魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第8章:拓かれる可能性
第245話「決して見果てぬ憧憬」
前書き
―――今も昔も、変わらず俺はソレに憧れている
引き続き、帝達sideです。
「帝!」
「ッ!」
返答のなくなったエアを手に佇んでいた帝を、優奈が抱える。
同時に、障壁が展開、そこへ理力の槍や矢が突き刺さる。
破られはしなかったものの、何本も貫通しかけていた。
「感傷に浸るなとは言わないけど……その暇はないわよ」
「……ああ。そうだな」
転移し、優奈は帝に言葉を掛ける。
帝も理解していたのか、表面上だけでも目の前の事に切り替えた。
「“天使”は半分程仕留めたわ。でも、肝心の神が残ってる。……今の貴方は、神界の存在から見ても倒れていないのが不思議な状態よ」
「……だからって、休んではいられない……」
「……そう。無理はしない事ね」
今の帝は、先程までと違ってかなり弱くなっている。
エアを取り戻した事で、絶大な力を誇った“意志”を保てなくなったからだ。
しかし、それでも帝は戦う姿勢を崩さなかった。
優奈も止めるような事はせず、創造魔法で剣を分け与えた。
「増援が来る前に、事象干渉系の“性質”を潰すわ」
「分かった」
事象干渉……今回の場合であれば“残酷の性質”の神だ。
戦闘から時間も経過しており、増援がいつ来てもおかしくない状況だ。
そのため、相手の有利を後押しする“性質”だけは潰すつもりなのだ。
「ッ……!?」
「はっ!」
一気に肉薄し、膝蹴りを食らわせる。
同時に掌底で顎をかち上げ、身を捻って横一閃を繰り出した。
「型に嵌れば強いけど、そこから外れれば途端に弱くなるわね」
「ぐっ……ほざけ……!」
「その“領域”、打ち砕くわ」
苦し紛れの反撃を繰り出してきた所を、優奈はカウンターを決める。
胸を穿つように掌底が直撃し、神の体が大きく仰け反る。
「はぁっ!!」
そして、理力による剣によって串刺しにされ、“領域”が砕けた。
先程まで優奈を苦しめていたはずの神の、呆気ない幕切れだ。
「っづ……!」
だが、他の神を無視しての突貫の代償は大きい。
渾身の一撃直後の隙を突かれ、多数の攻撃が集中する。
咄嗟に理力の障壁を多重展開したが、衝撃を殺しきれずに吹き飛ばされる。
「ッ、はっ!!」
体勢を立て直し、追撃ごと自身に干渉してこようとした“性質”を切り裂く。
“デュミナス・スペルマ”を纏わせた剣だからこそ出来た防御だ。
「帝!」
「っ……!」
一方で帝も襲われていた。
先程より強くないとはいえ、それでも負けないという“意志”はある。
そのおかげで、攻撃に耐える事は出来ていた。
「離脱よ!」
「ああ!」
理力を炸裂させ、創造魔法で繰り出していた武器も全て爆発させる。
それによって一瞬目晦ましし、その間に転移で包囲を抜け出す。
優奈達が逃げられない原因は既に倒したため、逃走も可能になっていた。
そうと決まれば、全員を倒す必要はない。
「束の間だけど、一度休みましょう」
周囲に敵がいない事を確認し、一息つく帝。
優奈も連戦で疲れていたのか、その場にへたり込んだ。
「………」
帝はエアを、そして自分の体を見る。
エアは相変わらず返答せず、あの時奪われたモノは戻ってきていない。
「……言ってはなんだけど、それが本来の貴方よ。所謂“転生特典”っていうのは、所詮そんなものよ」
「……ああ」
「ま、今の貴方も容姿は整っている方よ。前世がどんな姿だったのかは知らないけど、少なくとも私は今の方がいいわ」
「そ、そうか?」
「ええ。今でこそ違和感はなくなったけど、優輝の記憶を通して見た小学生の貴方は、不自然に容姿が整っていたもの」
他愛のない会話で、少し緊張を和らげる。
それでも、帝はまだ気にかかる事がある様子だった。
「……今更なんだが、あの力は……」
「エアを取り戻した時のものね。……やっぱり、無意識だったんだ」
あれは優奈も驚愕する力だった。
それだけ強い“意志”だったのは分かるが、それでも驚愕に値した。
「原則、いかなる存在……それこそ、神界のどんな神でさえ、“領域”は消し去る事は出来ないの。出来て、砕くところまで。あの時、間違いなく貴方の“領域”は砕かれていたわ。でも、それは裏を返せばそれ以上砕かれる事はないと言う事。それがあの強さの半分の理由よ」
「……例えるなら、死人になったから死なないって事か?」
「人間の尺度で言えばそんな感じね。そして、その上で貴方は強すぎる“意志”の元、動いていた。あの時の“意志”は神すら凌駕していたわ。だから、“格の昇華”がなくなっていても干渉する事が出来た。……尤も、これは“意志”だけね。普通の攻撃ならすり抜けていたはずよ」
「そうなのか?無我夢中だったけど、全部当たってたぞ?」
「全部“意志”が伴ってたからよ。まぁ、あの時の貴方はどんな行動にも“意志”が伴っていたから、“普通なら”なんて例えは関係ないわね」
そもそも強い“意志”がなければ帝は立ち上がる事すら出来ないはずだった。
それを覆す程なのだから、今更攻撃が当たるかどうかは関係なかったのだ。
「本来、“領域”は“意志”と共にあるわ。“領域”が保てるならば、“意志”も保てる。逆もまた然り……ってね。でも、貴方の場合はその二つを切り離していた。だから、“領域”が砕けても立ち上がれたし、“意志”を以って敵を倒せたのよ」
「……そうか」
「まぁ、理屈として言えるのはここまで。後は感覚とか、理屈で語れない要素が関わってるわ。……とにかく、貴方の強い想いが起こした事ってだけ理解していればいいわ」
そこまで言って、ふと優奈は何かに気付いたように帝に近寄る。
「……もう一つ、あの力を発揮する要素があるみたいね」
「もう一つ……?」
「“意志”を形にするための“想い”は、怒りだけじゃ足りないわ。もう一つ、深層意識……それこそ固有の“領域”による……」
少し探るように、優奈は帝を観察する。
ただ見るだけではわからない。
故に、魂を、心を、そして“領域”を視る。
「……そう。これが……これが、貴方の持つ“想い”なのね……」
「ゆ、優奈……?」
帝の胸に手を添え、優奈はソレを感じ取る。
「あの時引き起こした事象は、怒りと悲しみ……そして憧れの“意志”のおかげね」
「憧れ……?」
「ええ。それが貴方が抱いていた根源的“想い”。主人公に、ヒーローに、力を持った存在に、恋焦がれるように憧れている」
「………」
否定する要素はなかった。
確かにそうだと、帝はストンと腑に落ちるように、納得していた。
何より、その事は精神世界でエミヤにも指摘されていた事だ。
納得こそすれど、困惑はない。
「……その“想い”の箍が外れた。だから、“意志”だけで事象に干渉して、思い通りの展開に持っていけた。……あれもまた、“主人公”が勝利する際の構図だから」
「箍……いつの間に……」
「それこそエアを取り戻そうとしたあの時よ」
つまり、怒りと悲しみによって箍が外れ、圧倒的な“意志”で帝が憧れた存在のような逆転劇という事象そのものを再現したのだ。
それは、飽くまで“性質”に沿うしかない神界の神にも出来ない事だった。
「帝、貴方の“意志”……どれくらい発揮できる?」
「どれくらいって言われてもな……」
「質問を変えるわ。貴方にとっての憧れの存在は、もし自分と同じ立場にいた時、あいつらに負けるかしら?」
目を向ければ、そこには追い付いてきた神や“天使”の姿があった。
一瞬、優奈の質問の意図に気付けなかった帝だが、答えは自然と口にでた。
「―――いいや」
「それが答えよ。その絶対的なイメージが、今の貴方の“意志”の強さよ」
そう言って、優奈は帝に理力を流し込んだ。
最後の一押しとも言える一手を打つために。
「そう。貴方にとって憧れの存在は、このような事態に陥っても自分以上に上手くやると“確信”している。その根源的な“想い”を、外界に展開すれば……」
「想いを、外界に……?」
「そうね。分かりづらければ、固有結界と思えばいいわ。私も優輝も、便宜的には“固有領域”と呼んでいるもの」
何をすればいいのかは、帝にも理解は出来た。
後は、それが出来るかどうかだ。
「ッ………!」
流れ込む理力に、自身のリミッターが外れるような感覚に陥る。
エミヤの力を使っていたため、固有結界の展開の仕方は知っていた。
だが、今回行うのはそのさらに“奥”。
起源ではなく、固有の“領域”。
それを外に広げるように、固有結界の要領で展開されていく。
「なに……!?」
迫って来た神々が、帝から発せられる気配に戸惑う。
ただの人間のはずの帝から、強い“領域”が感じられたからだ。
「後は、もうわかるわよね?……貴方の“領域”、開放しなさい」
「……ああ……!」
そう言って、優奈は帝を庇うように前に立つ。
開放するまでの時間を稼ぐためだ。
「………さぁ、しばらく相手してもらうわよ」
帝と優奈を分断するように、等間隔に巨大な剣が突き刺さる。
その剣を基点に理力の“壁”が出現し、帝に干渉できなくした。
さらに優奈の周囲に無数の武器が突き刺さり、優奈はそれを手に取って構えた。
リヒトは剣の形態からグローブへと変わり、身体保護重視になる。
「さぁ、道を示すわよ!」
―――“道を示す導きの剣”
地面に突き刺さった剣を引き抜き、無造作に薙ぎ払う。
その軌跡をなぞるように、極光が放たれ、神々へと襲い掛かった。
同時に、極光を放った代償として剣が塵へと還った。
「この程度……!」
神々も無防備で受ける事はなく、防御や回避行動を取る。
渾身の一撃一発程度では、そうなるのも当然だろう。
「はぁっ!!」
―――“道を示す導きの剣”
だが、優奈は別の剣を抜き、二発目を放った。
それだけじゃない。三発、四発と次々剣を抜いて放つ。
魔力消費が非常に多くなるが、神界では関係ない事だ。
故にこそ出来る、極光の連撃だ。
「くっ……!」
単純な威力であれば、それでも通じなかっただろう。
しかし、この攻撃には“道を示す”という概念効果がある。
その概念効果により、“為すすべなく防がれる”という結果だけは避けていた。
結果、極光の弾幕によってほとんどの神と“天使”が押し流された。
「(時間を稼ぐに留まるけれど、これで十分……!)」
それでも、迫ってくる敵を倒しきる事は出来ない。
優奈の目的は、飽くまで時間稼ぎだ。
近づけないようにするだけで目的は果たせる。
「ッ……!」
そして、その間に帝が準備を進める。
利き手である右手を前に突き出し、その腕を左手で支える。
まさに何かを掌から放つような構えのまま、自身の全てを体の奥に集中させる。
「……“我が身は英雄に非ず、その背に憧れる者”」
今も昔も変わらず、彼は憧れていた。
主人公という存在に、力ある存在に。
何よりも英雄に憧れていた。
「“この手は一度たりとも届かず、未だ彼方への羨望は消えない”」
現実を思い知り、一度は諦めた。
決してそんな存在にはなれないと。自分では、絶対に力不足になると。
……しかし、それでも憧れは消えなかった。
「“―――故に、想いは決して枯れる事はなく”」
だからこそ、優奈を好きになった時、強くなると決意出来た。
大切な人を守れる、そんな存在になろうと、頑張れた。
思い描く主人公になれなくとも、自分に出来る事はあると思えた。
「“我が身は、永久に果て無き憧憬で出来ている―――”!!」
……これは、そんな彼の心象、彼しか持たない“領域”だ。
―――“決して果てぬ憧憬”
「ッ………!」
なだらかな丘を中心に、大きな草原が広がる。
夜空には眩い程に輝く星々があり、手を伸ばせば届きそうな程だ。
そして、帝の正面遠くには同じく眩い程輝く月があった。
決して届かない、だけど手を伸ばしたくなる。
そんな心象を表した帝の“領域”が、辺りに広がっていた。
「……そう。貴方はこんな“想い”を……」
その心象を、優奈は肌で、心で、魂で感じていた。
しかし、この場は戦場。すぐに気を引き締める。
「時間稼ぎの必要はもうなくなったわ。……行けるわね?帝」
「……当然だ……!」
帝の力強い返事と共に、突き出したままだった右手を中心に魔法陣が出現する。
そして集束していく魔力。同時に、周囲の理力も集束していた。
「手始めに行くぞ……!!“スターライトブレイカー”!!」
それは、なのはの切り札である魔法だった。
デバイスもない状態だというのに、なのはと遜色ない規模と威力で放たれた。
「(……わかる。俺の“領域”の扱い方が。この力の、使い方が……!)」
その攻撃自体は、大した損害を与える事はなかった。
だが、帝は確信していた。“これなら勝てる”と。
「舐めるな……!」
“天使”の一人がついに肉薄してきた。
後続に神なども襲い掛かってくるため、優奈一人では抑えきれない。
帝を守るために張った“壁”もあったが、今はなくなっている。
帝が魔法を放つ際、その“壁”の理力も集束させたからだ。
「助けは?」
「必要ない……!」
自信満々に帝は答え、眼前に迫る攻撃をいとも容易く受け止めた。
「何……!?」
「いくらお前らが常識外の力を持とうとなぁ……!物理的戦闘力ならその上を行く奴だっているんだよ!!」
そのまま攻撃を弾き、逆に懐に入る。
そして正拳突きを放ち、“天使”を一気に吹き飛ばした。
「ッ……はぁっ!!!」
さらに続けざまに両手に魔力でも霊力でもないエネルギーを集束させ、それを弾幕のように神々に向けて放つ。
一発一発が途轍もなく速く、威力も高い。
広範囲に放ったために回避が難しかったのか、半分程の神達は障壁を張っていた。
「私を忘れてもらっては困るわね!」
そこへ、優奈が追撃する。
帝の弾幕と共に肉薄していたため、間髪入れずに障壁へ突撃した。
繰り出した創造魔法による剣が、理力の障壁に食い込む。
「ぉ、おおっ!」
無論、相手もタダではやられない。
帝の攻撃を回避出来た神が、理力で優奈と帝に反撃を繰り出す。
二人共回避したが、創造魔法の剣が砕け散る。
「……ッ!!」
―――“超電磁砲”
攻撃を回避した帝は、瞬間移動の魔法で間合いを詰める。
そして、剣の破片をコイントスのような構えの手で電磁加速させ、飛ばした。
超電磁砲と呼ばれる超能力による技が、理力の障壁を突き破る。
「弾なら大量にあるぜ……?」
飛び散った破片は、重力に逆らって浮かび続けている。
文字通り、重力を帝が操って浮かばせている。
そして、連続でその破片を先程と同じように超加速させて撃ち出した。
「馬鹿な……!?ただの、そんな小さなレールガンで、障壁が破られるなど……!?」
「うるせぇよ、三下……!」
超電磁砲の連撃を耐えきった神が、狼狽える。
そこへ容赦なく、帝は右手で殴りかかる。
「なっ!?」
咄嗟に神は障壁を張り、防御する。
しかし、その右手が触れた瞬間、障壁が砕け散った……否、消し去られた。
「“幻想殺し”……てめーらの障壁なんざ、紙切れ同然だ……!」
「くっ……!」
「ふんっ!!」
「がぁっ!?」
すぐさま理力の弾を撃ち出し、それを目晦ましに理力の剣で斬りかかる。
だが、どちらも弾かれるように反射され、帝の蹴りも追撃で突き刺さる。
「“一方通行”……さっきのもそうだが、一回使ってみたかったんだよな」
攻撃のベクトルを操り、帝は神を大きく吹き飛ばした。
「全投影連続層写!!」
さらには失ったはずの投影の力を使い、無数の剣を飛ばす。
「その力は、確かに奴が奪ったはず……!?」
“剥奪の性質”で奪われていたのを見ていた神が、思わずそう呟く。
「ああ、奪われたさ。元々借り物の力だ。だから、これは俺の“憧れ”を再現しただけに過ぎない!お前らには、それで十分だけどなぁっ!!」
それに答えつつ、帝はさらに剣を飛ばしていく。
無限の剣製による剣だけではない。
フェイトのフォトンランサー・ファランクスシフトや、それに似た魔法が展開され、そこから数えるのも億劫な程の弾幕が放たれていく。
その物量は、以前使った王の財宝と無限の剣製による合わせ技以上だ。
「本当、予想以上に“可能性”を魅せてくれるわね。帝……!」
優奈はそんな弾幕の中を駆け抜けながら、防御に徹している神や“天使”を一人ずつ仕留めるように立ち回っていた。
さすがに、この量の弾幕を避けながら突貫するのは優奈にも無理だったが、帝が味方と認識した相手には当たってもダメージがないのか、優奈は気にせず突貫出来た。
「ちぃっ!」
ここで、“性質”の使い方を殲滅系から白兵戦に切り替えた神が仕掛けてくる。
被弾や防御を最低限に抑え、帝に肉薄した。
「遅い!」
そのスピードは普段のフェイトやとこよ達を遥かに上回るものだ。
だが、今の帝にとって、それはスローモーションのように遅く見えた。
「消えッ……!?」
「はぁっ!」
刹那、後ろに回り込んだ帝の蹴りが炸裂する。
それだけじゃない。先行した神に続いた“天使”に対しても攻撃を仕掛ける。
肉薄しつつ、そのまま正拳突きを叩き込む。
単純な動きだが、その速度が桁違いだった。
それでも極意に至った導王流などがあれば受け流されるが、相手にそれはない。
「ぜぇりゃっ!!」
さらに続く別の“天使”の攻撃を、残像を残して躱す。
反撃とばかりにその“天使”を蹴り飛ばし、先程殴った“天使”をダブルスレッジハンマーで叩き潰した。
「………来いよ」
弾幕を放つのを止め、帝は挑発する。
なお、弾幕は空間置換によりループさせ、自然落下で加速もさせているため、放つのを止めたとはいえ神々に牙を剥き続けていた。
「ッ……!」
最早油断も侮りもしていない。
ただ目の前の敵を滅さんと、神と“天使”が次々と襲い掛かる。
全員が白兵戦に優れており、正面からぶつかれば優奈も勝てないだろう。
「シッ!!」
だが、帝はそれを圧倒する。
今帝が再現している“憧れの力”は、そんな神々すら歯牙にもかけないモノだ。
隕石や惑星どころか、銀河系を丸ごと吹き飛ばす事も出来る力がある。
「がはっ!?」
攻撃を弾き、がら空きの胴を殴る。
続けざまに回し蹴りを放ち、次の相手を蹴り飛ばす。
一斉に飛び掛かられてもそれは変わらず、一人、また一人と吹き飛んでいく。
「速い……!?なぜ、我々が圧倒される……!?人間如きにぃ……っ!!」
「……そんなの、決まってるだろ」
腹を殴られ、膝を付く神が忌々しく呟く。
その呟きを帝は拾い、見下ろしながら答える。
「俺の憧れたキャラクターが、お前らみたいな神々に負ける訳がないだろう―――!!」
それは、魂からの叫び。
そして、今力を借りている“憧れの存在”への絶対的信頼だった。
「ぉおおおっ!!!」
魔力でも霊力でもない力、霊力と同じく生命力を起源とした“気”。
“ドラゴンボール”におけるそのエネルギーを、後ろ手に構えた両手に集束させる。
そして、雨霰のようにそれを神々へ向けて解き放つ。
怒涛の連打のように放たれたエネルギー弾が次々と神々を貫く。
「優奈!!」
「ええ、分かってるわ!」
少し離れた場所で、白兵戦以外に特化した“性質”の神を倒した優奈が転移する。
そして、帝の攻撃で怯んだ敵を、全て理力によるバインドで拘束した。
「“か”」
その直前から、帝は両手の根本を合わせ、正面に構えていた。
体は右側半身を逸らし、膝を少し曲げてどっしりと構える。
「“め”」
そして、その両手を腰の後ろへ持っていき、気を集中させる。
気だけではない。魔力も、霊力すらもそこに集中させていった。
出来上がるのは、一つのエネルギーの球体だ。
「“は”」
それは、“ドラゴンボール”を好んでいた男子ならば、一度は憧れた技。
簡単に覚えられるその技の名前を、一文字ずつ、力を込めて唱える。
「“め”」
作品内においても、序盤から終盤までずっと主人公も頼った“必殺技”だ。
力を込めれば込めるだけ、その威力も比例して増加させられる事が出来る。
「“波”ぁああああああああああああああああああああ!!!」
それを、帝は解き放った。
「………味方ながら、恐ろしい威力ね」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
冷や汗を流しながら言う優奈の視界には、誰もいない。
いるのは、傍らで息を切らす帝だけだ。
「“憧れ”に対する絶対的信頼と共に放たれた“圧倒的な力”。固有の“領域”によって放たれたからこそ、一発で全員の“領域”を砕いた……って所かしら」
そう。帝の攻撃で先程までいた大量の敵は全滅したのだ。
肉体は完全に消滅し、残ったのは砕けた“領域”だけだ。
無論、敗北した神々にもう意識はない。
「……こうなると、正面突破も可能ね」
「はぁ……はぁ……正面突破?」
「ええ。私は貴方を元の世界に送り届けると言ったわよね?」
息を整えながら、帝は優奈の言葉に頷く。
「その際、ここに入る時の出入り口はイリスの軍勢がいると言ったはずよ」
「……そうだな」
それをどうにかするため、味方となる神を探すはずだったと、帝は思い出す。
「だけど、貴方のその力さえあれば、洗脳された神相手なら圧倒できるわ」
「……そういう事か」
もう一つの手段として、強行突破があった。
今なら、それが出来るという訳だ。
「問題は、貴方の体力が持つかどうかだけど……聞くのは愚問だったわね」
「ああ。行けるぜ」
既に息を整え終わった帝は、万全の態勢とも言える状態だった。
「……そうさ、俺の憧れた存在は、あんな奴らに負ける訳がねぇ」
「頼もしいわね。じゃあ、行きましょうか」
悠然と、二人は歩を進める。
その足取りには、満ち溢れた自信が感じられた。
後書き
道を示す導きの剣…リヒトを用いて放つ勝利へ導きし王の剣と違い、普通の剣などを使い捨てで放つ魔法。威力等は勝利へ導きし王の剣に劣るが、こちらは剣さえあれば連発が出来る。
決して果てぬ憧憬…帝の固有結界であり固有領域。憧れの存在の力を自身に宿す事が出来る。その力は、その存在に対する憧れに伴う絶対的な信頼に比例する。神界の神すら圧倒出来る力を持つが、本来ならば力に応じて莫大な魔力を消費する。神界でなければ短期決戦もままならない技と言える。
超電磁砲…名前の通り、“とあるシリーズ”の超電磁砲。
瞬間移動の魔法…地の文にて登場。ルーラとか、その辺りの魔法。
幻想殺し…超電磁砲同様“とあるシリーズ”から。
一方通行…同上。
空間置換…地の文でさらっと流したが、やっている事はプリズマイリヤドライ5巻におけるアンジェリカの王の財宝&置換魔術の合わせ技。
かめはめ波…言わずもがな、DBにおけるかめはめ波。
帝、神界限定のチート覚醒。この帝は、その気になれば知っている創作物のキャラクター全ての力が使えます。尤も、作者が知っている範囲の力しか描写出来ないですけど。
人間という枠組みでは、ぶっちぎりの最強状態です。上記で説明した通りに、模倣するキャラクターへのイメージで強さが決まるので、絶対的な強さをイメージし続ける限り、本当に無敵です。
ちなみに、帝は“なのはの魔法”、“とあるシリーズの超能力”、“Fateのキャラ”、“フェイトの魔法”、“ドラゴンボールの悟空”の順で、力を再現しています。他にも、類似した力なども再現していたりします。我ながらなんだこのチート()
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