆、攻撃来るぞ!」
ディアーチェがそう言った直後に、足元に広がる湖より我々に向かって水の縄が何十本と伸びてきた。アインスが主はやてを横抱きに抱え上げ、「捕まるな! 魔力を吸収されるぞ!」と我らに警告した。やはりアインスはナーティアのことを知っているようだ。その理由についても、”T.C.”の王の正体が奴だとすれば説明が付く。
「防御ではなく迎撃せよ! 捕まったら最後! 防護服を構築している魔力をも吸収され、素っ裸にされるぞ! 子鴉! 貴様は氷結系の魔導があったろう!? アレを使え!」
「アカンよ! さっきの戦闘中にも言うたけど、私はアームドデバイス持ちやないから魔術師化できひん! そやからストライクカノンを使ってたんやし! 火力を底上げしてくれたフォートレスは王様に壊されるし!」
「ならばユニゾンしろ! ほら、あれだ! 逆ユニゾンとかいう! あれであれば、貴様をレイルの腕から隠せるうえ、戦力として役に立たんポンコツである貴様を親鴉の戦力強化として活かせる!」
「あーん! 事実やけど王様ひどいー!」
「あ、あの、今は言い争いをしている余裕は・・・」
言い争う主はやてとディアーチェにアインスがオロオロする中で、私とザフィーラは迫りくる水縄を中遠距離魔法で迎撃する。流動する水であるため、当たるかどうかがかなり際どい。
「我らで時間を稼いでやる! 早々にユニゾンを果たせ!」
――広域剣兵召喚レギオン・オブ・ドゥームブリンガー――
ディアーチェの剣状の広域多弾射撃が水縄を撃ち抜いていくが、魔力で構築されていることで撃ち抜いたはずの水縄に吸収されていく。これは本体を叩かねば追い込まれるな。とにかく主はやてとアインスに近付けさせないように「空牙!」と魔力刃を飛ばして斬り捨てていく。
「どっぱーん!」
そんな時、付近に巨大な水柱が立ち上り、そこから1人の少女が飛び出してきた。10歳くらいの小柄な体格で、飛び出した際に離れたボーラーハットを掴み取り、「魔力、頂戴するよ!」と長い水色の髪を払ってからかぶり直した。
「ナーティア!」
「ディアーチェ。・・・ま、裏切っちゃったんだからユーリともども消えてね♪」
――九頭海龍神――
「大丈夫! あなた達を構築している魔力はきちんと回収して、王のために活かすから!」
――飛翔瀑水珠――
――流海水撃砲――
ナーティアの周囲に7つの水龍が湖から伸びてきて、その大きな口を開けた。ナーティアの前に居る4つの龍の口からは水の砲弾が何十発と放たれ、後ろに居る残りの3つの龍の口からは砲撃が放たれてきた。
「『氷結の息吹!』」
その攻撃に対して放たれたのは、主はやてがユニゾンした状態のアインスの氷結砲撃。氷結砲撃を受けた水の砲弾と砲撃は凍りついた。しかし砲弾は完全に凍結することに成功したが、氷結効果は砲撃の水圧には負けてしまい、氷結砲撃は押しのけられた。だが、その一瞬の間に我らは回避することが出来た。
「やるじゃん」
そうは言うもののニヤリと楽しそうに笑うナーティアに、我々は攻撃を開始した。
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