ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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アイングラッド編
紅き剣閃編
The Traitor―???
前書き
……まあ、後悔はしてない。
sideキリト
75層ボス、《The Skullreaper》は天井からの奇襲を成功させ、一気に3人のプレイヤーを消滅させた。
骸骨ムカデのようなそのボスは散開した俺達を追うように鎌を振り上げる。
5人程の集団に振るわれた鎌の片方をヒースクリフが迎撃し、もう片方を俺とアスナが防ぐ。
「はっ!!」
大太刀の重単発攻撃を真正面から叩き込み、HPをゴリゴリ削っているのはレイだ。
両刀はスキルの熟練度により使用時間、その冷却時間が決まっている。
現在のレイの連続使用時間、冷却時間はおよそ5分。10分のインターバルを攻守共に前線で剣を振るい続け、ボスを翻弄する。
だが、何時も戦闘中は無表情を貫いているレイも流石に苦しいようで、開始25分を過ぎた辺りで両刀のが分離されると、大太刀を間髪入れず納め、一本でボスの顎をかちあげて、怯んだ隙に離脱した。
断続的に響くプレイヤーの死亡エフェクト。それをさして気にしないまま俺は戦いに身を投じていった。
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side レイ
「………くっ」
壁の冷気が火照った体に気持ちいい。
そのままその冷気に浸っていたいとは思うが、生憎あと2分で冷却時間が終わる。
ポーチから回復ポーションを2つ取り出すと、一本を口に加え、もう一本を隣のプレイヤー、ロイドに渡す。
「……ありがとうございます」
「どうしたんだ?」
「パーティメンバーが3人、死んだのでローテーションが回らなくって……」
「確かに、軽装戦士にはきついものがあるな……」
「はい……武器で受け損なってやられてしまいました……レイさんは?」
「ちょっと休憩……そろそろ行くけど、来るか?」
ロイドは一瞬驚いたが、すぐに頷いた。
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side ロイド
《両刀》唯一のソードスキル《アブソリュートダンス》がボスの顔面にヒットし、耐えかねたボスがするすると後退する。
「剣士隊後退、壁戦士隊前へ!中距離武器の者は援護しろ!」
ボスを壁際に追い詰め、囲んで相手をしようという魂胆だろう。
幸い、強力な全範囲攻撃を持たないこのボスには有効な手だ。
再度、剣士隊のスイッチが行われた時ちょうど両刀が分離される。
レイは慌てず、左手の刀を背に戻し、俺とアイコンタクトをすると駆け出した。
陣取る位置は当然、ボスの眼前。
危険は承知だったが、大太刀モードの時はレイが防御に徹するため、俺は段々と敵の攻撃を気にすることなく上位剣技を連続発動していた。
背に聞こえるボスの鎌が風を切る音は例外なく弾かれ、決して攻撃が通ることはない。
今までになく強いモンスターなのにも関わらず、ロイドは今までにない安心感を感じていた。
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side キリト
無限とも思える激闘の果てに、ボスが四散しても、誰1人歓声をあげるものはいなかった。
クラインに何人やられたかを聞かれたので、マップを開いて確認すると、犠牲者は14人――
「……うそだろ……」
それを聞いたエギルの声にもいつもの張がない。
ふと、フロアの中央を見たとき、倒れ込むプレイヤー達を暖かい、慈しむような視線で見つめるヒースクリフが目に入った。
――刹那、俺の全身を恐ろしいほどの戦慄が貫いた。
疑念はやがて、確信へと変わっていく。
あのレイが一時、激しくこの男を憎んでいたその訳――
俺は傍らに腰を落としているアスナをちらりと見やった。同時にアスナも顔をあげ、2人の視線が交錯する。
「キリト君……?」
アスナが口だけを動かした時はすでに俺はヒースクリフに斬りかかっていた。
やつは流石の反応速度でとっさに盾を持ち上げたが、間に合わず、胸に当たった剣先が紫のライトエフェクトが炸裂した。
不死存在。それがやつの正体だった。
回りのプレイヤーもその表示を見て黙り込んでいる。中にはコイツの正体に勘ずいて目に憎しみの炎を抱く者もいる。
「これが伝説の正体だ。一度もHPがイエローになったことがない訳は、コイツがシステムに保護されているから……《他人のやっているRPGを端から眺めるほどつまらないことはない》。そうだろう、茅場晶彦」
ヒースクリフは黙っている。
全員が息を飲んでヒースクリフが何か言うのを待っている。
「……そうか、あのデュエルで君の動きに圧倒され、オーバーアシストまで使ったのは痛恨事だった…。ふふ、それにしても流石だねレイ君、君の予想は良く当たる」
「バカ野郎。テメエがアホ過ぎんだ。この脳ミソ石詰めやろう。95層で裏切る計画が台無しじゃないか」
レイがまるで、ヒースクリフが茅場晶彦だと知っていたかのような口調で答える。
その声色はとても穏やかだった。
「……どういうことだ、レイ」
混乱した俺は、震える声でレイに尋ねる。
「100層宮殿《紅玉宮》の魔王、ヒースクリフとフィールドボス、The Traitor《反逆者》こと、俺が95層のボスを倒したあと、最悪のボスになる計画だ」
「なっ………!?」
アスナ、クライン、エギルも信じがたいという表情をしていた。
だが、レイはその後否定する様子を見せず、俺達とヒースクリフの間に立ちはだかっている。
「いつからだ……いつからそいつとつるんでいたんだ!!」
頭の中でのレイとの思い出が黒ろずんでくる。
肩を並べて戦っていたのは演技だったのか……。
「最初からだよ」
自嘲した笑みを浮かべて俺を見つめ返すレイ。
「この世界を象徴している大きな要素は何だ、キリト?」
「……それは、ソードスキルだろ」
「そう、俺がコイツに出会ったのはこの世界最大の特徴であるソードスキル……剣技が関係している」
そこでレイは話を一度切り、ヒースクリフを指して言う。
「確かにコイツはソードスキルをデザインした。が、茅場晶彦はあくまで天才学者でしかない。剣道はおろか、武道すら専門ではない」
レイは今、この世界の根本を語ろうとしていた。
無数に存在する剣技がどのように生まれたのかを。
「そこで、剣道等の入門書を見ても無数に剣技は生まれてはこない。専門家の協力を得ても所詮、それらはスポーツの領域を出なかった。しかし、ソードスキルは実戦的でなければならなかった。自分の命を賭けて戦う訳だからな」
ヒースクリフが口を開く。
「そこで、私は諦めかけた。が、駄目元で調査を依頼していた所からある報せが届いたのだ」
ヒースクリフはそこで遠い昔を思い出すような精悍な眼差しをすると、一気に話した。
「日本で制限されている軍事産業。そのうち、各国へ傭兵派遣を専門としている企業があると聞いた。私は最後の希望を経営者である水城家に託したのだ。結果は良いものだった。水城家は表では有名な武家の末裔で名が通っていて、実戦的な剣術を警察や自衛隊に指導していた。御当主の紹介で彼に会ったのはその時だよ。彼は天才だ、私の出す注文を実戦的な剣技として再現してくれた」
一層ダンジョンでレイが使ったのは、《二刀流》の原型ってことか……。
「さて、昔話はおしまいだ。最後に、キリト君。君に私の正体を見抜いた報酬をやらねばな。全プレイヤーをここで解放するチャンスを与えよう。パートナーを1人選び、私とレイ君に勝利できたら君達の勝ちだ」
………レイに勝つことが出来るパートナー……そんな奴……居るわけ――
「キリト君、わたしがやる」
「……アスナ」
「ダメだなんて言わせない。君だけ危ない目にあって勝手に居なくなられるのは嫌」
「でも……」
俺が言い淀んだとき、迷宮区に繋がる通路から声がした。
「いいんじゃね?」
入ってきたのは全員が薄紫色のコートを羽織った50人規模の集団。先頭に立つのはカイト、ホルン、ユウリ、アード、そしてリオ。
「カイト君……」
「アスナ、自分で決着をつけたいんだろ?だったら誰にも止める権利はない。あのバカをボコボコにして目を覚まさせてやれ」
「さっすがー、良いこと言うね。ダーリン♪」
「誰がダーリンですか!!」
「2人ともイチャつくのは後にしろ……」
流石、緊張感をなくす登場をすることに定評のあるオラトリオ。
場の空気が一瞬にして変わった。悪い方に。
ヒースクリフは無表情。レイはあからさまにクスクスと笑っている。
「コホン、でだアスナ。本当にやるんだな?」
「うん、最後まで戦う。キリト君と一緒に」
「……そうか」
カイトは満足そうに頷くと、懐から一枚の羊皮紙を取り出すとレイに見せる。
「レイ、こいつを覚えてるか?」
「ああ、《伝導書》だろ?」
その言葉に周りがざわめく。
《伝導書》とはそれを使うと特定のエクストラスキルが無条件で手に入るという超レアアイテムでオークションにすら一度も出たことがない。
「オラトリオ・オーケストラの本部の教会に置いてあった《伝導書》だ。スキル名は《無限の音階》。……今まで誰も修得出来なかったが、その理由がやっと分かったぜ。修得には特別な条件がいる、つまりコイツはユニークスキルだ」
「なるほど、それをアスナが使えると?」
「そうだ」
「……《無限の音階》の習得条件は《揺るがなき信念》……まあ、やってみ?」
辺りが静寂に包まれ、カイトがアスナに羊皮紙を渡した、瞬間――リィーン、ゴーン……――
澄んだ美しい音を立てながら羊皮紙が光の線に分解され、アスナを包み込んでいく……。
「流石はアスナ君、といったところだな」
「ああ、まさかあのスキルを手に入れることができるプレイヤーがいるとは……」
光の本流は収まったが、まだアスナ自体を光源としてまるでオーラのように光が揺れている。
アスナはすっとレイを見据えて体の横に左手を伸ばし、声を発する。
「《協奏曲》」
アスナがそう呟くと、周りのプレイヤー達の武器が持ち主のもとを離れ、アスナの背後に扇形に展開した。その数は約100本――
「キリト君、レイ君はわたしが相手をする。……一緒に皆を助けよう」
「……分かった」
その余りに神々しい姿に反論することも忘れ、俺達は並んで2人に対峙した。
「エギル。今まで、剣士クラスのサポート、サンキューな。知ってたぜ、お前とレイが儲けのほとんどを中層のプレイヤーの育成につぎ込んでいたこと。……クライン。あの時、お前を……置いていって悪かった。ずっと、後悔していた」
「キリト……」
「ああ、許さねぇからな。ちゃんとあっちでメシの1つでも奢ってからじゃないと絶体許さねぇからな!!」
さて……。表情の読めないヒースクリフとは対称に、レイはさっきからずっと微笑んだままだ。
それに俺は胸に熱いものが込みあげてくるのを感じた。
……レイ、お前って奴は、本当に……―――
「さあ、始めましょう……《無限の音階》、発動」
アスナ撃ち込み、とレイがそれを受ける。
俺はヒースクリフを見据え、意識を切り替える。――そうだ、俺は、この男を――
「殺す!!」
ヒースクリフと視線が交差し、激闘が始まった。
後書き
巨悪、降・臨!!
とはいっても文章の非才さ故に、あんまり驚きが少ないかと思います。
アスナが何故か好戦的だったりね……。
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