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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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アイングラッド編
紅き剣閃編
  Triumphant Return―凱旋

 
前書き
アインクラッド編もそろそろ終盤です。
もう少しお付き合い下さい。 

 






「………バカめ」


巨大な魚型モンスターを大衆の眼前でフルボッコにするアスナを見ながら俺は呆れたため息と共に呟いた。

ことの始まりはこのエリアで一番難易度の高い池に住む主を釣り上げよう、とキリトが釣り師のニシダさんから誘われたことだ。

どうやらニシダは専用のエサを使って主をヒットさせることはできるらしいのだが、筋力値が足らず、釣り上げるまではいかないらしい。そこで、ヒットさせた段階でキリトにスイッチし釣ろう、ということだったのだが、


「にしても、中々シュールな絵だな」


「確かに……」


釣られた主さんは遥かに高レベルである攻略組のしかもトップレベルの剣士にそりゃあもう気の毒なくらいにボッコボコにされているのだ。

ていうか、体高がアスナの5倍もあろうかという巨体がひと突きで吹っ飛ぶのは見ていてシュールすぎる。

容赦なしの上位剣技で主を葬ったアスナは心なしか晴れやかな表情をしながらすたすたと歩み寄ってきた。


「よ、お疲れ」


「……おつ」


「わたしにだけやらせるなんてずるいよー。今度何か奢ってもらうからね、レイ君」


「……はぁ」


「何だ、レイ。さっきからテンション低いぞ」


「……何で俺にやらせなかった」


「……え?」


「もう、知らん。バレたくなかったら精々、言い訳を上手くやることだな」


そう言うと、2人揃って顔をひきつらせる。まじで何も考えてなかったのかよ……。

悪い予感は的中し、その後若いプレイヤーに正体を看破されましたとさ。






________________________







翌朝、俺は55層にある血盟騎士団の本部に来ていた。

ヒースクリフが75層のフロアボスとの戦いに俺を召集したからだ。


「ほう?メンタルヘルスケアプログラムが動いていたと?」


「動いてた……っていうか、壊れてAIが独立化した、という感じがしたな」


「ふむ、そうゆうこともあるだろうな。なにせ、AIの基本理念は『進化する知能』なのだから」


「とはいっても既存のAI技術で『Yui』があそこまで進化した、というのは信じがたいものがあるんだが……」


「ふむ……『彼女』が何か別のプログラムを組み込んだ、と?」


「ん?いや、俺が疑ってるのは別の『五賢人』、このゲームの唯一の管理者の―――」


――コンコン


「……入りたまえ」


入ってきたのはキリトとアスナ。俺とヒースクリフはちらっと視線を交わし、深刻そうな表情を構成する。

部屋にいるのは4人。他の幹部人は攻略の準備の監督へ行っている。


「偵察隊が、全滅――!?」


状況を説明された2人は揃って驚愕した。

ヒースクリフは頷くと話を続ける。

「昨日のことだ。75層迷宮区のマッピング自体は、時間は掛かったがなんとか犠牲者を出さずに終了した。だがボス戦ではかなりの苦戦が予想された……」


「……クウォーターポイント」


俺の言葉にヒースクリフが無言で頷く。

25層では軍が半壊

50層では戦線が崩壊し、全滅の憂き目があった。

キリトもその時のことを思い出しているのだろう。

こっちを見て微笑をしている。

目を逸らすと、ヒースクリフも……。


「……ってアンタもだろうが《神聖剣》」


「……私も驚いたものだよ。あの連続攻撃を体捌きだけで回避してのける者が居たときは」


「あっそ……」


強敵を前にやや砕けた空気になったが、次の言葉は俺をも驚かす言葉だった。


「偵察隊は、《血盟騎士団》、《オラトリオ・オーケストラ》、《聖竜連合》を含む5ギルド合同の20人、その内10人がボス部屋に入ったのだが、ボスが出現した後に扉が閉じ、次に開いた時には……」


「10人も……。何でそんなことに……」


「……何てことだ……まさか」


「結晶無効化空間……?」


俺達の問いにヒースクリフは重々しく頷き、これからのボス戦もそうであろうと予想した。







________________________







部屋にキリトとアスナを残し、俺とヒースクリフは連れだってギルド内部を歩いていた。


「参ったねこりゃ……」


「まったくだ」


奴にもいつもの覇気が無いのは気のせいか。


「時にレイ君」


「んあ?」


「君はアスナ君に興味を抱いていたと思ったが……違ったかな?」


「…………は?」


「いや、特に下心があるわけでははない。ただ、君が嫉妬したりしてないかと思ってね」


「……あのな、アンタ、勘違いしてるぜ?」


「ほう?」


「確かに、興味はあった。アスナの『心』の強さにはな」



立ち止まり、大きな窓から見える空を見つめる。


「アスナだけじゃない。キリト、クライン、カイト、ホルン、ユウリ、アード、リオ、ロイド……あいつらは皆何かを求めてここに来た。『ゲームであって、遊びではない』ものを探しに来たんだと思う。そして、今なおそれを追い求めているからこそ強い。だが、俺はその根源が知りたいんだ。命を賭けてなお、理想の極致を求める強さの、な」



「……………」



ヒースクリフは黙ったままこちらを見ている。

俺はそれに振り向いてにやりと笑う。


「生憎、俺はある目的を果たすまでは色恋に惑ったりしないし、それまで死ぬつもりはない。そうだな……予言しよう。今日のボス、キリトが最後を決める。俺はその時に一手だけ介入する。団長殿の出番は来ない」


ヒースクリフは面白いものを見た顔になり、やがて苦笑した。


「そこは通常、『俺が倒す』というのではないかね?」


「それは格好いい主人公の役目さ」


「……MMORPGに主人公は居ないものだと思うがね」


「居たっていいじゃないか、この世界じゃ必然的に生まれるだろう。……《勇者》は趣味じゃないが、そいつの《希望の光り(レ イ)》にはなれる」


「……大した光りだな、君は」


「いや、最近その位置をアスナに取られつつあるような気がするのが少しばかり虚しい……」


ヒースクリフはその言葉にふっ、と笑うと去っていった。








________________________









side キリト




3時間後、75層のゲート広場には異様な緊張感が流れていた。

当たり前だ、ボス戦史上初めて全くの未知のボスに挑むのだから……。

が、俺とアスナがゲートから出てくると、目礼もしくはギルド式の敬礼をしてくる者まで居るではないか。
アスナは慣れた様子で返礼しているが、俺は戸惑いを隠せない。



「ほら、キリト君はリーダー格なんだからキチンと挨拶しなきゃだめだよ」



「っていってもなあ……」



後頭部をバリバリかきながら辺りを見回すと、知った顔が2人いた。


「クライン、エギル」


「おーう、キリの字。やっぱし来たか」


「2人とも元気そうだな」


「クラインはともかくとして、エギル。お前、商売はどうしたんだよ」


「おいおい、今回のはえらく苦戦しそうだからわざわざ来てやったのに、この無私無欲の精神を理解できないたぁ……」


「無私無欲の精神はよーく分かった。じゃあ、今回の戦利品の分配はお前抜きでやっていいんだな?」


「いや、それとこれはまた別の話……」


クスクスとアスナが笑い始めたのを皮切りに笑いが辺りに浸透していく。

その時、ゲートの方からざわっとざわめきが起こった。

ヒースクリフ率いる血盟騎士団の精鋭達だ。


「キリト君。急な召集に応えてくれてありがとう。《二刀流》存分に揮ってくれたまえ……ところで、レイ君を見なかったかね?」


「……いつもみたいに、遅れて来るんじゃ……」


再度のざわめき、いや、それと同時に静寂が訪れる。

現れたのはレイ、そしてオラトリオ・オーケストラの数名。


「ヒースクリフ団長、今回はオラトリオ幹部陣の大半が突如として行方不明になったため、俺が団長代行として率いる」


ざわ、と辺りがなったが、ヒースクリフは僅かに頷くと、剣を掲げ叫んだ。


「諸君、今日はよく集まってくれた。今までにない苦しい戦いになると思うが、諸君ならば切り抜けられると願っている。戦うぞ、解放の日のために!!」



オオオオオオォォォォッッ!!!!



さらに、レイが何やら目配せしてくるのでそっちを見ると、何故か両刀の準備をしている……って待て、それ俺もやんの!?

レイが両刀をガキィンと音を立てて地面に突き立てる。


そして俺は、

シャキィンと音を立てて二刀を抜き放った。

それを見た討伐隊は一層の歓声をあげるのだった。






____________________________










回廊結晶により、転移して来たフルレイド48人(レイとオラトリオのメンバーが加わったため、人数が増えた)ものプレイヤーが一様に重苦しい空気を纏いながら、最後のブリーフィングをしている。

レイはオラトリオのメンバーに一言二言何かを言うとこっちにやって来た。



「おーい、顔が固いぞお前ら。もうちょっとリラックスしろ」


「……分からない訳ないだろ、ここのボス、ヤバいにおいがする」


「何言ってんだ。ついこの間90層クラスのやつと殺り合ったばかりだろ」


「一方的にやられただけじゃないか……」


「ふん、俺がこの3時間どこに居たと思ってんだ」


「……まさか、レイ君……一層の地下ダンジョンに居たの?」


アスナのその問いに、当然だ、というように頷くと、自慢げに言った。


「今日だけじゃない。あれから暇をみてはあそこに籠って修行してきた」


「で、どうだったんだ?」


「あの《運命の鎌》は倒せなかったけど、両刀の扱いは大分上達したぜ」


どうやらあそこのボスは一回倒したら終わりタイプのやつではなく、システムコンソールの番人として何度でも復活するようだ。


「ていうかそれ、俺達は強くなってないじゃん!安心出来るか!!」


「む、心外だなぁキリト君。ちゃんと2人は守るから心配すんな」


その時のこと(つまり俺がアスナにキスした時のこと)を思い出しているのだろう、アスナの顔は真っ赤だ。

にやにや笑って去っていくレイを見ながら、彼が何のためにやって来たか理解した。


『危なくなっても俺が助けてやるから、あんまり気負うな』


レイはそう言ったのだ。

最初は感情の起伏が少ないやつだと思っていた。

だが、あいつもこの世界で生きていく内に何かが変わったのだろう。

今ではすっかり年相応の明るさを持っている。

俺はアスナと一本の柱の陰に寄ると、その華奢な体にそっと腕をまわした。緊張はいくらかほぐれたとはいえ、消えた訳ではない。


「……大丈夫だよ」


アスナが耳元で囁いた。


「キリト君は、わたしが守る」


「……いや、そうじゃなくて……」


「ふふ」


小さく笑みを洩らして、アスナは言葉を続けた。


「……だから、キリト君はわたしを守ってね。……それで、私たちもレイ君を守ろ」


「ああ……」


辺りを見回すと、プレイヤー達は各々武器を取りだし、臨戦態勢になっている。

レイもさっきまでの笑みを完全に消し、静かに開戦を待っているようだ。

ヒースクリフが全員を見渡し、やがて右手を掲げ、叫んだ。


「――戦闘、開始!」


全員がヒースクリフに続いて部屋に突入していった。









この時はまだ、俺……俺達は誰も予想してなかった。こんなにも残酷で、理不尽に希望が潰えるのを……。



 
 

 
後書き
残り…あと二話。

年内にUPできるよう頑張ります。 
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