ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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アイングラッド編
紅き剣閃編
True Tone―真実の音色そして、次のステージへ
前書き
今年最後の話にして、最終話。
新たな伏線にご注目を
Side アスナ
《無限の音階》の能力は貸与された武器を同時に複数扱い、一振りで何倍もの剣を敵に浴びせる剣技、いや、もはやこの世界に存在しないはずの魔法のような技だ。
あくまで、現実的だった剣技の中でどうして唯一、このスキルだけこんなにも魔法的なのだろう……。
レイに絶え間ない剣撃を浴びせる傍ら、アスナはそんなことを考えていた。
文字通り、四方八方から降り注ぐ剣をレイは難なくかわし、時に弾く。
そして、わずかずつだが移動していた。
その意図は不明なれど、好きにさせる訳には行かない。
「行くよ、レイ君!」
「来い!」
スキルの二重発動が出来るか分からなかったが、無事に細剣スキルが立ち上がると、一気に距離を詰めた。
「いやぁぁぁぁぁっ!!」
「ふんっ!!」
強烈な突き攻撃を防ぐと、体を捻り、もう片方の大太刀で切りかかってくる。が、それは無数の剣の1つに防がれる。
バックステップで距離を取り、再度猛攻を仕掛けるが、当たらない。
「《夜想曲》!!」
制御できる剣の本数が協奏曲《コンチェルト》に比べて半分になるが、攻撃力の上がる音律に変更する。
「おっ……と」
急に力加減を変えられたせいで、レイの迎撃が間に合わず、1、2本が体を切り刻んだ。
「やるなあ……はっ!」
それに対してレイは弾かずに受け流す戦法に変え、対応してきた。タンッと床を蹴り、横へステップするのに合わせて移動する。
「『八葉蓮華』」
「…………っ!!」
ついにレイが切り札をきってきた。
決着のにおいを感じたわたしは最後の音律変更をする。
「《戦乙女》!!」
制御可能本数、9本。自分の得物と合わせて10本の閃光がレイに向かって走った。
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Side レイ
「《戦乙女》!!」
そう言ってこっちに走ってくるアスナを見て、俺は内心ほくそ笑んでいた。
唯一の超常剣技《無限の音階》が存在するのも、俺があのタイミングで両刀を出して、アスナに《戦乙女》を使わせたのも、全てはこの瞬間のため。
すぐ後ろではキリトが焦って発動したソードスキルが弾かれたところだ。
このままでは、キリトは確実に殺される。が、それこそが俺だけが長いこと温め続けてきたシナリオ。
全ては、ヒースクリフが油断するその隙に確実に葬り去るための布石。
「さらばだ――キリト君」
ヒースクリフが剣を振り上げ、キリトにそれを振り下ろす、その刹那―――
アスナのソードスキルが背を向けた俺にザクザクっと刺さり、俺はその吹き飛ばされた勢いのまま、剣を振り上げ、ヒースクリフの剣をたたき上げた。
ギィン!!
「やれ、キリト!!」
「……っ!!ぉぉぉぉああああ!!」
俺の心臓とヒースクリフの心臓を一気に貫いたキリトと一瞬目が合い、俺達はいつものようにニヤリと笑いあった。
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Side織り成す者達
全天燃えるような夕焼けだった。
目を開けると、空に浮かぶ円盤のような水晶体の上にレイは立っていた。
少し長めのシルバーの髪に紅の瞳、その目にはやり遂げたような疲れが滲んでいた。
「「レイ(君)……?」」
彼を呼ぶ声に振り向くと、そこには知った顔が2つあった。
「……悪かった、騙して」
「ううん、なんとなく分かったから……だからわたしが相手になったの」
「そうか……」
「それにしても、よくあんな捨て身の不意討ちが出来たな……一歩間違えれば弾く前に死んでたぞ」
「ははは。アスナが容赦なく吹っ飛ばしてくれたからな」
「あー、ひどいよ~。そんな思いっきりやってないって」
ワイワイガヤガヤ、何時ものようにはしゃぐ、最期の時を……。
「絶景だな」
急に白衣の人物が現れた。
「……そうだな」
黒髪の少年の同意に他の2人も追随する。
「……レイ君、君にはまんまとやられたよ、確かに今日のボスはキリト君が止めで君がそれの手助け、だったね」
「……まあな」
暫しの静寂……。
やがて、黒髪の少年が口を開いた。――なぜ、こんなことをしたのかと――
そして白衣の男は語った。この世界の生まれたきっかけを。
語り終えた男は最後に言った。
「……言い忘れてたな。ゲームクリアおめでとう。キリト君、アスナ君、レイ君」
------それでは、私は行くよ。そう言って白衣の男は消えていった。
俺はすっと立ち上がると水晶の端まで歩いて言った。
崩れ去るアインクラッドを見るためと、後ろの2人に気を遣ったために。
「ね、最後に名前を教えて。2人の、本当の名前」
アスナのその囁くような声はよく通った。
俺は振り替えると笑って言った。
「水城螢、来月で16だ……多分」
「え……タメかよ!?……俺は……桐ヶ谷和人、多分先月で16歳」
「みずき…けい君、きりがや…かずと君……」
1音ずつ噛み締めるように口にして、やがてちょっと複雑に笑った。
「2人とも年下だったのかー。……わたしはね、結城……明日奈。17歳です」
本当に残念そうな明日奈の頭をポンポンと叩き、俺は再び、正面に向き直った。
「じゃ、俺は先に行くよ。また縁があったらよろしく」
「ああ……またな」
「さよなら、レ……螢君」
俺は前に重心を倒していき、空に身を投げた。
アインクラッド編 THE END
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『意識レベル回復、脳に損傷なし、各種臓器に致命的なダメージは認められません』
あー、この機械音声懐かしー。
痛む体を無理矢理起こし、壁に寄りかかる。
「隊長、長期任務お疲れさまでした。明後日より、身体能力の回復プログラムを実施いたしますので、今日のところはお休みになってください」
去っていこうとする第3部隊の副官たる女性に声をかける。
「……藍原」
「はい?」
「……時間が、惜しい、明日からだ」
「……了解。しかし、無理はなさらず」
「……承知している……あと、面会者は、帰すな、話す練習も、しなければ、ならん」
「了解。……隊長」
「ん?」
「……お帰りなさい」
「おう、ただいま」
副官が出ていくと、静かにベットに戻り、密かに生きている喜びを噛み締めた。
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Side ???
自衛隊、富士演習場。
そこにはいつもとは違い、計測器等を積んだ車両が整列していた。
その中心に佇む、緋色の瞳をした少女。
血の繋がっていないはずの彼女の兄に不思議と似ている容姿だ。
「水城二佐、本日の試験機の手応えのほどは、いかがでしたか?」
「機動力は大分上がったけど、攻撃の正確さが下がってきてるわ。装甲の脆弱性も早急に何とかしなさい。また予算の削減くらうわよ」
「ハッ。開発部によく言い聞かせておきます。ご足労、ありがとうございました」
「任務ご苦労。以降の予定を繰り上げて撤収の準備に取りかかりなさい」
「ハッ」
年上の体格のいい男性自衛官がまだ、10代半ばの少女にかしこまっているのは端から見れ異様な光景だろう。
―-----例え、男性の後ろに巨大な何かが一撃で破壊されたような鉄の塊が噴煙をあげていなくとも……。
水城家は華族の流れの家なので、次女たる彼女は世が世ならお姫様だ。
だが、今の日本に貴族制はないため、本来ならばちょっとお金持ちのお嬢様ぐらいに止まる。
故に、彼女が今乗っている車がリムジンで運転しているのがいかにも『爺や』っぽさ満点の初老の男性でもまったくおかしくはないのだが……。
「沙良様、当主様よりお電話です」
「お祖父様から?何かしら」
リムジンに積んである大型ディスプレイに水城家の現当主、水城冬馬が映し出される。
祖父は昔気質だが、家族と電話越しに話すときは必ずテレビ電話を使うという粋な拘りがある。
『沙良、任務の首尾はどうであったか』
「問題ないかと、順調に開発が進んでいるようでした」
『ふむ、それはなにより』
「お祖父様、画像が荒いようですが……もしや、秘匿回線を使っているのですか?」
『そうだ。沙良、先程特務部隊より秘匿回線で連絡が入った。螢が帰還したようだ』
「………っ!!本当ですか!?」
『うむ、これはチャンスだ。沙良、螢が本来の力を取り戻すまでは危険だ。本家のやつらに警戒しつつ、螢の警護を行え』
「このことは、本家にもう……?」
『やつらに隠し事は無意味だ。既に公儀隠密に情報は抜かれているだろう。……いいか沙良、螢とお前はうちが『山東家』や、他の分家に対抗できる数少ない戦力だ。特務部隊には既に根回しが済んでいる。何としてでも螢を守りきれ』
「分かりました。お任せ下さい」
「お嬢様、どういたしましょう?」
話を聞いていた運転手兼執事の仙道が声を低めに訊ねる。
「今、あからさまに『城』に向かうのは危険だわ。一度、実家に帰って何らかの対策を講じます。……ああ仙道さん、母上には黙っておいてくれるかしら。その件ではお祖父様と一度話さなければいけません」
「承知しました」
『一騎当千』の兵力を複数有する水城家ですら、無数にある下位組織の1つでしかない。それらを統べる7つの勢力が出てくるのはまだ、先の話だ。
後書き
レイ君の義妹、沙良の登場です。
彼女には某剣道少女と絡んでもらいます。でも、百合は期待しないでね!書けないから。
それでは皆様、良いお年を
2012年 12月31日
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